6月29日、株式会社オリエンタルランドの株主総会が、千葉県の幕張メッセ(国際展示場7ホール)で行われました。
今回の総会は昨年度に引き続いて、新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、インターネットや郵送による議決権行使が呼びかけられました。また、今回は初めてライブ配信が行われたため、会場外から総会の様子を見たという株主の方も多かったようです。
総会では経営陣から昨年度の事業報告、決算報告、会計監査報告が行われ、剰余金の処分(株主への配当金)、定款の一部変更、取締役11名の選任が決議されました。また、株主からの質疑応答も合わせて行われました。
今回の記事では株主からの主な質問と、それに対する経営陣の回答から、オリエンタルランドの今後の動きについて考えていきたいと思います。
昨年度の総会については、こちらをどうぞ。
株主のプライバシー保護のため、質問内容は趣旨を損なわない範囲で一部改変しています。
目次
ミッキーの顔が変わった?
東京ディズニーリゾートでは、1983年に東京ディズニーランドが開園して以降、ミッキーマウスとミニーマウスのキャラクターヘッド(いわゆる「着ぐるみ」)が2回変更されています。
1回目は1993年の開園10周年イベント前後、2回目は2019年3月の開園35周年イベント終了直後でした。特に2回目の変更では、海外パークが先行して切り替えられていたため、キャラクターファンを中心に「いつ東京でも切り替わるのか」と大きな話題になっていました。
2016年4月から2017年3月まで開催された、TDS15周年イベント。SNSでは「イベント終了後に切り替わるのでは?」という噂もあった。
熱烈なキャラクターファンの中には「東京だけはそのままの顔を残してほしい」「絶対に変えてほしくない」として、署名活動まで行う方も…。SNSを中心に切り替え直後は反発の声が大きかったものの、導入から3年がたった今では、一般のゲストにも十分浸透していると言えるでしょう。
今回の総会では株主から「切り替え前のミッキーやミニーのグッズやグリーティングをやってほしい」という要望が出されました。これに対して、経営陣からは「キャラクターのデザインは、アメリカのディズニー社による監修で制作しているため、デザインの復刻は考えていない」という返答がありました。
今回のミッキーとミニーの切り替えについて、アメリカのディズニー社は正式な声明やプレスリリースは一切発表していません。あくまでも「ミッキーはミッキー」であって、時代に合わせたデザイン変更の一環として考えているからでしょう。しかし、今回オリエンタルランドが「復刻は考えていない」とコメントしたことで、会社として「正式に」デザインの変更を認めたということになります。
個人的には、オリエンタルランドは海外のディズニーパークと比べて、かなり慎重にミッキーとミニーの切り替えを実行したと感じています。
イースターイベントの新コスチューム公開に合わせて、新しい顔のミッキーとミニーも公開することで、ファンに対して「いよいよ変わりますよ」という告知を出しました。このような事前告知は、海外パークではほとんどなかったのです。さらには35周年イベント翌日には、ショーやパレード、グリーティングで一斉に切り替えを行うなど、同じパーク内で新旧の顔がまざらないようにしていました。
【ニュース!】
— 東京ディズニーリゾートPR【公式】 (@TDR_PR) 2019年2月28日
4月4日から開催される東京ディズニーシーのスペシャルイベント「ディズニー・イースター」。
今年初登場の昼のハーバーショー「Tip-Topイースター」でミッキーマウスとミニーマウスが着用する春らしいコスチュームをひとあし早くお披露目!
>> https://t.co/NzFFpgveFT pic.twitter.com/fC6kfMfIHD
また、新型コロナウイルスの流行に伴い、2020年2月からパークが臨時休園したときも、3月末までは直営ホテルの営業を続けていました。これは、従来のキャラクターヘッドを使う婚礼プログラムを開催するために、わざわざホテルの営業を続けた…とも言われているぐらいなのです。オリエンタルランドが重課金するキャラクターファンのために、いかに気を遣っていたかがよく分かります。
切り替え当初は「かわいくない」「入園者数が減るはず」と息巻いていたSNS上の声もありましたが、切り替えによってミッキーやミニーの人気が低迷したり、入園者数が落ち込んだりすることはありませんでした。今後もディズニー社は、時代の変化に合わせて、ミッキーやミニーのデザインを変更する可能性はあるでしょう。オリエンタルランドはあくまでも、ディズニー社の権利を借りているだけであり、その変更を拒否できる権限はないと思います。
ニュールック導入までの経緯は、dpost.jpさんが詳しくまとめています。
不正転売の防止
インターネット上のオークションサイトに始まり、最近ではメルカリやラクマに代表される「フリマアプリ」の普及によって、東京ディズニーリゾートのグッズを転売する人が一気に増えています。昔のグッズを譲ったり買ったりできる一方で、新商品を法外な値段で転売している悪徳ユーザーもいることは事実です。
東京ディズニーリゾートではこれまで、グッズの販売はパーク内と周辺ホテル、公式ショップ「ボン・ヴォヤージュ」に限っていました。これは客単価を上げるためだけではなく、グッズを来園動機にすることで、入園者数を維持することが狙いでした。ただ、この方針によって、グッズの希少価値が高まり、より高額で転売するユーザーが多かったのです。しかし、コロナ禍によって状況は一変します。
2020年11月から、これまで入園者限定で行っていた、公式アプリによるオンライン販売を一般向けにも開放したのです。対象グッズや時間帯に制限はありますが、パークチケットがなくても東京ディズニーリゾートのグッズを購入できるようになりました。オリエンタルランドとしては、コロナ禍で落ち込んだ収入をできるだけ回復したい、という思いがあったのでしょう。
オンライン販売が拡大され、レギュラーグッズの転売が減った一方で、期間限定のグッズは発売初日になくなってしまう…という事態も続いています。最近では、日本在住の中国人コミュニティを中心に、SNSで人を集めてグッズを買い占め、中国本土に大量転売するという騒動もありました。一度品切れになってしまったグッズの再販売がある一方で、そのまま販売が終了してしまうグッズも多く、争奪戦に拍車がかかっている部分もあるのです。
このグッズ転売について、株主から経営陣に対して「問題をどのように捉えているのか」という質問が出されました。これに対して、経営陣からは以下の回答がありました。
- 一部商品の販売では個数制限を設定している。
- 販売時期によって、ショップの入店人数を制限している(「スタンバイパス」の発行)。
- 会社としても不正転売は認識しており、メルカリ社と注意喚起を行っている。
- 今後は発注数量を見極め、「クリスタルスフィア」のように事前予約販売も検討する。
- 法律の問題で転売を完全に防ぐことは難しい。
オリエンタルランドも指摘していますが、転売を完全に取り締まる法律はありません。古物営業法やチケット不正転売禁止法*1などの法規制はありますが、あくまでも対象範囲は限定的なのです。
ただ、オリエンタルランドも手をこまねているだけではありません。2022年3月にはメルカリ社と「安心・安全な取引環境の整備に向けた覚書」を締結しています。オリエンタルランドがメルカリ社に対して、特定商品の情報や発売情報などの提供をする一方で、メルカリ社はアプリや公式ブログでの注意喚起、利用規約に違反する特定商品の削除対応などを行うとしています。ただ、効果は限定的でしょう。
オリエンタルランドが発行する株主優待チケットは、メルカリ社によって削除対応が行われています。その一方で、グッズの高額転売に対しては、注意メッセージが表示されるだけで、多くが放置されているのが現状です。たくさん発注すれば、より多くのゲストに行き渡る一方で、不良在庫を抱えるリスクも大きくなります。今後は個数制限に加えて、予約販売や事前受注型販売を拡充していくなどの対応が望まれます。
また、ほかの株主からも、グッズの販売方法に対する意見や質問が出されました。これに対して経営陣からは、以下の回答がありました。
- 商品の発注は、ゲスト満足度や利益キャッシュフローの向上などを勘案して決定している。
- 販売数量を制限しているが、コロナ禍以前よりもゲストの需要が急激に高まっている。
- 感染症の流行により営業の見通しが不透明で、発注数を絞ることもあった。
- また、発注しても商品が届かないこともあった。
- 以前は船便を使っていたが、優先度の高い商品は航空便に切り替えている。
- ロシアのウクライナ侵攻による情勢変化もあるため、理解いただきたい。
コロナ禍による物流網の混乱は、オリエンタルランドにとっても無関係ではないと思います。東京ディズニーリゾートのグッズを見ていると、発売初日で売り切れてしまうものもあれば、長い間ショップに残ってしまい、最終的にはスペシャルプライス(値下げ販売)になってしまうものも…。売れる商品を見極めるのは、至難の業だと思います。オリエンタルランドの今後の対応を見極めていきたいですね。
チケットのさらなる値上げ?
東京ディズニーリゾートでは、2021年3月から入園日によって料金が異なる「変動価格制」を導入しています。2022年8月現在、1日券(1デーパスポート)の価格は、大人の場合7,900円から9,400円まで1,500円の開きがあります。平日は安く入園できる一方で、混雑が予想される土日や祝日は、どうしても負担が大きくなってしまいます。
このチケット価格について、株主からは「東京は世界的に見て安いレベル」「今後の値上げはあるのか」という質問が出されました。これに対して経営陣からは「価格変動制を導入しており、体験価値や顧客満足度などを考えて総合的に判断する」という回答がありました。
舞浜新聞では以前、東京ディズニーリゾートと海外パークのチケット価格を比較しました。
パークの数やアトラクションなどの施設数に加えて、交通アクセス、周辺に住んでいる人口、ディズニー人気などの文化的土壌、さらには1パーク当たりの年間入園者数、1日の平均滞在時間、滞在日数、客単価もパークごとに大きく異なることから、一概に「東京が安すぎる」とは断言できません。
また、消費者物価指数や賃金水準を考えても、いたずらに値上げすることは難しいでしょう。オリエンタルランドの吉田謙次社長は日本経済新聞の取材に対して、東京ディズニーシーの新エリア「ファンタジースプリングス」が開業する2023年度をめどに、価格帯を見直す意向であると明らかにしています。今後ゲストの体験価値が向上すれば、大人一日券が1万円の大台を突破する可能性もあるでしょう。
ただ、ゲストが東京ディズニーリゾートに対して、それだけの価値を見出せなくなってしまえば、一気に凋落する危険性もあります。今後のオリエンタルランドの動向に注目していきたいですね。
保有株式の売却
オリエンタルランドは保有する株式について、有価証券報告書で公表しています。このうち「特定投資株式」として公表している銘柄には、主要取引銀行や千葉県内に本店をもつ銀行、オフィシャルスポンサーのほかにも、JR東海・東日本、松竹、ウシオ電機、ANAホールディングスなどの大手企業が名を連ねています。
今回の総会では、株主から今後の運用方針や処分について質問が出されました。これに対して、経営陣からは「今期の売却は4億2,000万円超」「3銘柄を売却したが、売却した企業とは友好的な関係が続いているので安心してもらいたい」という回答がありました。
最新の有価証券報告書を確認すると、上場企業のうち、以下の銘柄の保有数が減っていることが分かります。
- 三井住友トラスト・ホールディングス
- みずほフィナンシャルグループ
- 三井住友フィナンシャルグループ
- 第一生命保険ホールディングス
このうち、第一生命保険は全株を売却しています。最近では、企業統治(コーポレートガバナンス)などの観点から、株式持ち合いを減らしていく流れが目立っています。ただ、第一生命保険のように、長年オフィシャルスポンサー(協賛企業)として支えてきている企業の株式を、全て手放したのは少し引っ掛かりますね。
ESGマテリアリティ
最近、テレビや新聞では盛んに「SDGs」という言葉を目にする機会が増えています。これは「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals)の頭文字を取ったもので、2030年までの達成を目指す国際目標となっています。
この国際目標と関連しているのが「ESG」です。これは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を合わせた言葉で、企業の長期的な成長のためには、これら3つの観点が必要だという考え方を表わしたものです。この考え方は世界的に広まっており、企業がESGに配慮した経営をすることで、SDGs達成に貢献できるとされています。
オリエンタルランドでも、このESGに関連して「ESGマテリアリティ」を設定しています。マテリアリティとは簡単に言うと「様々なESG課題の中でも、優先して取り組むべき重要な課題」のことを指します。
今回の総会では、株主からオリエンタルランドが設定しているESGマテリアリティについて質問が出されました。特に最近のパーク内レストランで導入が進む「紙皿」について、省資源やコスト削減、省力化などの観点から教えてほしい、というものでした。
この質問に対して、経営陣からは「人件費の問題もあり紙皿に変更した」「現状でよいとは思っていない」「廃棄物を減らして再利用を増やせるよう事業計画を進めている」という回答がありました。
コロナ禍直前のパークでは、メラミンや陶器の食器を使っていたレストランで、使い捨ての紙皿に切り替わる事例が多くありました。以下は、主なレストランでの変更時期です。
- 2018年9月~ 東京ディズニーランド「グランマ・サラのキッチン」
- 2019年2月~ 東京ディズニーシー「ユカタン・ベースキャンプ・グリル」
- 2019年7月~ 東京ディズニーシー「ザンビーニ・ブラザーズ・リストランテ」
コロナ禍直前のパークでは、キャストの人員不足が問題視されていました。特にレストランなどのフードサービスキャストは、仕事がきつい割には地味で目立たないために、敬遠される傾向にあったのです。メラミンや陶器のお皿は見た目もよく、レストランのストーリー性とも合います。しかし、洗う手間が増えるだけではなく、下膳するキャストの負担も大きくなります。一部では、食器が重いために、キャストが腱鞘炎(けんしょうえん)になってしまった…という話を聞いたこともありました。
使い捨ての食器に切り替えれば、洗う手間が減り、そのぶんだけ人員を浮かせることができます。また、ゲストが自分で捨てることができるため、キャストが下膳する手間も減ります。レストランのキャストだけではなく、パーク内の清掃を担当するカストーディアルキャストも対応することが可能になります。
ゲストの立場でも、使い捨て容器になることで、レストラン外やパレードルートなどに持ち出すことができるようになりました。SNSを中心に「テーマ性が失われた」「雰囲気がない」と批判的な声も上がっていますが、現在のパークを考えると、仕方がない変化だったのだと思います。
2018年8月にオープンした東京ディズニーシー「ドックサイドダイナー」。開業当初から紙皿を使用しており、大型のごみ箱も用意されている。
最近では、東京ディズニーシーの「カフェ・ポルトフィーノ」のように、従来型の食器を使うレストランでも、キャストが下膳するのではなく、ゲストが自分でカートまで持っていき片付ける仕組みに変わってきています。
アメリカのパークでは、テーブルサービス以外のレストランでは、基本的に使い捨ての容器が使われています。地球環境保護や省資源と、テーマ性やキャストの負担軽減、双方のバランスを考えながらのパーク運営が続いていきそうですね。
予約サイトのサーバー
東京ディズニーリゾートの場合、パークチケット、ホテル、レストランなどはすべて「オンライン予約・購入サイト」で予約・購入する仕組みになっています。しかし、ホテルや宿泊プラン「バケーションパッケージ」の発売日になると、アクセスが一気に集中するために、ほかの予約ができない…という事態が多く発生しています。
コロナ禍による臨時休園からの営業再開直後は、パークチケットの発売時刻にもアクセスが集中してしまい、ほとんど買えなかった…という事態も多くありました。しかし、現在では販売数の上限も見直されており、以前よりも買いやすくなっています。
この予約サイトについて、株主から「ITやデジタル面が弱い」「サーバーを増強する考えはないのか」という質問が出されました。これに対して経営陣からは「つながりにくい状況があることは把握している」「サーバーは複数あり、予約開始の時間帯をずらすなどして活用している」という回答がありました。
個人的には、オリエンタルランドは情報システムに対する投資が少なすぎるのでは、と感じています。スマートフォン向けの公式アプリが導入されたのは、2018年7月から。アメリカのウォルト・ディズニー・ワールドが2012年8月に導入したのと比べると、少し遅いようにも感じました。また、2021年6月にはバージョン2に、2021年9月にはバージョン3にアップデートされていますが、そこまで大きく改善されたとは言えません。
東京ディズニーリゾートの公式アプリ
大手企業では、公式アプリについて頻繁にアンケートを取り、機能やユーザーインターフェースの改善を行っています。しかし、オリエンタルランドからはそのような姿勢は感じられません。確かに公式アプリの導入で、便利になった側面もあるでしょう。しかし、よりゲストの視点に立った改善も強く望みたいです。
また、2022年7月に導入されたオンライン上の待合室(バーチャルキュー)についても、遅すぎたのではないかと思っています。パークチケットの購入やレストラン予約のたびに、エラー画面が何度も表示されて嫌な気持ちになった方も多かったはず。このあたりも、さらなる改善に向けて努力してもらいたいですね。
ちなみにですが、東京ディズニーリゾートでは、既存のシステムを新しいサービスに置き換えて使う、という事例が多くみられます。
- ファストパス→スタンバイパス、プレミアアクセス
- ショー抽選→エントリー受付
- キャスト面接会の予約→ショップの来店予約
- 年間パスポート→複数日来園パスポート
ショップの来店予約にいたっては、アクセス集中の負荷に耐え切れなかったり、予約開始の時間設定が間違っていたりと、運用面で問題も多くみられました。「新しくシステムを作り直せ」とまでは言いませんが、せめてゲストの利用に耐えられるシステムの構築を望みたいです。
おわりに
これまでの株主総会では、株主から経営陣に対する「陳情大会」になってしまうことも多くありました。特にパーク運営に対する不満を爆発させる株主の方も多く、「ここで言うべき内容なのか」と判断に戸惑うこともありました。
しかし、近年では経営に対する新しい切り口の質問も増えてきました。オリエンタルランドには、他社のようにオンラインで質問を受け付けたり、質疑応答の内容を会社側で公表したりするなど、もう少し工夫の余地があると感じています。株主にとっても「公開される」と思えば、不必要な質問は出てこないはずです。
日本国内の新型コロナウイルスの流行は「第7波」を迎え、まだまだ終息する気配はありません。東京ディズニーシーの新ショー「ビリーヴ!~シー・オブ・ドリームス~」が、いよいよ11月11日から公演が開始されることが発表されました。来年度(2023年度)には、新しいテーマポート「ファンタジースプリングス」の開業も控えています。ポストコロナをどのように生き抜いていくのか。オリエンタルランドの動きに注目していきたいですね。
建設工事が進む「ファンタジースプリングス」
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参考リンク
*1:正式名称は「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」です。