舞浜新聞

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最大9,400円に!東京ディズニーリゾートは、なぜチケット値上げに踏み切ったのか

9月24日、オリエンタルランドは、東京ディズニーランド・東京ディズニーシーのチケット価格を、10月1日から変更すると発表しました。東京ディズニーリゾートでは、2021年3月から入園日によって料金が異なる「変動価格制」を導入しており、今回はその内容を見直すことにしたのです。

 

www.nikkei.com

 

今回の発表は、多くのメディアで「チケット値上げへ」と大きく報じられました。なぜ、コロナ禍の今のタイミングで、オリエンタルランドはチケット料金を改定したのか。その背景と目的、さらには今後の展望について考えていきたいと思います。

 

目次

 

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繁忙期は最大「9,400円」

東京ディズニーランド・東京ディズニーシーの両パークでは、長らく一律のパークチケット料金が設定されてきました。平日限定の割引券や、地方向けの優待券なども販売されてきましたが、基本的には平日・休日どちらも同じ料金で入園することができたのです。

 

もともと変動価格制(ダイナミック・プライシング)は、航空会社やホテルなどで広く採用されてきました。需要が増える年末年始や大型連休などは高く、オフシーズンなどの閑散期には安く値段を設定することで、利益を最大化しようとする取り組みです。近年では、スポーツイベントやミュージカルなどの劇場でも導入が進んでいます。

 

海外のディズニーパークでは、2016年頃からパークチケットに変動価格制が採用されてきました。日本のテーマパークでは、大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンが2019年1月から導入。メディアからは「東京ディズニーリゾートでも、変動価格制が導入されるのでは?」という見方が示されていたのですが、オリエンタルランドはあくまでも「検討中」とし、否定も肯定もしない状況が続きました。

 

その後、日本では新型コロナウイルスが猛威をふるうことに…。コロナ禍が続いていた2020年12月、オリエンタルランドは、ついにパークチケットに変動価格制を導入することを発表したのでした。2021年3月から導入された新制度では、平日で大人1日券(1デーパスポート)が8,200円、土日や祝日、春休みなどの混雑が予想される日では、8,700円という2段階の料金が設定されました。

 

しかし、この変動価格制の導入から、わずか半年。10月1日からの料金改定では、大人1日券の最大料金を8,700円から9,400円に8%引き上げる一方で、最低料金は8,200円から7,900円に引き下げることに。価格区分も4段階となり、日によって料金が細分化されました。入園時刻が指定されているチケットも同じく細分化されます。

 

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2021年10月1日からの新料金(東京ディズニーリゾート公式ウェブサイトから引用)

 

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東京ディズニーリゾート公式ウェブサイトから引用。すべて大人1日券の料金となっている。)

 

2021年10月から2022年1月の料金カレンダーを見ると分かる通り、平日でも従来の料金と比べて、価格が高く設定されています。テレビや新聞などのメディアでは、「値上げ」を強調した報道が目立ったのも納得できるでしょう。今回の料金見直しについて、オリエンタルランドはNHKの取材に対して「休日に予約が集中する状況を変えるため」と回答しています。

 

www3.nhk.or.jp

 

これまで、東京ディズニーリゾートでは、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの料金改定に合わせて、パークチケットの料金を引き上げるなど、互いに意識し合う状態が続いていました。今回の改定では最大料金が9,400円となり、初めてUSJの料金を上回ることとなります。

 

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わずか1週間前に改定が発表されたことも、ファンからは驚きの声が上がりました。

 

これまでの東京ディズニーリゾートであれば、少なくとも改定の数か月前には発表して、関係各所に周知を図るのが定番でした。しかし、今回はプレスリリースの発表もなし。あくまでも「変動価格制の一部変更」という認識なのでしょう。コロナ禍によって、チケット販売が公式ウェブサイトやコンビニなどに限られていることも、混乱が起きないと考えた理由かもしれません。

 

チケット値上げは「混雑緩和」のため?

メディアでは今回の料金改定について「休日に集中している入園客を分散化させるため」と解説しています。もちろん、土日や祝日、大型連休、学校の長期休業期間などは、休みを取る人が多く、どうしても混雑しやすい状況が続いていました。できれば平日に来園してほしい、というオリエンタルランドの願いも感じられます。

 

しかし、いくら平日が安いからといって、どれだけの人数が休日から平日へと流れるでしょうか。月曜日や水曜日が休みの業種、テレワークなどで曜日関係なく休める業種を除けば、その範囲は非常に限定的だと思います。今回の料金改定では、混雑緩和よりも一人当たりの売り上げアップ、つまり「客単価の向上」が一番の目的ではないでしょうか。

 

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東京ディズニーリゾートでは、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、2020年2月~6月まで臨時休園を実施。その後、7月から営業を再開したものの、政府や自治体からの要請を受けて、入園者数の制限や時短営業を余儀なくされています。オリエンタルランドのグループ全体の連結最終損益は、2020年度に赤字に転落。これは1996年に株式を上場して以来、初めての事態でした。2021年度の業績予想についても、会社は「先行きが不透明」として開示していません。

 

東京ディズニーリゾートは、オリエンタルランドがディズニー社とのライセンス契約に基づいて運営しています。

 

ほかの海外パークでは、ディズニー社による直営か、ディズニー社と現地の合弁企業が運営しているため、仮に収益が悪化したとしてもディズニー社が損失を補填できます。しかし、東京の場合は、オリエンタルランドとディズニー社との間に、資本・業務提携や、株式の持ち合いなどは一切ありません。純粋にテーマパークやホテルなどで収益を上げなければ、経営破綻してしまうのです。

 

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これまで、キャラクターやアニメーション映画などの人気に支えられて、東京ディズニーリゾートは入園者数を大きく伸ばしてきました。入園者数が多ければ多いほど、チケットの売り上げは伸び、物販や飲食部門の売り上げも増えていきます。また地方からの入園客が増えれば、周辺ホテルの稼働率も伸びていきます。

 

しかし、コロナ禍によって、これまで殿様商売を続けてきた東京ディズニーリゾートには、逆風が吹いていると言えるでしょう。入園者数を増やせない今、売り上げを伸ばす唯一の方法が、客一人当たりにできるだけ多くの金額を消費してもらうことなのです。

 

パークチケットを値上げすれば、それだけで一人当たりの消費金額を引き上げることができます。しかし、チケットの値上げだけでは限界も…。実はオリエンタルランドではすでに、客単価を向上させるための他の策も打ち出しています。

 

客単価の向上は、チケット値上げだけではない

ホテル宿泊とパークチケット、ショー鑑賞券などがセットになった「バケーションパッケージ」は、客単価向上の代表例と言えるでしょう。地方から東京ディズニーリゾートを訪れる場合、一年に一度、場合によっては数年に一度になることも。だからこそ「抽選ではなく確実に体験したい」というニーズが高いのです。そんな地方客にとって、多少割高でも、園内の体験が保証されているバケーションパッケージは、魅力的に映ります。

 

さらには、ディズニーホテルで行われている婚礼プログラムや、キャラクター・グリーティング付きの宴会プラン、アトラクションの裏話などが聞けるガイドツアー、女の子が変身できるサロン「ビビディ・バビディ・ブティック*1」、さらには限定ランドセルのような受注生産型商品の拡充も、客単価向上の策として挙げられます。

 

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2012年から販売が始まった、東京ディズニーリゾートの限定ランドセル

 

また、2020年10月からは、東京ディズニーランドで、ワインやビールなどの酒類販売が解禁されています*2。これも注文金額を増やし、滞在時間が伸びることで客単価を向上させようとする狙いがあるのでしょう。

 

今後は限定グッズの値上げに加えて、レストランメニューの値上げ、スーベニアグッズの拡充など、様々な策が取られていくと考えられます。また、気になる動きも。東京ディズニーランドでは、2021年10月25日から10月29日まで、開園前のパークに入園できる「ハロウィーンモーニング・パスポート」というチケットが販売されたのです。

 

www.tokyodisneyresort.jp

 

ハロウィーンモーニング・パスポートは、ディズニーキャラクターの仮装を楽しめるだけではなく、朝限定で行われるグリーティングパレードなども楽しむことができます。これまでパークでは、カウントダウンパレードの有料プレビューや、「バレンタイン・ナイト」「七夕デイズ」のような有料のショープログラムを行ってきました。しかし、想定よりも販売数が伸びず、近年では縮小傾向に…。

 

今後は朝や夜の貸し切り営業、限定プログラムの開催など、通常営業とは別売りでチケット販売が行われていく可能性もあるでしょう。現在は販売休止中の、ディズニーホテル宿泊客向けの「アーリーエントリーチケット*3」の拡充も考えられますね。

 

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さらには、すでに海外のパークで導入が進む、有料型の優先案内サービス(ファストパスの有料化)も、東京ディズニーリゾートで実現するかもしれません。すでにパーク内では、ファストパスの看板や時計が撤去されています。公式アプリを使って購入し、待ち時間を少なくできる仕組みが整えられるかもしれませんね。

 

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かつてのファストパス発券所。「ファストパス」という表記がすべて撤去されている。

 

入園制限で快適なパークを実現?

コロナ禍によって、自由にパークチケットを販売できなくなってしまったオリエンタルランド。その一方で、SNSを見ていると、入園制限によって混雑が緩和され「たくさんアトラクションに乗れた」「キャラクターとのグリーティングに抽選なしで入れた」といった投稿が目立つようになっています。

 

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コロナ禍以前のパークは混雑が激しく、休日ともなるとアトラクションには長蛇の列ができていました。本来であれば待ち時間を減らせる「ファストパス」も、午前中にはなくなってしまう始末。ショーやパレードの一部エリアは抽選制で、外れてしまえば見ることができない。そんな状況が続いていましたが、コロナ禍による入園制限によって、一日の入園者数が減った結果、ゲストの満足度は向上しているのかもしれません。

 

コロナ禍は私たちの社会や暮らしを大きく変えました。それは、東京ディズニーリゾートも例外ではありません。これまでのように「日本一」という入園者数を追うのではなく、仮にゲストの数が減ったとしても、顧客満足度と客単価の向上を目指す。そんな経営方針に変わっていくと考えられます。

 

コロナ禍が終息すれば…

パーク内では最近、アトラクションの稼働時間を短くしたり、営業するショップやレストランの数を絞ったりするなど、少しでも人件費や光熱費などのコストを削減しようとする動きが目立ちます。また、コスチュームを着ていない私服キャスト(社員/テーマパークオペレーション社員)も、以前より多く見かけるようになりました。これも、できるだけ出勤するアルバイト(準社員)を減らして、現場を回すためでしょう。

 

日経によると、2020年度にオリエンタルランドは、非正規従業員を9,440人削減したとされている。

www.nikkei.com

 

今後、新型コロナウイルスのワクチン接種が順調に進み、人々が感染予防に努めていけば、流行の拡大を防げるはず。そうなれば、営業時間の拡大や入園制限の緩和で、オリエンタルランドの収益も少しずつ改善していくでしょう。テーマパークは営業コストが大きい分、営業できればその分だけ日銭が入ってくるからです。ただ、会社の想定よりも数字が伸びなければ、さらなる料金改定に踏み切る可能性も否定できません。

 

その一方で、目先の利益を追いすぎて、顧客の想定を超える値上げ幅となれば、一気にそっぽを向かれる危険性もあります。1万円近く払ったのに、雨でショーやパレードが中止に、エントリー受付も当たらず、アトラクションはスタンバイパスでも長蛇の列…なんてことになれば、顧客満足度は一気に下がりかねません。

 

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2021年4月に稼働を開始した「ファンタジーランド・フォレストシアター」コロナ禍終息後も、座席の抽選制度は維持されるだろう。

 

また、コロナ禍が終息したとき、平日の入園者数をどのように増やしていくのか、というのも課題として挙げられるでしょう。かつての「首都圏ウィークデーパスポート」のように、地域限定の割引チケットを拡充するのか、それとも単に平日料金を引き下げるのか、果ては入園客向けに販売していた優待チケット「アゲインパスポート」の販売機会を増やしていくのか…。

 

もちろん、販売休止中の「マルチデーパスポート(2日券~4日券)」の価格設定も気になるところ。東京ディズニーシーでは、2023年度の開業を目指して、新エリア「ファンタジースプリングス」の建設工事が進んでいます。顧客満足度と価格への納得感、さらには今後の開発への原資をどのように確保していくのか…。今後のオリエンタルランドの出方に注目したいですね。

 

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参考資料

www.nikkei.com

www.nikkei.com

www.nikkei.com

www.yamatogokoro.jp

dpost.jp

*1:コロナ禍によって、現在は営業を休止しています。

*2:これまではノンアルコールビールのみの販売でした。ただし、会員制のレストラン「クラブ33」では、例外的に酒類を提供していました。

*3:午前8時から東京ディズニーシーに入園が可能となるチケットです。