2022年5月19日から、東京ディズニーリゾートで新サービス「ディズニー・プレミアアクセス」が始まりました。これはパークチケットとは別料金を支払うことで、施設の時間指定予約ができるというもの。しかし、このサービスに対して、SNSやネットニュースのコメント欄では、賛否両論の声が多く上がっています。
今回は新しく導入された「ディズニー・プレミアアクセス」について、その中身や海外パークとの比較、さらには今後予想される変化について考えていきたいと思います。
目次
- どんなサービスなの?
- 海外のパークでも同様のサービスはあるの?
- 「ファストパス有料化」で舞浜は変われるか
- ショーやパレード、レストランまで「別料金」も?
- 「時間をお金で買う」という選択
- 合わせて読みたい
- 参考リンク
どんなサービスなの?
コロナ禍になるまで、東京ディズニーリゾートでアトラクションを利用する場合は、通常の待ち列である「スタンバイ」に並ぶか、あらかじめ時間指定された整理券を受け取って、その時間になったら並ぶ「ファストパス」の2種類の選択肢がありました*1。
ファストパスは基本的に開園から発行され、先着順に利用時間が決まっていく仕組み。ゲストは無料で発行できる反面、利用したい時間を指定することはできませんでした。ただ、東京ディズニーリゾートの公式宿泊プラン「バケーションパッケージ」の利用者のように、時間指定がないフリーのファストパスもありました。
そんなアトラクションの利用方法が、大きく変化するきっかけになったのは、新型コロナウイルスの流行でした。
コロナ禍による臨時休園以降、東京ディズニーリゾートでは「ファストパス」を発行していません。その代わりに導入されたのが「スタンバイパス」と「エントリー受付」です。
2020年7月の営業再開以降、アトラクションなどを利用する場合は、通常の待ち列である「スタンバイ」のみに。しかし、ソーシャルディスタンスを確保するため、列が長く伸びてしまい、最後尾が分からなくなってしまうことも…。そんな状況を改善するために導入されたのが、スタンバイパスだったのです。
スタンバイパスは、ファストパスのように、待ち時間を短縮してくれるわけではありません。あくまでも「列に並び始めてよい時間」が指定されているだけです。無料で発行できる一方で、利用したい時間を指定することはできません*2。
また、その日の混雑状況によっては「終日スタンバイパスを持っていないと利用不可」「○時~○時はスタンバイパスを持ってないと利用不可」のように、列に並ぶことすらできないこともあったのです。
もう一つの「エントリー受付」は、コロナ禍前からあった「ショー抽選」の仕組みを応用したものです。一部の人気アトラクションやキャラクター・グリーティング施設、座席数に限りがあるショーなどで、利用できるゲスト数を制限するために、抽選に当たったゲストのみ案内する…という仕組みでした。
コロナ禍以降導入された、2つのサービス。長時間待つことは解消されましたが、どちらもゲストからは不満の声が上がっていました。「スタンバイパスがないと、そもそも並べないのはおかしい」「同じお金を払っているのに、当選したゲストだけ体験できるのは不公平では?」そんな声もあって、2022年4月以降、パーク内のソーシャルディスタンスの運用見直しをきっかけに、「スタンバイパス」「エントリー受付」の対象施設は縮小傾向にあります。
さて、そんな中で新しく導入されたのが、「ディズニー・プレミアアクセス」なのです。
これは、パークチケットとは別料金を支払うことで、パーク内の施設を時間指定で予約できるというものです。これまで公式宿泊プラン「バケーションパッケージ」では、ホテル宿泊者を対象に、一部施設の利用予約をすることができました。今回はそのサービスが一般向けに開放されたと言えるでしょう。
プレミアアクセスは、東京ディズニーリゾートの公式アプリで購入します。購入できるのは、パークチケット1枚につき、対象施設の中から1つのみ。同時に複数施設分を購入することはできません。また、パークチケット1枚で複数人分の購入をすることもできません。
購入はクレジットカード決済のみ。ただし、スマートフォンや公式アプリ、クレジットカードを持っていないゲストは、メインストリート・ハウス(東京ディズニーランド)、ゲストリレーション(東京ディズニーシー)の窓口で購入することもできます。
プレミアアクセスは、発行数に限りがあるため、売り切れとなる場合も。ただし、5月17日から始まった試験運用を見ていると、売り切れでも追加販売されることもあるようです。利用方法は、これまでのファストパスやスタンバイパスと同様。指定した時間になって、公式アプリから通知が来たら、施設の「プライオリティ・アクセス・エントランス」でQRコードをかざすだけ。待ち時間を短縮することができます。
2022年5月23日現在、対象施設と利用料金は以下の2つです。
- TDL「美女と野獣“魔法のものがたり”」1回2,000円
- TDS「ソアリン:ファンタスティック・フライト」1回2,000円
東京ディズニーランド「美女と野獣“魔法のものがたり”」
プレミアアクセスは、購入後の対象施設・利用時間の変更、キャンセル、返金などはできません。また、指定時間を過ぎた場合も無効に。なお、システム調整などでアトラクションの運営が休止した場合は「振替措置*3」が行われます。
ちなみに、英語表記は「Disney Premier Access」となっています。英語で割り増しを意味する「premium(プレミアム)」ではなく、最初を意味する「premier (プレミア)」が使われています。
海外のパークでも同様のサービスはあるの?
東京ディズニーリゾートで新しく導入された「ディズニー・プレミアアクセス」。実は同様のサービスは、すでに東京以外のディズニーパークでも始まっています。では、各パークのサービスはどのようになっているのでしょうか。
ディズニーランド・リゾート
https://disneyland.disney.go.com/genie/
https://disneyland.disney.go.com/genie/lightning-lane/
有料の優先案内サービスとして「Disney Genie+(ディズニー・ジーニープラス)」と「Individual Lightning Lane(インディビジュアル・ライトニング・レーン)」の2つが提供されています。どちらも公式アプリでのみ購入が可能です。
ディズニー・ジーニープラスは、パークチケットにオプションとして、一人1日20ドルを支払うことで利用できます。指定のアトラクションごとに、1日あたり1回、短い待ち時間で乗ることができます。こちらはカメラマンキャストによる写真撮影の「フォトパス」も自動的に付いてきます。
もう一つのインディビジュアル・ライトニング・レーンは、一人1日につき最大2つまで購入することができます。ジーニープラスがセット販売だとすれば、こちらは個別に購入する形となっています。1施設につき7ドルから20ドルの料金設定です。
ウォルト・ディズニー・ワールド
https://disneyworld.disney.go.com/genie/
https://disneyworld.disney.go.com/genie/lightning-lane/
ディズニーランド・リゾートと同様に、有料の優先案内サービスとして「Disney Genie+(ディズニー・ジーニープラス)」と「Individual Lightning Lane(インディビジュアル・ライトニング・レーン)」の2つが提供されています。どちらも公式アプリでのみ購入が可能です。
ディズニー・ジーニープラスは、パークチケットにオプションとして、一人1日15ドル(+付加価値税)を支払うことで利用できます*4。利用する施設の予約は、入園日の午前7時から。混雑状況によって、1日あたり2~3つの対象施設を、短い待ち時間で利用することができます。
もう一つのインディビジュアル・ライトニング・レーンは、一人1日につき最大2つまで購入することができます。価格と購入できる施設は、当日の混雑状況によって変わります。価格は一人当たり7ドル~15ドル。直営ホテルと指定ホテルの宿泊者は、当日午前7時から、それ以外のゲストはパーク開園時刻から購入が可能です。
ディズニーランド・パリ
こちらは東京と同じ「ディズニー・プレミアアクセス」が提供されています。セット販売などはなく、一度に一つずつしか購入することはできません。
混雑状況によって、1人1日につき最大3つまで購入することができます。購入は公式アプリのみ。料金は入園日や施設によって異なりますが、およそ一人5ユーロ~15ユーロとなっています。
なお、2022年6月9日からは「Premier Access Ultimate(プレミアアクセス・アルティメット)」として、12のアトラクションで使える利用券のセットが販売される予定です。こちらは一人90ユーロ~です。
香港ディズニーランド
こちらも東京と同じ「ディズニー・プレミアアクセス」が提供されています。ただし香港の場合は、アトラクションそれぞれで購入する場合と、セットで購入する場合の2種類があります。
- 5つのアトラクションのうち3つ 159香港ドル
- 8つのアトラクションすべて 329香港ドル
- 8つのアトラクション+1つのショー 379香港ドル
- 個別購入 各施設につき79香港ドル
購入は公式アプリではなく、事前に公式サイトで購入するか、入園当日にパーク内の窓口で購入するかのいずれかです。
上海ディズニーランド
上海ディズニーランドは、新型コロナウイルスの感染拡大に伴うロックダウンのため、2022年3月21日から無期限で休園しています。
こちらも東京と同じ「ディズニー・プレミアアクセス」が提供されています。個別購入とセット購入があり、いずれも入園日、アトラクション、エンターテイメントプログラムによって価格は異なります。購入は公式アプリを通じて行います。
「ファストパス有料化」で舞浜は変われるか
コロナ禍の前までは、東京ディズニーリゾートの年間入園者数は日本一を誇っていました。外国人観光客、地方の家族連れ、年に何度か訪れる首都圏のライト層に加え、年間パスポートを持ったハードリピーターによって、その数字は支えられていたのです。しかし、新型コロナウイルスの流行によって、「我が世の春」は一変しました。
東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは、2021年3月期(2020年度)の連結決算で、最終損益が541億円の赤字となりました。最終赤字となるのは、1996年に東京証券取引所に上場して以来、初めてのこと。2022年3月期(2021年度)の連結決算では、最終損益が80億円の黒字となったものの、それでも厳しい状態は続いています。
東京ディズニーリゾートの35周年イベントを華々しく開催した、2019年3月期(2018年度)が約903億円の黒字だったのと比べると、オリエンタルランドは、コロナ禍で少しでも多くの利益を確保したいと考えているはず。そんな中で登場したのが「ディズニー・プレミアアクセス」でした。
コロナ禍の前までは、パークの収容能力限界まで入園者数を詰め込み、チケットやグッズ、レストランなどの売り上げを最大化することで、利益を増やしてきました。しかし、「2~3個のアトラクションしか乗れなかった」「レストランがどこもいっぱいで、テイクアウトしたものを地べたで食べた」という嘆きの声がSNSで上がっていたのは事実です。
感染症の拡大防止に加えて、混雑の緩和と顧客満足度の向上を考えると、入園者数はやみくもに増やせない。そうなると、利益を増やすためには、ゲスト一人当たりの消費金額(客単価)を引き上げるしか方法はありません。
東京ディズニーリゾートでは、2020年7月の営業再開以降、客単価向上を目指して以下の取り組みを行っています。
- パークチケットの販売券種を縮小
- パークチケットの価格変動制の導入
- 日付指定のないオープン券の利用制限
- 年間パスポートの販売休止
- 朝の特別営業「ハロウィーンモーニング・パスポート」の販売
- 東京ディズニーランドでの「アルコール」販売解禁
- キャラクターグリーティング付きの宿泊プランの販売
- 直営ホテルでのディナー付き宿泊プランの販売
- 公式アプリ通販の一般開放
- 限定冷凍食品「フローズンセレクション」の販売
これら以外にも、コロナ禍の前から取り組んできた直営ホテルでの婚礼プログラム、「セレブレーションダイニング」に代表される宴会プラン、さらには限定ランドセルなどの受注生産型商品の拡充など、あの手この手でパークファンの心をつかもうとしています。
2012年から販売が始まった、東京ディズニーリゾートの限定ランドセル
さらには、アトラクションの裏話が聞けて、優先案内もセットになっている「ガイドツアー」の新設や、直営ホテルのスイートルーム宿泊者向けに販売していた「プライベートVIPツアー」の値上げも、ゲストの体験価値と客単価の両方を上げる取り組みだと言えるでしょう。
ツアー料金が44万円の「プライベートVIPツアー」富裕層向けの超高級サービスになっている。
しかし、オリエンタルランドでは、これまで頑なに「アトラクションの優先案内サービスの有料化」をやろうとしませんでした。
その大きな理由の一つだと言えるのが、先ほども触れた公式宿泊プラン「バケーションパッケージ」の存在です。これはホテル宿泊だけではなく、パークチケットやアトラクションの優先案内、ショーの鑑賞席などが一つになったものです。地方の家族連れを中心に「確実にお目当てのものを体験したい」というニーズにこたえてきました。
アトラクションの優先案内サービスだけを、小分けにして販売することは、バケーションパッケージの価値を下げることになる。オリエンタルランドの経営陣は、おそらくそう判断していたのでしょう。しかし、コロナ禍によって、その経営判断を大きく転換することになったのでした。
来園頻度が少ないライト層のゲストにとっては、今回のプレミアアクセスは「ファストパスの有料化」に感じるかもしれません。しかし、地方客からすると、「バケーションパッケージのばら売り」なのです。一人2,000円、4人家族で8,000円はかなり高額のようにも感じます。しかし、年に一度、あるいは数年に一度訪れるような人からすれば、納得できる価格設定だと思うのです。
大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)では、コロナ禍の前から、アトラクションの優先案内をセットにした「エクスプレス・パス」を有料で販売してきました。今後、東京ディズニーリゾートが海外パークやUSJのように、プレミアアクセスをセット販売する可能性はあるでしょう。しかし、バケーションパッケージとの差別化を考えると、個別販売はプレミアアクセス、セット販売はバケーションパッケージで…となる可能性もありますね。
ショーやパレード、レストランまで「別料金」も?
今回導入されたプレミアアクセスは、アトラクションの優先案内サービスです。あくまでも個人的な見解ですが、今後の客単価向上を考えると、その対象は広がっていく可能性が高いと思います。
2022年5月現在、東京ディズニーランドの「美女と野獣“魔法のものがたり”」、東京ディズニーシーの「ソアリン:ファンタスティック・フライト」の2施設のみですが、対象施設が拡大していく可能性はあるでしょう。また、現在は「一人1回2,000円」という価格設定も、当日の混雑状況によって変動する仕組みに変わるかもしれません。
さらには、キャラクター・グリーティング施設や、ショー・パレードなどのエンターテイメントプログラム、レストランの一部座席などでも同様に、別料金を支払うことで優先的に案内してもらえるサービスの導入も考えられます。
従来は、バケーションパッケージの購入者に限られていた課金機会が、より多くのゲストに開放されていくでしょう。それはつまり、お金を支払わなければ、体験価値がどんどん制約されることを意味しています。
「時間をお金で買う」という選択
東京ディズニーリゾートの公式ウェブサイトでは、従来発行されていたファストパスについて、以下のように説明しています。
これを見る限り、現在はあくまでも「休止状態」になっていると読むことができるでしょう。しかし、個人的には、今後数年間は、従来型のファストパスの無料発行は復活しないと考えています。
従来のファストパスは、ゲストの待ち時間をほかのことに使ってもらう、別の場所でお金を使ってもらうという意味合いがありました。しかし、実質的にはアトラクションの利用整理券となり、人気施設の場合は開園直後になくなってしまうことも…。そのぶん、スタンバイは待ち時間が伸びてしまい、時間の有効活用には程遠い状況でした。
今後、東京ディズニーリゾートが集客に苦戦するような状況になれば、復活もありえるのかもしれませんが、その可能性は非常に低いでしょう。
コロナ禍の前まで、ファストパスの発券時間を知らせていたボード。今は文字が隠されている。
ただ、海外パークの現状を見ていると、プレミアアクセスが争奪戦になってしまい、開園直後になくなってしまう…という状況も今後考えられます。オリエンタルランドとしては、時間帯をずらして追加販売をするなど、購入機会の確保に努めていくかもしれません。
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンをはじめ、サンリオピューロランドの「ピューロパス」、ナガシマスパーランドの「乗車優先券 Express ticket」、富士急ハイランドの「絶叫優先券」など、日本国内のテーマパークでは、すでに待ち時間を減らせるチケットの有料販売が進んでいます。
今後、東京ディズニーリゾートでも、時間をお金で買うという選択肢が増えていくと思います。実質負担の引き上げと混雑緩和によって、ゲストの満足度がどのように変化していくのか。
東京ディズニーシーで建設が進む新テーマポート「ファンタジースプリングス」は、いよいよ来年度、2023年度の開業を予定しています。オリエンタルランドがコロナ禍による逆風をどのように乗り切っていくのか。注目していきたいですね。
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