6月26日、東京ディズニーリゾートを運営する、株式会社オリエンタルランドの株主総会が、千葉県の幕張メッセで行われました。
今回の総会は新型コロナウイルスの流行に伴い、できるだけ当日の来場は控えて、インターネットや郵送による議決権行使が呼びかけられるなど、異例づくしとなりました。この対応を受けて「今年は参加しなかった」という株主の方も多かったようです。
総会では経営陣から昨年度の事業報告、決算報告、会計監査報告が行われ、剰余金の処分(株主への配当金)、監査役4名の選任が決議されました。また、株主からの質疑応答も合わせて行われました。
今回の記事では株主からの主な質問と、それに対する経営陣の回答から、オリエンタルランドの今後の動きについて考えていきたいと思います。
昨年度の総会については、こちらをどうぞ。
株主のプライバシー保護のため、質問内容は趣旨を損なわない範囲で一部改変しています。
目次
「先着順」「抽選」どっちがいいの?
まずは総会の前日、25日から始まったパークチケットのオンライン販売について、株主から「どうして抽選ではなく先着順にしたのか」「同じ人が2回以上も買えて不公平では」という意見が出ました。
経営陣からは、公式ウェブサイトへのつながりにくさについてお詫びがありました。また、先着順での販売を決めたことに対して、社内で様々な検討を行い、個人情報の管理や当選者への連絡といった運用上の負担を考慮した、という説明がありました。さらに、今後は「つながりにくい」と指摘されているデータサーバーについて、容量の増加を検討していることも明らかにしました。
公式ウェブサイトでのチケット販売については、多くのメディアで「つながらない」「買えない」という声が大きく取り上げられました。オリエンタルランドとしても、やはり問題意識をもっているのでしょう。
大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンは、公式ウェブサイトだけではなく、ローソンやJTB、JR西日本の窓口などでも前売り券を販売。一方の東京ディズニーリゾートでは、公式ウェブサイトでしかチケットを販売しなかったために、一気にアクセスが殺到してしまったのです。しかし、周辺のオフィシャルホテルに、入園保証の枠を提供している以上、日付指定券の販売は、できるだけ自社でコントロールしたい、と考えたのは自然な流れだと思います。
公式ウェブサイトの場合、支払いはクレジットカードのみです。事前にディズニーアカウントの登録も必要になるため、購入者の個人情報を確実に手に入れることができます。これなら、万が一パーク内で新型コロナの感染者が出たとしても、特定が容易になります。
また、万が一感染が再拡大して、再び「休園」という事態になっても、電子チケットであれば払い戻しがスムーズにできます。もちろん、チケットブースでゲストが密になる、という事態も避けられます。
ただ、とにかく公式ウェブサイトへのつながりにくさは尋常ではありませんでした。私の友人にも、10時間以上粘ってようやく買えた…という人は少なくありません。数年前の予約システム改修によって、システムに精通した一部の人間が、すべて買い占めてしまう、という事態は起きないようになっています。しかし、その一方で、途中まで行けたのに吐き出されてしまう…というケースも。中には最後の決済画面でエラーになってしまった、という方もいるようです。
このような一時的なアクセス集中は、企業としても対応が難しくなっています。今後のサーバー増強、さらには土日祝日など、混雑があらかじめ見込まれる日だけ抽選制を導入するなど、販売システムの改善が強く望まれます。加えて、オークションサイトやフリマアプリで横行している、チケットの不正転売の撲滅にも、より一層力を入れてもらいたいですね。
グッズ不正転売への対応
東京ディズニーリゾートでは、ホテル内にある公式ショップを除いて、舞浜地区以外にグッズ販売の拠点はありません。また、公式アプリの通信販売も、パークに来園したゲストのみが対象であり、入園履歴がない場合は購入することができません。
そのため、Amazonや楽天などのネット通販サイトに加えて、オークションサイトやフリマアプリでは、パークの公式グッズが大量に転売されています。中にはアルバイトを雇って、たくさん仕入れたグッズを高値で売りさばく人間もいます。
株主からはこの不正転売について、「SNSの普及により加速している」「会社としてどのように対策していくのか」という質問が出されました。特に、臨時休園によって途中中断となったスペシャルプログラム「ベリー・ベリー・ミニー!」のグッズについて、高額転売を心配する声も上がりました。
経営陣からは、スペシャルプログラムのグッズは、公式アプリ通販限定で販売すること、ゲスト・キャスト双方の安全が最優先であり、個数制限などを設けていることなどが説明されました。また、不正転売については、個人の所有権の問題があり、対応に苦慮しているという正直な思いが明かされました。
フリマアプリでは、利用者向けに「転売が禁止されているもの」として、具体的な例を挙げて説明されています。例えば、新型コロナの流行に伴って、転売が禁止されたマスクやアルコール消毒製品などは、石油危機のときにつくられた「国民生活安定緊急措置法」に基づいています。
ライブやコンサート、スポーツの試合のチケットも、定価を超える高値で転売すると「チケット不正転売禁止法*1」に違反して、罪に問われます。
しかし、東京ディズニーリゾートのグッズについては、このような法律の規制を受けておらず、かなり高額な利益を上げていなければ、古物営業法などで罪に問うことはできません。また、仮に通報されたとしても「友人のためだったが不要になった」「多く買い過ぎただけ」と言い訳されてしまうと、違法行為との線引きは難しくなります。
オリエンタルランドが、グッズ目当てに来園するゲストを見越して、ネット通販を行わないのは理解できます。海外パークのように、空港の免税店などでグッズ販売を行っていないのも、もしかするとディズニー社とのライセンス契約で、グッズ販売の範囲が限られている可能性があります。
今後は予約限定販売や抽選制の導入、さらにはアプリ通販での限定販売など、購入者の情報を把握しやすい仕組みづくりが重要になってくると思います。また、臨時休園中のように、レギュラー商品に限って、入園履歴がない地方在住者を対象にネット通販を行うなど、さらなる改善を望みたいですね。
期間限定で一般開放された「公式アプリ通販」については、こちらをどうぞ。
アトラクションの画質向上
2012年7月に東京ディズニーシーに導入された「トイ・ストーリー・マニア!」は、小さな子からシニアまで、幅広い層のゲストの人気を集めています。
今回の総会では、この大人気アトラクションについて「画質が荒い」「今後アップデートしないのか」といった意見が出されました。確かに最近のスマートフォンやテレビと比べると、ライドの映像にざらつきが目立つという考えには納得できます。
これに対して経営陣からは、設備の保守点検や機能維持は定期的に確認していること、更新工事も行っており、今後も計画はあるが詳細は差し控えたい、という回答がありました。
大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンでは、アトラクションの高画質化を進めています。2004年1月にオープンした「アメージング・アドベンチャー・オブ・スパイダーマン・ザ・ライド」では、2013年7月に高画質の4Kにリニューアルしました。また、「ハリー・ポッター・アンド・ザ・フォービドゥン・ジャーニー」では、フロリダのものを4K画質に切り替えて導入、その後、映像の3D化やフレームレート向上など、細かなアップデートも進めているのです。
一方のディズニーパークでも、遊覧飛行が楽しめる「ソアリン」を4K高画質にリニューアルするなど、画質向上に努めています。しかし、これはあくまでも海外の事例であって、東京では「高画質化」「4K/8K」といったキーワードはあまり聞こえてきません。
東京ディズニーランドにある「ミッキーのフィルハーマジック」のように、シアタータイプのアトラクションでは、高画質のほうがより物語の世界に没入できると思います。今後のリニューアルに期待したいですね。
新型コロナが与える影響
新型コロナウイルスの流行と、政府からの営業自粛要請などの影響を受けて、東京ディズニーランド・東京ディズニーシーは123日間、4か月もの長期間にわたって臨時休園しました。これほど長い間休園したのは、2011年の東日本大震災以来のこととなります。
7月1日からパークは営業を再開しましたが、入園者数はかなり絞られています。レストランの営業や、ショップで販売できるお土産品にも制約が出るなど、まだまだコロナの影響が続いています。
パークの臨時休園が続いていた4月28日、オリエンタルランドは2020年3月期の決算説明会を行いました。この中で会社側から臨時休園による特別損失として、92億円を計上したことが発表されています。この特別損失について、株主から「2020年度の最終的な損失額は、どれぐらい見込まれるのか」という質問が出されました。
これに対して経営陣からは、商品や食料品の廃棄についても、特別損失に含まれること、7月に第1四半期決算が控えているが、適切な時期に発表するのでこの場では差し控えたい、という回答がありました。
パークの臨時休園は2月29日からでしたので、今回の決算では3月の1か月分のみが計上されています。4月~6月の3か月分の数字を上乗せすると、かなりの損失に上っていると思われます。特に、新型コロナの流行がなければ、東京五輪・パラ大会の開催や、東京ディズニーランドの新エリアの開業で、地方や海外から多くのゲストが押し寄せていたはず。機会損失だけでも、金額は膨大になるでしょう。
2011年の東日本大震災では、臨時休園によって、オリエンタルランドの決算に以下のような影響がありました。
2010年度決算
災害による特別損失
- 休園期間の固定費 53億円
- 駐車場修繕などの復旧関連費用、商品の廃棄損など 44億円
2011年度決算
災害による特別損失
- シアトリカル事業の減損損失 63億円
- 休園期間の固定費 36億円
2010年度は3月中の20日間の臨時休園だけで、機会損失が約120億円に達したことが明らかになっています。このときは自粛ムードなどもあって、2011年度の第1四半期(4月~6月)の数字もかなり落としたのですが、その後シー10周年イベントの効果もあって、持ち直しました。
東京ディズニーリゾートの2018年度の年間入園者数*2は、3,255万8,000人ですから、単純計算で、1日当たりの入園者数は89,200人。今回は4か月休園でしたので、失われた入園者数は、約1,070万人に達します。ゲスト一人当たりの客単価が11,815円ですから、売り上げベースで1,260億円以上の機会損失が出ている計算になるのです。
ただ、オリエンタルランドの決算を分析すると、利益剰余金(内部留保)や営業キャッシュフロー、現金・預金残高はいずれも潤沢で、今すぐ経営危機になる可能性は低いです。また、5月22日には、みずほ銀行などの複数の金融機関と、2,000億円規模のコミットメントライン(融資枠)を設定したと一部メディアが報じています。今後、新型コロナの流行が再拡大して、再び臨時休園になったとしても、手元の資金を手厚くできるはずです。
今後も大型投資「続ける」
東京ディズニーリゾートがある舞浜地区では、大規模な開発が進められています。東京ベイNKホール跡地では、2021年度の開業を目指して、映画「トイ・ストーリー」シリーズがテーマになった新ホテル、平面駐車場跡地では、2023年度の開業を目指して、東京ディズニーシーの新テーマポート「ファンタジースプリングス」とパーク直結型ホテルの建設が進められています。
建設工事が進む新テーマポート「ファンタジースプリングス」
今年4月に開業が予定されていた、東京ディズニーランドの新エリアは「無期限延期」の状態に。しかし、新型コロナの収束はまったく見通せません。これに関連して株主から「客単価を上げないと、黒字化できないのでは」という心配の声が上がりました。
これに対して経営陣からは、「当面の間はゲストの安全・安心が最優先」「大型投資は今後も続けるが、それ以外の経費は見直していく」「売上向上とコスト削減の両輪で取り組む」という回答がありました。
ディズニー社との契約上、今進められているプロジェクトは中止できないでしょう。また、新型コロナが収束すれば、確実にゲストは戻ってくるはず。オリエンタルランドには、そんな確信があると思います。
ただ、これまで上西社長が発言してきた「東京ディズニーランドの抜本的な再開発」という方向性は、大きく修正されると思います。東日本大震災によって、パーク開発が下火になったように、今回の臨時休園と「新しい生活様式」に合わせたパーク運営は、オリエンタルランドの経営に影を落としそうです。
おわりに
今回の総会は、出席者数が大幅に絞られた中での開催となりました。今回取り上げた質問以外にも、株主優待の拡充や株主向けの優先入場、ハンディキャップを持ったゲスト向けの「ディスアビリティアクセスサービス」の改善、監査体制の公正さなどに関する意見が出されました。
個人的に一番気になっているのが、6月5日に発表された「オリエンタルランド・イノベーションズ」の設立についてです。これは新規事業創出を目的に、ベンチャー等への出資を行う新会社(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)として設立されました。
オリエンタルランドはホテル事業を除いて、収益のほとんどを浦安市舞浜地区に依存しています。感染症リスク以上に怖いのが、地震や津波、高潮、火山噴火といった大規模災害による被害です。もし首都圏で大きな被害が出れば、東京ディズニーリゾートの営業は非常に難しくなります。
オリエンタルランドでは長年、この「舞浜一極集中」から脱却するために、様々な取り組みを行ってきました。映画制作、キャラクターライセンス、オリジナルブランドのレストランなど、その内容は多種多様にわたります。しかし、どれも大きな収益の柱にすることはできませんでした。
そんな中で突然発表された、ベンチャー・キャピタルの設立。舞浜地区で稼いだ潤沢な資金力を背景に、ベンチャー企業の支援を通じて、新たな収益源を確保したいのでしょう。しかし、オリエンタルランドに「黄金の卵を産むガチョウ」を見抜く力があるとは思えません。
競合のベンチャー・キャピタルと手を組んだり、証券会社や銀行などの取引先からノウハウを学んだりしなければ、また失敗するのは目に見えています。ここは、オリエンタルランドの本気を見たいですね。
そのほか、私が気になっているのは、以下の項目です。
- 新型コロナに伴うパーク開発計画の見直し(ランドの再開発は先送り?)
- ショーベース裏のバックステージ施設整備(Tラウンジの代替施設?)
- キャッシュフロー依存(低金利なのに、銀行からの借り入れはしないの?)
- USJ対策(任天堂エリアの影響をどう考えているのか)
- チケット制度の改定(海外のような料金変動制の導入)
- レストランへの「モバイルオーダー」導入
- ディズニーリゾートラインの負債圧縮(新型車両導入は大丈夫?)
- ショッパー(買い物袋)の有料化
- 近年進む「キャラクターダイニング」縮小/廃止の動き
- 年間パスポート保有者の購買データ収集
- ダッフィーフレンズ(クッキー・アン、オル・メル)東京追加導入の経緯
- 「新しい生活様式」に合わせたエンターテイメント・プログラム
ショーベース裏で建設が進む、謎の建築物。公式発表がないため、キャスト向けの施設だと思われるが…。
ショーベース裏の建物 #TDR_now pic.twitter.com/XRBb5dOW5h
— MICKEY MANIA (@mickeymania1988) 2020年7月19日
日本国内での新型コロナ感染者は増え続けており、「第2波が来ている」と警鐘を鳴らす専門家もいます。また、今後気温が下がれば、インフルエンザのように流行が再拡大する危険性もあります。一人一人が感染予防に努め、パークの営業が正常化することを願いたいですね。
TDL新エントランスに誕生したグリーティングエリア。これが活用されるのは、いつになるのか…。
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