舞浜新聞

東京ディズニーリゾートなどのディズニーパークをはじめとして、ディズニーに関する様々な情報をお伝えします。



オリエンタルランド 第58期 定時株主総会を振り返る

6月29日、東京ディズニーリゾートを運営する、株式会社オリエンタルランドの株主総会が、千葉県の幕張メッセで行われました。

 

 

今回の総会では、経営陣から昨年度の事業報告、決算報告、会計監査報告が行われ、剰余金の処分(株主への配当金)、取締役に対するリストリクテッド・ストック(特定譲渡制限付き株式報酬制度)の導入が決議されました。また、株主からの質疑応答も合わせて行われました。

 

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今回の記事では株主からの主な質問と、それに対する経営陣の回答から、オリエンタルランドの今後の動きについて考えていきたいと思います。

 

昨年度の総会については、こちらをどうぞ。

 

キャストの待遇改善

東京ディズニーリゾートでは、パークだけではなく、周辺のディズニーホテルやイクスピアリなどで、多くのキャスト(従業員)が働いています。その多くが「準社員」と呼ばれる、アルバイトやパートの方たちです。

 

オリエンタルランドの正社員が約3,000人なのに対して、準社員は約19,000人にも上ります*1。いかに多くの準社員が、現場を支えているかがよく分かると思います。

 

株主からは「時給が安すぎて、キャスト以外の仕事も掛け持ちしている人がいると聞く」「優秀な人材の流出を防ぐためにも、待遇改善を強く望む」という要望が出されました。

 

それに対して経営陣からは、準社員の退職率が改善傾向にあることに加えて、各種人事制度の見直しや時給・手当の引き上げ、地方採用者への住宅手当などを挙げて、キャストの待遇改善に取り組んでいることが説明されました。

 

首都圏では若年層の人口不足の影響を受けて、様々なところで「人材不足」が叫ばれるようになりました。中には営業時間を短縮したり、定休日を設けたりする企業も出てきています。

 

東京ディズニーリゾートの場合、どうしても屋外の現場が多く、サービスレベルもかなり高い水準が求められます。そのため、最近はなかなか人員が増えず、レストランでも提供時間が長くなってしまい、混雑が激しくなる…といった問題も起きています。

 

オリエンタルランドとしても、地方まで採用対象を広げたり、パークから近い舞浜3丁目に独身寮を建てたりして、地道な取り組みを続けています。しかし、それだけでは不十分だと舞浜新聞は考えています。抜本的なキャストの時給引き上げや、より柔軟なシフト編成、さらには準社員から正社員(テーマパークオペレーション職*2)への登用を増やしていかなければ、さらに人手不足が深刻化していくと思われます。

 

時給引き上げに伴って、年金を受給しているシニア層のキャストや、夫がサラリーマンの主婦キャストが影響を受ける可能性はあります。また、キャストの時給引き上げの原資を、どこから確保するのか、という問題も出てきます。

 

主婦キャストの問題点は「扶養控除」時給が引き上がると、働きにくくなるという弊害も…。

 

また、別の株主からは「顧客満足度が下がっているのは、従業員の満足度が低下しているからなのでは?」「従業員満足度の調査は行っているのか」という質問も出されました。これに対して経営陣からは、「ソフト面であるキャストが楽しむ・やりがいをもつことを最大の課題として考えている」「全体の80%のキャストが、やりがいをもっている・満足していると回答している」という返答がありました。

 

ここにも、オリエンタルランドの危うさがあると思います。「やりがい」に頼るのは、ブラック企業の典型例です。いくら現場のキャストが「満足している」と回答していたとしても、それが低賃金の上に我慢して得られた結果なのであれば、かなり問題でしょう。

 

オリエンタルランドには、表面の従業員満足度だけではなく、ゲストのハピネスのためにも、引き続きキャストの待遇改善を望みたいですね。

 

ディズニーシー「2,500億円」拡張プロジェクト

株主総会直前の6月14日、オリエンタルランドは東京ディズニーシーに新しく、8つ目のテーマポートを建設することを発表しました。新しいディズニーホテルと合わせると、総事業費は約2,500億円という巨大プロジェクトになる予定です。

 

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新テーマポートのコンセプトアート 

 

拡張プロジェクトについての詳しい解説は、こちらをどうぞ。

 

この2,500億円の建設資金に対して、株主から「どのように資金を調達するのか」「不測の事態が発生して、予算が超過してしまったときはどうするのか」という質問が出されました。

 

これに対して経営陣からは、手元にある現預金や営業キャッシュフローを使う予定であること、不測の事態に対しては、金融機関から1,000億円の融資を受けられるように備えていること、などが説明されました。

 

オリエンタルランドではこれまで、パークへの設備投資を積極的に行う一方で、営業キャッシュフロー(内部留保)を貯めこんできました。投資家からは「巨額のキャッシュフローを、どのように活用するのか」と関心が集まっていたのは事実です。

 

ゼロ金利時代の今、大手の金融機関は、優良な貸出先の奪い合いになっています。入園者数が順調に伸び、安定的な収益を出しているオリエンタルランドは、金融機関からすると、なんとかお金を借りてほしい相手でしょう。

 

しかし、オリエンタルランドの立場に立つと、いくら低金利と言っても、金利負担だけでかなりの金額になります。また、大規模災害に対するリスクや、金融機関からの口出しを考えると、できれば自社の手元資金だけでパークの拡張をやりたい…と考えたのは、自然な流れかもしれません。

 

また、上西社長からは、パークチケットの値上げも検討の余地がある、という説明もありました。ライバルである大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンの動きとも関係してくるとは思いますが、「パークの体験価値向上」を理由に、さらなる値上げが行われる可能性は高いでしょう。

 

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シーの拡張プロジェクトについて、別の株主からは「新テーマポートは、現在人気のトイ・ストーリー・マニアからも遠すぎるのではないか」という声も上がりました。それに対して、経営陣からは「エントランスから遠い立地の特性を、プラスに変えるために検討を行った」「ITやアプリを使った取り組み、ムダのない回遊性も考えているため、期待してほしい」という回答がありました。

 

舞浜新聞では以前の記事で、新テーマポートがエントランスから1km以上も離れていることを指摘しています。小さな子を連れたファミリー層や、シニア層にとっては、アップダウンの激しいシーのパーク内を、1km以上歩くのは非常に負担になるでしょう。

 

新テーマポートに併設されるホテルに専用エントランスを設けたり、隣接する東京ディズニーランドのファンタジーランドとの連絡ゲートをつくったりするのが、一番現実的な方法でしょう。新ホテルのゲストにとっても、目の前にパークがあるのに、わざわざメインエントランスまで回る…というのは、かなり不便です。

 

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富裕層向けのサービスに力を入れる新ホテルのコンセプトアート。地方からのファミリー層や、インバウンド(外国人観光客)がターゲットになるだろう。

 

これについては、今後のオリエンタルランドからの続報を待つことにしましょう。

 

加賀見CEOの健康リスク

オリエンタルランドの経営を長年けん引しているのが、代表取締役会長(兼)CEOを務める、加賀見俊夫氏でしょう。パークファンの中にも、加賀見CEOを知っている方は多いと思います。

 

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7月3日に行われた花王提供「ハンドウォッシングエリア」オープニングセレモニー。セレモニー終盤、ミッキー・ミニーとともに加賀見CEOが現れて話題になった。

 

加賀見氏が副社長から社長に昇進したのは、1995年6月のことでした。その後、2005年には会長兼最高経営責任者(CEO)職に就任しています。社長職から数えると、すでに20年以上も経営に携わっています。

 

加賀見氏は1936年生まれで、今年で82歳を迎えました。パーク内のセレモニーや、ディズニー関連イベントでは、元気な姿を見せていますが、原稿の読み間違いや言葉が詰まる場面も目立ち、どうしても体の衰えが感じられるようになりました。もちろん、高齢に伴う健康リスクもあるでしょう。

 

株主からは「加賀見CEOは任期が長いのではないか」「そろそろ世代交代の時期なのでは」という質問が出されました。これに対して経営陣からは、会社創立からオリエンタルランドに携わっていること、東京ディズニーリゾートの誕生にも尽力したこと、ランド・シーともに大規模拡張を控え、外部との人脈構築を考えると、CEOとして適任だと考えていること、が説明されました。

 

確かに加賀見氏のオリエンタルランドや東京ディズニーリゾートに対する功績は、非常に大きいと思います。ディズニー社が自社に貢献した人物に贈る「ディズニー・レジェンド」にも、加賀見氏は選ばれています。

 

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ランド「ビビディ・バビディ・ブティック」のショーウインドウ。加賀見氏の名前が掲げられている。

 

上場企業を見渡してみると、80歳を超えた経営者は決して珍しくはありません。しかし、加賀見氏はオリエンタルランドを創業したわけではありませんし、迅速な経営判断が求められるサービス業界においては、やはりその経営体制に不安が残るのは事実でしょう。

 

 

ランドの拡張が2020年春、シーの拡張が2022年度中の完成を目指して行われます。オリエンタルランドとディズニー社のライセンス契約も、30年の延長でまとまりましたので、2023年のランド開園40周年が、世代交代の一つのタイミングになるかもしれません。

 

一つ気がかりなのが、ポスト加賀見の行方でしょう。加賀見氏のように一人の経営トップに権力を集中させるのか、それとも部門別・グループ企業別の集団指導体制に移行するのか…。このあたりも、興味深いですね。

 

イクスピアリの飲食事業売却

2018年1月、「磯丸水産」などを展開するクリエイト・レストランツ・ホールディングスが、オリエンタルランドからイクスピアリの飲食事業を買収することが報道されました。

 

 

オリエンタルランドはこれまで、イクスピアリ内で以下の飲食店舗を運営してきました。

  • イクスピアリ・キッチン(フードコート)
  • オールド・オウル
  • カフェ・トレイル&トラック
  • 郷ゐのこ
  • 自然派ビュッフェ 饗の詩
  • トルセドール
  • バル・リカ・セルヴェッサ
  • ピッタ ゼロゼロ
  • フォレッティ・ジェルッタ
  • ロティズ・ハウス

 

東洋経済の報道によると、飲食事業の売却を申し出たのは、オリエンタルランドからでした。クリエイトは2015年にオリエンタルランドから、イクスピアリ内にある「レインフォレストカフェ」の運営会社を取得して、業績を立て直しています。クリエイトが売却先の候補に挙がったのは、自然な流れだったのでしょう。

 

 

この飲食事業の売却について、株主からその経緯と理由が質問されました。これに対して、経営陣からは「2018年2月にクリエイトに売却した」「将来的には、クリエイトに託したほうが今後のイクスピアリの発展に寄与できる」「業績への影響は軽微で、長期的にはプラスになるという判断から、プレスリリースは出さなかった」という回答がありました。

 

イクスピアリに関しては、JR舞浜駅からも徒歩圏内、東京ディズニーリゾートの目の前という好立地にも関わらず、収益が伸びていないのが非常に気になっています。ランドやシーを訪れるゲストが使いにくい、首都圏のほかのショッピングモールと競合している、周辺道路が混雑しやすくて駐車料金も高い、などの問題もありますが、一番の大きな原因は、オリエンタルランドに商業施設の運営ノウハウが乏しいことではないでしょうか。

 

イクスピアリがオープンしたのは、2000年7月のことでした。それから18年以上経った今でも、イオンモールやららぽーとなどと比べて、十分な収益をあげられているとは言えません。一部では、テナント料が高くて、定着しにくく入れ替えが激しい、ディズニー社との契約で、テナントでディズニー商品が取り扱えない*3、ユニクロやH&Mのようなファストファッションの店がないという声も聞かれます。

 

今回の飲食事業売却で、オリエンタルランドとしては「ウチは土地と場所を貸すだけ」という経営姿勢を明確にしたとも言えるでしょう。今後、収益拡大を目指すのであれば、ディズニー社との共同開発に舵を切ったり、三井不動産のような大手デベロッパーに経営主体を任せたりするなどの、抜本的なテコ入れが必要だと思います。

 

今後予想される地震・津波対策

2011年に発生した東日本大震災では、東京ディズニーリゾートがある千葉県浦安市も「震度5強」の揺れに襲われました。しかし、幸いにもパーク内やその周辺の建物に大きな被害はなく、けがをしたゲストもいませんでした。ただ、周辺の道路や駐車場は、液状化によって被害を受けました。その後、原発事故に伴う計画停電や、首都圏の大きな混乱によって、1か月近くの臨時休園を余儀なくされたのです。

 

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臨時休園中に流れたTVCM。シー10周年イベントを控えていた舞浜にとって、震災は大きな打撃だった。

 

政府の予測によると、今後30年以内に70%の確率で「首都直下地震」が起きると想定されています。地震の発生確率で「70%」とは「ほぼ間違いなく起きる」と言い換えても、過言ではありません。事実、2016年4月に発生した熊本地震では、布田川断層帯の地震発生確率は「ほぼ0%から0.9%」とされていたのです。東京ディズニーリゾートがある浦安市も、大規模地震と無縁ではありません。

 

株主からは防災面での危機管理について、質問が出されました。それに対して、経営陣からは「建築基準法に基づいて、十分な強度をもって建てられている。また、古い耐震基準で建てられたものは、すでに耐震補強工事を行っている」「パークの海抜は約5m、周辺の防潮堤は5.9m。満潮時でも、津波は最大4mと試算されている」という回答がありました。

 

以前の記事でも紹介しましたが、東日本大震災以降、東京ディズニーリゾート周辺では堤防のかさ上げ工事が進められています。

 

 

東京湾は津波が大きくなるような地形ではありませんので、約6mの防潮堤で十分安全が確保されていると思います。ただ、地球温暖化に伴う海面上昇リスクや、スーパー台風による高潮被害なども、今後想定していく必要がありそうです。

 

無料Wi-Fiの整備

海外のディズニーパークでは、ゲスト用に無料の無線LANサービス(Wi-Fi)が整備されていて、専用アプリを通じてアトラクションの待ち時間を調べたり、検索サイトに接続したりすることができます。これに対して、東京ディズニーリゾートでは、ディズニーホテルの宿泊者を除いて、無料Wi-Fiサービスは行っていません。

 

株主からは「スポンサーにNTTドコモがいるのだから、Wi-Fiサービスは提供しないのか」という質問が出ました。これに対して経営陣からは、「現時点ではWi-Fiの拡張計画はない」「将来的に要望が高まると思うので検討していく」という回答がありました。

 

東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて、公共の場所では無線LAN(Wi-Fi)の整備が進められています。訪日外国人にとって、高額になるパケット通信よりも、無料で使えるWi-Fiのほうが便利だからです。しかし、舞浜の場合は、パーク全体に無料のWi-Fiネットワークを整備しようとすると、膨大な設備投資が必要になります。さらに、整備後の通信費の負担も、大きくのしかかってきます。

 

パーク周辺の住宅地にも、電波障害などの影響が出る恐れがあるため、今後もパーク内の無料Wi-Fiは実現する可能性は低いでしょう。

 

今年は平和な株主総会だった?

オリエンタルランドのようなBtoC企業の場合、株主総会はどうしても顧客からの陳情大会になりがちです。過去の総会でも、「それは質疑応答で言うべき内容なのか?」と疑問の声が上がるものもいくつかありました。

 

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しかし、今年の質疑応答を振り返ってみても、どの質問もオリエンタルランドの経営体制や経営方針について、取締役に突っ込むものが多かったと思います。これが本来の姿ではないでしょうか。来年以降も、株主と経営陣双方にとって、有意義な総会になってもらいたいものです。

 

ちなみに、以下は舞浜新聞が、個人的に気になっていることをまとめたものです。

 

  • ライセンス契約「30年延長」の経緯と理由
  • 「リストリクテッド・ストック」どうして今、導入するのか?
  • オリンピック・パラリンピックが経営に与える影響
  • スター・ウォーズやマーベルなどのコンテンツ導入
  • キャラクターやプリンセスなどのグリーティング施設の充実
  • 拡張工事終了までの混雑緩和策
  • 情報管理や社内の意思決定プロセス、コーポレート・ガバナンス
  • 年パスホルダーの購買データ収集
  • バックステージ施設の移転・再整備
  • グッズのネット販売、空港の免税店への出店
  • 新規事業の「1セグメント化」果たしてできるのか?
  • パークチケット平日料金・休日料金の導入
  • 香港の新しいダッフィー&フレンズ「クッキー」OLCの関与は?

 

東京ディズニーランドでは、新ファンタジーランドに加えて、新しいエントランスの工事も急ピッチで進められています。立体駐車場の建設工事、さらには東京ディズニーシーの大規模拡張、新しいディズニーホテル建設と、舞浜では華やかな計画に目がいきがちです。舞浜新聞では、引き続きオリエンタルランドの経営姿勢を注視していきます。

 

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合わせて読みたい

*1:オリエンタルランド「会社概要」より引用。2018年4月1日現在。

*2:従来はパーク運営に携わる職種に限って、有期雇用の契約社員制度がありました。2016年4月からは、契約社員全員が「正社員」となり、無期雇用に移行しています。

*3:ディズニー社の日本子会社ウォルト・ディズニー・ジャパンが運営する「ディズニーストア」や、ディズニー関連の書籍は例外になっています。ワールドが展開する ITS'DEMO (イッツデモ)のイクスピアリ店では、ディズニー関連商品は一切ありません。