2022年9月26日と27日の2日間、東京ディズニーシー・ホテルミラコスタで「パラディーゾ・コスチュームパーティー」というイベントが開催されました。これは、参加者がテーマに合った仮装を身にまとい、ホテル内で写真撮影をしたり、食事を楽しんだりするというもの。
一見するとハロウィーンの時期らしいイベントのように思えます。しかし、SNSでイベントの様子が伝えられると、「失望した」「がっかり」といった批判が噴出しました。今回は仮装パーティーをめぐる炎上騒動について、過去のホテルミラコスタでの騒動にも触れながら、少し考えていきたいと思います。
目次
- 参加費は2名で36,000円
- 婚礼専用のはずだったのに…
- 仮装をめぐっては、過去にも…
- 炎上騒動を受けてホテル側は…?
- ホテル側は、結局何がしたかったの?
- コロナ禍で減った売り上げ…ホテルはどうする?
- 合わせて読みたい
参加費は2名で36,000円
東京ディズニーシー・ホテルミラコスタで、仮装をしたゲストを対象にイベントが行われるのは、今回の「パラディーゾ・コスチュームパーティー」が初めてのことでした。
内容は、ホテル内での撮影、ブッフェスタイルの食事とドリンク、最後には会場内のステージでファッションショーに参加するというもの。会場は、ホテル内の「パラディーゾ」。ここは、ミラコスタでも一番の広さを誇る宴会場です。それだけホテル側が、多くの参加者を見込んでいたことが分かります。
参加費は2人で36,000円(宴会のみプラン)。お一人様での参加は不可で、1グループ最大4名まで申し込みが可能でした。
しかし、イベントの発表当初から、SNSでは冷ややかな声が上がっていました。イメージ写真では女性ゲストのみが写っていたことから「男性は対象ではないってこと?」という意見や、「2名からという条件が厳しい」「写真は撮りたいけど、ランウェイを歩くのは恥ずかしい*1」といった、内容そのものに対する意見もみられました。
SNSでの予想通り、開催直前までチケットの在庫は残ったまま。SNSでは「結婚式の下見に行ったら、イベントのチラシをもらった」という声もあり、ホテル側の予想に反して、チケットの売れ行きが伸び悩んでいた可能性は高いでしょう。
もちろん、開催が9月26日(月)と27日(火)という平日だったことも、反応が悪かった一つの原因かもしれません。ただ、正午から午後3時までの「昼の部」と、午後6時から9時までの「夜の部」の二部制にするなど、より多くのゲストが参加しやすいような工夫も感じられました。
また、仮装のテーマもイベント発表当初は「皆さまが想像される東京ディズニーシー・ホテルミラコスタのイメージにふさわしいコスチューム」という表現だったものを「ヴェネツィアンカーニバルやマスカレード風の本格的な仮装から、小物をあしらった手軽な仮装など、ぜひ、東京ディズニーシー・ホテルミラコスタをイメージした思い思いの仮装」という表現に変更されたのです。
公式サイト内の別ページには「ぜひ皆さまがホテルミラコスタで思い出に残したい仮装」という表現もあり、当初よりもハードルが下げられたと言えるでしょう。しかし、結果的にこの仮装テーマの変更が、炎上騒動を招いてしまったのかもしれません。
婚礼専用のはずだったのに…
イベント開催初日、昼の部に参加された方が、そのときの様子をTwitterやInstagramで公開していきました。しかし、この投稿を見た方から「ありえない」「失望した」という怒りにも似たような声が多く上がったのです。その原因は、参加者が撮影した場所にありました。
SNSでの投稿を見ていると、ホテルミラコスタ内のチャペルに加えて、チャペルのすぐ外側にあるテラス、控室、さらには宿泊者専用施設「テルメ・ヴェネツィア」の上にあるテラスや、パーク内のカッレ・ピッポ(グーフィー通り)に面したテラスなど、普段は一般客が立ち入れない場所まで行くことが可能だったようです。
「テルメ・ヴェネツィア」の屋外プール側から撮影したもの。右側の階段を上がると、テラスになっている。過去には「ジェラトーニ」お披露目イベントのメディア向け撮影会場としても使われた。
チャペルやテラスなどでの撮影は、これまでディズニーホテルの婚礼プラン「フェアリーテイル・ウェディング」の申込者に限られていました。いわばディズニーファンにとっては「神聖な場所」「特別な場所」と考えていたところで、スタジオのように、自由に撮影が許可されたのです。
さらに問題をややこしくしたのは、参加者の仮装でした。仮装テーマのハードルを下げたことで、ディズニープリンセスとも見て取れるドレスを着て、参加した方が少なくなかったのです。
これには「前撮りで60万円以上かかるのに、たった数万円で撮れるのはおかしい」「婚礼よりも滞在時間が長い」「チャペルのテラスは2人と両親しか出られないのに」「婚礼なら自前ドレスは持ち込み料がかかる」「お座りショットは前撮りだけなのに」といった、フェアリーテイル・ウェディング経験者から、怒りの声が多く上がっていたように感じます。
ただ、ホテル側も対策をしていなかったというわけではありません。事前に公式サイトでは「パラディーゾ・コスチュームパーティー『仮装のルール』」を掲載して、参加者にお願いをしていました。
参加不可となるコスチュームやアイテム、メイク(一部のみ抜粋)
婚礼衣裳の着用やディズニー・フェアリーテイル・ウェディングのオリジナルドレスを模倣したコスチューム
【禁止例】
ウェディングを連想させるコスチュームの着用
ブーケ・ブートニアの着用・所持
しかし、結果的には、ディズニープリンセスを思わせるデザインのドレスで参加した方も少なくなく、ルールが曖昧になっていた部分はあったのかもしれません。過去のパーク内イベントのように、事前に写真を送ってもらって確認する、ということもありませんでした。
仮装をめぐっては、過去にも…
実は、ホテルミラコスタでの仮装をめぐって炎上騒動が起きるのは、今回が初めてではありません。2018年10月、ホテルミラコスタで結婚式を挙げた方のツイートが拡散され、大きな話題になったのです(その後、ツイートは削除)。
内容は、花嫁と思われる方が「ホテルの廊下で撮影をしていたら、仮装した人が写りこんだ。婚礼は一生に一度。仮装している人は、チャペルや宴会場に近づかないでほしい」というもの。
このツイートに対して、Twitterでは「花嫁派」と「仮装民派」に分かれて、大激論になったのです。「婚礼写真は高額。気持ちを分かってほしい」「人が写りこんでも、ホテル側は加工で消してくれない」といった花嫁派の意見に対して、仮装民派からは「ハロウィーンの時期に挙式するほうが悪い」「公共の場所だから仕方ない」といった意見も多く上がったのです。
東京ディズニーリゾートでは2017年から、ハロウィーンのイベント期間、すべての日程で仮装によるパーク入園が許可されていました。しかし、結果的には、仮装民の急増によって、このような炎上が起きてしまったと言えるでしょう。
ホテルミラコスタでは、婚礼写真の撮影時に廊下を通行禁止にするなど、映り込みに対する配慮が行われるようになりました。だからこそ、今回のイベントでは「仮装している人たちにも、自由に撮影してほしい」という発想があったのかもしれません。
炎上騒動を受けてホテル側は…?
SNSで大きく炎上してしまった、今回の仮装パーティー。翌日のイベントでは、参加者に対して「写真をSNSで公開しないでほしい」というお願いがホテル側からあったようです。しかし、せっかく仮装したのなら、写真を公開して、より多くの人から肯定的評価をもらいたいと考えるのは、当然のことでしょう。ホテル側がイベント開催前に、こういった事態が起きることを想定していなかったのは、少し疑問が残ります。
これまで、東京ディズニーリゾートは、ディズニーがもつ圧倒的なブランド力を使って、高い収益を上げてきました。その代表例が「フェアリーテイル・ウェディング」と言えるでしょう。テーマパークでの婚礼プログラムに、500万円以上もの大金を使う人がいる、ということに、世間一般の人は理解できないかもしれません。
しかし、「ディズニーが好き」「キャラクターが好き」「パークが好き」という、多くのファンがいることも事実です。コロナ禍の前であれば、ホテルの案内看板で、1日数組の挙式や披露宴が組まれていることは、当たり前の光景でした。
今回の仮装イベントでは、そんな長年積み上げてきたブランドを、安売りするような行為だったのかもしれません。だからこそ、多くのファンが怒りの声を上げたのだと思います。
また、ホテル側もこれまではパーク運営に関わることから、「確約できない」「悪天候時にはできない」といったように、ある意味で殿様商売的な姿勢もありました。もちろん、内容変更による減額や補償は一切なし。多くのファンは「仕方がない」と、ぐっとこらえていた部分も多かったと思います。これまでの不満が、今回の仮装イベントをきっかけに、一気に噴き出してしまった可能性はあるでしょう。
一般のホテルの婚礼と違って、フェアリーテイル・ウェディングには「挙式のみ」「披露宴のみ」「前撮りのみ」といったプランは一切ありません。挙式と披露宴が基本プランであり、それにオプションとして前撮りなどを乗せていくため、どうしても高額になってしまうのです。そのため、今回のように「たった数万円の参加費で、前撮りみたいなことをしたのは許せない!」という声が出た気持ちも理解できます。
ホテル側は、結局何がしたかったの?
では、ここからはホテルミラコスタが、どうしてこのようなイベントを企画したのか、その背景についても少し考えていきたいと思います。
一番大きいのは、コロナ禍による宴会や婚礼の減少でしょう。
今回の仮装パーティーが平日に企画されたのも、休日に比べて稼働率が低い宴会場を、なんとかして動かしたいという考えがあったからだと思います。宴会や婚礼は単価が大きく、利益率も高いため、収益の大きな柱となっています。これは、ディズニーホテルに限らず、日本各地にあるリゾートホテルでも同様です。コロナ禍によって減った売り上げを、なんとか取り戻したい。そんな思いがあったのではないでしょうか。
また、もう一つの大きな理由として考えられるのは、先ほども触れた「フェアリーテイル・ウェディング」です。
婚礼はホテル収益の大きな柱ですが、言い換えれば、これは東京ディズニーリゾートにとっても大きな収益の柱とも言えます。これまでのキャラクターファンやパークファンに加えて、より多くの人にディズニーホテルでの婚礼を考えてもらいたい。だからこそ、今回のイベントでも、本来は婚礼でしか使われない場所を開放することで、「今度はここで結婚式を挙げたい!」と考えてもらいたかったのではないでしょうか。
もちろん、仮装したゲストの撮影と、婚礼の撮影では技術レベルがまったく違います。ホテル側も「婚礼とは違う」という自信があったからこそ、撮影場所として開放したのかもしれません。ただ、結果的には、これまでパークに多くの課金を続けてきた、熱烈なファンの気持ちに寄り添えていなかったとも言えるでしょう。
コロナ禍で減った売り上げ…ホテルはどうする?
今回の炎上騒動を受けて、来年度以降、同様のイベントが開催される可能性は低いでしょう。もちろん、本来は婚礼でしか使われていなかった場所で撮影した、ということが大きな問題でしたので、宴会場で食事を楽しみながら、フォトロケーションで撮影…という内容であれば、とくに問題もないと思います。
では、今後ホテル側は、どのようにしてコロナ禍で減った売り上げを確保していくのでしょうか。
まず考えられるのは、フェアリーテイル・ウェディング参加者向けに提供されている、プログラムの充実です。現在、アンバサダーホテルとホテルミラコスタでは、「エンドレスロマンス」というプログラムを行っています。
これは、ホテル内でのセレモニーに加えて、レストランでオリジナルメニューの食事を楽しめるというもの。もちろん、キャラクターが出演して、写真撮影も行われます。二人だけではなく、家族みんなで大切な思い出を残せる機会として、今後プログラムを充実させていくのではないでしょうか。
もう一つは「ハッピーエバーアフター・パーティー」です。こちらもフェアリーテイル・ウェディング参加者向けに行われているもので、ホテルでの食事とキャラクターとの撮影を楽しめるというもの。ただし、参加できる枠が少なく「抽選に外れてしまった」という嘆きの声も多く聞かれます。今後の開催日数や参加枠の拡大が考えられますね。
これ以外にも、宴会メニューの充実や、キャラクターを呼べる小規模の宴会プランなど、収益向上に向けた取り組みが考えられます。
仮装するゲストに対して、いまだに嫌悪感を抱いている人が多いことも事実です。ディズニーホテルには、これまで積み重ねてきたブランドを大切にしながら、ここでしか体験できないものを提供してもらいたいですね。
合わせて読みたい
*1:イベント開催直前には、公式サイトに「※ファッションショーへは任意でご参加いただけます。ステージ上で写真撮影のみしていただくことも可能です。」という一文が加わっていました。参加者からの意見もあったかもしれません。