舞浜新聞

東京ディズニーリゾートなどのディズニーパークをはじめとして、ディズニーに関する様々な情報をお伝えします。



元日特集「もし新型コロナウイルスがなかったら、東京ディズニーリゾートはどうなっていたんだろう?」後編

前編のあらすじ

ユナイテッドランドの広報部で働く高橋愛里沙は、突然「新型コロナウイルスのない世界」にタイムスリップしてしまう。戸惑う愛里沙だったが、部下である川崎美月とともに、目の前の仕事に取り組むことに。ちょうどその頃、東京ディズニーリゾートでは、ニューファンタジーランドのオープンを迎え、地方だけではなく海外からのゲストも急増していた…。

 

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2020年6月

6月1日、月曜日。この日は朝から曇り空で、今にも雨が降り出しそうな天気だった。

 

朝の7時30分。私は美月ちゃんと一緒に、東京ディズニーシーのエントランスに立っていた。実はこの日から、ホテル宿泊者向けの15分前入園制度が変わるというので、某大手のネットメディアの取材対応をすることになったのだ。

 

「愛里沙さん、どうして15分前入園の仕組みを変えるんですか?」

美月ちゃんがほかのゲストには聞こえないように、小声で私に聞いてきた。

 

「私もちゃんとミリアルから聞いたわけじゃないんだけどね…。実は近いうちに、シーのエントランスを工事するみたいなの。ほら、ランドで新しいゲートを導入したでしょ?シーも顔認証のゲートに置き換えるみたい」

「??? エントランスの工事と、15分前入園と何が関係あるんですか?」

美月ちゃんは、私の説明に納得ができず、頭の上に「?」マークが浮かんでいた。

 

「ごめんごめん…。私の説明不足だったね。工事をしている間は、ランドと同じでゲートの数が減る。そうなると、当日券を持ってるゲストの入場にも時間がかかるでしょ?だから対象日やホテルを絞って、15分前入園のゲストを減らそうって計画なんだと思う」

「なるほど!だからチェックイン日が使えなかったり、パークから遠いアンバサダーホテルだけが対象になってたりするんですね」

「まあ、アンバサダーの稼働率が悪いから、テコ入れっていう意味もあると思うよ」

 

「すいません!お客さんにインタビューしていいですか?」

 

プレスの人に話しかけられた美月ちゃんは、慌てて向こうに走っていった。本当は公式サイトとかで、もっとちゃんと説明しなきゃいけないと思うんだけど…。部長に提案しても「外注業者の委託費がもったいない!どうせオタクたちが解説するんだろ?」って言われて、けんもほろろだったな…。それって、広報部の仕事じゃないのかな?

 

6月4日からランドでは、ベイマックスをテーマにしたスペシャルイベントが始まった。夏祭りをコンセプトにしたイベントは、外国人ゲストの反応も良かったみたい。駄菓子のセットは飛ぶように売れ、ベイマックスと一緒に写真が撮れるフォトロケーションも、連日長蛇の列となった。

 

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シーでは「ダッフィー&フレンズのサニーファン」が始まり、ハワイからやって来た「オル・メル」が新たに登場。グッズの発売日には、お店の中にゲストが集中してしまい、トラブルが起きてしまうほどだった。いい加減、公式アプリの通信販売だけに絞ればいいのに…。商品管理部と商品販売部で、仲が悪いから無理かもね。シーでは恒例となった海賊イベントも始まって、パークは一気に夏の雰囲気に変わっていった。

 

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ホテル宿泊者向けの15分前入園制度が変わって、少し時間がたったころ。

 

シーでは、2年計画でエントランスのリニューアル工事が始まった。手荷物検査ブースの増設、チケット販売窓口の縮小、さらには年間パスポート保有者向けの顔認証ゲートなど、20周年イベントとファンタジースプリングスの開業に向けて、準備が進められることになった。

 

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金森部長の言っていた通り、SNSやブログでは、ファンが15分前入園や入園導線の変更について、詳しくまとめてくれていた。特に「仮装をするゲスト用につくられた更衣室は、本当は仮設のチケットブースのためだった!」という解説には、私も舌を巻くほど。マーケティングコミュニケーション部の立山くんに資料を見せてもらったけど、なんだか複雑な気持ちだったな。

 

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7月

メディアで「レジ袋の有料化」が報道された7月1日。ついに東京ディズニーリゾートでも、買い物袋の有料化が始まった。開始前は「ゲストから苦情が増えるのでは?」と心配する声もあったけど、目立った混乱は起きなかった。ちょうどその頃、広報部では開催が迫った東京オリンピックへの対応に大忙しだった。

 

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例年この時期は、夏休み向けのプロモーションを行うのだが、今年は大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンに新しいエリアがオープンするということで、いつもよりも予算が増やされていたのだった。もちろん、五輪を目当てに日本を訪れる外国人観光客に向けて、ホテルやパークチケットの宣伝を行う…という意味合いもあった。

 

「愛里沙さんは、オリンピックの競技なにか見に行くんですか?」

「う~ん…オリンピックやってる間は、海外メディアの取材対応とかもあるから、休めないかなって思ってるけど…。美月ちゃんは何かチケット買ったの?」

「実はですね…開会式のチケット、当たっちゃったんです!家族3人で行く予定なんですけど、もうすっごく楽しみで!」

「そうなんだ!うらやましいなあ…。私なんて、抽選に応募したけど、一つも当たらなかったよ。そのくじ運、分けてほしいな…」

「でも、抽選がいらない種目もありますよ。一緒に見に行きましょうよ!」

 

興奮しながら話す美月ちゃんは、ちょっとかわいかった。パーク運営に関わらない部署の人たちは、オリンピック期間中は出社せずに、テレワークにするように言われているみたい。パーク運営や私たち広報部のように、現場に出なくてはいけない部署には、テレワークなんて関係ないけど…。私も家から仕事したかったな。

 

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7月24日に開幕したオリンピック。東京では56年ぶりの開催となり、日本人選手の活躍で列島は大きくわいた。東京ディズニーリゾートでも「五輪特需」といわれる状況で、地方からのゲストだけではなく、外国人観光客が一気に増えていった。現場のキャストからは、「英語の通じないゲストへどのように対応すればよいのか」「パークのルールをどこまで伝えればよいのか」といった、嘆きの声も大きくなっていった。

 

広報部の私たちも、オリンピックの混乱の中にいた。IOCや大会組織委員会、スポンサー企業から、要人の受け入れ要請が急増していったのだ。競技団体のお偉いさんなどであれば、パークチケットを渡して、私服のセキュリティをつければ事足りる。しかし、それが某国の王子様だったりするから、話はややこしくなる。結局、警視庁、千葉県警、さらには広報部のアテンドまで付けることになって大変だった。

 

パークでは手荷物検査の強化に加えて、千葉県警の警察官が常駐することになった。県警本部からは「爆発物探知犬を配備したい」という依頼もあったそうだが、ほかのゲストに威圧感を与えるという理由で、上層部から丁重にお断りしたらしい。

 

オリンピック期間中は、ランドもシーも、連日大混雑だった。ディズニーベースの無線で、その日の入園者数を聞くのが怖いぐらい。要人のアテンド、海外メディアへの対応、さらには来年度のスケジュール発表に向けた準備で、私も美月ちゃんも目が回るような忙しさだった。いつもは仕事をしない金森部長ですら、過労で寝込んだのには笑ったけど。

 

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8月

8月9日、ついに東京オリンピックが閉会式を迎えた。テレビではオリンピックの期間中、首都圏に1,000万人を超える人が訪れたと伝えていた。そりゃあ電車も混雑、首都高も動かなくなるわけだよね。商品開発部の滝田さんは「カタカナのロゴTシャツ、外国人ゲストにバカ売れだったよ!」って興奮してたけど…。次はパラリンピックへの対応だと思うと、私はちょっと心がブルーだった。

 

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オリンピックが終わって、パラリンピックが始まるまでの間、広報部は9月に発表する2021年度のイベントスケジュールについて、関係各所とミーティングを重ねていた。それは、経営会議を終えて、広報部のオフィスに戻ってきたときのことだった。

 

「来年度は、ほとんど昨年度と同じ内容ですね」

美月ちゃんが資料に目を落としながら、ぼそっとつぶやいた。

「まあ、4月からはシーの20周年イベントも始まるし、夜のエンタメも追加になるからいいんじゃない?」

「確かにそうですけど…。昼のハーバーショーがないってだけで、ちょっと寂しいんですよね。今年は五輪特需がありましたけど、来年度は絶対に落ち込むはずなのに…」

「でも、ドナルドの夏のショーは再演するんでしょ?あれだけでも、みんな喜ぶんじゃない?」

「あれはファン受けするとは思いますよ。ただ、周年イベントなのに、メインのショーが夜だけってのが、すごく引っ掛かるんです」

 

美月ちゃんは、ブラックコーヒーをすすりながら、不満げな表情を浮かべた。確かに「オー!サマー・バンザイ!」の再演は、みんな喜ぶと思う。もうグッズも準備しているみたいだし。ただ、これが一般ゲストの集客につながるかと聞かれれば、確かに疑問だった。

 

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10月

ハロウィーンイベントが始まって、少し落ち着いた頃。

 

私はその日、ディズニーアンバサダーホテルの宴会場に立っていた。別に宴会のお手伝いに来たわけじゃない。この日はユナイテッドランドと劇団四季の合同記者会見を行うというので、広報部の全員がメディア対応に駆り出されたのだった。

 

メディアでも大きく取り上げられた、劇団四季『美女と野獣』の再演。場所は東京ディズニーリゾート内にある「舞浜アンフィシアター」ということで、ミュージカルファンだけではなく、パークファンからも期待の声が高まった。

 

もともと、シルク・ドゥ・ソレイユの専用劇場としてつくられたのだったが、東日本大震災を機に終演に。その後はライブやイベント会場として利用されていたのだけど、思ったように収入を伸ばせなかったようだ。関東で新たなロングラン会場を探していた劇団四季と、赤字を減らしたいユナイテッドランドの思惑が一致した結果が、舞浜アンフィシアターでの再演だったってわけ。公演開始は2021年秋から。私もチケットを買って、見に行きたいな…。社割あるかな?

 

11月

ディズニーホテルに関するプレスリリースの発表や、メディアへの対応はユナイテッドランドではなく、子会社のミリアルホテルズが担当することになっている。ただ、今回はホテルの正式名称と開業時期の発表だったため、私も担当に入ることになった。

 

東京ディズニーリゾート トイ・ストーリーホテル 2021年11月22日開業

 

「ねえねえ、なんで開業が11月22日になったの?クリスマスイベントの谷間だし、なんだか中途半端じゃない?」

ランドホテルの中にあるオフィスで打ち合わせをしていたときに、ミリアルの山本さんにこっそり聞いてみた。

「あれ?愛里沙さん、知らないんですか?トイ・ストーリーの第一作目の公開が11月22日だからなんですよ。もともと大成建設からの引き渡しが11月1日だったってのもあるんですが、アメリカ本社からの強い要望もあって」

「なるほどね!そりゃあ、映画ファンは喜びそうだね」

 

山本さんにいろいろ話を聞いたけど、現場でのトレーニング期間が20日間ぐらいしか設定できないため、空いている時間にランドホテルで準備をするそうだ。まあミリアルの場合は、異動内示が急だって話も聞くし…。ホテル業界も大変そうだな。

 

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2021年1月

一年で一番パークが輝くクリスマスイベントは、連日多くのゲストで賑わった。私の友人もたくさんパークに来てくれたのだが、「アトラクションに全然乗れなかった」「レストランの予約が取れなくて、外に座って食べた」という嘆きの声もたくさん聞こえてきた。そのたびに、なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいに…。そんな日々はあっという間に過ぎていき、気付けば年越しを迎えていた。

 

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広報部に配属されると、正月イベントや成人式へのメディア対応などで、年末年始にほとんど休みは取れない。その代わり、1月の閑散期に入ると、まとまったお休みが取れる。ただ今回は、1月13日から始まる『美女と野獣』のスペシャルプログラムの準備のために、まだまだ忙しい日々が続いていた。

 

「ねえねえ、美月ちゃんって、このアオキサダハルさんって知ってるの?」

私がフード開発販売部の資料を見ながら聞くと、美月ちゃんは驚いた様子で返してきた。

「えっ!愛里沙さん、青木シェフのこと知らないんですか?」

「…ごめん、私って世間の流行りに疎くって…」

「青木定治シェフといえば、パリ在住の有名なパティシエですよ!日本にもお店があって、大人気なんですから!」

「そうなんだ…。でも、すごいね。そういう有名な人がパークのフードメニューの監修をしてくれるんでしょ?」

「フードの落合さんに聞いたんですけど、担当の吉田常務がかなり力を入れてるみたいで…。私も実は楽しみなんですよ!アイスクリームとか!」

「確かに美味しそうだけど、冬のアイスは寒そうだね…」

 

私は再び資料の目を落とすと、メディア向けの資料を作り始めた。1月って気温はかなり低いけど、アイスクリームは売れるのかな…?

 

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3月

気付けば、もう今年度も終わりかけていた。私の周りでは、すでに来年度の異動内示を受け取っている人がいて、腹の探り合いをしている人も。そんな様子を横目で見ながら、私はシー20周年イベントのプレス対応について、準備を進めていた。

 

それはお昼を食べ損ねて、ちょっと遅めにシェフ・ハットへ行ったときだった。

 

「おお!高橋くん、久しぶりだな!」

大きな声に驚いて後ろを振り返ると、見覚えのある人が立っていた。

「片岡副社長!お久しぶりです。お体、大丈夫なんですか?」

「実は年明けに退院してな。医者からは『あんまり無理はするな』って言われてるんだが…。まあ家で寝てても仕方ないし、パークでゲストとおしゃべりするほうが、リハビリになると思ってな」

「パーク行かれてるんですか?すごいですね!」

 

フード統括部にいたときにお世話になっていた、片岡さん。副社長に昇進されたのだけれど、昨年に心筋梗塞で倒れて入院されていたのだった。

 

「高橋くん、広報部はやっぱり忙しいか?」

大きな口でカレーライスをほおばりながら、片岡副社長は私に聞いてきた。

「やっぱり、夏の東京オリンピックが一番忙しかったですね…。ゲストも多かったんですが、海外メディアのアテンドが一気に集中して…」

「確かにあの時期は大変だったな。俺も忙しすぎて、夏に倒れちまったし…。みんなに迷惑かけちゃったな」

「そんなことないですよ!片岡さんのこと、現場のキャストたちも心配してたんですよ。早く戻ってきてほしいって…。現場を知ってる役員の方って、結構少ないですから」

「そうだったのか…。そんな話を聞くと嬉しいよ」

 

私は定食を食べながら、片岡副社長の話に耳を傾けていた。どうやら、今年度の入園者数は過去最高の3,400万人になるみたい。「売上高や客単価が過去最高になりそう」という話は、経理部の横沢さんから聞いていたけど、まさか3,400万人になるとは…。そりゃあ混雑するわけだ。

 

 

 

 

 

夜の10時。静まり返ったオフィスで、私は帰り支度をしていた。4月からはシーの20周年イベント、さらにはトイ・ストーリーホテルの開業も控えている。外国人ゲストも過去最高を記録したから、来年度はもっと入園者数が増えるかもな…。私はそんなことを考えながら、カバンにノートパソコンを詰めると、フロアの照明を落とした。

 

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一人、薄暗い廊下を歩いていたときだった。

 

なんだか背中に、気味の悪い視線を感じたのだ。本社がある場所は、もともと海を埋め立てた場所。「廊下で幽霊を見た」という先輩の話を聞くたびに、私はいつも怖がっていた。「どうせ気のせいだろう」私は自分を奮い立たせると、くるっと後ろを振り返った。

 

私は目を疑った。最初は鏡でも見ているのかと思った。私の目の前には、私と瓜二つの人間が立っていた。あまりの衝撃で、私は思わずその場から動けなくなってしまった。

 

「あなた、いつまでこの世界にいるつもり?」

「えっ…?」

私は全身が固まったような感覚になって、言葉が出なくなっていた。

「あなたはこの世界にいるべき人間じゃない。そろそろ元の世界に戻る時間でしょ?」

「えっ…戻るって?」

「私はあなた。こっちの世界の高橋愛里沙だってことぐらい、あなたにも分かるでしょ?」

「ごめんなさい…。言ってる意味がよく分からないんだけど…」

 

私はまた変な夢でも見ているのか、そんな気がしていた。あまりにも突然の出来事で、頭が混乱してしまっていた。

 

「そろそろ時間ね。もとの世界に戻ったら、長生きするのよ」

「えっ…それって…」

 

私が質問しようとした瞬間、まるでスポットライトでも照らされたように、目の前が真っ白になった。光に包み込まれるような感覚。なんだか不思議だった。

 

 

 

 

 

目を開けると、そこはベッドの上だった。無機質な天井、仕切り用のカーテン、さらには規則正しく聞こえる電子音…。どうやら、ここは病院のようだ。私の口には酸素マスクがつながれ、体にはたくさんの管も刺さっていた。

 

「…高橋さん?高橋さん!良かった!意識が戻ったんですね。すぐにドクターを呼んできますからね!」

そういうと、横に立っていた防護服姿の看護師さんと思われる女性が、慌てて走っていった。なんか私って、また夢でも見てるのかな…。そんな気がしていた。

 

あとで両親に聞いた話によると、12月29日の夕方、私は舞浜駅前にある横断歩道で、信号無視をした車にはねられたそうだ。幸い、手術は成功したのだったが、それから1か月近く、意識が戻らない状態が続いていたらしい。医者からも「このまま回復しないかもしれない」と告げられていたという。私の意識が戻ったその日の夜、防護服姿の両親は、泣きながら私の手を握ってくれた。

 

 

 

 

 

それから半年後。

 

今日は快気祝いということで、美月ちゃんが食事に連れて行ってくれることになった。それはイクスピアリの中にある焼肉屋さんで、カルビを焼いていたときだった。

 

「愛里沙さん、後遺症とかってないんですか?」

美月ちゃんが、少し心配そうな表情で聞いてきた。

「それがさあ、全然ないんだよね。担当のお医者さんもすごい驚いてたんだけどね」

「そうなんですね…。でも、よかったですね。こうやって、美味しい焼肉が食べられて」

「ホントホント…。実はさ、今だから話せるんだけど、病院で眠ってる間に不思議な夢を見てたんだよね」

 

私は美月ちゃんに、「新型コロナウイルスのない世界」の夢を見ていたことを話した。最初は笑われるかな?と思っていたのだけど、美月ちゃんは真剣に聞いてくれた。

 

「で、目を覚ましたら、病院のベッドに寝てたってわけ。なんか変な夢でしょ?」

「…」

 

美月ちゃんは黙って私を見つめていた。よく見ると、目には涙が浮かんでいた。そうか…美月ちゃんも平気そうに見えてても、コロナで辛い思いをしてたんだな。私は胸が締め付けられるような思いだった。もうコロナなんて、早くなくなればいいのに…。

 

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(おわり)

 

この物語はフィクションです。実在する人物・企業・団体・地名とは一切関係ありません。