舞浜新聞

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まさかの3年連続!どうして東京ディズニーリゾートは値上げを続けるのか?

2月8日、オリエンタルランドは、4月1日から東京ディズニーランド・東京ディズニーシーのパークチケットを値上げすることを発表しました。

 

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©Disney

 

パークチケットの値上げは、昨年4月に引き続き、3年連続となります。今回は値上げを続ける東京ディズニーリゾートについて、その理由や背景を読み解いていきたいと思います。

 

4月からいくらになるの?

今回の値上げでは午後3時から入園できる「スターライトパスポート」と、午後6時から入園できる「アフター6パスポート」を除く、全券種で値上げが行われます。

 

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(オリエンタルランドのプレスリリースより引用)

 

例えば、1デーパスポートの場合、現在は大人一人6,900円ですが、4月からは500円値上げされ、7,400円となります。お父さん・お母さん・小学生のお子さん2人ですと、22,800円から24,400円となり、1,600円の負担増になる計算です。

 

複数日有効のマルチデーパスポートや、年間パスポートも値上げされます。特に、ランド・シー有効の2パーク年間パスポートの場合、93,000円に値上げされ、10万円の大台まで目前に迫ってきました。

 

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©Disney

 

今回の値上げはメディアでも大きく取り上げられ、SNSを中心に大きな反応がありました。やはり目立つのは「値上げには反対」「高すぎる」という批判的な声です。中には「混雑が緩和されるのなら、値上げは賛成」という声もあったのですが、かなりの少数派という印象でした。

 

オリエンタルランドの説明は?

オリエンタルランドはプレスリリースの中で、今回の値上げについて、以下のように説明しています。

 

この1年間、東京ディズニーランドでは、アトラクション「スティッチ・エンカウンター」(2015年7月)、ナイトパレード「東京ディズニーランド・エレクトリカルパレード・ドリームライツ」(2015年7月)、アトラクション「スター・ツアーズ:ザ・アドベンチャーズ・コンティニュー」スペシャルバージョン(2016年2月)を導入してまいりました。

 

また、東京ディズニーシーにおいても、ミュージカルショー「キング・トリトンのコンサート」(2015年4月)をオープンさせたほか、2パークにおいて快適な環境づくりに向けた改善を行うなど、ハード、ソフトの両面でパークを訪れるゲストの体験価値向上に努めてまいりました。

 

また、2016年には、東京ディズニーシーにおいて、レビューショー「ビッグバンドビート」のリニューアル(4月15日)、新ミュージカルショー「アウト・オブ・シャドウランド」(7月9日)がスタートするほか、東京ディズニーランドでは、新キャラクターグリーティング施設ならびに新飲食施設(秋~冬)がオープンいたします。

 

当社では、今後も、テーマパーク価値向上により創出されたキャッシュを、ハード、ソフトの両面に投資し、更なるクオリティの向上を図ることで、ここだけでしか体験することができない魅力に満ち溢れた世界で唯一のテーマリゾートを目指し、更なる成長をしてまいります。

 

前回の値上げは、昨年4月に行われました。オリエンタルランドでは、過去1年間でゲストの「体験価値」が向上したこと、そして今後のパーク開発のために、値上げを行うとしています。

 

どうして今、値上げするの?

オリエンタルランドは今回、3年連続でパークチケットの値上げに踏み切りました。どうして今、値上げを行うのか。舞浜新聞では以下のように分析しています。

 

  1. 入園者数の抑制とパークの混雑緩和
  2. 客単価の引き上げ
  3. キャストの人件費増への対応
  4. 将来的なパークへの投資資金(キャッシュフロー)の確保

 

では、順番に見ていくことにしましょう。

 

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©Disney

 

1. 入園者数の抑制とパークの混雑緩和

チケットが値上げされれば、それだけ出費が増えますから、ゲストの足は遠くなってしまいます。今まで通っていた人たちも、どうしても通う回数は減ってしまうでしょう。

 

東京ディズニーリゾートでは、長年、待ち時間や混雑を減らすために、様々な工夫が行われてきました。アトラクションのファストパスや、レストランの事前予約(プライオリティ・シーティング)、ショーの抽選制度の導入などです。最近では、スマートフォンで、ショーの抽選ができるアプリも導入されています。

 

待っている間、ゲストはパークで1円もお金を使いません。待ち時間が減り、ゲストの誘導性が高まれば、それだけショップやレストランでお金を使う機会も増えるはず。アメリカのディズニー社も、オリエンタルランドと同じ考え方で、パークを運営しています。

 

しかし、最近では待ち時間を減らす取り組みが、逆に混雑を生む状況となっています。パレードやショーなどのエンターテイメント・プログラムが減少したこともあって、アトラクションの通常待ち列(スタンバイ)の待ち時間が長くなったり、キャラクターとの写真撮影(グリーティング)に、より多くのゲストが集中してしまっているのです。

 

 

東京ディズニーランド・東京ディズニーシーを合わせて、年間およそ3,000万人以上のゲストが訪れています。これ以上、待ち時間を短くしたり、混雑を緩和したりするためには、もはやチケットの値上げでゲストを減らすしかないのです。

 

入園者数が抑制され、混雑が緩和されれば、それだけゲストの満足度は高まります。「待つだけで疲れた」「人が一杯でうんざり」というより、空いているパークのほうが過ごしやすいですからね。

 

さらに、東京ディズニーランドでは、ファンタジーランドの再開発が計画されています。工事期間中、パークの収容能力は低くなると考えられていますので、できるだけ入園者数を抑えたいという考えもあるかもしれません。

 

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ファンタジーランド再開発のコンセプトアート。オリエンタルランドは現在、開発計画の見直しを進めている。©Disney

 

2. 客単価の引き上げ

東京ディズニーランド・東京ディズニーシー合わせて、年間およそ3,000万人のゲストが訪れている、というのは、先ほど書いた通りです。

 

今のパークを見ていると、これ以上パークにゲストを入れることは難しいと思われます。ゲストが多くなれば、それだけ対応する従業員(キャスト)も必要になりますし、運営コストも増えてしまいます。

 

東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは、ディズニー社とのライセンス契約によってパークを運営しています。東京は世界で唯一のフランチャイズのパークなのです。

 

そのため、複数の収益源を持っているディズニー社とは違って、舞浜だけで収益を上げなくてはいけません。売り上げを増やすためには、単純に入園者数を増やせばいいのですが、もうそれは限界に近くなっています。

 

今の入園者数のままで、売り上げを増やすためにはどうすればいいのか。一番手っ取り早い方法が、パークチケットの値上げなのです。

 

2014年4月に消費税が増税され、税率が5%から8%に引き上げられました。物価も上昇して、消費者はより節約志向を強めています。大手企業では賃上げが行われていますが、中小企業では厳しい状況が続いています。

 

これまではチケットの価格を低く抑えて、グッズやレストランでお金を使ってもらうことで、売り上げを伸ばしてきました。しかし、これだけ節約志向が強まると、その方法も厳しくなっています。だからこそ、パークチケットの値上げに踏み切ったのではないでしょうか。

 

3. キャストの人件費増への対応

東京ディズニーリゾートでは、アルバイトのキャストによって現場が支えられています。東日本大震災での対応も注目されましたが、今でも多くのメディアや書籍で、キャストのサービスレベルの高さが評価されています。

 

アルバイトのキャストの場合、基本的には時給が1,000円以上に設定されています。近隣にあるショッピングモールやテーマパークなどと比べても、決して安い金額ではありません。

 

しかし、屋外での勤務が多く、ゲストから求められるサービスレベルが高いことなどから、最近では人材募集にかなり苦労しています。名古屋などの地方でイベントを開催して、人材を確保する取り組みすら行われているのです。

 

今回のチケット値上げによって増えた収益を、キャストの時給引き上げや、待遇改善に回そうと考えているのではないでしょうか。時給を引き上げれば、それだけ他業者との差別化につながり、人材確保もスムーズになるからです。

 

4. 将来的なパークへの投資資金(キャッシュフロー)の確保

オリエンタルランドでは、今後10年間で5,000億円もの大規模な投資計画を発表しています。代表的なものでは、東京ディズニーランドのファンタジーランド再開発、そして東京ディズニーシーの新テーマポート建設です。

 

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(オリエンタルランドのプレスリリースより引用)

 

オリエンタルランドでは現在、この投資計画の見直しを行っています。工事期間中にパークの収容能力が減って、収益が悪化するのを防ぐために、スケジュールを見直しているのです。

 

実はこの5,000億円投資計画は、銀行からの借り入れなどではなく、これまでの収益を積み上げて捻出する計画です。言い換えれば、ゲストの財布のお金を、パークの開発に回そうとしているのです。

 

オリエンタルランドはプレスリリースの中で、将来的なハード・ソフトへの投資のために、値上げすることにも触れています。値上げによって増えた収益を積み上げて、ゲストの体験価値を向上させることができれば、さらに収益を伸ばすことができるでしょう。

 

そんな簡単に上手くいくのか?

さて、今回唐突に発表されたパークチケットの値上げ。果たして、オリエンタルランドの思惑通りに、動くのでしょうか。

 

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©Disney

 

オリエンタルランドはメディアの取材に対して、今回の値上げは妥当であり、集客に自信を持っていることを明かしています。しかし、SNSの反応を見る限り、値上げに対して批判的な声が大きいのは事実です。

 

オリエンタルランドは値上げの理由として「パークの体験価値が向上したため」としていることは、先ほども書いた通りです。大型のアトラクションが増え、豪華なパレードやショーが行われ、魅力的なグッズやレストランメニューが揃っている…。そんなパークになっているのであれば、値上げにも納得できます。

 

しかし、アトラクションはリニューアル程度の小粒なもの、エンタメは削減傾向、グッズやレストランも中身が減ったり、食材が変更されたり…。これでは、納得して値上げを受け入れることなどできません。

 

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東京ディズニーリゾートのショー製作費の推移。近年はランド単体の頃と同水準まで、削減が進んでいる。

 

高くなったのに、ガッカリが増えてしまえば、ゲストの足は遠のきます。かつて優良企業としてもてはやされたベネッセやマクドナルドは現在、経営戦略に失敗して、苦境に立たされています。

 

絶大なブランド力を誇るディズニーパークといっても、そのイメージが傷ついてしまえば、あっという間に消費者にそっぽを向かれてしまうと思うのです。

 

事実、長崎のハウステンボスや、大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンと比較しても、最近の東京ディズニーリゾートは、入園者数や売り上げ、利益の面で苦戦が伝えられています。値上げによって、その傾向がさらに強くなる危険性もあるのです。

 

 

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競合他社と比べても、オリエンタルランドの営業利益は悪い数字ではない。ただ最近は入園者数の割に、利益が伸びていないと指摘する声もある。

 

値上げは貧乏人の排除?

今回の値上げについて、こういった意見もみられました。お金を出せない貧乏人を排除して、お金持ちを優遇しようとしているのでは?というものです。

 

私はこの意見には疑問が残ると思います。むしろ、値上げによって、より元を取ろうとするゲストが増えたり、ショップやレストランで使う金額を減らしたりするゲストが増えると思うのです。

 

オリエンタルランドは、ホテル宿泊にパークチケットやファストパス、ショー鑑賞券、レストラン予約などを付けた「バケーション・パッケージ」を積極的に販売して、収益を伸ばしています。

 

 

大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンでは、アトラクションの待ち時間を減らせる「エクスプレス・パス」を有料で販売しています。東京ディズニーリゾートでは、ファストパス単体での販売は行っていませんが、バケーション・パッケージのゲスト向けに、事実上、有料で販売しているのです。

 

バケーション・パッケージはホテル宿泊がメインで、パークチケットの価格は見えにくくなっています。バケーション・パッケージは地方のゲストが利用することが多く、より多くの金額を消費してくれます。

 

今回の値上げによって、パーク近隣に住むゲストの来園回数や客単価は減るかもしれません。しかし、バケーション・パッケージを利用するゲストが増えれば、結果的に収益を伸ばせる可能性が高いのです。特に今年は、シー15周年イベントが控えています。地方からの集客が増える可能性は高いでしょう。

 

一体どこまで上がるの?

今回の値上げによって、1デーパスポートの場合、大人一人7,400円となります。

 

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©Disney

 

2017年4月からは、消費税率が8%から10%に引き上げられることが、正式に決まっています。2014年4月に5%から8%に引き上げられたときは、1デーパス(大人)は200円値上げされました。おそらく今度の税率引き上げのときは、7,500円~7,600円に設定されると思われます。

 

大阪のUSJの出方次第だと思われるのですが、景気動向や物価指数などを考えると、今後8,000円台まで引き上げられる可能性は十分にあると思います。

 

東京ディズニーリゾートのゲスト一人当たりの平均滞留時間は、2014年度に初めて「9時間」になりました。仮に7,600円まで値上げされたとすると、1時間当たり844円の計算になります。ゲスト1時間当たり「900円」に設定すると、900円×9時間で8,100円になるのです。

 

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1時間当たりの金額は、そのときのチケット価格を平均滞留時間で割って計算した。近年は700円台となっている。

 

野村証券の山村淳子アナリストは、2月8日の日本経済新聞の記事の中で、以下のように語っています。

 

これまで競合テーマパークと比べて安かった。入園者数への影響は8,500円程度まで出ない。

 

ゲストの満足度や、平均滞留時間の変化も考慮に入れる必要はありますが、8,000円台までの値上げは十分考えられるでしょう。

 

USJへの対抗?それとも、かなり前から決まっていた?

今回の値上げで注目されたのが、事前に日本経済新聞にリーク記事が載らなかった点です。

 

これまでの値上げでは、日経にリーク記事が載る→プレスリリースで否定→正式に発表という流れでした。しかし、今回は突然、オリエンタルランドから発表が行われたのです。

 

日経にリーク記事を載せる意図はいくつかありますが、多くの場合は株式市場の反応を見極めるため、事前にワンクッションを置いて、反応を和らげるためとされています。

 

今回はリークなしによる突然の発表でした。事前に値上げは決まっていたものの、発表を先延ばししていたのか。それとも、ライバルのUSJが値上げに踏み切ったため、慌ててオリエンタルランドも値上げを決めたのか…。真相は分かりません。

 

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ハリーポッターエリアや、期間限定イベントで好調が続くUSJ。今年も2月1日から、チケット値上げを行っている。

 

ただ、今年3月末で、企業向けの福利厚生プログラム「マジックキングダムクラブ」の廃止が決まっています。この廃止は2013年の時点で、すでに発表されていました。また、東京ディズニーシーが10周年を迎えた2011年4月には、チケット値上げが行われています。

 

舞浜新聞では前回の値上げのときに「もし値上げするのであれば、2016年4月からのはずでは?」と記事で書いていました。オリエンタルランドの経営陣が、シー15周年に合わせて、かなり前からチケット値上げを検討していた、と考えることもできるのです。

 

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シー15周年イベントは4月15日から。USJ15周年にどこまで対抗できるのか、オリエンタルランドの本気度が試される。©Disney

 

閑散期の大混雑が再び?

さて、4月からの値上げまで、残り1か月半となっています。昨年の1月にも値上げが発表され、2月~3月にかけて、アナ雪イベントの混雑と重なり、パークは多くの人で賑わいました。

 

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「閑散期を吹き飛ばした」と言われた、昨年のアナ雪イベント。決算の数字を大きく押し上げた。©Disney

 

もしかすると、これからパークでは値上げ前に駆け込み需要が増えるかもしれません。ただ、これについては、どれだけの人が動くのか、微妙なところでしょう。

 

東京ディズニーリゾートでは、今年10月から「日付指定券限定入園日」を導入する予定です。これは、基本的に土曜日・日曜日・祝日は、日付指定のあるチケットでしか入園することができないというものです。

 

 

事前に安いオープン券を買って、後から行く日を決める、ということが難しくなります。株主優待パスポートやスポンサーパスポートは、引き続き使えるようですが、混乱が起きる可能性はあるでしょう。

 

果たして、オリエンタルランドの思惑通りに動くのか。ひとまず、シー15周年イベント、そしてパークへの投資計画の発表に期待したいと思います。

 

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©Disney

 

参考リンク