新年明けましておめでとうございます。2013年にスタートした当ブログも、今年3月で8周年を迎えます。これだけ長く続いているのも、日頃から愛読してくださる皆さんのおかげです。本当にありがとうございます。
昨年2020年は、新型コロナウイルス(COVID-19)に翻弄された一年でしたね。東京オリンピック・パラリンピックの開催は延期となり、東京ディズニーリゾートも4か月もの臨時休園を余儀なくされるなど、わずかな時間で世界の風景は一変しました。
新型ウイルスが未だに猛威をふるう中、東京ディズニーリゾートは「ポストコロナ時代」をどのように生き抜こうとしているのでしょうか。今回は様々な視点から見ていくことにしましょう。
目次
- 上場来初の「赤字決算」に転落も…?
- 客単価向上のための秘策とは…?
- 本当に「混雑緩和」のため?
- 2021年に登場する新しい取り組みは?
- ポストコロナでV字回復は可能なの?
- 合わせて読みたい
- 参考リンク
上場来初の「赤字決算」に転落も…?
2020年10月、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは、2020年度(2021年3月期)の業績予想を発表しました。この中で年間の最終利益(企業の儲け)が「511億円」の赤字になるという見通しを示しています。
これまで東京ディズニーリゾートは、日本国内のテーマパーク業界でも随一の売り上げを誇り、ここ数年で一気に業績を伸ばしてきました。もし仮に通期で赤字決算となれば、1996年にオリエンタルランドが東証一部に上場して以来、初めてのこととなります。また、通期の入園者数も「950万人」と予想しており、仮にこの数字が現実になれば、1983年に東京ディズニーランドが開園して以来、史上最低の数字になるでしょう。
2020年3月から6月までの臨時休園、さらには入園者数の抑制などで、パークやホテルは厳しい運営を強いられています。これまで左団扇だったオリエンタルランドにとって、新型コロナウイルスの流行は崖から突き落とされたような思いでしょう。
客単価向上のための秘策とは…?
パークチケットを広く販売して、より多くのゲストが来園すれば、それだけ売り上げは向上します。しかし、ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)の確保や消毒作業、3密の回避を考えると、入園者数はある程度抑えなければいけません。
そうなると考えられるのは、ゲスト一人当たりがパークで使う金額「客単価」を向上させる取り組みです。オリエンタルランドは臨時休園明けの2020年7月から、以下のような取り組みを行ってきました。
- パークチケットの券種削減
- オープン券の利用制限
- 年間パスポートの制限・販売休止
- 東京ディズニーランドでの「アルコール」販売解禁
- 限定グリーティング付きの宿泊プランの販売
- 直営ホテルでのディナー付き宿泊プランの販売
- 公式アプリ通販の一般開放
パークチケットの券種削減
2020年2月の臨時休園前までは、1日券のほかに、以下の券種を主に販売していました。
- 65歳以上対象 シニアパスポート
- 土日祝の午後3時以降入園 スターライトパスポート
- 平日の午後6時以降入園 アフター6パスポート
- 公式ファンクラブ「ファンダフル・ディズニー」メンバー限定パスポート
- マルチデーパスポート(2日券~4日券)
これ以外にも、地域限定・期間限定の割引チケット、オフィシャルスポンサーやコーポレートプログラム向けの割引チケットも販売されていました。
しかし、2020年7月の営業再開以降、パークチケットは以下の3種類のみとなっています。
(2020年7月1日~10月30日)
- 1デーパスポート(午前8時~)8,200円
- 入園時間指定パスポート(午前11時~)7,300円
- 入園時間指定パスポート(午後2時~)6,300円
(2020年10月31日~)
- 1デーパスポート(午前9時~)8,200円
- 入園時間指定パスポート(午前10時30分~)7,700円
- 入園時間指定パスポート(正午~)7,300円
もともと2020年4月から、パークチケットの価格改定が予定されていましたので、7月1日から1日券は大人で700円の値上がりとなっています。スターライトやアフター6の販売がないため、実質的な値上がり幅は、さらに大きいでしょう。
また、マルチデーの販売がないため、複数日でパークを利用するゲストの負担額も大きくなっています。入園待ちゲストを分散させながら、できるだけチケット収入を増やしたいという、オリエンタルランドの意図が感じられますね。
ちなみに、パークチケットは公式ウェブサイトに加えて、大手旅行代理店のJTBの窓口でも販売されています。以前のように、幅広い場所で販売していないのは、再休園になった場合に、払い戻しなどを容易にするためでしょう。もちろん販売手数料を削減したいという考えもあるかもしれません。
オープン券の利用制限
2020年7月の営業再開以降、原則として、日付指定のあるチケットを持ったゲストしか入園することはできません。日付指定のない「オープン券」や、株主用パスポート、スポンサーパスポートなどは使えなくなっています。
これも入園者数を抑制して、客単価を向上させる取り組みの一つです。いつ、どれぐらいの人数がチケットを使うのか、予測を立てるのは非常に難しいです。またオープン券を使うゲストを減らせば、それだけより多くのゲストに日付指定券を販売できるからです。
なお、オープン券については、2020年12月の入園分より、抽選に当選すれば利用できるようになっています。感染症の流行が落ち着いてくれば、少しずつ緩和していくかもしれませんね。
年間パスポートの制限・販売休止
多くのゲストが影響を受けたのが、年間パスポートの利用制限と販売休止でしょう。オリエンタルランドは決算説明会などで「年パス保有者の利用を増やせば、そのぶんチケット販売に制約が出て収益が落ちる」と言及しています。
(オリエンタルランド「2021年3月期 第1四半期決算説明会資料(PDFファイル)より引用)
確かに年間パスポートの保有者は、何度も来園するため混雑の原因になりやすく、パーク内で使う金額も低いと認識されているのでしょう。2020年8月~12月には、年パス向けに月に1回の入園抽選が行われ、ある程度の救済措置がありました。また、8月4日~10月31日には、入園していなくても朝の時間帯に公式アプリ通販を使えるなど、保有者に対して一定の配慮も感じられました。
オリエンタルランドとしては、購入規約などで「払い戻しや期限の延長はしない」と明記していました。しかし、今回のコロナ禍においては、かなり年間パスポート保有者に対して歩み寄ったと言えるでしょう。
10月23日からは、一律の払い戻しも始まりました。この時期に現金が出ていくことは、経営にとって非常に苦しいはずです。しかし一度リセットしたうえで、できるだけ多くの日付指定券の販売を行いたい、という思いが透けて見えます。
収益改善という意味では、年間パスポートの復活は当分先のことになると思われます。以前は、入園者数を上積みすることが至上命題になっていましたが、近年では混雑が激しくなっているため、必ずしも数字にこだわらなくなっています。年パス復活で入園者数を増やすよりも、まずは客単価の向上を目指していくでしょう。
東京ディズニーランドでの「アルコール」販売解禁
東京ディズニーランドでは、1983年の開園以来、園内でアルコール(酒類)の販売は行われていませんでした。会員制レストランの「クラブ33」や、ノンアルコールビールなどを除いては、ソフトドリンクの販売のみとなっていたのです。
2001年に東京ディズニーシーが開園してからも、その方針に変更はありませんでした。しかし、2020年10月1日からランド内のレストラン4店舗(テーブルサービス)で、酒類のテスト販売が開始に。12月21日からは提供店舗を7か所にまで拡大しています。
ディズニーランドを作り上げたウォルト・ディズニーは、園内でアルコールを販売することを許可しませんでした。その理由については諸説あるのですが、家族で楽しむテーマパークに、アルコールは似合わないという思いがあったからでしょう。
東京ディズニーランドも、そんなウォルトの考え方にもとづいて、酒類の販売を行ってきませんでした。では、どうしてこのタイミングで酒類販売を解禁したのでしょうか。
実はアルコールは、レストランの客単価を向上させる、最も簡単な方法なのです。一般的に食事に比べて、飲み物は原価率が低くなっています。またソフトドリンクとは違って、アルコールは値段も高め。多くのゲストが利用すれば、同じ客数でも売り上げを伸ばすことができるのです。
実はフロリダにあるマジックキングダム・パークでは、すでに2012年から一部レストランで酒類の提供が始まっています。またカリフォルニアにあるディズニーランドでも、2019年から酒類の提供が解禁に。東京は、むしろ遅いぐらいだったのです。
アルコール販売の皮切りとなった「ビー・アワー・ゲスト・レストラン」
今後もスーベニア付きメニューや、コースメニューへの一本化など、レストランでの客単価向上が図られていくと思われます。
限定グリーティング付きの宿泊プランの販売
さて、パーク内だけではなく、周辺ホテルの宿泊プランにも変化がみられています。中でもSNSで大きな話題になったのが、数量限定のキャラクター・グリーティング付き宿泊プラン(バケーションパッケージ)の発売でした。
東京ディズニーランドの「ポリネシアンテラス・レストラン」や「ザ・ダイヤモンドホースシュー」といった、ショーレストランのキャラクターに会えるプランや、東京ディズニーシーのショー「ビッグバンドビート」のミッキーに会えるプランなど、ファン垂涎の内容に予約が殺到しました。
これもエンターテイメント・プログラムの再開が難しい中で、できるだけ現金収入を増やそうという苦肉の策でしょう。ゲストにとっては、普段味わえない体験ができますし、オリエンタルランドにとっては低いコストで多くの売り上げを生み出すことができます。
おそらくショーやパレードが本格的に復活するまでは、こういった限定グリーティング付きの宿泊プランを、さらに拡大していくでしょう。
直営ホテルでのディナー付き宿泊プランの販売
先ほどの限定グリーティング付きの宿泊プランに似ているのが、ディズニーホテルで行われたディナー付き宿泊プランです。こちらはクリスマス限定のコースメニューに加えて、クリスマスの衣装を着たミッキーやミニーと会えるということで、大きな話題になりました。
しかも、東京ディズニーランドホテルとディズニーアンバサダーホテルで、使われている衣装が違うことも話題になりました。これもキャラクターファンの需要喚起につなげるためでしょう。ホテルの客室稼働率も上げられますし、客単価向上にもつながるからです。
クリスマス限定で行われた限定グリーティング。ディズニーホテルには、宴会専用のコスチュームがあるが、過去のパレードやショーの衣装を使うことは、ほとんどなかった。
公式アプリ通販の一般開放
さて、最後はパーク内の客単価向上というより、売り上げアップに貢献する取り組みです。東京ディズニーリゾートでは、パークに入園したゲストを対象にして、公式アプリを通じたオンラインショッピングを行ってきました。
2020年11月1日から2021年3月31日まで、朝の時間帯に限って、パークに入園していない人でも利用できるようになっています。臨時休園中に一般向けに開放していたこともあったのですが、これまで頑なに通販を行ってこなかったオリエンタルランドの変化には、私も驚きました。
利用時間帯は短く、注文上限数にも制限はありますが、新しい収益源につながる取り組みだと思います。今後もレギュラー商品を中心に、対象商品の拡大や利用時間の延長など、サービスの拡充が進むといいですね。
本当に「混雑緩和」のため?
パーク内では客単価向上の取り組みのほかに、アトラクションやグリーティング施設の混雑緩和のために「エントリー受付」と「スタンバイパス」がそれぞれ導入されました。
2020年9月19日から始まった「エントリー受付」は、施設利用の事前抽選制度です。ソーシャルディスタンスの確保のために、以前のように長い待ち列をつくることはできません。エントリー受付では、並ぶゲストの数を抑制するための仕組みになっています。
ただSNSを見ていると「全部外れた」という悲しい声も多く上がっています。システムの特性上、多く当たるゲストもいれば、すべて外れてしまうゲストがいることも事実。オリエンタルランドにとっては「必ず体験したい場合は、バケーションパッケージをご購入ください」というスタンスかもしれませんね。
一方で、ファストパスの休止に伴って、9月23日から導入された「スタンバイパス」は、オリエンタルランドのねらいがちょっと見えにくくなっています。12月22日からは対象施設が拡大しましたが、「並ぶ時間は変わらない」「以前よりも待ち時間が読めなくなった」といった声が上がっています。
スタンバイパスは、簡単に言うと「アトラクションに並べる時間の整理券」です。ファストパスのように、短い時間で体験できるというわけではありませんし、一度取得するとキャンセルもできません。発行は各施設につき1日1回のみで、利用時間には制約もあります。しかも、時間帯や施設によっては、スタンバイパスを取得しなくても、並べる場合もあるのです。
スタンバイパス導入の目的は、混雑緩和というよりも、何度も同じアトラクションに乗るゲストを抑制したり、並ぶゲストの数を一定に保ったりするためだと考えられます。ただ、より長くパークに滞在してもらって、ショップやレストランでの消費金額を増やしてもらいたい、という思いもあるかもしれません。
将来的には、一般の待ち列は「スタンバイパス」、待ち時間が少ない「ファストパス」は有料で販売…という選択肢もありうるでしょう。事実、オリエンタルランドは決算書類などで、将来的なファストパスの有料化にも言及しています。このあたりは注視していく必要がありますね。
2021年に登場する新しい取り組みは?
2020年7月の営業再開以降、オリエンタルランドは入園者数を抑制しながら、客単価を向上させる様々な取り組みを行ってきました。実は今年、2021年にもすでに新たな取り組みが予定されています。
一つ目は2月20日から販売が始まる「アーリーエントリーチケット」です。これはディズニーホテル宿泊者を対象に、午前8時の開園前から東京ディズニーシーに入れるチケットを、別料金で販売するというものです。
コロナ禍の前までは、ディズニーホテル宿泊者を対象に「ハッピー15エントリー(通称:ホテルアーリー)」といって、開園15分前から入園できるというサービスがありました。しかし、2月以降は東京ディズニーシーを対象にして、このサービスが有料化されるのです。
対象期間は2月20日~3月31日までで、価格は3,000円(パークチケットは別途必要)。朝の入園者数を抑えながら、できるだけ現金収入を増やしたいという思いが感じられますね。
宿泊者に配布されていた「ハッピー15エントリー」チケット。フリマアプリなどでは転売も横行していた。
もう一つは3月20日から始まる、パークチケットの価格変動制の導入です。これはすでに大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンや、海外のディズニーパークでも導入されており、曜日や時期によってチケット価格を変更するという仕組みです。
3月以降は平日は料金を据え置き、土日祝日や春休み、大型連休などの期間中は、大人1日券で8,200円から500円値上がりの8,700円となります。これもできるだけ混雑を分散化するだけでなく、収益の改善につなげるための取り組みでしょう。
ポストコロナでV字回復は可能なの?
東京ディズニーリゾートでは現在、2つの開発プロジェクトが進行中です。
一つは、東京ベイNKホール跡地に建設中の、映画『トイ・ストーリー』シリーズがテーマになった新ホテルです。2021年度開業予定で、地上11階・地下1階建て、客室数は約600室。すべての客室がスタンダードタイプで、レストランも宿泊特化型にするなど、家族連れが泊まりやすい価格帯に設定されると思われます。
建設工事が進む『トイ・ストーリー』シリーズがテーマの新ホテル
もう一つは、平面駐車場跡地に建設中の、東京ディズニーシーの新テーマポート「ファンタジースプリングス」とパーク直結型ホテルです。こちらは2023年度の開業予定です。
オリエンタルランドは決算説明会などで、これらの開発計画を延期・先延ばしにはしない方針を示しています。アメリカやヨーロッパなどでは、すでに新型コロナウイルスに対するワクチン接種も始まっており、感染症の流行が終息すれば、V字回復できると見込んでいるかもしれません。
もともと東京ディズニーリゾートは、国内客がほとんどで、外国人観光客(インバウンド)に依存する経営ではありませんでした。「GoToトラベルキャンペーン」や、今年夏に予定されている東京オリンピック・パラリンピックの開催で、入園者数を順調に上積みできる可能性はあります。
夏に開催が予定されている、東京五輪・パラ大会。感染症の流行が終息しても、外国人選手団の受け入れなど課題は多く残っている。
一方でオリエンタルランドは、2020年5月にみずほ銀行などと2,000億円の融資枠設定を締結しています。また、9月には1,000億円の社債も発行済みです。日本国内でさらに流行が拡大し、パークやホテルが「再休業」となった場合でも、資金面で十分手当てするためでしょう。
もともと保守的な経営で、財務基盤も強固なオリエンタルランドですから、経営危機になる可能性は非常に低いと思われます。ただ今年に予定されている、東京ディズニーシーの20周年イベントは、計画よりも大幅縮小になるでしょう。また、人件費や広告宣伝費、ショー製作費の削減といったコストカットも続くと思われます。
日本は流行の第三波に直面しており、医療現場はまだまだ予断を許さない状況です。今年も舞浜新聞は、変わりゆく東京ディズニーリゾートを見つめていきます。何卒よろしくお願い致します。
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