舞浜新聞

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「過去最大の赤字」で大丈夫なの?オリエンタルランド2020年度1Q決算を読み解く

7月30日、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは、2020年度の第1四半期(4月~6月)の決算を発表しました。今回は新型コロナウイルスの影響を受けて、最終損益が過去最大のマイナス248億円となるなど、非常に厳しい結果となりました。

 

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今回は発表された数字から、東京ディズニーリゾートの今後について考えていきたいと思います。

 

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目次

 

東日本大震災以来の「赤字」

東京ディズニーランド・東京ディズニーシーは、新型コロナの流行と営業自粛要請などを受けて、2月29日から123日間にわたって臨時休園しました。2011年の東日本大震災では、不安定な電力供給や液状化による被害などで、ランドが34日間、シーが47日間それぞれ休園しています。今回の休園はこれを大きく上回り、過去最長となりました。

 

今回の決算は、ちょうど両パークが臨時休園していた、4月~6月が対象となっています。ディズニーホテルについても、4月から宿泊・婚礼・飲食すべてで休業していましたので、この期間の売上高はほぼ「ゼロ」と考えていいでしょう。

 

グループ全体の最終損益は、マイナス248億円。これは2010年度の第4四半期(2011年1月~3月)の103億円を上回り、過去最大の赤字となりました。売上高は61億円、営業損益はマイナス156億円となり、パークやホテル運営に関わる固定費がそのまま損失となった計算です。なお、一部の人件費や減価償却費、商品・原材料の廃棄など211億円は、新型コロナに伴う「特別損失」として計上されています。

 

2019年度の通期決算では、特別損失として92億円が計上されました。今回の分と合わせると、オリエンタルランドは新型コロナによって、303億円もの損失を被った計算になります。

 

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2011年の東日本大震災では、オリエンタルランドの決算に以下のような影響がありました。

 

2010年度決算

災害による特別損失

  • 休園期間の固定費 53億円
  • 駐車場修繕などの復旧関連費用、商品の廃棄損など 44億円

 

2011年度決算

災害による特別損失

  • 休園期間の固定費 36億円


2010年度は3月中の20日間の臨時休園だけで、機会損失(本来であれば得られた利益)が約120億円に達したことが、決算書類から明らかになっています。このときは自粛ムードなどの影響で、2011年度の第1四半期(4月~6月)の数字もかなり落としたのですが、その後「キッズサマースマイルキャンペーン」やシー10周年イベントの効果もあって、通期では持ち直しました。

 

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子供用のチケット半額や、ホテルの朝食無料などが目を引いた「キッズサマースマイルキャンペーン」

 

東日本大震災では、東北地方で大きな被害が出た一方で、西日本にはほとんど影響がありませんでした。しかし、今回の新型コロナは全国的、世界的な問題になっています。今後も売上高や利益の減少など、影響は長引くことが予想されます。

 

赤字経営で倒産しないの?

「過去最大の赤字」と聞くと、オリエンタルランドの経営を心配する人も多いかもしれません。

 

オリエンタルランドでは、固定費を少しでも圧縮するために、広告やテレビCMなどを自粛して広告宣伝費を削減するとともに*1、安全に支障のない範囲で、一部施設の更新を先送りにするなど対応を進めています。また人件費については、国の雇用調整助成金を申請しており、補償額の最大75%が支給される見込みとなっています。

 

今回の決算発表では、社長直属の「コストコントロールチーム」が組織されたことも明かされました。収益レベルやキャッシュフローを見極めながら、経費の大幅な削減を検討していくとしています。販売促進費や中止が決まっているスペシャルイベントの関連費用が削減対象になるでしょう。

 

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1997年度~2019年度までのショー製作費の推移。天候に左右されやすく、人件費などの固定費も大きいエンタメは削減対象になるか。

 

営業再開後のパークを見ていると、エントランスやアトラクションなどにゲストを誘導するためのキャストが複数人必要になるなど、人員を削減することは難しいようです。人件費の圧縮については、今後課題になってくると思われます。

 

なお、オリエンタルランドの決算書類を読んでいくと、利益剰余金(内部留保)や営業キャッシュフロー、現金・預金残高はいずれも潤沢で、今すぐ経営危機になる可能性は非常に低いです。

 

5月15日には、みずほ銀行などの複数の金融機関と、2,000億円規模のコミットメントライン(融資枠)を設定しています。今後、新型コロナの流行が再拡大して、再び臨時休園になったとしても、固定費の支払いや進行中の開発計画に支障は出ないでしょう。

 

コロナから回復するのはいつ頃?

東京都をはじめ、国内の多くの地域では、新型コロナの新規感染者数が増え続けています。

 

アメリカの製薬大手ファイザーが開発中の新型コロナワクチンについて、日本政府は2021年6月末までに6,000万人分の供給を受けることで基本合意しています。このほかにもヨーロッパやアジアでもワクチン開発が進められており、ロシアでは10月から医療関係者などに限定して接種する、という報道もあります。

 

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ワクチンが普及すれば、新型コロナは怖い病気ではなくなります。しかし、体内でウイルスと戦う「抗体」が、どれぐらいの間有効なのか、という問題点も指摘されています。私たちがコロナ前の生活に戻れるようになるまでには、まだまだ時間がかかりそうなのです。

 

ランド・シー両パークは、7月1日から営業を再開しました。しかし、入園は日付指定券を持っている人や、ディズニーホテル・オフィシャルホテルの宿泊者に限られています。ショー・パレードの休演、全ゲストへの検温、園内でのマスク着用、ゲスト同士の間隔確保、施設の消毒・換気なども…。東京ディズニーリゾートの新型コロナ対策は、本当に多種多様です。

 

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TDL新エントランスに新設されたスペース。パーク内のグリーティングは、すべて休止となっている。

 

一部のレストランも休業するなどした結果、休園前よりも入園者数、売上高は大きく落ち込んでいます。日本経済新聞の報道によると、営業再開当初は約16,000人で、通常平均(約85,000人)の2割弱としていましたが、その後段階的に増やして、8月現在は3~4万人程度まで入園させているようです。しかし「利益を確保するためには、1日当たり5~6万人まで増やす必要がある」という報道もあります。

 

オリエンタルランドは2020年度の業績予想について「現時点で合理的な業績予想の算定が困難」としています。今後、専門家の間で指摘されている「第2波」「第3波」によっては、再びパークが臨時休園する可能性も…。そうなると、今回の赤字幅をさらに上回る恐れすらあるでしょう。コロナから回復するまでには、相当な時間がかかりそうです。

 

収益改善の鍵は「年パス排除」?

今回の決算発表では、今後の収益改善の方法として、以下の2つが挙げられました。

 

  • 新たなチケット戦略
  • パーク内におけるゲストの「体験」を新たな収益源にするための検討

 

新たなチケット戦略は、おそらく海外のディズニーパークでも導入が進んでいる「ダイナミック・プライシング(変動料金制)」と思われます。

 

東京ディズニーリゾートでは、これまで「キャンパスデーパスポート」や「首都圏ウィークデーパスポート」のように、対象者・対象地域を絞った割引チケットの販売を行ってきました。しかし、基本的には、前売券・当日券ともに、平日と休日で同じ料金になっています。

 

海外のパークでは、平日に比べて、混雑が予想される休日の料金が高く設定されています。すでに大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンでも2019年1月から導入されており、大きな混乱は起きていません。混雑緩和や収益改善を考えると、東京ディズニーリゾートでも導入される可能性は高いでしょう。

 

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ゲストの「体験」を新たな収益源にする方法として考えられるのは、ファストパスやグリーティングの有料化、スペシャルイベントやショーの別売チケット化、バケーションパッケージの強化、限定グッズの販売などでしょう。

 

オリエンタルランドが自社で提供している宿泊プラン「バケーションパッケージ」は、ファストパスやショーの鑑賞券、レストラン予約などがセットになっており、収益率もかなり高いとみられています。「カストーディアル・キッズ!」のように、限定の体験プログラムを用意するなど、ゲストから人気を集めています。今後は付加価値を高めながら、客単価の向上を目指していくでしょう。

 

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一つ気がかりなのは、年間パスポートの扱いについてです。

 

今回の決算発表では、今後の業績に関する変動要素として「年間パスポート所有者による減」と説明がありました。これは「年間パス保有者が入園することで、そのぶんチケット収入が減る」という意味です。

 

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オリエンタルランド「2021年3月期 第1四半期決算説明会資料(PDFファイル)より引用)

 

年間パスポートについては、8月7日から事前抽選に当選したゲストに限って、追加負担なしで入園することができるようになります。しかし、1か月のうち申し込めるのは最大5回分まで。入園も14時以降となり、以前と比べてかなり制限の多い運用となります。

 

10月までは抽選による入園が行われますが、それ以降については現段階では「未定」。有効期限の延長や払い戻しについては、10月をめどに告知される予定です。新型コロナの流行がある程度落ちついて、今以上に定員が拡大されればいいのですが、最悪の場合「年間パスは一律払い戻し」という措置が取られる可能性もゼロではないでしょう。

 

開発計画への影響は避けられない?

東京ディズニーランドでは、2020年4月の開業を目指して、ファンタジーランド・トゥーンタウン・トゥモローランドの拡張工事が行われてきました。しかし、新型コロナの流行に伴って、開業は「無期限延期」に…。

 

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舞浜地区では、現在進行中の開発プロジェクトが2つあります。

 

一つは、東京ベイNKホール跡地に建設中の、映画『トイ・ストーリー』シリーズがテーマになった新ホテルです。2021年度開業予定で、地上11階・地下1階建て、客室数は約600室。すべての客室がスタンダードタイプで、レストランも宿泊特化型にするなど、家族連れが泊まりやすい価格帯に設定されると思われます。

 

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もう一つは、平面駐車場跡地に建設中の、東京ディズニーシーの新テーマポート「ファンタジースプリングス」とパーク直結型ホテルです。こちらは2023年度の開業予定です。

 

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今回の決算発表では、これらの開発計画について「計画通りに進める」と明言されました。その一方で、まだ発表してない計画については精査を行い、2020年10月末の第2四半期決算の発表時に、業績予想とともに方針を公表する予定となっています。

 

これまでオリエンタルランドでは「東京ディズニーランドの段階的な刷新」を投資家向けの資料で説明してきました。上西京一郎社長も2018年8月の時事通信社によるインタビューの中で、段階的に時間をかけて刷新していく考えを明らかにしています。

 

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10年スパンの開発を想定し、キャスト用の施設などがあるバックステージを活用していく考えも明らかにしていました。シーの新テーマポートが完成すれば、ランドの一部エリアを閉鎖したとしても、顧客満足度が大きく下がることはないはず。そういった考えもあったのでしょう。しかし、新型コロナの流行で、この計画は大きく見直されることになりそうです。

 

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アメリカ河周辺やトゥモローランド裏の平面駐車場など、まだまだ拡張に使える土地は残っています。足踏みが続くかもしれませんが、いつの日か明るい話題が聞けるといいですね。

 

「舞浜一極集中」からの脱却

今回の新型コロナウイルスの流行によって、オリエンタルランドが舞浜地区に収益を依存していることが改めて明らかになりました。

 

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これまでオリエンタルランドでは、舞浜一極集中からの脱却を目指して、様々な業種に進出してきました。ディズニーストアの経営権取得や飲食店事業、映画制作、キャラクターライセンス事業などを手がけてきたものの、どれも大きな収益源に育て上げることはできませんでした。

 

また、福岡の「キャナルシティ博多」への屋内型施設建設、大阪中央郵便局の再開発ビルへの入居、長崎の 「ハウステンボス」救済などが報じられたこともありますが、こちらも実現には至りませんでした。

 

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福岡市内中心部に立つ「キャナルシティ博多」福岡地所と交渉を重ねたものの、リーマン・ショックで計画は頓挫…。計画地には「イーストビル」が建った。

 

2013年2月には、4つのホテルを所有するブライトンコーポレーションを買収して、浦安以外のホテル事業へ進出しています。これまで直営ホテルで築き上げてきたノウハウを生かして、グループの収益に貢献していますが、新規ホテルの建設など、規模を大きく広げるまでには至っていません。

 

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舞浜一極集中からの脱却で重要になるのは、グッズの通信販売だと私は考えています。

 

これまでパークの公式グッズは、パーク内やボン・ヴォヤージュ、周辺ホテル内のショップでしか販売されていませんでした。2018年7月からは公式アプリを通じたネット通販が利用できるようになりましたが、あくまでも来園したゲスト向けに提供されているサービスでした。

 

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臨時休園中の2020年5月には、初めて一般向けにアプリ通販が開放されたのですが、受付開始からわずかな時間で上限に達してしまうなど、高い人気を集めました。一方でSNSでは「エラー画面ばかり」「何度やっても買えなかった」という不満の声も…。

 

オリエンタルランドとしては、グッズを購入する目的で来園するゲストが多いと考え、一般向けの通信販売を行っていないのでしょう。もちろんディズニー社とのライセンス契約の問題もあるかもしれません。しかし、パークの休園中、アプリ通販の一般開放はわずかですが収益に貢献したはずです。

 

ダッフィーフレンズの関連商品や、イベント関連商品は、引き続きパーク内限定販売でもいいと思います。しかし、レギュラーグッズやお菓子類などは、地方のゲスト向けに通信販売を行ってもよいのではないでしょうか。また、羽田空港や成田空港内に、出国者限定の免税店を設置することも考えられます*2。舞浜地区に依存しない収益源として、今後の対応に期待したいところです。

 

また、個人的に気になっているのが、6月5日に発表された「オリエンタルランド・イノベーションズ」の設立です。これは新規事業創出を目的に、ベンチャー等への出資を行う新会社(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)となっています。

 

舞浜地区で稼いだ潤沢な資金力を背景に、ベンチャー企業の支援を通じて、舞浜地区に依存しない収益源を確保したいのでしょう。しかし、いくら東証一部の上場企業とはいえ、テーマパークの運営に専念してきたオリエンタルランドに「黄金の卵を産むガチョウ」を見抜く力があるとは思えません。

 

競合のベンチャー・キャピタルと手を組んだり、証券会社や銀行などの取引先からノウハウを学んだりしなければ、また失敗するのは目に見えています。ここは、オリエンタルランドの本気を見たいですね。

 

コロナが終息すれば「V字回復」というシナリオも

オリエンタルランドの株価を見ていると、休園期間中も大きく値を下げることなく、手堅く推移していました。大手証券会社のアナリストも「買い」のレポートをまとめるなど、その経営力の高さを評価しています。

 

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ワクチンの開発と普及が進めば、V字回復も夢ではないでしょう。しかし、楽観視はできません。これから気温が低くなり、新型コロナの新たな流行の波が来ると指摘する専門家もいます。今後もオリエンタルランドの動向に注目していく必要がありそうです。

 

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maihama.hateblo.jp

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参考リンク

answers.ten-navi.com

boss.wizbiz.me

travel.watch.impress.co.jp

maiyoko.com

business.nikkei.com

www.nikkei.com

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*1:東京ディズニーリゾートが一社提供している日本テレビ系『夢の通り道』では、パーク休園中はACジャパンの広告に差し替えました。

*2:香港ディズニーランドでは、空港内に公式ショップがつくられています。