舞浜新聞

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「USJ健闘」「TDR苦戦」は本当に正しいの?

4月3日、日経流通新聞(日経MJ)は、最近苦戦が伝えられている東京ディズニーリゾートについて、1面で解説記事を掲載しました。

 

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日経MJといえば、過去にランドのアナ雪イベントについて、その裏側を詳しく紹介したことでも知られています。今回は日経MJの1面記事から、最近メディアを賑わせている「USJ健闘」「TDR苦戦」の論調を、少し考えていきたいと思います。

 

「入園者数の減少=苦戦」は正しいの?

日経MJの記事が掲載された4月3日、オリエンタルランドは東京ディズニーリゾートの年間入園者数を発表しました。2016年度のランド・シーを合わせた入園者数は、3,000万4,000人で、前年比0.6%減(1万8,700人減)となり、2年連続の減少となりました。

 

入園者数を減らした東京ディズニーリゾートに対して、大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンは、年間入園者数が1,460万人となり、3年連続で過去最高を更新しました。

 


東西のパークで明暗が分かれる結果に、メディアは「USJ健闘」「TDR苦戦」という論調で、一斉に伝えました。しかし、この見方は正しいのでしょうか。

 


下のグラフは、東京ディズニーリゾートと、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの入園者数の推移を表したグラフです。

 

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東京ディズニーリゾートは、シー開園後の2002年から安定的に2,500万人レベルを確保しており、2012年度は2,700万人台、ランド開園30周年の2013年度には、過去最高の3,000万人台に乗せています。

 

一方のユニバーサル・スタジオ・ジャパンは、開園直後に起きた水飲み場への工業用水接続や、火薬量の規定違反などの不祥事が重なり、長い低迷期に。その後、マーケティングの責任者に就任した森岡毅さんの指揮のもと、コンセプトやイベントの見直しを行った結果、見事に復活を果たしたのです。

 

こういった状況を考えると、東京ディズニーリゾートの最近の入園者数が異常に多くなっているだけであって、決して苦戦しているとは言えないのです。むしろ、現在のパークのキャパシティを考えても、ゲストに満足度を提供できるのは、2,500万人~2,700万人レベルが限界ではないのでしょうか。

 

東京ディズニーリゾートに多くのゲストが押し寄せている理由として、舞浜新聞では以下のように分析しています。

 

  • 2011年の東日本大震災により、非日常を楽しめるパークへの需要が高まった。
  • 2013年のランド30周年イベントが、地方ゲストも含めて「久しぶりに行ってみよう」というきっかけになった。
  • 90年代のパーク黄金期に訪れていた子どもたちが、親の世代になった。
  • SNSの普及により、他人からうらやましがられる、パークへの需要が高まった。
  • 「SNS映え」という言葉に代表されるように、他人に自慢できる風景が撮れるパークへの需要が高まった。

 

個人的には、2011年に発生した東日本大震災が、東京ディズニーリゾートにとって大きな転換期になったと思っています。その後のスマートフォンやSNSの爆発的な普及によって、パークをめぐる状況は、大きく変化しました。

 

入園者数の観点から考えると、1つのパークしかなく、敷地面積も限られるユニバーサル・スタジオ・ジャパンと、2つのパークを抱え、敷地面積にも余裕がある東京ディズニーリゾートを、一概に比較することは乱暴だと言えます。

 

ただ、顧客満足度を考えると、東京ディズニーリゾートには大きな課題があります。では、どういった課題を抱えているのか、見ていくことにしましょう。

 

待ち時間の長さが原因?

日経MJの記事によると、東京ディズニーリゾートを訪れたことがある人のうち、最近1年以内とそれ以前を比べたときに「行く頻度が減った」と答えた人は、47.5%にも上りました。「変わらない」と答えた48.3%をギリギリ下回っていますが、半数近い人が舞浜から足が遠のいているのです。

 

「頻度が減った」と答えた人のうち、理由として「テーマパークが混雑している」を挙げているのが24.2%、「アトラクションやショーの待ち時間が長い」と答えた人は15.1%となりました。

 

先ほども触れたとおり、パークのキャパシティを考えると、2,500万人レベルが適正規模ではないか、と舞浜新聞では分析しています。現在の3,000万人レベルと比べると、年間で500万人の差、1日当たり14,000人の差にもなります。両国国技館の観客収容人数が、約1万人と言われていますので、それを少し上回るくらいです。

 

これだけ多くのゲストがパークに押し寄せていれば、混雑を感じて、行く頻度が減ってしまうのは当然です。また、混雑に比例して、アトラクションやショーの待ち時間が増えてしまうのもうなずけます。

 

日経MJでは、記事の中で、Amazonなどのネット通販による即日配送サービスや、LINEに代表される、SNSでの瞬時のコミュニケーションを例に挙げて、「待つことへの耐性」が弱くなっているのではないか、と分析しています。

 

これまでは、ワクワクしながら待つことも、楽しみの一つだったのが、今では「できるだけ時間を節約したい」「早く楽しみたい」というニーズが強くなってきているのでしょう。

 

また、小さな子にとって、2時間以上の長い列ができているアトラクションには、なかなか並べないという事情もあります。すぐにトイレに行きたくなったり、ぐずったりしてしまったら、お父さん・お母さんにとっても、かなり辛くなります。

 

日経MJでは記事の中で、「東京ディズニーリゾートの好きなところは?」という質問に対して「子どもが楽しめる」と答えたのは、全体の35.3%、その一方で「大人が楽しめる」と答えたのは、43.1%にもなりました。先ほども触れた「SNS映え」という影響もありますが、東京ディズニーリゾートは「子ども向け」ではなく、「大人向け」の場所に変わってきているのです。

 

しかし、オリエンタルランドにとって、ファミリー層は重要な顧客です。消費金額も大きく、特に小さな女の子は、成長した後に、再び子どもを連れてパークに訪れてくれる「生涯顧客」に育ってくれます。また、ディズニーに対する憧れは、ディズニーホテルでも婚礼需要につながっていきます。

 

卓球の福原愛選手の挙式でも話題になった「ディズニー・フェアリーテイル・ウェディング」婚礼は単価が高く、金額が大きいため、利益が伸ばせる。

 

もちろん、パーク内の施設やエンターテイメント・プログラムを提供しているスポンサー企業にとっても、ファミリー層は重要な顧客です。小さいうちからブランドに親しんでもらえれば、将来顧客になってくれる可能性も高まります。

 

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パーク内に設置されている「ハンドウォッシングエリア」花王による提供。ミッキーの形をした泡が出てきて、ブランドイメージの向上に一役買っている。©Disney

 

現場は、涙ぐましい努力を重ねるが…

アトラクションの待ち時間に話を戻しましょう。東京ディズニーリゾートでは、待ち時間の増加による満足度の低下について、何も対策をしていないわけではありません。

 

日経MJの記事によると、オリエンタルランドの社内で、混雑による満足度の低下が問題視され始めたのは、2013年頃のことでした。ちょうど、ランド30周年イベントで、多くのゲストが押し寄せていた時期です。

 

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30周年イベントに合わせてスタートした「ハピネス・イズ・ヒア」©Disney

 

その後、2016年4月には、投資家向けのプレスリリースで、「混雑日が増えてきており、満足度が落ちている傾向がある」と、初めて公に認めています。ほかのプレスリリースでも触れられていますが、会社の予想よりも、早いペースで3,000万人レベルのゲストが押し寄せており、それにパークのキャパシティが対応しきれていないのです。

 

オリエンタルランドは、2020年春のオープンを目指して、ランドのファンタジーランドとトゥモローランドの再開発工事を進めています。また、シーでは2019年度のオープンを目指して、海外のパークでも人気が高い「ソアリン」の建設工事を進めています。

 

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オリエンタルランドが発表した、ランド拡張エリアのコンセプトアート(2017年4月発表)©Disney

 

開発計画の詳細は、こちらをどうぞ。

 

エリアの拡張やアトラクションの増設により、パークのキャパシティを拡大して、顧客満足度を高めようという狙いです。しかし、新施設のオープンまでは、長い時間がかかります。もちろん、バックステージ用地を使うシーと比べて、ランドは既存の用地を使うため、工事期間中は逆にキャパシティが低下してしまいます。

 

現場では、満足度の低下を防ぐために、以下のような取り組みが行われています。

 

  • アトラクションを待っているゲストに、調査カードを渡して、リアルタイムの待ち時間を調べる。
  • グループの人数に応じて、待ち列(キューライン)を分けて、空席を作らないようにする。
  • 待ち列の柵を撤去して、スムーズに誘導できるようにする。
  • あらかじめシートベルトの着用方法を説明したカードを配って、ゲストが乗りこむ時間を短くする。

 

こういった涙ぐましい努力は、NHKの「おはよう日本」や、TBSの「がっちりマンデー!!」などのメディアでも取り上げられています。こういった番組で取り上げられるということは、オリエンタルランドが「現場ではこれだけ頑張っていますよ」と、ゲストや投資家に伝えたい、という思いの裏返しだといえます。

 

ただ、これだけで、満足度の低下を食い止めることができるのでしょうか。

 

ファストパスの有料化は、抜本的対策にはならない

日経MJでは、記事の中で、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンは有料で販売している「エクスプレス・パス」の例を挙げて、東京ディズニーリゾートでも「ディズニー・ファストパス」の有料化が必要ではないか、と論じています。

 

現在、先着順に無料で配られている「ディズニー・ファストパス」。すでにご存じの通り、アトラクションの待ち時間を減らせる、時間指定の整理券となっています。

 

ユニバーサル・スタジオ・ジャパンでは、チケットとエクスプレス・パスを別々に販売して、客が待ち時間を節約できるようにしています。しかし、エクスプレス・パスを買えたゲストは、満足度が高くなりますが、売り切れで買えなかったゲストは、より長時間、待たなくてはいけません。

 

 

東京ディズニーリゾートの場合、ファストパスの有料化には否定的な立場を取っています。これは、自社で提供している宿泊プラン「バケーション・パッケージ」に対する姿勢を見れば、明らかです。

 

 

バケーション・パッケージは、ホテルの宿泊やパークチケットだけではなく、ショー・パレードの鑑賞券や、どのアトラクションでも使えるファストパス・チケットが含まれているのです*1

 

本来であれば、ファストパスを切り売りすることも可能のはずです。それをやらないということは、有料化によって混雑に拍車がかかること、より消費金額が大きい「バケーション・パッケージ」を利用するゲストに対して、付加価値として残しておきたいこと、がその理由として考えられます。

 

現在のファストパス制度は、人気アトラクションの場合、開園直後になくなってしまうことも多く、取れたとしても夜遅い時間帯だった、ということもあります。これを有料化したとしても、混雑の緩和や満足度の引き上げにはつながらないでしょう。

 

USJが導入している「よやくのり」事前に乗車時間を予約できるシステムで、親子連れに多く利用されている。利用は無料だ。

 

入園者数のコントロールが必要なのでは?

先ほども触れたとおり、現在の東京ディズニーリゾートには、収容能力を超えるゲストが押し寄せています。また、最近の人手不足の影響により、キャスト(従業員)が足りず、現場のオペレーションにも支障が出てきています。

 

日経MJの記事によると、「入園者数が減った」というマイナスイメージを持たれたくないという心理から、当日券の販売を打ち切る「入園制限」の実施には否定的なのではないか、という見方を示しています。

 

入園者数が前年割れすると、メディアはすぐに「苦戦」「凋落」という記事を書き立てます。これは一般のゲストに対してだけではなく、投資家に対してもあまりいい印象を与えません。

 

ただ、これだけ満足度が低下している以上、パークチケットのさらなる値上げや、入園制限によって、適正な規模に入園者数をコントロールしない限り、歯止めはかからないのではないでしょうか。

 

おそらくオリエンタルランドとしては、入園者数を減らしたり、客単価が下がったりするような事態になれば、ゲストの財布(キャッシュフロー)に頼る開発計画に、黄色信号がともりかねない、という危機感があるのかもしれません。もちろん、ライバルであるユニバーサル・スタジオ・ジャパンの存在も無視できません。

 

特に近年言われている、ショーやパレードの縮小は、経費削減でより多くの利益を上げようとする、パークの経営姿勢とも重なります。

 

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ショー製作費の推移。近年はランド1パーク時代の水準まで、削減が進んでいる。

 

ショーやパレードは多くのゲストの満足度を高められる一方で、人件費やフロートの製作費などの固定費が大きいこと、さらには雨や雪といった天候の影響を受けやすいことが課題として挙げられます。

 

ショーやパレードを豪華にしたり、公演回数を増やしたりすれば、それだけアトラクションに集中するゲストは減らせますが、その分だけ利益を減らすことにもなります。

 

いかに利益を減らさず、満足度も下げずに、パークの開発を進めていけるのか。現場の人員不足で、混雑に拍車がかかれば、中長期的に顧客を失いかねません。オリエンタルランドには、まさに綱渡りの経営が求められているのです。

 

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©Disney

 

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*1:プランによって、含まれているサービスは異なります。