3月26日、TBS系列の「がっちりマンデー!!」で、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドが特集されました。
今回は番組で取り上げられた内容から、オリエンタルランドの狙いを探っていきたいと思います。
首都圏のリピーターが集客の柱
東京ディズニーリゾートのゲストの約67%は、関東近郊から訪れています*1。これは、パークの近くに住むゲストが、頻繁に訪れているからでしょう。年間パスポートを使って、月に何度も訪れているゲストも多いですので、入園者数に占める割合が大きくなるのは当然です。
オリエンタルランドとしても、関東近郊からのリピーターに飽きられないように、様々な取り組みを行っています。番組でも取り上げられましたが、一番の目玉として挙げられるのは、季節イベントでしょう。
最近では、春のイースター、夏の七夕とウォーター・プログラム、秋のハロウィーン、冬のクリスマス、そして1月~3月の閑散期プログラムと、ほぼ2か月~3か月のペースでプログラムを入れ替えています。
海外のディズニーパークでも、期間限定のイベントが行われていますが、東京のように頻繁に期間限定のショーやパレードは行っていません。
米フロリダのマジックキングダムで行われている、クリスマスのショー。東京と違って、期間限定ショーは、ハロウィーンやクリスマスなどに限られている。©Disney
東京は海外のパークとは違って、オリエンタルランドによるフランチャイズ経営となっています。パーク単独で収益を上げなくてはいけない以上、より変化をつけ、一年間のうちに何度も訪れてもらう必要があるからです。
また、アトラクションでも、何度乗っても楽しめる工夫が加えられています。番組では、ランドの「ジャングルクルーズ:ワイルドライフ・エクスペディション」が取り上げられ、スキッパー(船長役のキャスト)によって、ゲストへ語る内容が違う演出が紹介されていました。
このほかにも、ランドの「モンスターズ・インク“ライド&ゴーシーク!”」のように、ゲストがライトを使ってモンスターを探したり、シーの「トイ・ストーリー・マニア!」のように、ゲストが的当てをしたりと、最近のアトラクションは、ゲストが乗るだけではなく、参加することができるものが増えています。
今後は、シニア層や小さな子でも楽しめるもの、回転率が高くて待ち時間を少なくできるもの、ゲストが主体的に参加できるもの、が増えていくでしょう。
待つ時間は、お金を使わない時間
番組では、ゲストの滞在時間が年々増加していることが触れられました。同時に、ゲストの快適さを確保するために、待ち時間を短くする取り組みも紹介されました。
シーの「センター・オブ・ジ・アース」では、これまではグループの人数に関係なく、テラベーターを下りた順番に、右と左の列に分かれて並んでいました。これを昨年(2016年)3月から、2名以下のグループと、3名以上のグループに分けて並ばせるようにしたのです。
その結果、ライドの空席をできるだけ減らして、待ち時間を短くすることに成功しました。「センター・オブ・ジ・アース」以外にも、ランドの「ピノキオの冒険旅行」でも、柵の一部を撤去することで、より効率的にゲストを案内できるようになっています*2。
アトラクションの乗る順番を待っている間、ゲストは1円もお金を使いません。オリエンタルランドからすれば、無駄な時間だといえるでしょう。
オリエンタルランドは以前から、ゲストの待ち時間を減らす取り組みをしてきました。主なものだけでも、以下のようになります。
- アトラクションの待ち時間→ディズニー・ファストパス
- ショーの待ち時間→鑑賞席の抽選制度
- レストランの待ち時間→プライオリティ・シーティング(事前予約制)
- グリーティングの待ち時間→時間指定の整理券配布
詳しい分析は、こちらの記事をどうぞ。
これ以外にも、地方や首都圏の宿泊客向けに、ホテルの宿泊やパークチケットをセットにした「バケーション・パッケージ」を販売して、付加価値を付けることで、より多くのお金をゲストに使ってもらおうとしています。
ただし、一方で弊害も出てきています。ファストパスは、人気アトラクションの場合、午前中になくなってしまうことがほとんどです。ファストパスが取れなかったゲストは、通常の待ち列に並ばなくてはいけません。
また、2016年4月から、パーク内にあるテーブルサービスのレストランは、基本的にプライオリティ・シーティング(事前予約)がないと利用できなくなっています。
ゲストの待ち時間を減らすことには成功しましたし、キャストのオペレーションが向上して、よりサービスを効率化できたと思います。ただ、以前と違って、気軽に並んで入るということができなくなりました。その分だけ、カウンターサービスのレストランの混雑に拍車がかかっています。
これについては、オリエンタルランドも課題として考えていると思われます。今後本格化するパークの開発計画の中で、飲食施設の増強は急務だといえるでしょう。
グッズは金のなる木?
さて、番組では、東京ディズニーリゾートのグッズはおよそ2万アイテム、そのうち1年間で5,000アイテム以上が、新商品として投入されていることが明かされました。
先ほども触れたとおり、東京のパークはフランチャイズ経営のため、パークチケットだけではなく、レストランやグッズによる収益も必要不可欠なのです。
海外のパークへ行って感じるのは、東京のグッズのレベルの高さです。東京の場合は、小さな子から大人まで、幅広い層に向けてグッズがそろっています。もちろん、デザインのセンスも、ゲストが「欲しい!」と思わせるようなものになっています。
番組では、イースターの「うさ耳カチューシャ」が取り上げられていましたが、それ以外にも、ファンキャップやぬいぐるみバッチなど、パーク内で身に着けられるグッズは多種多様です。パークが作り上げている「非日常の世界観」が、ゲストに対して「パークの雰囲気に自分も合わせなきゃ」という心理を働かせるのでしょう。
最近では、Twitterやインスタグラムなどで、パーク内で撮った写真を公開する方も増えています。オリエンタルランドにとっても、非常に有効なSNSマーケティングとして、力を発揮しています。今後もフォトジェニックなものや、SNS映えするグッズが増えていくかもしれません。
私が今回意外だったのが、グッズのセット売りについてでした。
以前は、ストラップなどは単品で売られていたのですが、現在は複数個のセットでも売られているのです。てっきり「単価を上げて、売り上げを伸ばそうとしているのか?」と思っていたのですが、お土産で複数個配るニーズに合わせたもので、売れ行きも好調とのことでした。
パークの力はキャストの力
東京ディズニーリゾートを下から支えているのが、18,000人以上の準社員(アルバイト)の方たちです。番組では、オリエンタルランドの取り組みとして、以下の3つが取り上げられました。
- ドリームコンダクター
- 新人研修(OJT:オン・ザ・ジョブ・トレーニング)
- サンクスデー
ドリームコンダクターとは、パーク内を巡回しているキャストさんのことで、道案内や写真撮影に加えて、パークの周り方などを助けてくれる方です。ただ、現状は十分活用されているとは言えないと思います。
パーク内を巡回するよりかは、ガイドツアーへより多くの人員を回したり、ゲストリレーションに、コンシェルジュ機能を持たせたりするほうが効率的だと思います。道案内や写真撮影も、手の空いている近くのキャストが手助けすれば十分でしょう。
新人研修については、先輩キャストがマンツーマンで、手取り足取り教えながら、新人キャストさんが頑張る様子が取り上げられました。このあたりは「東京ディズニーリゾートでは、初心者でも安心して働けますよ」と言っているような気がしたのですが…。
サンクスデーについても、かなり大々的に取り上げられていました。以前は内輪だけのイベントだったのが、今ではプレスも入れて、表向きにも紹介されるようになっています。会社としては、秘密にしておくよりかは、よりオープンにして「パークで働きたい!」と思ってもらいたいのでしょう。
東京ディズニーリゾートの場合、現場のキャストの入れ替わりが激しいと言われています。これは、進学や就職に合わせて、学生キャストが退職してしまうためです。首都圏の場合は働き手不足で、どのサービス業も人材不足に悩んでいます。オリエンタルランドとしては、自社で働くメリットを伝えることで、より優秀な人材を確保したいと考えていると思われます。
結局はキャスト募集のため?
番組を通して感じたのは、やはり「より優秀な人材をパークに集めたい」という、オリエンタルランドの強い意図でした。
特に、番組の最後で取り上げられたサンクスデーでは、上司によるサービスを受けたり、上司と部下が親しげに話したりする様子が取り上げられており、パークの勤務環境が素晴らしいことが強調されていました。
オリエンタルランドは、4月1日から深夜帯の時給引き上げや、一部職種の調整給(職種や専門的な業務内容に応じて加算)を改定する方針を発表しています。
また、現在は社員のみが加入している労働組合「オリエンタルランド・フレンドシップ・ソサエティ」に、非正規の従業員も加えることが発表されています。
投資家に向けて、自社がいかに従業員を大切にしているのかをアピールしたいのでしょう。今後、少子高齢化はますます進み、より一層若い働き手は少なくなっていきます。オリエンタルランドにとっては、人件費の増加を抑えつつ、優秀な人材を集めて、パークの収益を高めていく必要がありそうです。
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