7月16日、ディズニー/ピクサー映画『ファインディング・ニモ』の続編となる『ファインディング・ドリー』が日本で公開されました。
©Disney/Pixar
今回の主人公は、前作にも登場したナンヨウハギのドリー。続編では、ドリーが仲間たちの力を借りながら、自分の家族を探す旅へと出かけます。
舞浜新聞では、この作品の日本語吹き替え版、字幕版をどちらも鑑賞しました。今回はこの映画を見て、思ったことや感じたことを書いていきたいと思います。
記事を読む前に
この記事では、ストーリーの核心について触れています。ネタバレを避けたい方は、映画を見終わった後に読むことをおすすめします。
親子の愛情
本作を語るうえで欠かせないのが、「親子の愛情」というテーマでしょう。
前作の『ファインディング・ニモ』では、人間にさらわれてしまったニモを助けるために、父親であるマーリンと、偶然出会ったドリーが様々な生き物たちの力を借りながら奮闘しました。
マーリンは最愛の妻を失っており、ニモは彼にとって大切な一人息子でした。ニモの右のヒレが小さいこともあって、マーリンはどうしても過保護に。しかし、ニモが連れ去られたことをきっかけに、マーリンのニモに対する考え方は、少しずつ変化していきます。
『ファインディング・ニモ』では、親の子どもに対する愛情の深さ、そして子どもの自立が、海の生き物たちを通して描かれていました。
©Disney/Pixar
さて、前作のニモとマーリンの物語の裏で、明らかにされなかったのは、ドリーの家族のことです。今回公開された続編では、謎に包まれたドリーの家族にスポットが当てられています。
ドリーは健忘症があり、覚えたことをすぐに忘れてしまいます。自分はどこから来たのか、そして両親はどんな魚だったのか…。最初は忘れていたドリーでしたが、ちょっとしたきっかけで、両親の記憶を思い出していきます。
これは、両親のドリーに対する深い愛情があったからこそでしょう。ドリーの両親もまた、ドリーと再会できることを信じて待ち続けました。
たとえ、どんなに離れ離れになったとしても、家族は必ず再会できる。世の中には、悲しくも生き別れになってしまった家族がたくさん存在します。そんな家族にとって、この作品は非常に勇気づけられるのではないでしょうか。
家族の形
さて、本作では親子の愛情が大きく取り上げられていますが、それに加えて重要なのが「家族の形」という問題でしょう。
マーリンは妻を失ってから、ニモと2匹で暮らしていました。ドリーと出会い、ニモと再会してからは、3匹で暮らすようになりました。ニモとドリーは親友という関係ですが、マーリンにとってドリーは妻のような存在になっていたのではないか、そう感じるのです。
ドリーとマーリン ©Disney/Pixar
ドリーと出会ったことで、マーリンの考え方は大きく変化します。それまでは保守的で心配性だった彼が、直感を信じるドリーと出会うことで、ニモを信じることの大切さに気づいていくのです。
マーリンにとって、ドリーはかけがえのない存在に変わっていきます。自分にはないものを持っている存在。そして一緒にニモの成長を見守ることで、夫婦のような関係に変わっていったのではないでしょうか。
たとえ種類が違っていたとしても、血はつながっていなかったとしても、家族になれる。本作は家族の形について、私たちに問い直している気がするのです。
ハンディキャップの克服
『ファインディング・ドリー』で印象的なのは、それぞれのキャラクターが何らかのハンディキャップを抱えているという点です。
まずは主人公のドリー。彼女は健忘症があり、何でもすぐに忘れてしまいます。これは幼いときから彼女が抱えていたハンディキャップですが、彼女はそれを持ち前の明るさで克服していきます。
もちろん、健忘症が治ることはありません。しかし、直感を信じて行動すること、そしてほかの生き物たちを助けを借りることで、道を切り開いていくのです。
これを見たときに「ドリーは何でも他者に頼ってばかりではないか」「自分だけでは何もできない」という、批判的な見方もできるでしょう。ただ、人間も一人だけでできることには限りがあります。ドリーのように「他者を信じて頼る」という考え方も大切だと、この映画では伝えようとしているのではないでしょうか。
主人公のドリー以外にも、ハンディキャップを抱えたキャラクターたちが登場します。目が良く見えずに、上手く泳げないジンベイザメのデスティニー。エコロケーションが使えずに悩んでいた、シロイルカのベイリー。そして、7本しか足がない、ミズダコのハンク。中でも劇中で活躍するのが、ハンクでしょう。
ミズダコのハンク。最初はドリーに付けられたタグを狙って、彼女に近づくのだが…。©Disney/Pixar
彼は水族館で生きることを強く望み、海へ帰ろうとはしていませんでした。そんなハンクがドリーと出会うことで、少しずつ考え方を変えていきます。これは前作でマーリンの考え方を変えていった、ドリーの姿と重なるところがあります。
たとえハンディキャップを抱えていたとしても、見方や考え方を変えていけば、必ず突破口が見つかる。本作では、そんなメッセージが込められているのではないでしょうか。
「ヴィラン」がいないことの是非
『ファインディング・ドリー』で特徴的なのが、ヴィラン(悪役)が登場しないという点でしょう。私も最初見たときに「ハンクがヴィランなのかな?」と思っていたのですが、最終的にはハンクはドリーを助ける存在へと変わっていきます。
それ以外にも、人間の子どもたちがヴィランのような扱いになっていますが、ドリーたちの行く手を邪魔するような存在ではありません。ディズニー映画の場合は、主人公と魅力的なヴィランがセットで語られることが多いです。ヴィランがいないことについては、賛否が分かれるでしょう。
ただ、本作ではあくまでも「ドリーが両親を探す」というのが、メインストーリーとなっています。ヴィランと出会い、克服して成長するというよりかは、両親を探していく中で、ドリーの心情が変化していく物語になっていると思います。
今後のピクサー作品がどうなるのかは、まったく分かりません。しかし、キャラクターの心情変化にスポットが当てられた作品の場合、ヴィランが登場しないことも増えていくかもしれません。
CGの技術レベルがすごい
前作『ファインディング・ニモ』では、海の美しさや水の描写を、コンピューター・グラフィックス(CG)技術で見事に表現していました。前作の公開から13年が経ち、CG技術も進化が進んでいます。
本編の前に流れる短編『ひな鳥の冒険』でもそうだったのですが、水の動きや光の反射が、見事にCGで表現されているのは驚きました。私たちが見ていると、まるで実写で撮影したかのような印象を受けるくらいです。おそらく、CG技術に精通した方であれば、そのレベルの高さに舌を巻くでしょう。
本編上映前に流れる『ひな鳥の冒険』セリフが一切ないのに、ストーリーがきちんと分かるのはすごい。©Disney/Pixar
ピクサーはもともと「レンダーマン(RenderMan)」と呼ばれる、コンピューターのレンダリング用ソフトを開発して、それを販売する会社でした。レンダリングというのは、組み合わされたデータを画像や映像、音声に変換することを指します。ピクサーでは、今でもこのレンダーマンを改良しながら、素晴らしいアニメーションを作り出しているのです。
今後も私たち観客が驚くような、実写にも負けないアニメーションを作り上げてくれることでしょう。
八代亜紀さんの起用
さて、本作の日本語吹き替え版では、エンドソングを歌手の八代亜紀さんが歌っています。私はてっきりエンドソングだけだと思っていたのですが、劇中の水族館の場内アナウンスも、八代さんが吹き替えているのです。
しかし、劇中で「八代亜紀です」と、自分の名前を明かしてアナウンスする様子や、ドリーが「八代さん!」と反応するセリフには、思わず苦笑いしてしまいました。
配給会社は、これを笑いのネタにしようと考えたのでしょうか。それとも、真面目に吹き替えただけなのでしょうか。それについて、真意は分かりません。ただ、作品の世界観にはちょっと合っていなかったと思います。
しかし、エンドソングについては、日本語の歌ではなく、英語の歌詞を八代さんが伸びやかに歌い上げています。これにはまったく違和感はありませんでした。実際、八代さんは積水ハウスのCMなどでも、英語の歌詞を歌っています。だからこそ、もう少しうまい吹き替え方法はなかったのか、そう感じるのです。
さいごに
前作『ファインディング・ニモ』を見ていなくても、本作は十分楽しめると思います。映画の冒頭で、きちんと前作の話の流れに触れているからです。ただ、前作を見て、ニモとマーリン、そしてドリーの関係性を知ると、より本作が楽しめると思います。
また、どうしてドリーが人間の文字を読むことができるのか、そしてどうしてクジラ語が話せるのか、前作では明かされなかった、ドリーの秘密も本作ではきちんと説明されています。
©Disney/Pixar
単に「家族との感動的な再会」だけを描くのではなく、本作はより深いテーマを表現していると思います。まるでジェットコースターに乗っているかのような展開の早さには、小さな子も見ていて飽きないのではないでしょうか。もちろん、ピクサーならではのジョークにもクスッとさせられます。
2017年春には、東京ディズニーシーに新しいアトラクション「ニモ&フレンズ・シーライダー」が導入されます。これは『ファインディング・ニモ』『ファインディング・ドリー』がテーマになったアトラクションです。
「ニモ&フレンズ・シーライダー」のコンセプトアート ©Disney/Pixar
果たして、映画は日本でどれだけヒットするのでしょうか。そして、新しいアトラクションは受け入れられるのか。注目して見ていきたいと思います。