舞浜新聞

東京ディズニーリゾートなどのディズニーパークをはじめとして、ディズニーに関する様々な情報をお伝えします。



元日特集「若者のディズニー離れ」って本当なの?

新年明けましておめでとうございます。

 

2013年にスタートした当ブログも、今年3月で12周年を迎えます。昨年はアナハイムとオーランドという、アメリカの東西パークを制覇したり、初めてクルーズラインに乗船したりと、とても充実した一年でした。本年も自分のペースで記事を書けたら…と思っています。引き続き、よろしくお願い致します。

 

 

さて、今回のテーマは「若者のディズニー離れ」についてです。昨年は様々なメディアでも大きく取り上げられ、SNSを中心に話題となりました。本当に若い人たちは、東京ディズニーリゾートから離れていっているのでしょうか。かれこれ30年近くディズニーを追いかけてきた私が、その背景について考えていきたいと思います。

 

 

「若者のディズニー離れ」の根拠は?

そもそも、どうして「若い人たちはディズニーへ行かなくなった」と言われているのでしょうか。その根拠となるデータを、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランド社が公式に発表しています。

 

オリエンタルランド社が毎年、投資家向けに発表している「アニュアルレポート」という文書があります。その中の「年代別来園者比率」を見ると、東京ディズニーリゾートにどんな年齢層の客が訪れているのかが分かるのです。

 

そのデータを見ていくと、コロナ禍の前までは50%台をキープしていた18歳から39歳の大人が、コロナ禍以降の2022年度、2023年度では、10ポイント近くも減少しています。それに対して、コロナ禍前は20%台となっていた40歳以上の大人は、2023年度では33.2%となっています。

 

 

中人(12~17歳)や小人(4~11歳)といった子どもの比率は、コロナ禍の前後では大人と比べると微減程度で、そこまで大きな変化はありません。メディアや専門家は、このデータを取り上げて「若者がディズニーへ行かなくなっている」「ディズニーは中年のコンテンツになりかけている」と論じたのです。

 

若い人たちは、本当に行かなくなってるの?

オリエンタルランド社が発表しているデータからは、18歳から39歳のゲストが減り、そのぶん40歳以上のゲストが増えている…という事実しか分かりません。この点について、オリエンタルランド社はその理由や背景を公式には発表していません。

 

オリエンタルランド社が発表している男女別来園者比率。ゲストの8割近くが女性だということが分かる。

 

TikTokやInstagramなどのSNSを見ていると、若い人たちがディズニーパークを楽しんでいる様子はたくさん流れてきます。実際にパークを訪れてみても、体感として若い人たちが減っているという印象は受けないです。ただ、10ポイント近く減少したということは、無視できない変化だと言えるでしょう。

 

ここからは「18歳から39歳のゲストが減った理由」について、私なりの仮説を立てていきたいと思います。

 

 

仮説1 年間パスポートの廃止

コロナ禍を受けて、東京ディズニーリゾートでは一年間自由に入園できる「年間パスポート」の販売を休止しています(事実上の廃止)。年間パスポートは、熱烈なパークファンが持つイメージがありますよね。ただ、その購入層は、時間にゆとりがある大学生や、20代~30代の方が多かったのではないでしょうか。

 

東京ディズニーリゾートのファン層は、定期的に入れ替わっていくことが、SNSでの反応を見ているとよく分かります。あくまでも私の体感ですが、3~5年で変わっていく印象がありますね。

 

それは、就職や転職、転勤といった仕事関係、結婚や出産、育児といったライフイベント、さらに最近では介護による問題などで、東京ディズニーリゾートを離れていく人たちが一定層いるからです。ゲストの8割近くが女性であり、男性と比べてライフイベントによる変化を受けやすいというのも大きいでしょう。

 

コロナ禍前では、年パスを使って頻繁に訪れていた20代~30代が、年パスの廃止によって減少した。そのため、数字上は18歳から39歳のゲストが減ったように見えるのではないでしょうか。

 

 

年パス廃止については、以下の記事で詳しく解説しています。

maihama.hateblo.jp

 

仮説2 自由に使えるお金が減っている

新聞やメディアを見ていると「若者の○○離れ」という見出しを付けて、やたらと煽るような報道をすることが多いです。「最近の若者は軟弱だ」「もっとチャレンジしろ」とでも言っているようです。しかし、その理由を丁寧に見ていくと、昔に比べて自由に使えるお金(可処分所得)が減っているのではないか、と考えられるのです。

 

年金や健康保険といった社会保険料の値上げ、さらにはコロナ禍以降の物価高で、出ていくお金はどんどん増えています。それに比べて、給料の引き上げはまったく追いついていません。結果的に、可処分所得が減ってしまい、趣味やレジャーに使えるお金を節約している…と考えることができるのです。

 

www.dir.co.jp

 

車離れは、保険料や税金などの固定費が大きいから。海外旅行離れやパスポートの取得率低下は、円安によって旅行費用が以前よりも高くなっているから。単に若者の嗜好が変化したのではなく、そもそもお金がないからと考えることができるのです。ディズニー離れも同じではないでしょうか。

 

仮説3 以前よりもお金がかかるようになった

この仮説は先ほどの仮説2とも関連しています。コロナ禍の前と後を比べると、東京ディズニーリゾートを楽しむためにかかるお金が増えているのです。

 

まずはパークチケット。コロナ禍で変動価格制が導入されましたが、大人1日券のピーク時の料金はコロナ禍前と比べて3,000円以上も値上げされています。

 

 

二つ目はファストパスです。コロナ禍前は、アトラクションの整理券として無料で配付されていましたが、現在は廃止に。その代わりとして、人気アトラクションには有料の「ディズニープレミアアクセス」が導入され、待ち時間を少なくするためには、さらにお金が必要になりました*1

 

 

三つ目はレストランのメニューやグッズの値上げです。値上げ幅はパークチケットほどではありませんが、コロナ禍前と比べて値上げされたものがほとんどです。

 

オリエンタルランド社が発表しているIR資料を見てみても、ゲスト1人当たり売上高(客単価)は、コロナ禍前は11,000円前後で推移していたのに対して、2023年度は16,000円を超えています。たった数年で、子どもも含めたゲスト一人当たり、5,000円近くも多く払っているのです。

 

 

首都圏に住む若い人たちやファミリー層にとって、東京ディズニーリゾートは「安心・安全・便利で満足度の高いレジャー施設」だったのかもしれません。しかし、コロナ禍以降は料金負担も大きく、公式アプリなどを使いこなしながら、十分に情報を収集しないと回り切れない、敷居の高い場所になっているのではないでしょうか。

 

その状況に拍車をかけているのが、首都圏の宿泊料金の上昇です。コロナ禍以降、外国人観光客の急増で、首都圏のホテル料金は一気に上がっています。地方から東京ディズニーリゾートを訪れる人たちにとって、こういった費用の上昇も無視できないでしょう。

 

www.nhk.or.jp

 

仮説4 40代以上の人たちが戻ってきている

先ほど仮説1で「東京ディズニーリゾートのファン層は、定期的に入れ替わっていく」と私の持論を書きました。18歳から39歳のゲストが減っているだけではなく、40歳以上のゲストが増えていると考えるとどうでしょうか。若いときに東京ディズニーリゾートに通ったものの、様々な理由で離れていった。しかし、時間にもお金にも余裕が出てきて、再びパークを訪れるようになった。そういった人たちが増えていても、まったく不思議ではありません。

 

 

今の40代以上は、生まれたときから日本にディズニーパークがある環境で育ってきました。幼少期にランド1パーク時代の華やかなエンターテイメントプログラムに触れ、2000年代のランド・シーのエンタメ黄金期に大学生や社会人を迎えた方がほとんどです。パークファンの間では絶大な人気を誇る風間俊介さんも、1983年生まれで、ちょうどその世代に当たります。

 

「子どもたちが少し親元を離れたから、旦那さんと二人で行ってみよう」「久しぶりにお友達を誘ってみよう」そう考える人も少なくないと思います。40歳以上のゲストが増えた結果、相対的に18歳から39歳のゲストが目減りしたのではないでしょうか。

 

仮説5 前よりも気軽に来れなくなった

コロナ禍の前であれば、朝一番に舞浜駅を降りて、パークのチケットブースに並んで現金で当日券を買えば、すぐに入園することができました。しかし、コロナ禍以降は、基本的に公式アプリや公式ウェブサイトで事前にチケットを購入するように変わっています。日によっては、売り切れになることも…。以前のような「入園制限で入れない!」ということはなくなりましたが、この事前購入型への変化も、若者層の減少の原因ではないかと考えられるのです。

 

その一番の理由は「クレジットカードを持っていることが前提」という点です。2020年7月の営業再開当初、東京ディズニーリゾートでは、パークチケットの販売はウェブのみでした。しかも支払い方法はクレジットカードだけ。これでは高校生や大学生で買えない人も多かったでしょう。

 

その後、コンビニでも販売が再開され、2023年2月からは公式サイトでPayPay(ペイペイ)も利用できるようになりました*2。しかし、それでも以前より敷居が高いのは否めません。

 

これは、優先案内のプレミアアクセスも同様です。支払いには、原則クレジットカードやデビットカード、プリペイドカードが必要に。現金でも購入することはできますが、わざわざ窓口に行かなくてはいけません。レストランのモバイルオーダーも同じです。こういったところは改善の余地がありそうですね。

 

faq.tokyodisneyresort.jp

 

オリエンタルランド社の株価低迷も関係している?

最近、投資家の間では、オリエンタルランド社の株価が低迷していることが話題になっています。2023年12月29日の終値は5,251円だったのですが、2024年はあれよあれよと言う間に下落。2024年12月30日の終値は3,422円で、下落率は約34.8%に達しました。

 

www.sankei.com

 

この理由については、様々な分析が行われています。猛暑による入園者数の減少と業績の伸び悩み、シーの新エリア「ファンタジースプリングス」の開業による減価償却費の増加、舞浜地区の開発に一区切りがついた、京成電鉄や三井不動産などの大株主による株売却などが、その主な要因として挙げられています。

 

www.nikkei.com

www.nikkei.com

 

もちろん、単に株価収益率(PER)や株価純資産倍率(PBR)を見て、今までが値上がりしすぎていただけと言う方もいます。2028年度の就航を目指しているクルーズ事業についても、採算性を疑問視されて、株価上昇の材料にはなっていません。

 

www.nikkei.com

 

カリブ海クルーズに就航している「ディズニー・ウィッシュ号」オリエンタルランド社が建造を計画しているクルーズ船は、このウィッシュ号と同規模になる。就航すれば、約14万トンの日本最大級の客船に。

 

あくまでも私個人の意見ですが、入園者数の伸び悩みに加えて、東京ディズニーリゾートの成長持続性に多くの投資家が疑いの目を向けているのではないかと思うのです。

 

目先の利益にとらわれてばかりだと…

子どもの頃に家族で東京ディズニーリゾートを訪れて、「ディズニーって楽しいね」という思い出ができた方は、高校生や大学生になったとき、今度は友達と一緒に行くようになるでしょう。もちろん、熱烈なファンは一人で行くようになるかもしれません。友達とディズニーホテルに泊まったり、もしかすると結婚式も挙げる人も出てくるでしょう。そして、子どもが生まれて、再びパークを訪れる。1983年の東京ディズニーランド開園以来、このようにパークファンの裾野は広がっていきました。

 

しかし、現在はどうでしょうか。

 

 

パークチケットは値上がりし、プレミアアクセスに代表されるように、追加の負担も大きくなっている。オリエンタルランド社は「入園者数の適切なコントロール」を掲げているのに、パーク内はコロナ禍の前と変わらずに混雑している。グッズは発売初日に売り切れ、フリマアプリでの転売横行も何一つ変わっていない。さらには「コロナ禍」を理由とした、エンターテイメントプログラムの縮小は続いたまま…。

 

これで「またディズニーランド行きたいね」と思う若い人は増えるでしょうか。インターネットが発達し、SNSも普及した現代社会では、安い金額で「推し活」ができる分野は増えてきています。1万円近くも払って、長蛇の列に並ぶ。「コスパ」「タイパ」を重視するZ世代からすると、ディズニーパークは魅力に欠ける施設に映るのかもしれません。そんななかで、若い人たちが少しずつ東京ディズニーリゾートから離れていっている気がするのです。

 

このまま若いゲストの来訪が減れば、投資家はオリエンタルランド社の株式を手放すことになるでしょう。「ディズニーって子どもだましでダサいよね」「あそこって、おじさんとかおばさんが行く場所でしょ」と思われるようになれば、一気に凋落していく可能性すらあります。

 

 

「若者が減れば、40代以上にターゲットを変えればいいじゃないか」そんな声もあるでしょう。もちろん、シニア層向けの割引チケットの販売など、若年層の減った分を穴埋めすることは簡単です。しかし、目先の利益にとらわれて、20年後や30年後までの成長戦略は描けるでしょうか。外国人ゲストの集客に力を入れる。それも一つでしょう。しかし、為替相場の変動や、コロナ禍のような感染症の流行があれば、インバウンド需要は吹き飛んでしまいます。

 

東京ディズニーリゾートのオフィシャルスポンサー(協賛企業)にとっても、この問題は深刻です。スポンサー企業は、ファミリー層や若者がパークを訪れるからこそ、高額な契約金を払って、パーク内施設の協賛を続けています。購買力が高い層に向けてブランドを押し出すことで、ブランドイメージの向上や将来顧客の獲得、売り場での認知度の向上につながるからです。

 

 

中高年やシニア層ばかりのパークに、どこの企業が協賛したいと考えるでしょうか。かつて、地上波のテレビでは多くの時代劇が放送されていました。しかし、視聴者層が高齢化し、若者が見なくなってしまった結果、どのスポンサーも広告出稿をしなくなりました。結果的に放送枠が激減しています。

 

最近よく見かける、1990年代や平成初期に人気だったコンテンツのリバイバル。これも子どもたちや若年層が減ってしまったために、可処分所得が増えた「かつての子どもたち」に、ターゲットを絞って商品展開をしているのです。

 

 

日本人の年齢層で、一番多いのは第二次ベビーブームで生まれた「団塊ジュニア世代」と呼ばれる人たちです。現在の50歳前後に当たります。あと10年もすれば、この人たちは高齢者の仲間入りをしていきます。2024年10月現在の日本の高齢化率(65歳以上の人口の割合)は29.1%。すでに日本人の1/3近くは、おじいちゃん・おばあちゃんです。それに対して、2023年の日本の出生数は約73万人。20年前の2003年は約112万人ですから、これからもっと少子高齢化が加速していくでしょう。

 

オリエンタルランド社は、今後どのような成長戦略を描いていくのでしょうか。入園者数は増やしたいが、混雑は抑えたい。平日と休日の入園者数を平準化したいが、混雑度は上げたくない。客単価は引き上げたいが、節約志向は高めたくない。人件費などのコストは削りたいが、エンタメを求めているゲストのニーズには応えたい。今後もジレンマは続くでしょう。

 

東京ディズニーランドでは、2026年度のオープンを目指して、映画『シュガー・ラッシュ』のアトラクションの建設が進んでいます。また、2027年度には「スペース・マウンテン」の抜本的リニューアルも行われる予定です。もちろん、クルーズ事業の準備も続いていきます。舞浜新聞は2025年も引き続き、変わりゆく東京ディズニーリゾートを見つめていきたいと思います。

 

 

合わせて読みたい

maihama.hateblo.jp

maihama.hateblo.jp

*1:一部のアトラクションでは、コロナ禍前のファストパスに似た「40周年記念プライオリティパス」が無料で配付されています。

*2:2023年2月1日に発売された、2023年4月1日入園分のチケットから利用できるようになりました。