5月12日、東京ディズニーシーに新アトラクション「ニモ&フレンズ・シーライダー」がオープンしました。オープンから1週間ほどが経ちましたが、連日多くの家族連れで賑わっています。
東京ディズニーシー「ニモ&フレンズ・シーライダー」©Disney
今回は、オリエンタルランドが最近進めている「家族連れの集客強化」について、少し考えてみたいと思います。
ストームライダーは刺激が強すぎた?
ニモ&フレンズ・シーライダーは、同じ場所にあった「ストームライダー」をリニューアルする形でつくられました。外観や内部の客席などは、かつての面影が残っています。
ストームライダーのクローズが2016年5月、シーライダーのオープンが2017年5月ですから、それほど大規模な工事をしていないのも分かります。
ストームライダーのクローズが決まった直後、ファンの間では「ポートディスカバリーの設定を無視するのか」という批判的な声が多く上がりました。これは、アトラクションがあったエリアのバックグラウンドストーリー(エリアの由来や設定など)と、ストームライダーが深く結びついていたからです。
ストームライダーは、東京ディズニーシーのコンセプトである「冒険とイマジネーションの海」を、象徴するようなアトラクションでした。しかし、小さな子どもやシニア層のゲストにとっては、少し刺激が強い施設だったことも事実です。
オリエンタルランドとしては、家族連れやシニア層のゲストも楽しく乗れるアトラクションとして、シーライダーへのリニューアルを決めたのでしょう。
もちろん、ディズニーとしても、新作映画である「ファインディング・ドリー」との相乗効果も期待できます。小さい頃から作品に親しんでもらえれば、映像ソフトやグッズの売上も見込めるからです。
シーライダーは、乗るたびに登場するキャラクターやシーンが異なります。これまでのシアター系アトラクションでは、シーンが同じだったため、飽きられやすいのが課題でしたが、シーライダーは何度乗っても楽しめるようになっています。
シーライダーと合わせてリニューアルされた「タートルトーク」とともに、家族連れの集客材料として、力を発揮するのではないでしょうか。
シーライダーとともに、リニューアルオープンした「タートルトーク」©Disney
お姫様サロンも、家族連れのため?
さて、ストームライダーと同様に、ファンからクローズを惜しむ声が上がったのが「ディズニーギャラリー」でした。舞浜新聞でも、以前の記事でクローズの理由や背景を分析しました。
過去の作品やキャラクターの魅力を伝えてきた「ディズニーギャラリー」。この跡地につくられたのが「ビビディ・バビディ・ブティック」です。東京ディズニーランドホテル内にもある、プリンセスへ変身できるサロンです。
ランドホテルにあるビビディは、連日多くのゲストで賑わっており、なかなか予約が取れないことで知られています。オリエンタルランドとしては、パーク内にも同様の施設を設けることで、混雑の分散化を図りたいと考えたのだと思います。
「スタジオアリス」などの写真スタジオもそうですが、着飾った自分の子どもの写真を見て、親は幸せな気分になります。ディズニーのプリンセスに変身させてくれるのであれば、多少の出費は惜しまないと考える人は少なくないはずです。
利益を生み出しにくいギャラリーを潰して、家族連れの集客と、客単価のアップが狙えるビビディに置き換えようと決めたのは、当然の流れだったのかもしれません。
©Disney
ランドセルも、家族連れの集客策?
ビビディ・バビディ・ブティックに加えて、オリエンタルランドが打ち出している「家族連れの集客」を象徴するアイテムが「ランドセル」です。実はパーク内では予約販売限定で、オリジナルランドセルの販売を行っているのです。
2018年モデル「プレミアムプラス」は、1個8万円(税込・配送料含む)となっている。©Disney
「どうしてパークでランドセルを?」と思う方も多いかもしれません。以前舞浜新聞では、ランドセル販売を行う理由について分析しました。
ランドセルはパーク内でしか買うことができませんので、家族連れが来園するきっかけになります。もちろん、お金を出す祖父母も一緒に来るかもしれません。
小さい子にとって、ランドセルは小学校6年間を一緒に過ごすものです。毎日使うものだからこそ、時々パークを思い出すこともあるでしょう。「またパークへ行きたい」と思ってもらえれば、来園のきっかけづくりにもつながるのです。
ランドセルは少子化の影響もあって、年々高級化しています。1個当たりの利益率も高いですので、それだけ多くの売り上げが見込めます。もちろん、ほかのグッズに比べて、販売個数はそれほど多くないかもしれません。しかし、家族連れの来園につながれば、ランドセル以上の価値を生み出してくれるのです。
どうして家族連れを呼びたいの?
そもそも、どうしてオリエンタルランドは、パークに家族連れを呼びたいのでしょうか。舞浜新聞では、その理由について、以下のように分析しています。
- パーク内で使う金額(客単価)が大きいから。
- 将来パークを訪れるゲストを育てるため。
一つ目は、やはり客単価が大きいからだと思います。家族連れで訪れた場合、3人~4人分のチケット代や食事代、お土産などのグッズ代、さらにはベビーカーやコインロッカーのレンタルなどを考えると、かなりの金額が動きます。
先ほども触れた「ビビディ・バビディ・ブティック」などのプログラムを利用してもらえれば、客単価はより大きくなります。
さらに、地方から来るゲストの場合、ホテルの宿泊代もかかります。オリエンタルランドが自社で提供している宿泊プラン「バケーション・パッケージ」を利用してもらえれば、利益率はかなり高くなるでしょう。
以前から、オリエンタルランドが推し進めている「3世代ディズニー」も、家族連れの集客強化と重なります。金銭的に余裕のあるシニア層が、子どもや孫の世代と訪れれば、その分だけ金額も大きくなるでしょう。孫のためなら、少し高いホテルやレストランでも…というおじいちゃん・おばあちゃんも多いのではないでしょうか。
二つ目は、将来のゲストを育てるという狙いです。小さい頃にパークを訪れて、喜びや感動を味わって育った子どもたちは、成長しても「パークへ行きたい」と思うはずです。学生の頃は友人と一緒に、子どもができれば今度は家族みんなで、というような流れでしょう。
もし、「結婚式はシンデレラ城でやりたい」「ディズニーホテルで披露宴がしたい」と考えるゲストが育ってくれれば、そのぶんだけ婚礼需要も大きく伸ばせます。ホテルにとって、婚礼は単価や利益率が高く、儲かるのです。
シンデレラ城を式場として使う「ディズニー・ロイヤルドリーム・ウェディング」50名で770万円となっている。©Disney
いかに血を濃くしないで、新しいゲストを獲得するのか。オリエンタルランドとしては、年間パスポートで一年間に何度も訪れる「ハードリピーター」を大切にしながら、将来にわたって安定的に集客するために、知恵を絞っていると思われます。
「ランドはちびっ子」「シーは大人」の考えはもう古い?
東京ディズニーシーが開園した2001年当時、ランドはちびっ子がいる家族向け、シーはカップルや夫婦といった、大人向けのコンセプトが目立っていました。
©Disney
しかし、現在のパークを見ていると、その考えはもう古くなっているのかもしれません。シーでは「トイ・ストーリー・マニア!」に代表されるように、ファミリー向けのアトラクションがたくさん導入されています。
グッズを見ていても、ダッフィーフレンズに新しく仲間入りした「ステラ・ルー」は、F1層(若い女性)というより、小さな女の子向けのキャラクターのように感じます。7月11日からドックサイドステージで始まる新ショー「ステップ・トゥ・シャイン」も、おそらくファミリー向けのショーになるのではないでしょうか。
ジェラトーニ(左)とステラ・ルー(右)ダッフィーフレンズとして、多くのゲストの人気を集めている。グッズの売れ行きも好調だ。©Disney
オリエンタルランドとしては、ターゲットとなる顧客層をランドとシーで分けるよりも、ランドを訪れたゲストにはシーにも、シーを訪れたゲストにはランドにも、それぞれ来てほしいと考えているのかもしれません。成功すれば、それだけリピーターが増え、客単価も伸ばせるからです。
現在、パークの開発工事が進むランドよりも、シーへ集客したい。入園者数を適正レベルにコントロールしながら、開発のためのキャッシュフローを積み上げたい。オリエンタルランドのファミリー集客強化策には、そんな意図も透けて見えます。
ランドで建設工事が進む「美女と野獣エリア」2020年春のオープンを目指している。©Disney
2020年の東京オリンピックに向けて、少しずつ変化し始めた東京ディズニーリゾート。今後の動きにも注目していく必要がありそうです。
©Disney