9月2日、ミリアルリゾートホテルズは、4つ目となるディズニーホテル「東京ディズニーセレブレーションホテル」を開業させることを発表しました。
今回は新しいディズニーホテルについて、舞浜新聞独自の視点で、いろいろと考えてみたいと思います。
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どんなホテルができるの?
ミリアルのプレスリリースによると、ホテルが造られるのは、東京ディズニーリゾートのある舞浜地区ではなく、同じ浦安市内の新浦安地区になります。ミリアルの子会社であるブライトンコーポレーションが運営する「パーム&ファウンテンテラスホテル」をリニューアルする形で造られる予定です。
パームテラスホテルとファウンテンテラスホテルが、それぞれ並んでいる(ホテル公式ウェブサイトより引用)
開業に伴う改装費用は、約30億円。宿泊特化型のホテル*1を目指すとしており、既存のディズニーホテルのように、婚礼や宴会は行わないようです。
またパーム&ファウンテンと同様に、レストランではなくカフェ(朝食専用施設)のみとなります。館内や客室は、パークをイメージした内装となり、より親しみやすいデザインのホテルに生まれ変わります。
セレブレーションホテルのロビーイメージ(プレスリリースより引用)
セレブレーションホテルへのリニューアルに伴い、ファウンテンテラスホテルは来年2月27日で閉館、パームテラスホテルは来年6月1日で閉館となる予定です。閉館時期をずらすのは、改装に伴う閉館によって、できるだけ客室収入が減ることを防ぐためでしょう。
具体的なオープン日はまだ発表されていませんが、旧ファウンテンテラスが2016年6月に開業、旧パームが2016年秋に開業が予定されています。
2つの棟に分かれていることから、片方は東京ディズニーランド、もう片方は東京ディズニーシーをイメージした内装にする、という可能性も十分ありますね。
なお、セレブレーションホテルの経営・運営については、引き続きブライトンコーポレーションが行う予定です。既存のディズニーホテルは、ミリアルが直接経営・運営していますので、セレブレーションだけは切り離したままとなるようです。これについては、ブライトンの決算の数字をよくしたい、という考えもあるのかもしれません。
ちなみに、アメリカ・フロリダにあるウォルト・ディズニー・ワールド近くには、ディズニーが造った住宅地「セレブレーション」があります。ここにはディズニーワールドのゲスト向けのホテルもありますので、セレブレーションの名前は、ここの地名から来ているのかもしれません。
今回の発表は「寝耳に水」
ミリアルから新ホテル開業が発表される前日、9月1日に一つの商標が話題になっていました。
オリエンタルランドとライセンス契約を結ぶ「ディズニー・エンタープライゼズ・インク」が、「TOKYO DISNEY CELEBRATION HOTEL」という商標を登録していたことが明らかになったのです。
この知らせに対して、Twitterやディズニー関連のブログでは「第4のディズニーホテルか?」「もしかして、東京ベイNKホール跡地に造る、新しいホテルの名前か?」などと大きな反響を呼びました。
【記事更新】ディズニーエンタープライゼズインク、「TOKYO DISNEY CELEBRATION HOTEL」の商標を出願、公開 http://t.co/gJYuceVuzQ
— dpost.jp (@dpostjp) 2015, 9月 1
私もこの知らせに、てっきり「NKホール跡地に造る、新しいホテルの名前」と思いこんでしまいました。オリエンタルランドの株主総会でも、経営陣から「NKホールの跡地はホテル用地になっている」と明言されていたからです。
そんな話題で盛り上がった翌日に、ミリアルから発表されたプレスリリース。私はまさかミリアルがパーム&ファウンテンのテコ入れのために、ディズニーブランドを使ったホテルにリニューアルするとは、夢にも思いませんでした。まさに「寝耳に水」予想の斜め上を行く展開に、思わず言葉を失いました。
どうしてパーム&ファウンテンをディズニーホテルにするの?
パーム&ファウンテンは、東京ディズニーリゾートのある舞浜地区ではなく、少し離れた新浦安地区にあります。パークからはシャトルバスで約15分ほど。周辺には同じパートナーホテルになっている「オリエンタルホテル東京ベイ」「三井ガーデンホテルプラナ東京ベイ」「ホテルエミオン東京ベイ」や、同じくブライトンホテルが運営する「浦安ブライトンホテル東京ベイ」があります。
パーム&ファウンテンはパークから離れているため、利便性ではディズニーホテルやオフィシャルホテルに劣ります。そのぶん、宿泊価格は抑えられており、地方からのファミリー向けに人気があるホテルです。
私も以前パームテラスのほうに泊まったことがあるのですが、風呂が少し狭く感じたくらいで、客室にはとくに不満はありませんでした。
ただ、ディズニーホテルと比べると、客室単価は低く、稼働率も低めになっていました。新浦安地区の場合、駅から近いオリエンタルやブライトン、大浴場があるエミオンや三井プラナ*2と比べると、どうしてもパーム&ファウンテンの人気が低いという現状もありました。
パーム&ファウンテンと既存のディズニーホテルの客室稼働率の比較。2013年度は30周年イベント効果で稼働率を大きく引き上げた。
また、周辺では現在、ホテルの増築・新築計画が進んでいます。以下はその計画の一覧です。
- 大和ハウス(311室) 2017年7月 開業予定
- マウンテンフット(640室) 2017年7月末 開業予定
- ホテルエミオン新館(204室) 2017年12月上旬 開業予定
東京ディズニーランドが35周年を迎える2018年には、新浦安地区ではホテル戦争が起きるとみられています。そんな中で、手をこまねいていては、パーム&ファウンテンはさらに客を奪われてしまうのではないか…。ミリアル社内では、そんな考えもあったのかもしれません。
おそらく、苦戦しているパーム&ファウンテンのテコ入れ策として、今回のディズニーホテルへのリニューアルが決まったのでしょう。ディズニーホテルに転換すれば、稼働率に加えて、客単価も簡単に引き上げることができるからです。
ミリアルでは、既存のディズニーホテルの客単価が約5万円なのに対して、セレブレーションホテルでは、約3万円を見込んでいます。また、年間稼働率も80%台後半から90%を想定しています。
オリエンタルランドとしても、地方のファミリー向けに、より低価格帯のディズニーホテルを提供したいという考えもあったと思われます。新しいホテルを建設するよりも、少ない投資金額でディズニーホテルが建てられるというのも、魅力的に映ったかもしれません。
またパーム&ファウンテンは、2005年2月の開業から今年で10年を迎えることから、そろそろ客室の改装が必要になっていました。どうせ全館改装を行うのなら、それに合わせてディズニーホテルに転換すればいい、そんな考えもあったのかもしれません。
セレブレーションホテルのオープンによって、オリエンタルランドが自社で提供している旅行プラン「バケーション・パッケージ」に、新しくディズニーホテルを組み込むことができるようになります。
地方のゲストの中には、「どうせ朝から夜までパークにいるのなら、できるだけホテル代は抑えたい」と考えている方が多いと思います。そんな客層に対して、ディズニーホテルだけの付加価値を付けた宿泊プランを、より低価格で提供できるようになるでしょう。
ちなみに、低価格帯のディズニーホテルの導入は、ディズニー・バケーション・クラブの会員にとっても、メリットがあります。日本の会員の場合は、既存のディズニーホテルでポイントを使うことが多いのですが、ヴィラではないため、宿泊に必要なポイントがかなり高いという問題がありました。
セレブレーションホテルの場合、もともとの客室単価が低いですので、おそらく必要なポイント数も抑えられると思います。そうなると、日本の会員だけではなく、北米の会員も低いポイントを使って、ディズニーホテルに宿泊することができるようになるのです。これは急増するインバウンド対策にもなりそうですね。
どうしてブライトンホテルではなかったの?
同じブライトンが運営しているホテルの中には、新浦安駅前にある「浦安ブライトンホテル東京ベイ」があります。どうしてこちらではなく、パーム&ファウンテンがテコ入れに選ばれたのでしょうか。
浦安ブライトンホテル東京ベイ(公式サイトより引用)
浦安ブライトンについては、パーム&ファウンテンとは違って「駅に近い」という最大の武器があります。浦安ブライトンは修学旅行などの団体利用に加えて、各種団体の宴会需要や婚礼需要があります。わざわざディズニーブランドを導入しなくても、周辺のホテルと戦えるだけの力を持っています。
ただ浦安ブライトンは、開業が1993年。2003年~2006年にかけて客室改装が行われましたが、そろそろ2回目の客室改装が必要になってくる時期です。これについては、今後ミリアルから新しい発表があるかもしれませんね。
NKホールの跡地はどうなるの?
以前、舞浜新聞では、こんな記事を書いたことがあります。
商標登録の第一報を聞いたときに、いよいよNKホール跡地の利用策について発表されるのかな?と、淡い期待を抱いていました。しかし、結局それは叶いませんでした。
オフィシャルホテル群の中に立っていた東京ベイNKホール。現在は解体工事が進んでいる。
今回のセレブレーションホテルの発表によって、NKホールの跡地利用策について、ますます分からなくなってきました。NKホール跡地はオフィシャルホテルのエリア内にありますが、既存のディズニーホテルと比べると、パークからの距離は遠くなります。もし仮にディズニーホテルを建てるとしても、オフィシャルホテルとガチンコ勝負になるでしょう。
セレブレーションホテルのように、低価格帯のディズニーホテルとして、独自色を発揮すれば、周辺のホテルとも十分戦えるのではないか?という意見もあるでしょう。
しかし、周りにライバルとなるオフィシャルホテルがありますので、収益面を考えると、それほど価格を抑えることは難しいのではないでしょうか。かといって、高くしても、既存のディズニーホテルと比べて立地はよくありませんし、オフィシャルホテルの中で埋没してしまう危険性すらあります。
さらに、シェラトン・グランデ・トーキョーベイ・ホテルが、2017年2月の開業を目指して、新館の増築に手をつけています*3。2018年の開業30周年に向けた客室改装で、完成すれば総客室数が1,000室を超える巨大ホテルに生まれ変わります。
熾烈を極める舞浜でのホテル戦争を勝ち抜くためには、ディズニーバケーションクラブのヴィラを併設して、一部客室の不動産所有権を売却したり、ファミリー向けのキャラクター要素が強いホテルを建設したりする選択肢も残っていますが、可能性としては未知数です。
以前の記事でも書いた通り、立体駐車場の建設で、パーク拡張用地を確保するのか。それとも、ホテルを建設して、オフィシャルホテルとガチンコ勝負を繰り広げるのか。ますます先行きが分からなくなってきました。
さいごに
まさに「寝耳に水」となった、今回のミリアルからの発表。おそらく今回の発表については、株価対策という意味合いもあるのかもしれませんが、夏イベントとハロウィーンの合間の「話題づくり」を狙ったのではないでしょうか。
オリエンタルランドの経営陣は、ランドのファンタジーランド再開発や、シーのアナ雪エリアについて、今年中にも具体的なスケジュールや中身を発表するとしています。オリエンタルランドとしては、投資家の注目を集め、できるだけUSJの株式上場の陰に隠れないように、いろいろと考えているのでしょう。
今後もオリエンタルランドからの発表を、注視していく必要がありそうですね。
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資料として、東京ディズニーリゾート周辺にあるホテルの客室数を一覧にまとめたものを載せておきます。