新型コロナウイルスの流行が、再拡大する中でスタートした2021年。本来であれば、東京ディズニーランドの新エリア開業と東京五輪で、東京ディズニーリゾートには国内外から多くのゲストが訪れるはずでした。しかし、感染症によって集客もままならない状態が続いています。
今年(2021年)9月には東京ディズニーシーが開園20周年を迎えますが、いまだにアニバーサリーイベントの概要は発表されていません。さて、そんな波乱のスタートとなった2021年ですが、唯一の光と言えるのが、映画『トイ・ストーリー』をテーマにした、新しいディズニーホテルの開業です。
今回はホテル建設決定までの経緯から、オフィシャルホテルとの関係、さらには今後のディズニーホテルの将来像について考えていきたいと思います。
目次
ホテル建設決定までの経緯
トイ・ストーリー・ホテル(仮称)は、東京ディズニーランド・東京ディズニーシーのある舞浜地区で建設が進められています。場所は、ホテルオークラ東京ベイとヒルトン東京ベイの間。オフィシャルホテルが立ち並ぶエリアに、5番目のディズニーホテルとして誕生する予定です。
建設工事が進むこの場所には、かつて「東京ベイNKホール」というコンサートホールがありました。1988年の開業以来、テレビ朝日の年末特番「ミュージックステーション スーパーライブ」の会場として使用されたほか、多くのアーティストのライブやコンサート、格闘技の試合が開催されました。
東京ベイNKホール(2012年2月撮影)
2004年6月、施設を所有していた第一生命保険が「竣工後16年を経て設備更新のタイミングに入っており、今後莫大な追加投資が見込まれる」ことを理由に、閉鎖を発表。当初は2005年6月30日で閉鎖される予定でしたが、2005年7月10日に開催されたw-inds.(ウィンズ)のライブツアーが最終興行となりました*1。
その後、地図からは名称が削除されたのですが、施設自体は解体されることなく、そのまま残っていました。2011年6月には「千葉県震災復興フェア」の会場になるなど、敷地の一部が活用されることもありました。
ただ、第一生命はこの場所を放置していた、というわけではありません。千葉県環境審議会温泉部会に対して、第一生命から温泉掘削の申請があり、2005年6月の審議で「許可が相当」という答申が出るなど、温泉を使った施設の建設は想定していたと思われます。しかし、跡地活用は進展しませんでした。
状況が大きく動いたのは、2013年12月24日でした。東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドが、第一生命から旧NKホールの施設と土地を93億円で買収したと発表したのです。舞浜地区に残された数少ない未利用地ということで、ファンの間ではどのように利活用されるのか、期待が高まりました。
「立体駐車場を新設するのでは?」「新しいホテルかも」「ディズニークルーズラインの客船ターミナルでは?」といった意見が出たのですが、オリエンタルランドからは「当該土地の具体的な活用方法については、今後社内で検討してまいります」という説明にとどまりました。
その後、2014年6月に行われたオリエンタルランドの株主総会の中で、株主からNKホール跡地について質問が出されたことも。経営陣からは「ホールは老朽化のため使えない」「跡地は『ホテル用地』として申請・届出している場所である」ことが明かされて、大きな話題になりました。
かつてオリエンタルランドは、新浦安地区で低価格帯ホテルとして「パーム&ファウンテンテラスホテル」を開発した経緯があります。また、2013年2月に4つのホテルを持つブライトンホテルコーポレーションを買収するなど、ホテル事業を強化する動きがありました。株主総会での回答を受けて、一気にホテル新設に対する期待感が高まっていきました。
2015年からは旧NKホールの解体工事が始まり、2018年11月、ついにオリエンタルランドは、映画『トイ・ストーリー』シリーズをテーマにした、新しいディズニーホテルを建設することを発表。すでに2016年6月には、上海にトイ・ストーリー・ホテルが開業していましたので、ファンの間では「東京にも同じものができるのでは?」といった待望論も上がっていました。その一方で、周辺のオフィシャルホテルへの影響を危惧する声もありました。
上海にある「トイ・ストーリー・ホテル(玩具総動員酒店)」
建設計画の発表時に出されたイメージアート
新しいホテルは、地上11階・地下1階で、客室数は約600室。プレスリリースでは、「すべての客室をスタンダードタイプで統一」「付帯施設はレストランなど宿泊に特化する」としており、婚礼や宴会向けの施設は設けないとしています。2016年6月に開業した「東京ディズニーセレブレーションホテル」と同様に、宿泊特化型のホテルになるでしょう。
ディズニーホテルへの業態転換で誕生した「セレブレーションホテル」学校団体を中心に、コロナ禍前までは稼働率も好調だったようだが…。
ホテルのバックグラウンドストーリー(世界観の設定)について、プレスリリースでは、以下のように説明されています。
ストーリーは、少年アンディが裏庭でとびっきりのプロジェクトに取り掛かるところから始まります。それは、大切にするウッディ、バズ・ライトイヤーや自分のおもちゃたちみんなが住めるおもちゃタワーを作るという壮大なものでした。アンディがママに呼ばれて家に戻ると、おもちゃたちはアンディが作りかけたおもちゃタワーの建設を引き継ぎます。そして、世界中のおもちゃのためのホテルとして完成させたのです。
映画の世界観を身近に感じられる施設になりそうですね。なおこれ以外に、外観や客室のコンセプトアートなどは、一切発表されていません。また2021年1月現在、ホテルの正式名称も公にはなっていません。
遠くからでも目立つ外観
トイ・ストーリー・ホテル(仮称)で一番特徴的なのは、その外観でしょう。ホテルの計画発表当初、ファンの間では「上海の施設をモデルにつくられるのではないか」といった声がありました。しかし、2020年3月頃からSNSでアップされるようになった写真から、状況が少しずつ変わっていきます。それは建設現場に置かれた、ある資材を写したものでした。
「トイ・ストーリーホテル(仮)」の建設現場に置かれているサンプルヤード。中央に窓ガラスがはめ込まれているから、これが外観になるのかな…?PC(プレキャスト鉄筋コンクリート)工法の壁にそっくりなんだよね😅 pic.twitter.com/ONtJCVrciw
— 舞浜新聞 (@maihama_shimbun) 2020年3月15日
この建設資材の写真が拡散すると、SNSでは「これがホテルの外観になるの?」「思ってたよりも派手な色づかい」という意見がたくさん上がりました。私自身、周辺のオフィシャルホテルがベージュ色の控えめなデザインになっているため、わざわざ派手な色づかいにはしないと思っていました。
しかし、建設工事が進むにつれて姿を現したのは、原色が使われた特徴的な外観でした。もちろん、上海にあるホテルとは大きく異なります。
映画『トイ・ストーリー』シリーズは、おもちゃたちが主人公のため、こういったポップな色づかいは理解できます。ただ周辺のオフィシャルホテルと比べると、どうしてもその外観が浮いているようにも思えます。計画発表当初から、外観のコンセプトアートを一切出していないのは、周辺ホテルからの反発を恐れていたのではないか、と勘ぐってしまうほどです。
ちなみに、東京ディズニーシー内からもホテルの外観は見えるのですが、パーク内から見える部分だけ、ベージュ色になるようにデザインされています。ディズニーらしい緻密な設計と言えるでしょう。
S.S.コロンビア号の甲板からの風景。シェラトンから見切れている部分だけ、ベージュ色に見える。
ただ、遠くからでも目立つ外観は、小さな子でも見ていてワクワクするデザインだと思います。初めて訪れた人でも「あれが新しいホテルか」とすぐに視認できるはずです。今後、ホテル内の施設や客室がどのようなデザインになっているのか、オリエンタルランドからの発表を待つことにしましょう。
どうして煙突があるの?
2018年11月の発表以来、NKホール跡地では新ホテルの建設工事が進められてきました。しかし、ファンの間では「何か施設のようなものが残っているけど、そのまま工事するの?」といった疑問の声が上がっていました。
2015年からNKホールの建物は解体が始まったのですが、その後、更地になることはなく、大きな煙突と扇形の施設が残されたままだったのです。冬になると煙突からは白い煙が出ており、地下に何らかの施設が残っていることが予想されました。
トイストーリーホテルの工事現場。海側では地盤改良工事が行われてる。やっぱり地下施設はそのままにするのかな…? pic.twitter.com/ZgeT0JVpA5
— 舞浜新聞 (@maihama_shimbun) 2019年11月3日
トイストーリーホテル(仮称)の建設現場。地下のエネルギー施設は今日も稼働してるみたいだから、そのまま残して建てるのかな…?かなりの難工事になりそう☹️ pic.twitter.com/gF75Vbkspe
— 舞浜新聞 (@maihama_shimbun) 2019年12月30日
ホテルの建設計画が発表された後も、地下施設はそのままの状態に。工事事務所は扇形の施設の上に建てられていて、「どのようにホテルを建てるのだろう?」と多くの方が興味津々でした。実は、建築計画を知らせる看板には、地下に「エネルギーセンター」が埋設されていることが書かれていたのです。
旧NKホールの地下には、隣接するヒルトン東京ベイとホテルオークラ東京ベイが使う施設が残っていて、両ホテルの中水処理やエネルギー供給を担っています。新しく建設されるホテルや立体駐車場は、この地下施設をうまく避けるようになっており、煙突もそのまま残されているのです。
オリエンタルランドが第一生命から土地を購入した後、ホテル計画の発表に5年もの時間がかかったのは、土地の利用計画に加えて、地下施設を残しながらどのように開発するのか、様々な検討を重ねてきたからだったのではないか、と推測されます。
隣接するホテルオークラ東京ベイからの景色。煙突からは白煙が上がり、エネルギーセンターの上に工事事務所が設置されているのがよく分かる。
旧NKホールの地下施設については、ni_gataさんがブログで詳しく解説されています。
ディズニーホテルにおけるランク
現在、東京ディズニーリゾートではトイ・ストーリー・ホテル(仮称)に加えて、東京ディズニーシーの新エリアに直結するホテルの建設も進められています。
TDS新エリアについては、こちらの解説記事をどうぞ。
新テーマポート「ファンタジースプリングス」に直結する、新しいホテルの客室数は475室。プレスリリースには「デラックスタイプの客室に加え、一部は、東京ディズニーリゾートで最上級の宿泊体験を提供するラグジュアリータイプの客室で構成」としていますので、ディズニーホテルの中で最上級クラスのホテルになるでしょう。
東京ディズニーリゾートでは現在、ディズニーホテルは「デラックスタイプ」と「バリュータイプ」の2クラスに分かれています。
デラックスタイプの「ディズニーアンバサダーホテル」「東京ディズニーシー・ホテルミラコスタ」「東京ディズニーランドホテル」の3施設は、宴会場やレストランを抱えており、宿泊だけではなく、婚礼・宴会にも対応しています。その一方で、バリュータイプの「東京ディズニーセレブレーションホテル」は、宿泊料金は割安に設定されているものの、浴室が小さかったり、レストランが朝食のみの営業だったりするなど、サービスに制約があります。
ただ、ディズニーアンバサダーホテルでは、最近になってサービスの縮小が続いています。客室内のミニバー廃止、ルームサービスの廃止、客室までの案内廃止など、だんだんとバリュータイプのホテルに近づいている印象さえ受けるくらいです。
サービス縮小が続く「ディズニーアンバサダーホテル」
ファンタジースプリングス直結の新ホテルができれば、以下のようなランク分けになると思われます。
富裕層やインバウンド(外国人観光客)向けのラグジュアリータイプから、お手軽に安く泊まれるバリュータイプまで、幅広い層に対応できるようになるでしょう。一般的に「ディズニーホテルは高い」と言われますが、今後は選択肢が増えていきそうですね。
敵か、それとも仲間になるのか
2000年7月、日本で初めてのディズニーブランドホテル「ディズニーアンバサダーホテル」が開業しました。その後、舞浜地区にはディズニーホテルが続々と誕生しています。そのたびに「客を奪われるのではないか」と戦々恐々としていたのは、オリエンタルランドと契約を結ぶ「オフィシャルホテル」でした。
東京ディズニーランドの開園当時、1日目はパーク、都内のホテルに泊まって2日目は都内観光というパターンが一般的でした。舞浜地区にあるオフィシャルホテルも、家族連れよりもカップルの利用が多かったぐらいです。その傾向が変化してきたのは、2001年の東京ディズニーシー開業でした。
オリエンタルランドも「テーマパークからテーマリゾートへ」というスローガンを掲げていたこともあり、舞浜地区のホテルに泊まって、2日間以上テーマパークに通うスタイルが一般的になっていったのです。もちろん、家族連れで舞浜に宿泊するケースも増えていきました。今ではおなじみの「バケーションパッケージ」は、2005年春から販売が始まりました。
テーマパークの入園者数増加に合わせて、ディズニーホテルと切磋琢磨しながら、宿泊客数を増やしてきたオフィシャルホテル。オリエンタルランドとはまさに「一蓮托生」でしょう。トイ・ストーリー・ホテルやテーマパーク直結型の新ホテルの誕生は、舞浜へさらなるゲストを呼び込むことになるのか、それとも競争激化でオフィシャルホテルの敵になるのか…。新型コロナウイルスの終息が見通せない中で、舞浜ホテル戦争は先行きが不透明になっています。
ファン待望の新ホテル開業は「2021年度」とされています。個人的には、早くて夏、遅くとも9月までには開業すると考えています。ただ、東京ディズニーシー20周年イベントの開催時期によって、開業時期も大きく変更される可能性は高いでしょう。今は感染症の予防に努めて、舞浜からの吉報を待つことにしましょう。
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