6月8日、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンを運営する(株)ユー・エス・ジェイは、任天堂のキャラクターとその世界観をテーマにしたエリア「SUPER NINTENDO WORLD」の建設着工式を行いました。
今回はUSJに新しく登場する「任天堂エリア」に対して、東京ディズニーリゾートはどのように対抗するのかについて、少し考えていきたいと思います。
任天堂エリアは「東京五輪前の開業」
ユー・エス・ジェイから発表されたプレスリリースには、以下の内容が書かれています。
- 任天堂のキャラクターとその世界観をテーマにしたエリア「SUPER NINTENDO WORLD」を新たに開業
- USJが世界で初めて導入
- オープン時期は、東京オリンピックより前(2020年7月より前)
- 総投資金額は、600億円超
- ライド・アトラクション(最新鋭技術を活用した世界初ライド)、インタラクティブ・エリア、ショップ、レストランを有する二層構造の巨大複合エリア
- アトラクションは「マリオカート」をテーマにデザイン
今回の発表では「東京五輪前の開業」とされ、具体的な開業時期は示されませんでした。ただ、大型投資となった「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」は、2014年7月15日、夏休みシーズン前に開業しています。今回の任天堂エリアも、五輪直前の開業になる可能性はあるでしょう。
国内外で話題になった「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」
また、客足が落ち込む4月~ゴールデンウィーク前に開業させて、五輪が開催される7月に備える、というスケジュールも十分考えられます。
任天堂エリアへの総投資金額は、600億円超となります。2014年のハリー・ポッターエリアのときは、約450億円が投資されていますので、今回はそれを上回る金額となります。建設計画の発表当初は「約500億円」としていたのですが、その後、100億円以上が上積みされました。
ユー・エス・ジェイの2014年度の決算を見ると、売上高が1,385億円、営業利益が390億円となっています。つまり、任天堂エリアは、ユー・エス・ジェイ1年分の営業利益を大きく上回る投資となる見込みです*1。
どこにできるの?
さて、建設工事が始まった「任天堂エリア」ですが、パークのどこにつくられるのでしょうか。
建設計画が発表された時点では「パーク敷地内の駐車場と、将来の拡張用地の一部」としか書かれていなかったのですが、今回の着工式で、立体駐車場と、ハリー・ポッターエリアの間につくられることが明かされました。
USJとしては、高い集客力が期待できる任天堂エリアを、エントランスから遠い場所に配置することで、より多くの場所にゲストを分散化したい、と考えたのかもしれません。
特に、エリア手前にあるウォーターワールドは、今後の拡張用地としても十分使える広さです。だからこそ、USJはこの場所を選んだのでしょう。
ちなみに、2016年3月の産経新聞の記事では、正面ゲートを入って左側、ステージ18(旧MBSスタジオ in USJ)とステージ33、ホンダのUSJ納車センターがある場所に、任天堂エリアが建設されると報道されていました。
大手メディアである産経新聞が、憶測だけで記事を書くとは思えません。また、記事が出た当時、USJから訂正要求や抗議が出なかったことも、気になります。これについては、想像するしかなのですが、おそらくUSJ内部でも、任天堂エリアの建設場所について、紆余曲折があったのではないでしょうか。
エントランスを入ってすぐの場所にある「ステージ18」は、もともと毎日放送のスタジオとして使われていた施設で、現在は期間限定イベントの会場となっています。また、隣接するステージ33も、期間限定での使用となっています。
単純に考えると、これらの施設を解体して、新エリアの建設場所として活用できそうです。しかし、周辺の土地との高低差や、2013年にオープンしたばかりの納車センターとの兼ね合いで、今すぐに活用することは難しかったのかもしれません。
ホンダカーズ大阪はUSJの協賛企業。メーカーの本田技研工業ではなく、ディーラー(販売店)が協賛企業を務めるのは、かなり珍しい。
また、日本独自のコンテンツを使った期間限定イベントは、USJの集客手段として、大きな力を発揮しています。そんなイベントの開催場所として使っている、ステージ18やステージ33を潰すことには、慎重になった可能性はあるでしょう。
毎日放送のスタジオとして使われていた「ステージ18」
何ができるの?
さて、任天堂エリアには、どんな施設ができるのでしょうか。プレスリリースには、コンセプトアートとともに、以下のように書かれています。
- 「マリオカート」をテーマにしたライド・アトラクション
- インタラクティブ・エリア
- ショップ
- レストラン
エリアのコンセプトアート(プレスリリースより引用)
ライド・アトラクションは、人気ゲームである「マリオカート」がテーマになる予定です。インタラクティブ・エリアは、実際にマリオの世界を体験できるものではないかと思います。最近流行している「VR(仮想現実)」を利用したものや、実際に触れて感じることができるものが考えられます。
ショップはマリオの世界にも出てくるお店になるかもしれません。レストランは、ピーチ姫の城がピッタリではないでしょうか。
ただし、いずれの施設も詳細な発表はありませんので、あくまでも推測です。今後のユー・エス・ジェイと任天堂、ユニバーサル・パークス&リゾーツとの交渉によって、計画は大きく変わるかもしれません。
なお、ハリー・ポッターエリア(約42,300平米)の施設構成は、以下のようになっています。
- メインアトラクション「フォービドゥン・ジャーニー」約300億円(推定*2)
- サブアトラクション「ヒッポグリフ」約100億円(推定)
- ショップ 8か所(アトラクション内含む)
- レストラン 2か所
- レストルーム 2か所
任天堂エリアでも、メインアトラクションは300億円規模になる可能性が高いでしょう。東京ディズニーランドのファンタジーランド拡張で、新しく建設される予定の『美女と野獣』ライドは、約320億円となっています。それに負けないものに仕上がるのは、間違いないでしょう。
2020年春オープン予定の『美女と野獣』ライドのコンセプトアート(オリエンタルランドのプレスリリースより引用 ©Disney)
東京ディズニーリゾートは、どう対抗するのか?
2020年のオープンに向けて、工事が始まったUSJの任天堂エリア。任天堂のゲームは世界的な人気を誇っていますので、東京オリンピックをきっかけに、USJを訪れる外国人観光客は、ますます増えていくでしょう。
問題は、ライバルである東京ディズニーリゾートの動向です。
©Disney
東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは、2016年4月、東京ディズニーランドと東京ディズニーシーの開発計画を発表しています。また、2017年4月には、東京ディズニーランドの「グランドサーキット・レースウェイ」跡地で、大規模開発工事の起工式を行いました。
開発計画の詳しい内容については、こちらをどうぞ。
オリエンタルランドは、年間3,000万人レベルの入園者数を安定的に確保するため、そして、年々激しくなっている混雑を緩和するために、パークの大規模開発を決断したと発表しています。
当初発表していた計画より、少し規模が縮小となってしまいましたが、『美女と野獣』や『ベイマックス』のライドは、世界で唯一の施設になる予定です。シーの「ソアリン(仮称)」は2019年度、ランドの『美女と野獣』や『ベイマックス』のライドは、2020年春の開業を予定しています。
2020年春オープン予定の、東京ディズニーランド大規模開発コンセプトアート(オリエンタルランドのプレスリリースより引用 ©Disney)
(オリエンタルランドが報道関係者向けに公開した建築模型をもとに、舞浜新聞が目測で位置を描いた。)
東京オリンピックを目前にして、USJの任天堂エリアとほぼ同じタイミングで、東京ディズニーランドの新エリアもオープンする予定です。オリエンタルランドとしては、今回の大規模開発は、USJへの対抗策としての意味合いもあるかもしれません。
ここで、読者の皆さんに質問です。「任天堂のゲームユーザー」と聞くと、男性と女性、どちらを先にイメージするでしょうか。
もちろん、ソフトによっても変わると思いますが、多くの人が「男性」をイメージすると思います。特にマリオは、女性よりも男性が多く遊ぶタイトルというイメージがあります。
「でね、もっと面白いのが、3DSのハード購入者の属性。全体の男女比は男性69%、女性31%という偏りなんですが、どうぶつの森と本体を同時に買った人に限定すると、男性44%、女性56%になる。これね、ちょっと唖然(あぜん)とするほどの数字なんです」
日経新聞によるインタビューでの、任天堂の岩田聡社長(当時)の発言。3DSの購入者は男性のほうが多いことが分かる*3。
ただ、実需化できていない部分というのが女性層で、任天堂はニンテンドーDSやWiiの時代には、お客様の男女比がほとんど1対1でしたが、ニンテンドー3DSでは、やや男性寄りとなっています。
それでも、女性のお客様は他社さんのゲーム機と比べると多いのですが、私たちの強みとして、年齢性別を問わず受け入れていただけるというゲーム人口拡大路線以降の流れからすると、やはりその面が少し弱いと思います。
ですから、「国内の課題は実は女性のお客様で、それも年齢の低いお子様から一定以上の年齢の大人の女性、あるいはシニアの女性までアピールできるかどうか」ということが、これからの伸びしろを決めると思っています。
2015年5月8日の任天堂「2015年3月期 決算説明会」での、岩田聡社長(当時)の発言。任天堂としても、女性ファンの獲得は至上命題だと言えるだろう。
セガのゲームスタイル研究所の記事によると、家庭用ゲーム機や携帯型ゲーム機の場合、女性よりも男性のほうがユーザーが多いことが分かります。スマートフォンになると、男女関係なく持っていることもあり、男女比がほぼ均等になるのです。
2014年にオープンしたハリー・ポッターエリアと比べると、任天堂エリアはどうしても「男性」「男の子」のイメージがあるエリアなのです。一方の東京ディズニーリゾートを見ると、『ベイマックス』は男女関係ないタイトルですが、『美女と野獣』は典型的なプリンセス・ストーリー、つまり「女性」「女の子」向けのタイトルです。
ディズニーファンから、根強い人気を誇る『美女と野獣』2017年3月には、エマ・ワトソン主演による実写版が公開されて、北米・日本ともに大ヒットを記録している。
東京ディズニーリゾートの場合、ゲストの約70%は女性です。最近のパーク運営を見ていると、男性よりも、女性や女の子向けの施策が目につきます。営利企業であれば、より多くの客に合わせて、運営を変えていくのは当然でしょう。
オリエンタルランドが発表している、東京ディズニーリゾートの男女別来園者比率。近年の男女比は3:7で推移している。(オリエンタルランド公式ウェブサイトより引用)
つまり、USJの任天堂エリアと、東京ディズニーリゾートの開発では、ターゲットとなる客層がすみ分けられているのです。もちろん、実際に開業してみないと、どんな客が訪れるのかは分かりません。
2016年12月に登場した「スーパーマリオラン」のように、今後は任天堂もスマートフォン向けにコンテンツを供給していくと思われます。あと3年後には、女性ファンを獲得している可能性すらあります。
果たして、USJの任天堂エリアはどうなるのでしょうか。東京ディズニーリゾートにとって、脅威になりうるのでしょうか。個人的には、東京五輪が終わる2021年から、東京ディズニーランド開園40周年の2023年に向けて、東京ディズニーリゾートがどう変化していくのか、それによって今後の命運が決まるのではないか、と考えています。
まだまだ先の話ですが、これからのUSJと東京ディズニーリゾートに期待したいですね。
©Disney
おまけ
アメリカ・フロリダ州オーランドにある「ユニバーサル・オーランド・リゾート」には、USJにもあるホグワーツ城やホグズミード村に加えて、ハリー・ポッターの物語にも出てくる「ダイアゴン横丁」や「キングス・クロス駅」、さらには実際にゲストが乗車できる「ホグワーツ特急」もあります。
アトラクションに加えて、ショップやレストランが立ち並ぶ「ダイアゴン横丁」
リゾート内にある2つのパークを結ぶ「ホグワーツ特急」
もし、USJにダイアゴン横丁や、キングス・クロス駅がつくられるとしたら…という仮定で考えてみたのが、下の画像です。
パーク内施設の位置関係を考えると、ダイアゴン横丁はジョーズやウォーターワールド周辺に建設するのが、一番自然だと思います。縮尺はオーランドにある施設の大きさをもとにしています。ホグワーツ特急の想定ルートは、ホグズミード村の入り口横に、駅がつくられる想定で描いてみました。
ただ、オーランドにあるホグワーツ特急は、約600mの線路が敷かれています(駅の長さは含めず)。今回の想定ルートの場合、500mほどしか確保できません。オーランドと同じ演出は難しいと思われますが、途中で列車を止める演出などを加えれば、体験価値が損なわれることはないでしょう。
あくまでも、今回の画像は舞浜新聞による妄想です。2つのパークにハリー・ポッターのエリアがまたがっているオーランドと比べて、USJは敷地面積はあまり大きくありません。一つのコンテンツに偏るような開発は、実現する可能性は低いかもしれません。
参考リンク
*1:2015年度の決算については、米コムキャストによる買収のため「非公表」となっています。2016年7月1日「USJ、28年3月期の決算開示せず 「今年は義務なし」 - SankeiBiz」より。
*2:米オーランドにある同様の施設は、約2億6,500万ドル、日本円で約300億円となっています。
*3:2013年1月6日・日本経済新聞「任天堂・岩田社長が語る“本当の”ソーシャルゲーム「3DS」「Wii U」の逆襲(前編)」より引用。