舞浜新聞

東京ディズニーリゾートなどのディズニーパークをはじめとして、ディズニーに関する様々な情報をお伝えします。



日本と中国のテーマパーク戦争が始まる?

ディズニーパークは東京以外にも世界各地にあります。最初はアメリカ・カリフォルニア、続いてフロリダ、東京、パリ、香港の順に作られました。また2015年の開業を目指して、中国・上海にも新しいディズニーパーク建設が進められています。

 

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上海ディズニーランドのコンセプトアート ©Disney

 

実はこの建設中の上海ディズニーランドをめぐって、日本と中国の間で「テーマパーク戦争」が始まろうとしているのです。一体どういうことなのでしょうか。

 

「10年間で5,000億円」の投資計画が発表に

東京ディズニーリゾートを運営しているのは米国のディズニー社ではなく、日本のオリエンタルランドです。オリエンタルランドはディズニー社とライセンス契約を結び、パークを運営しています。ちょうどコンビニやガソリンスタンドが本部と「フランチャイズ契約」を結んで、店を経営するのと同じです。

 

今年の4月、オリエンタルランドから今後10年間で5,000億円という、かなり大規模な投資計画が発表されました*1。東京ディズニーランドの建設費が約1,800億円*2、東京ディズニーシーの建設費が約3,350億円*3ですから、5,000億円という金額がいかに大きいかが分かると思います。

 

舞浜新聞でも以前から記事の中で「大阪USJのハリーポッターエリアに対抗するためには、パークの大規模拡張が必要だ」「近いうちにオリエンタルランドから大規模な投資計画が発表されるだろう」と書いてきました。しかし、まさかパーク丸ごとを作り変えるだけの投資計画を出すとは想像もしていませんでした。

 

中国政府はオリエンタルランドを意識している? 

実はオリエンタルランドからこの投資計画が発表された翌日、日本経済新聞はこんなニュースを伝えています。

 

 

上海ディズニーリゾートはディズニー社と上海市政府が出資する企業によって運営される予定です。米国やパリ、香港と同様に、ディズニーによる直営パークとなります。

 

上海のパークへの投資額は当初290億元(約5,100億円)でした。しかし、上海市政府が発表した計画では、追加で50億元(約880億円)を投資するというのです。これによりアトラクションやレストランなどを増やして、パークの収容能力を年間700万人から1,000万人近くに引き上げる予定です。

 

オリエンタルランドが投資計画を発表したのは4月28日。上海市政府が追加投資を発表したのは4月29日。偶然にしては、あまりにも変だと思うのです。

 

東南アジアからの集客を狙うオリエンタルランド

オリエンタルランドは政府が推進している外国人観光客の誘致や、2020年の東京オリンピックを見据えて、東京ディズニーリゾートを訪れる外国人客を増やす計画を立てています。

 

東京のパークは、客のほとんどが日本人、特に首都圏からの客が多くを占めています。今後の少子高齢化や人口減少を考えると、いくら入園者数が多いからといっても安心してはいられません。そこで、今後増加が見込める外国人客の取り込みに動いているのです。

 

しかし、一言で「外国人客」といっても、ヨーロッパや北米から舞浜を訪れる人は少ないでしょう。もちろん熱心なディズニーファンなら話は別ですが、多くの外国人観光客にとって「ディズニーパークならウチの近くにもあるよ」といった感じだと思うのです。

 

ではオリエンタルランドが狙っているのはどこなのか。4月に発表された中期経営計画の中にはこのように書かれています*4

 

海外ゲストの受入体制の整備

成長の見込まれる東南アジアを中心とした営業活動の強化や、個人旅行の増加への対応としてEチケットの販売を開始するなど、集客強化に向けた取り組みを進めております。

 

オリエンタルランドとしては、今後経済成長が見込まれ、中間層が増えるであろう東南アジアからの集客を念頭に置いています。東南アジアですと、北米やヨーロッパのディズニーパークを訪れるのは、費用や時間を考えても難しいですからね。

 

さて、ここで先ほどの上海の追加投資が関係してくるのです。オリエンタルランドとしては、今後の外国人客獲得のためにも、外国人が「東京ディズニーリゾートに行きたい!」と思えるようにパークの価値をあげたい。だから5,000億円もの投資を決断したのでしょう。

 

しかし、上海市政府にとっても、自国の中間層や東南アジアからの観光客はメインターゲットであり、東京と重なってしまうのです。

 

オリエンタルランドの大規模投資計画があって、上海市政府が対抗策を打ち出したのか。それとも上海市政府の動きがあって、それを察知してオリエンタルランドが発表したのか。それに関して真相は分かりません。

 

しかし上海市政府には、日本の大企業であるオリエンタルランドへの対抗心もあると舞浜新聞は睨んでいます。少なくとも上海と東京は将来、客を奪い合うライバル同士になるのではないかと思うのです。

 

上海はディズニーにとっての試金石

舞浜新聞では建設が進む上海ディズニーランドについて、いくつかの未確認情報を含めて記事をまとめました。

 

 

建設計画を見ると、ディズニー社がこれまでのディズニーパークのコピーではなく、全く新しいパークを作ろうとしていることが分かります。上海が成功すれば、同じようなパークがほかの地域でも作られる可能性があり、上海はまさに今後のディズニーパーク成功を占う試金石なのです。ディズニー社のイマジニアたちが上海に集中しているという情報もあるくらいです。

 

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上海ディズニーランドのシンボルになる「Enchanted Storybook Castle(魔法がかかった物語の城)」©Disney

 

上海の開発に力を入れるディズニー社。ディズニー社としては、フランチャイズの東京よりも、資本関係がある上海のほうが優先順位が高いでしょう。今後成長が見込めるアジアからの客を取り込むためには、上海を絶対に成功させなくてはいけませんからね。そうなると、東京の開発は後回しになるのではないか、という懸念が出てきます。

 

香港の拡張も東京にとっては脅威

開園すれば、東京にとって強力なライバルとなる上海ディズニーリゾート。実はもう一つ、東京にとってライバルになりそうな場所があります。それは香港ディズニーランドです。

 

香港も開園前は「東京にとってアジアにおけるライバルになる?」といった声がありました。しかし敷地の狭さや、アトラクションの少なさ、そして中国本土から来る客のマナーの悪さ、といったマイナスイメージが先行してしまいました。

 

当初の見込みより中国本土からの客も少なく、香港は大苦戦。現在は新エリアオープンなどでパークの拡張も進み、なんとか2012年に経営は黒字転換しています*5

 

ディズニー社にとって、香港も上海と同様に、中国本土や東南アジアからの集客、そしてディズニーブランドの浸透に必要不可欠だと考えているはずです。実は香港のパーク周辺には、まだ開発されていない土地が広がっているのです。

 

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香港ディズニーランド上空から撮影した衛星写真。赤で囲んだエリアがディズニーパークです。周辺には茶色の未開発地が広がっているのがよく分かります。

 

現在香港では3つ目の直営ホテルや、映画『アイアンマン』をテーマにしたアトラクションの建設が進められています。今後、さらなる新アトラクションの導入やパークの拡張、そしてショッピングエリアや第2パークの建設も十分考えられます。特に香港はアナハイムのパークをそのまま持ってきていますので、上海のパークとはすみ分けが可能になっているのです。

 

香港がさらに成長していけば、東京の「外国人客の獲得」はますます絵に描いた餅になりかねません。香港のパークは香港政府が出資する企業によって運営されています。最近は香港政府に対して、北京の中央政府の介入が一層強くなっています。上海のように、中国政府が東京を意識して、香港の大規模拡張に協力する可能性は否定できないのです。

 

ユニバーサル・スタジオ・ジャパンも例外ではない

「日中テーマパーク戦争なんて、ディズニーのことだけでしょ?」「大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンは関係ないでしょ?」と思われる方は多いと思います。しかし、USJにとっても、中国は今後かなりの脅威になりうるのです。

 

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©Universal

 

ユニバーサル・パークス&リゾーツのトム・ウィリアムズCEOは10月12日、中国・北京にユニバーサルのテーマパークを2019年に開業させる計画を発表しました*6。北京へのパーク建設は以前から噂されていたのですが*7、ここにきて計画が動き始めたのです。

 

ユニバーサルはシンガポールにもあり、北京にパークができると、USJは中国本土や東南アジアからの客をかなり奪われてしまう可能性があります。さらに、計画発表の記者会見で出されたパークのコンセプトアートに大きな関心が集まりました。

 

実はこのコンセプトアートに、フロリダのユニバーサルに作られた「ダイアゴン横丁」や「ホグワーツ特急」と思われるアトラクションが描かれていたのです*8。ただ、計画の詳細についてはまだ発表されていませんので、あくまでも推測にすぎません。

 

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ユニバーサル北京のコンセプトアート ©Universal

 

USJは近畿圏だけではなく、海外からの集客も考えてハリーポッターエリアを導入しました*9。また、今後10年間はアジアでハリポタエリアの建設は認めないとする契約をユニバーサルと結んでいます*10。 

 

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USJにある「ホグワーツ城」©Universal

 

もし北京の開園時にハリポタエリアが導入されなくても、今後北京にフロリダにあるものと同様のアトラクションが建設されれば、USJが掲げる「海外からの集客」が看板倒れに終わってしまう可能性すらあります。

 

USJの運営会社はユニバーサルとライセンス契約を結んでパークを運営しており、出資などは受けていません。オリエンタルランドと同様にフランチャイズなのです*11。大阪と北京の優先順位を考えると、ユニバーサルにとっては今後も成長が望め、直営で収益が入ってくる北京を選ぶのではないでしょうか。もちろん、上海ディズニーランドへの対抗という意味も含まれてきます。

 

USJの運営会社は沖縄への進出*12や、中国の現地企業と手を組んで、テーマパークの運営ノウハウを輸出しようと考えています*13

 

2011年にUSJと中国のテーマパーク運営会社である「深セン華僑城」との資本提携交渉は始まりましたが、ハリポタエリアへ専念するために交渉は一度中断されました。しかしエリア開発が一段落したため、交渉が再び動き始めようとしています。

 

そんなUSJの中国進出に合わせて、北京へのユニバーサル建設が発表されたことにも、なんだか違和感が残ります。USJにとっても、中国は今後かなりの脅威になっていくでしょう。

 

日本はやっぱり「ガラパゴス化」しかないのか?

世界で唯一フランチャイズとして運営されている東京ディズニーリゾート。海外のディズニーパークと比べて、グッズやレストランメニューの充実度、キャストによるサービス、そしてスペシャルイベントの多さは群を抜いています。事実、東京のパークには連日、多くのゲストが訪れています。

 

しかし、今後の少子高齢化や人口減少を考えると、やはり日本国内での集客には限界があります。何も手を打たなければ、入園者数の頭打ちや先細りも起こりかねません。

 

中国の出方を見極めて、日本独自の魅力を出す。これしか中国のパークに勝つ方法はないと思います。日本独自の進化を遂げたものを、よく「ガラパゴス化」などと言いますが、東京ディズニーリゾートやUSJは自分たちだけの強みを増やしていけばいいと思うのです。

 

オリエンタルランドから東京ディズニーリゾートへの投資計画の一部が発表されるのは、今年度中と言われています。USJの沖縄進出も近いうちに正式発表されるでしょう。中国のパークに負けないようなものをぜひ、作っていただきたいと思います。

 

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©Universal

*1:ロイター「オリエンタルランドが10年間で5000億円投資、新事業も」より。

*2:1983年の開園当時の金額。オリエンタルランドグループ「東京ディズニーランド」より引用。

*3:2001年の開園当時の金額。パークに隣接するホテルミラコスタの建設費も含む。オリエンタルランドグループ「東京ディズニーシー」より引用。

*4:オリエンタルランド「2014年3月期決算及び2016中期経営計画説明会」http://www.olc.co.jp/ir/pdf/sp2014-04.pdf(PDFファイル)より引用。

*5:WSJ日本版「香港ディズニーランド、開園から7年目でようやく黒字化」より。

*6:Daily Mail Online「Universal Studios to open £2bn Beijing theme park」より。

*7:AFPBB News「北京にユニバーサル・スタジオの建設計画浮上、18年に開業か」より。

*8:Disney and more 「Universal Officially Announces $3.3 Billion Universal Beijing Theme Park!」より。

*9:USJの経営戦略については森岡 毅『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』で詳しく語られています。

*10:SankeiBiz「惨敗、低迷、日本のテーマパーク… USJはTDLと2強時代を築けるか」より。

*11:シンガポールも大阪と同様にフランチャイズで運営されています。

*12:沖縄タイムス+プラス「USJ名護進出検討 ネオパーク一帯有力」より。

*13:Bloomberg「USJ:カジノ参入に向け海外業者と交渉、沖縄開設も検討」より。