2021年4月1日、東京ディズニーランドにある「ファンタジーランド・フォレストシアター」で、新しいショー「ミッキーのマジカルミュージックワールド」が公演を開始しました。
もともとは2020年4月に開始予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の流行により、無期限で延期に。約1年遅れのスタートでしたが、ファンにとっては久しぶりの嬉しい知らせとなりました。
今回は海外にあるディズニーパークや、東京ディズニーリゾートのこれまでのエンターテイメント・プログラムと比較しながら、マジカルミュージックワールドの魅力に迫っていきたいと思います。
本記事は、ショーの公演内容に関する「ネタバレ」を含んでいます。
目次
相次いだ「システム調整」
「ミッキーのマジカルミュージックワールド」は、ファンタジーランドに新設された「フォレストシアター」で公演しています。東京ディズニーランドでは初めてとなる、屋内型のシアターということで、計画発表からファンの間では期待が高まっていました。オープンに合わせて、日本航空が協賛することも発表されています。
フォレストシアターに掲げられた、日本航空のロゴマーク。2020年9月の新エリア開業時は、スポンサー表示はなかった。
しかし、4月1日に公演が始まったものの、システム不具合による中断や公演中止が続出。このショーはエントリー受付の対象となっており、せっかく抽選に当たっても、見ることができなかったゲストも多かったようです。特にショーの最前列が確約されているバケーションパッケージの予約者も、公演中止で旅行代金の一部が返金される…という事態も起きました。
4月22日から4月28日は、メンテナンスのために終日公演が中止に。大型連休の4月29日から再開し、今のところ大きなトラブルは起きていません。新しく始まったショーやパレードなどは、安定するまでにどうしても時間がかかってしまうのですが、今回はバケーションパッケージへの対応を含めて、課題が多く残りました。
どんなストーリーなの?
公式ウェブサイトでは、ショーのストーリーについて、以下のように紹介されています。
ある日、ミッキーマウスとミニーマウス、ドナルドダック、 グーフィーが森の奥で大きな魔法のオルゴールを見つけました。
オルゴールに付いた金色の鍵を回すと次々と扉が開き、白雪姫や ピノキオ、ディズニー/ピクサー映画『トイ・ストーリー』シリーズに登場するウッディたちが、 それぞれの映画の音楽とともに現れてきます。
ミッキーマウスたちはその不思議な展開に喜び、 どんな音楽に出会えるのかと楽しみにしていましたが、次の扉が開いても誰も出て来ず、音楽も聴こえてきません。心配したミッキーマウスたちが、聴こえてくるはずの音楽を探すことから旅が始まります。
旅の途中、ミッキーマウスたちはディズニー映画『美女と野獣』のルミエールが開催する華やかな晩餐、『ジャングル・ブック』のキング・ルイと『ライオン・キング』のティモンたちがジャングルで繰り広げるパワフルなパフォーマンス、星空と鏡に彩られた美しい世界で踊るプリンセスたちのワルツ、『リトル・マーメイド』のアースラや『ピーター・パン』のフック船長が目まぐるしく展開するスリリングなシーンなど、それぞれの映画の名曲とともにたくさんの世界に遭遇します。
ミッキーマウスたちはこの旅を通して、いったいどんな音楽を見つけるのでしょうか。
ショーの流れを簡単にまとめると、以下のようになります。
- ミッキーたちが、森の奥で大きな魔法のオルゴールを見つける。
- たくさんの音楽が流れてくるが、一つだけ何も音楽が聞こえない。
- ミッキーたちは、オルゴールの中に入って、音楽を探す旅に出かける。
- 旅の途中、ミッキーたちは「自分の音楽」をもった人たちに出会う。
- しかし、探している音楽はなかなか見つからない。
- 最後に出会ったピーター・パンから「ずっと近くにあるはずだよ」と言われて、考えるミッキーたち。
- オルゴールはミッキーたちに、自分たちの音楽を作らせたかったことに気づく。
- ハーモニーの大切さに気付いたミッキーたちは、ついに自分たちの音楽を作り出す。
ショーの最後には、テーマソングである「イッツ・ユア・ソング(それがあなたの歌)」を高らかに歌い上げて、大団円を迎える…という流れになっています。
脈々と受け継がれる、キャッスルショーの伝統
マジカルミュージックワールドを見ていると、かつてシンデレラ城前のキャッスルフォアコートステージで公演されていた、数多くのキャッスルショーが思い出されます。
キャッスルショーは、主に2つのパターンに分けられます。一つは「起承転結型」中心となるストーリーがあり、それに合わせて場面が展開していくものです。悪役であるヴィランズが登場したり、めちゃくちゃになったけど大団円を迎えたり…といった流れが多いですね。10周年イベントで公演された「イッツ・マジカル!」が代表的です。近年でいうと「オー!サマー・バンザイ!」もこの型ですね。
もう一つは「レビューショー型」中心となるストーリーがなく、過去のショーや映画の名場面を再現するというものです。代表的なものは、15周年イベントの「ビバ!マジック」や、20周年イベントの「リメンバー・ザ・ドリーム」ですね。また、ショーベースで行われていた「フィール・ザ・マジック」や「ワンマンズ・ドリームⅡ ザ・マジック・リブズ・オン」も同じ系譜と言えるでしょう。
多くのゲストに親しまれてきた「ショーベース」一時は解体も噂されたが、改修工事が続いている。
マジカルミュージックワールドは、起承転結型に分類されますが、少し「転」が弱い気もしました。「探していた音楽は、自分たちの心の中にある」というところに気付く…というのが、このショーの大きな見せ場のはず。しかし、ピーター・パンからのアドバイスから、ハーモニーの大切さを知るまでの流れが、どうしても展開的に弱く感じてしまいました。25周年イベントの「ドリームス・ウィズイン」に近い部分もあると思います。
しかし、ストーリー展開の弱さを差し引いても、ディズニーの名曲がそろった各シーンや、プリンセスなどのキャラクターたち、豪華なコスチュームを身にまとったパフォーマーなど、新エリアの目玉にふさわしい、素晴らしいショーに仕上がっていると思います。エルサのシーンの短さにはビックリしましたが…。
一つだけ不安なのは「舞台装置」でしょうか。上下や回転といった複雑な動きをするものが多く、初めて見たときは「これはシステム調整になるな…」というのが正直な感想でした。4月下旬のメンテナンス以降、SNSでは大きなトラブルは報告されていませんので、このまま安定してくれることを祈るばかりです。
海外パークに負けないショーなの?
実は海外パークでは、「ミッキーマウス」の名前を冠したショーが数多く公演されています。東京ディズニーランドで新しく始まったマジカルミュージックワールドとは、どのように違うのでしょうか。
ミッキー・アンド・ザ・マジカル・マップ
カリフォルニアのディズニーランドで、2013年5月に公演が始まりました。しかし、新型コロナウイルスの流行に伴う臨時休園をきっかけに、2020年3月をもって終了しています。
このショーは想像の世界に行けるという「マジカルマップ」を舞台に、魔法使いの弟子であるミッキーマウスと、地図の未完成部分である黒い点「スポット」がディズニーの世界を旅する…というものです。大型の映像装置とキャラクター、パフォーマーが繰り広げるショーは、ここが原点といってもいいでしょう。
このショーでは、長年多くのファンに愛されている映画『ファンタジア』の中の「魔法使いの弟子」がベースになっています。魔法の地図が未完成という点は、ウォルト・ディズニーがかつて語った「ディズニーランドは永遠に完成しない。世界に想像力がある限り、成長し続けるだろう」という言葉のオマージュとも受け取れますね。
ミッキー・アンド・ザ・ワンダラス・ブック
香港ディズニーランドの10周年イベントに合わせて、2015年11月に公演が始まりました。カリフォルニアのマジカルマップは、東京ディズニーランドのショーベースのように、半屋外型のシアターだったのですが、香港は「ディズニー・ストーリーブック・シアター」という屋内劇場で行われています。
大きな不思議な本「ワンダラス・ブック」を見ようとするミッキー。すると、本の中から映画『アナと雪の女王』に登場するオラフが飛び出してきます。オラフを早く元のページに戻してあげないと、溶けてしまうかも…。ミッキーは本の中に入り、ディズニーの様々な世界を旅しながら、オラフがいたページを探す…というストーリーです。
マジカルマップと同様に、大型の映像装置とキャラクター、パフォーマーが融合したショーなのですが、技術レベルが進化していることがよく分かります。「オラフを元に戻す」というメインストーリーがぶれずに展開しているのもいいですね。ショーのフィナーレで「一つの物語が終わると、それは次の物語の始まりなんだよ。次に本を開くのは誰かな?それはたぶん、君だ!」というミッキーのセリフは、このショーを象徴していると言えるでしょう。
ただ、出演するミッキーフレンズはグーフィーのみ。ミニーやドナルドすら登場はありません。
ミッキーのロイヤル・フレンドシップ・フェア
フロリダのウォルト・ディズニー・ワールドにあるマジックキングダムで、2016年6月に公演が始まりました。城前にあるキャッスルフォアコートステージで行われており、東京で行われていた往年のキャッスルショーが思い出されます。
ショーはミッキーマウスをはじめ、ミニーマウス、ドナルドダック、デイジーダック、グーフィーのフレンズたちが登場するところから始まります。ミッキーたちが旅をする中で出会った人たちを、シンデレラ城前で行うお祭りに招待する、というもの。ミニーの「みんな一緒に踊りましょう!」の掛け声で、ステージは一気に華やかになります。ショーのテーマソングである「On This Day」に合わせて、キャラクターやダンサーたちが踊る様子は、まさに圧巻です。
このようなステージショーの場合、ヴィランズが登場したり、誰かのせいで場がぐちゃぐちゃになったりする展開があるのですが、このショーはそのような場面転換はありません。メインストーリーはあるのですが、レビューショーに近いと思います。
ミッキー・アンド・ザ・マジシャン
最後に紹介するのは、ディズニーランド・パリに隣接する、ウォルト・ディズニー・スタジオ・パークで2016年7月に始まった「ミッキー・アンド・ザ・マジシャン」です。これまでのディズニーのショーでは「Magic=魔法」として扱われてきましたが、このショーでは「Magic=奇術(マジック)」として扱うという、なんとも異色なものに仕上がっています。
舞台は19世紀のフランス・パリ。ミッキーマウスは、有名なマジシャンの見習いとして働いていました。ある日の夜、ミッキーはマジシャンから、屋根裏のアトリエを掃除するように言われます。タイムリミットは、空にある月が消えるまで。早くマジックが使えるようになりたいと思うミッキーは、一生懸命に掃除に取り組みます。しかし、アトリエには様々なディズニーのキャラクターたちが現れて…というもの。
このショーの最後には、マジックが使えたと喜ぶミッキーが、アトリエの中をぐちゃぐちゃにしてしまうシーンがあります。これはまさに、映画『ファンタジア』の中の「魔法使いの弟子」のオマージュですね。魔法使いではなく「奇術師(マジシャン)」にしているところが、なんともパリらしいところだと思います。
こちらのショーは、カリフォルニアや香港、マジックキングダムのショーとは違って、ミッキーが大切なことに気付く…というのがストーリーの主軸になっています。ここは東京のマジカルミュージックワールドと似ていますね。
東京のマジカルミュージックワールドは、海外パークのショーと比べて、ミッキーフレンズの出番が多いこと、そして「自分の内面に気付く」というストーリーがショーの主軸に据えられていることが分かります。ショーの展開としては深みがあるのですが、その分どうしても物語の「転」の部分、つまり「どうしてミッキーたちは内面の大切さに気付いたのか」といった部分が弱いことも分かります。
ただ、そのようなストーリー展開の弱点を差し引いても、マジカルミュージックワールドは、海外パークに負けないショーに仕上がっていると思います。特に舞台装置に関しては、約170億円とされる投資額に見合ったものになっています。今後新型コロナウイルスが収束すれば、海外の熱烈なファンも東京を訪れることになるでしょう。
早くコロナが収束してほしい!
公式ウェブサイトのショー紹介ページでは「※健康と安全のための対策として演出方法の一部を変更しております。」という一文があります。ショーを見る限り、キャラクター同士が大きく離れるなど、ソーシャルディスタンスを感じるような演出はありません。ただ、一部のシーンでパフォーマーがマスクを着用するなど、安全面での変更点があるのだと思います。感染症の流行が収束して、早く通常版が見られることを望むばかりです。
フォレストシアターの開業前、プレスリリースではマジカルミュージックワールドの公演回数について、「1日5~9回」になると発表されていました。より多くの方がショーを楽しめるよう、私たちも感染症の予防に努めていきたいですね。