本日3月14日、いよいよ北陸新幹線が金沢まで開業しました。長野までだった新幹線が、富山・石川まで延伸されたのです。テレビや雑誌では連日特集が組まれ、テレビCMも放映されるなど、北陸では首都圏からの観光客増加が期待されています。
今回はそんな北陸新幹線の開業が東京ディズニーリゾートに与える影響について、少し考えてみたいと思います。
北陸から舞浜へ行くには
北陸から東京ディズニーリゾートに行く場合、航空機・鉄道・高速バスのいずれかの方法が考えられます。以下はそれぞれの所要時間の一覧です。
航空機
- 富山から羽田 約60分
- 小松から羽田 約60分
鉄道(新幹線開業前)
- 富山から東京 約3時間30分
- 金沢から東京 約4時間
高速バス
- 富山から東京ディズニーリゾート 7時間~8時間
- 金沢から東京ディズニーリゾート 8時間~9時間
航空機の場合は所要時間が短いのですが、費用が高く、羽田空港から東京ディズニーリゾートまではリムジンバスで向かわなくてはいけません。また市内中心部に近い富山空港とは違って、金沢の場合は小松空港まで行かなくてはいけません。金沢市内から小松空港までは、車で約1時間ほど離れているため*1、そのぶん時間が余計にかかっていました。
鉄道の場合はどうでしょうか。航空機よりも安いのですが、新幹線開業前は越後湯沢まで在来線の特急で、越後湯沢で上越新幹線に乗り換えて東京まで、というルートになっていました。大きな荷物を抱えていたり、小さな子を連れていたりすると、高低差がある越後湯沢駅の乗り換えは負担でした。
高速バスはどうでしょうか。こちらは航空機・鉄道に比べて、圧倒的な安さを誇っています。しかし、長時間車内で揺られますので、行くだけで疲れてしまいます。また航空機・鉄道と比べて、事故のリスクが大きいということもあります。
新幹線の開業でどう変わるの?
これまでは金沢から東京まで、鉄道ですと「4時間」かかっていました。交通業界では「4時間の壁」という言葉があります。これは所要時間が4時間以上かかると航空機が有利、4時間未満だと新幹線優位というものです。
東京から広島の場合、新幹線で4時間弱になっています。そのため航空機よりも新幹線を利用する人が多くなっています。しかし、約5時間の福岡(博多)になると、圧倒的に航空機の利用者が多くなるのです。
北陸新幹線の開業によって、富山・金沢から東京までの所要時間は以下のようになります。
速達タイプ「かがやき」の場合
- 富山から東京 約2時間8分
- 金沢から東京 約2時間28分
新幹線開業前、金沢から東京までは、航空機を利用する人が64%になっていました*2。JR東日本の冨田哲郎社長は2014年8月の記者会見で「新幹線(のシェア)が8割になる」との見方を示しています*3。北陸新幹線の開業によって、これまで小松―羽田便を利用していた人たちが、一気に新幹線に流れることが予想されるのです。
また、これまでは越後湯沢駅での乗り換えが必要でしたが、新幹線の開業によってノンストップで東京まで行けるようになります。時間を気にしながら大急ぎで駅を走ったり、特急が遅れて新幹線の指定席に座れなかったり…といったこともなくなるのです。
富山―羽田便を利用していた人も、かなりの割合で新幹線に流れるでしょう。航空機の場合は早めに空港に行かなくてはいけませんし、チェックインや保安検査も必要になります。持ち込める荷物についての規定も厳しくなっています。そんな手間と時間を考えると新幹線が圧倒的に有利になるのです。
北陸新幹線は舞浜にとって商機?
北陸と東京の距離を縮める北陸新幹線の開業。北陸から首都圏まで行きやすくなれば、当然東京ディズニーリゾートを訪れるゲストの数も多くなるのではないでしょうか。
東京ディズニーリゾートの地域別来園者比率を表したグラフ。北陸は「中部・甲信越」に分類される。
事実、オリエンタルランドは北陸新幹線の開業を見越して、石川県内で様々な営業活動を行っています。
1つ目はスペシャルショーの開催です。これは2012年9月15日から17日に開催された「金沢ジャズストリート」のイベントの一つとして行われました。
通常、オリエンタルランドが地方で行う営業の場合、ドリームクルーザーにキャラクターたちを乗せて行うパレードがほとんどです。しかし、金沢でのショーは東京ディズニーシーの「ビッグバンドビート」に出演するダンサーやシンガーが、キャラクターたちと一緒に出演するという、なんとも豪華な構成になっていました。
(2012年9月17日・北國新聞朝刊より引用)
私もご縁があって見に行ったのですが、以前シーで公演された「スターライトジャズ」を再構成したプログラムになっており、かなり見ごたえがありました。1日限りのイベントとしては、非常にもったいないぐらいの完成度だったのです*4。
会場の金沢歌劇座に展示されたパネル。ブロンズ像を手渡しているのは、アンバサダーの横田恵理子さん。受け取っているのは金沢市長の山野之義さん。
金沢に住んでいる方からすれば、東京ディズニーリゾートの生の空気を感じることができたと思います。当然、メディアでも大きく取り上げられましたし、大きな宣伝効果になったのではないでしょうか。
私がいつもお世話になっているdpostさんでもレポートがまとめられています。
2つ目はクリスマスツリーです。これは2013年のクリスマスシーズンに行われたのですが、金沢市内にディズニーのキャラクターたちのクリスマスツリーが登場したのです。
知人にお願いして写真を送ってもらったのですが、30周年イベントが大きく宣伝されていました*5。
香林坊アトリオに飾られたクリスマスツリー ©Disney
香林坊アトリオには30周年イベントの宣伝バナーも飾られた。©Disney
3つ目は地元のお祭りへの参加です。これ自体はオリエンタルランドが全国各地で行っており、決して珍しいことではありません。石川県内では2012年・2013年の「百万石まつり」と2014年の「輪島市民まつり」で、それぞれドリームクルーザーが出向き、キャラクターたちが地元の方と触れ合っています。
どうして金沢だけなの?
ここで一つの疑問が生まれます。
どうして金沢だけ、ここまで東京ディズニーリゾートの営業をするの?富山だって新幹線の開業で来園者は増えるんじゃないの?
気になって調べていくと、どうもそこにはオリエンタルランドではなく、東京ディズニーリゾートのオフィシャルスポンサー「日本航空」の存在が見えてくるのです。
©Disney
先ほど、金沢から東京までは航空機がこれまで有利だったと書きました。小松空港からは日本航空(JAL)と全日空(ANA)がそれぞれ羽田便を運航しています。北陸新幹線の開業によって、小松―羽田便の利用客はその多くが新幹線に流れるでしょう。
JALとしては、なんとか利用客を繋ぎ止めたい。そこでオリエンタルランドと組んで、金沢での営業活動を行ったのではないか。そう考えられるのです。
2012年に行われたスペシャルショー。このとき出演したのは、JALがスポンサーを務める「ブロードウェイ・ミュージックシアター」で公演されている「ビッグバンドビート」のメンバーでした。
2013年に行われた金沢市内のクリスマスツリー。このときはスタンプラリーが行われ、それぞれのツリーのスタンプを集めると、JALで行く東京ディズニーリゾートの旅が当たるという企画になっていたのです。
小松―羽田便は「ドル箱路線」と呼ばれ、搭乗者数・座席利用率が高い路線として有名です。国土交通省のデータによると、2013年度の小松―羽田便の搭乗者数は約163万人、座席利用率は63.5%*6。搭乗者数では羽田と地方を結ぶ路線の中でも、トップ10に入っています。
こういったドル箱路線ですと、ちょっと高めの価格設定でも利用してしまうものです。小松便は飛行距離も短いですので、JAL・ANAともにこれまでかなり稼いできたのではないでしょうか。もし新幹線で客を奪われれば、ドル箱路線を失い、赤字の地方路線の維持ができなくなる恐れがあります。
またJALが販売している旅行商品「JALで行く東京ディズニーリゾート」についても、石川県内での販売が落ち込む可能性があります。
このように見ていくと、今回の金沢での営業活動は、JALの意向が大きく働いているのではないでしょうか。ちなみに、JALはかつて富山―羽田便も運行していましたが、コスト削減と赤字を理由に2006年に撤退しています*7。現在はANAのみが富山便を運航しています。
東京ディズニーリゾートの今後は?
北陸地方からの集客に力を発揮する新幹線の開業。オリエンタルランドとしては、自社で提供している宿泊プラン「バケーション・パッケージ」の販売に力を入れるでしょう。
新幹線の開業によって、首都圏まで北陸の日帰り圏内に入りました。しかし、まだまだ北陸の方にとっては、東京ディズニーリゾートは「泊まりで行く場所」というイメージが強いと思われます。
また北陸の場合は2世代・3世代の同居家族が多い特徴もあります。オリエンタルランドは「3世代ディズニー」をキャッチコピーに掲げ、より人数の多い旅行の営業活動を行っています。今後北陸地方で、ますます東京ディズニーリゾートへの集客が行われるでしょう。
積極的な宣伝が行われている「3世代ディズニー」©Disney
北陸地方はこれまで関西地方、特に京都や大阪との結びつきが強い地域でした。金沢から大阪までは在来線の特急で約2時間半(最速)となっています。北陸地方において、東京ディズニーリゾートは大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンとほぼ互角に戦えるようになったといえるでしょう。
今年度は過去最高の入園者数を達成する見通しのUSJ。3月18日には「ユニバーサル・ワンダーランド」がリニューアルオープンする。
さて北陸新幹線の開業は、東京ディズニーリゾートにどのような影響をもたらすのでしょうか。注目していく必要がありそうですね。
参考リンク
- 知事記者会見[平成17年度]|富山県 2005年12月24日
- そういえばGファンタジーはスクウェアエニックスでした - 五月原清隆のブログハラスメント 2005年11月21日
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顧客は東京へ?北陸新幹線に焦る関西財界 | 鉄道最前線 | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト 2013年5月26日
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新幹線VS.航空 北陸の陣 15年春開業、東京―金沢2時間半 :日本経済新聞 2014年8月28日
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新幹線・飛行機は9対1に 富山−東京 (北日本新聞) - Yahoo!ニュース 2014年11月14日
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朝日新聞デジタル:北海道新幹線 「4時間の壁」やきもき - 北海道 - 地域 2014年1月20日
*1:空港連絡バスの場合は高速道経由で約40分ですが、一般道の場合は約1時間かかってしまいます。
*2:2013年度のデータ。新幹線VS.航空 北陸の陣 15年春開業、東京―金沢2時間半 :日本経済新聞・2014年8月28日より引用。
*3:JR東海の発表によると、東海道新幹線で約2時間半で結ばれている東京―大阪の場合、鉄道と航空機の割合は85対15になっています(読売新聞朝刊・2015年3月15日・3面記事より)。
*4:洗足学園音楽大学のビッグバンドサークル「Swingin' Express!」も出演しました。
*5:このとき、オリエンタルランドが東京ディズニーリゾート以外にクリスマスツリーを展示するのは初めてと発表されました。ただ、過去には成田空港内にディズニーキャラクターをモチーフにしたクリスマスツリーを設置したことがあります。
*6:報道発表資料:航空輸送サービスに係る情報公開(平成26年度第1回) - 国土交通省より引用。
*7:もともと富山便はANAだけだったのですが、JALが富山県に強く要望して開設したという経緯がありました。ANAの搭乗率は高かったことから、数多くの運行トラブルが足を引っ張った可能性は高いでしょう。ANAが歴史的に富山県と強い結びつきがあることも関係していると思われます。