11月1日、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは、保安体制を強化するため、東京ディズニーランド・東京ディズニーシーのエントランスへ、金属探知ゲートとX線検査機を導入することを発表しました。
翌日の2日朝には東京ディズニーシーのエントランスに、検査機器が試験的に設置されました。すでにSNS上では「通過に時間がかかった」「全面導入されたら、入園待ちの列が長くなるかも」という不安の声が上がっています。
11月2日から試験運用が始まった、東京ディズニーシーのエントランス
そもそも、どうして東京ディズニーリゾートでは、入園者を対象として手荷物検査を行っているのでしょうか。これまでの歴史、そして海外のディズニーパークの動向も合わせて、見ていきたいと思います。
きっかけは「アメリカ同時多発テロ」
そもそも、ディズニーパークで手荷物検査が始まったのは、アメリカ・カリフォルニアのディズニーランドと、フロリダのウォルト・ディズニー・ワールドでした。2001年9月に発生した同時多発テロを受けて、アメリカ文化の象徴でもあるパークが「テロの標的になるのでは?」という懸念から、始められたのです。
ゲスト向けに手荷物検査が始まった、米フロリダのマジック・キングダム(2001年11月撮影)
当時は東京ディズニーシーが開園した直後。その後、東京でも手荷物検査が始まったのは、2003年3月20日から。アメリカがイラクを武力攻撃して始まった「イラク戦争」を受けての措置でした。
日本政府はイラク戦争を支持していましたし、不特定多数が出入りするテーマパークはテロの標的になりやすい、という指摘がありました。開始当初は「イラク情勢が落ち着くまで」とされていましたが、国際情勢の悪化やテロへの懸念から、16年以上が経った今も続けられているのです。
アメリカをはじめ、パリ、香港、上海のパークでも、東京と同様に、すべてのゲストを対象とした手荷物検査を実施しています。
東京よりも厳しいアメリカ
東京ディズニーリゾートでは、ゲストがカバンやお土産袋を開けて、セキュリティキャストが中身を目視する検査を行ってきました。空港のように検査を厳密にすると、入園までに時間がかかってしまうからです。
一方のアメリカでは、年々、手荷物に対する検査が厳しくなっています。すべてのファスナーが開けられ、キャストが奥まで手を入れて調べます。場合によっては、中身を出して見せるように言われることもあります。また、ランダムで金属探知ゲートによる検査を受けることもあるのです。
フロリダのマジックキングダムにあるセキュリティゲート
ただし、ペットボトル飲料などは検査を受けることなく、そのままパークに持ち込むことができます。自撮り棒などの持ち込みが禁止されているものについては、没収ではなく、コインロッカーに預けるように言われます。
クリスマスイベントや年末年始ともなると、混雑に加えて、テロへの警戒態勢も強化されるため、検査にかなりの時間がかかります。セキュリティゲートの横には、手荷物がないゲスト用レーン(Guest Without Bag)も用意されており、スムーズに入場できる仕組みが整えられています。
有効性に対する疑問の声はあった
イラク戦争を受けて始まった、東京ディズニーリゾートでの手荷物検査。空港の保安検査とは違い、上から中身を確認したり、鋭利なものがないか触ったりするだけで、その有効性に疑問の声があがっていました。
ただ、手荷物検査については、危険物の発見だけではなく、「ちゃんと見ていますよ」という犯罪抑止効果に加えて、ビン・缶や大きなスーツケースなど、パーク内への持ち込みが禁止されている物品の発見を目的としていました。
また、2008年9月からは、三脚や一脚などの撮影機材も持ち込みが禁止されています。こういったゲストに、事前に声掛けをしてコインロッカーを案内する、というのも手荷物検査の大きな役割でした。
その一方で、オリエンタルランドの株主総会の質疑応答では、手荷物検査に関する質問がたびたび出されていました。
今年6月に行われた総会では、質疑応答の中で「今の検査は甘すぎるのではないか」「アメリカでは金属探知機があったが、東京での導入予定はないのか」という質問が株主から出ました。これに対して、経営陣からは「五輪も控えており、警備強化を検討・準備している」「訓練の強化や機械の導入、防犯カメラの増設、巡回キャストの増員なども検討していく」という回答があったのです。
2018年8月2日には、東京ディズニーシーのエントランスに金属探知ゲートが設置され、入園前のゲストを対象に検査が行われました。このときは1日限りの運用でしたが、オリエンタルランドとしても、かなり早い段階から保安体制の強化は考えていたのでしょう。
手荷物X線検査機とゲート型金属探知機らしきものを設置中…ここは空港ですか?五輪に向けてテロ対策とかですか?#TDR_now pic.twitter.com/InefxoL5rv
— Ryoooota @年パスは切れた (@RoadSakula) August 2, 2018
東京ディズニーランドでは、2020年4月に新しいエリアがオープンする予定です。さらに7月からは、東京オリンピック・パラリンピックも開催され、地方だけではなく海外から多くのゲストの来園が見込まれています。
安全に楽しい時間が過ごせるテーマパークで、決してテロ行為を許してはいけません。オリエンタルランドが保安体制の強化を目指して、金属探知ゲートやX線検査機の導入を決めたことは評価できると思います。
ただ、朝の混雑する時間帯に、どれだけ検査を強化できるのか、という問題も出てきます。入園するのに時間がかかれば、顧客満足度の低下にもつながりかねません。最近では、セキュリティキャストも人員が不足しており、十分な警備態勢が取れていないのも事実です。今後の対応が注目されますね。
ほかのテーマパークでは?
大阪にあるユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)では、イラク戦争の開戦を受けて、2003年3月21日から手荷物検査を行いました。しかし、このときはコインロッカーなどに大きな荷物を預けるゲストを対象にしており、東京ディズニーリゾートのような全ゲストを対象にしたものではありませんでした。
その後、2016年5月のG7伊勢志摩サミットの期間中に、すべてのゲストを対象にした検査を実施。2019年6月のG20大阪サミットに合わせて、検査を再開し、現在も続けています。こちらもオリンピックや2025年の万博を見据えて、テロ対策を強化する狙いがあるのでしょう。
名古屋のレゴランド・ジャパンや、東京のサンリオピューロランドでも、入園客を対象とした手荷物検査を行っています。ただし、どちらのパークも、毎日ではなく不定期の実施となっています。
ちょっと嫌な気持ちはするけれど…
「遊園地なのに、どうして手荷物検査があるのか」「わざわざ他人に荷物を見せるのはイヤ」という声があるのは事実でしょう。しかし、検査が始まって16年以上が経ち、東京ディズニーリゾートでは当たり前の光景になっています。
疑われているようで、少し嫌な気持ちの方もいるかもしれません。しかし、卑劣なテロを防ぐためには、必要な措置だと思います。今後、東京ディズニーランドでも同様の検査機器が導入されていくはずです。スムーズな入園のために、手荷物をまとめておくなど、準備することをおすすめします。