舞浜新聞

東京ディズニーリゾートなどのディズニーパークをはじめとして、ディズニーに関する様々な情報をお伝えします。



元日特集「もし新型コロナウイルスがなかったら、東京ディズニーリゾートはどうなっていたんだろう?」前編

新年明けましておめでとうございます。

 

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2013年にスタートした当ブログも、今年3月で9周年を迎えます。最近は更新が不定期になっていますが、これだけ長く続けられているのは、日頃から愛読してくださる皆さんのおかげです。本当にありがとうございます。

 

今回、皆さんをお連れするのは「もし、新型コロナウイルスがなかったら」という、もしもの世界です。世界的な感染症の流行がなかったら、東京ディズニーリゾートはどんな姿だったのでしょうか。一人の女性の視点から、見ていくことにしましょう。

 

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2021年12月28日、今日は仕事納め。

 

11月から続いてきたクリスマスイベントも無事に終わり、私はデスクの周りを整理していた。今年一年は本当にいろんなことがあった。年明けの緊急事態宣言に始まり、営業時間の短縮、フォレストシアターの公演開始、東京ディズニーシーの20周年イベントなどなど…。そういえば、ワクチンの職域接種もあったっけ。私は会社からもらった接種証明書を見ながら、ふと考え込んでいた。

 

「愛里沙さん、どうしたんですか?」

 

動きが止まっていた私を心配して、後輩の美月ちゃんが話しかけてきた。

 

「ごめんごめん…。デスクの周り整理してたら、いろいろと思い出しちゃって…」

「そうですよね。今年一年、いろんなことがありすぎでしたよね。私、ユナイテッドランドに入社して、あんなにガラガラなパークを見たの、初めてでしたもん」

 

そう言うと、美月ちゃんはいじらしく笑った。感染症に振り回されることが多かった広報部だったが、美月ちゃんはいつも冷静沈着だった。私なんて、部長に怒られるんじゃないかって、いつもドキドキしてたのに。

 

お正月イベントの準備をするという美月ちゃんを残して、私は先にオフィスを出た。コートを着込んでいても、寒さが肌を刺してくる。広報部に配属されてから3年。年末年始も仕事という生活には、すっかり慣れてしまった。どうせ実家に帰っても、耳の痛い話しかされないのだから。感染症を言い訳にして、かれこれ2年以上両親とは顔を合わせていない。

 

あっ…!部長にお願いされてたプレス対応の件、すっかり忘れた…。私は慌てながらスマートフォンを取り出し、美月ちゃんにメッセージを打ち始めた。目の前の横断歩道の信号が青に変わる。そのときだった。

 

「あぶない!」

 

誰かの叫び声が聞こえたのと同時に、私は白い大きな光で照らされた。一瞬のことだった。次の瞬間、私は大きな闇の中に放り込まれていた。

 

 

 

 

 

「ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ…」

 

私は重いまぶたをこすると、スマートフォンのアラームを止めた。なんだ…夢だったのか。夢にしては、なんかリアルだったな。後味の悪さを感じながらも、私はなんとかベッドから起き上がった。カーテンの隙間からは、妙に明るい光が差し込んでいた。

 

いつものようにテレビをつける。いつもと同じ、朝の情報番組のはずだった。画面に表示された日付を見るまでは。

 

「2月29日」

 

私は目を疑った。寝ぼけているのか、ただの見間違いかもしれない。私はテレビの画面に近づいて、もう一度日付を見た。間違いなく「2月29日」だった。

 

私は慌ててスマートフォンを見た。その画面にも「2月29日 土曜日」と表示されていた。新聞はどうだろう。とっさに思いついた私は、パジャマのまま外に飛び出すと、アパートの郵便受けに差し込まれた朝刊を開いた。

 

2020年2月29日 土曜日

 

思わず私は、その場にしゃがみ込んでしまった。どうしてなのかは分からないが、タイムスリップしてしまったらしい…ということだけは理解できた。そうだ…コロナのことが新聞に載っているはず。パークの休園が決まったのは28日の金曜日だった。舞浜のオフィスで泣きながら仕事をしていたから、よく覚えている。私は慌てて新聞をめくり始めた。

 

なかった。どこにも「コロナ」や「新型肺炎」の文字は一つもなかった。一面の見出しも、楽天と公正取引委員会に関するもの。もちろん、東京ディズニーリゾートの休園なんて、どこにも書いてなかった。

 

私がやって来た世界は、どうやら「新型コロナウイルス」というものが存在しないらしい…ということまでは、少ない脳みそでも理解できた。土曜日だから、今日はお休みなのかな。もし勤務シフトが入ってたら、部長に怒られるな…。外に出て体が冷えたのか、私の頭は急に冷静になっていた。

 

部屋に戻って鏡を見る。私だ。目の前の鏡には、確かに「高橋愛里沙」が映っていた。良かった…誰かに生まれ変わったりしないで。もう…漫画みたいなことを考えるのはやめよう。お財布の中身も確認する。運転免許証には、私の写真と名前がちゃんと印刷されていた。もちろんIDカードも。とりあえず、この世界の私も、ユナイテッドランドに勤めているらしい。


とりあえず、会社に行こう。行けば何か分かるかも。私は朝ごはんを食べるのも忘れて、身支度もそこそこに家を飛び出した。

 

 

 

 

 

「あれ…?愛里沙さん、今日はお休みじゃなかったでしたっけ…?」

 

広報部に顔を出すと、隣のデスクには美月ちゃんが座っていた。ネームタグには「KAWASAKI」の文字。良かった。この世界でも川崎美月は私の部下らしい。直前までドキドキしていたのだけれど、美月ちゃんの声を聞いた瞬間に、思わずホッとしてしまった。

 

「先輩!愛里沙さん!もうっ…どうしちゃったんですか?なんか顔が疲れてますよ」

「えっ…そう?昨日、よく眠れなかったからかな?」

「大丈夫ですか?それより、4月の新エリアプレビューの件、部長が広報部の誰をどのプレスと組ませるのか、早く計画出せって怒ってましたよ!とりあえず『高橋さんは、シーのイースター対応で手がいっぱいです!』って伝えておきましたけど」

「そうだったんだ…ごめんね。いつも私、段取りが悪くて」

「そんな意味で言ったんじゃないですよ!金森部長、自分は全然仕事しないくせに、人に口出しばっかりするから腹立つんですよね」

「美月ちゃんの毒舌、こっちの世界でも変わらないんだ…」

「えっ…愛里沙さん、何か言いました?」

「ううん、なんでもないよ」

 

いたずらっぽく笑う美月ちゃんは、こっちの世界でも変わらなかった。ちょっと安心した。私はいすに腰かけると、早速仕事にとりかかった。美月ちゃんに「私、タイムスリップしたんだよ」って言ったら、たぶん笑われるだろうな。そんなことを考えながら、私はブラックコーヒーをすすった。

 

3月19日

多くのファンに愛されたスペシャルイベント「ベリー・ベリー・ミニー!」は、ついに千秋楽を迎えた。私と美月ちゃんは「絶対にマニアの皆さんにウケますから!もっとプロモーションかけましょうよ!」と熱弁をふるっていたのに、部長は首を縦に振ってくれなかったな。偉い人たちは、ファンのことなんか全然分かってないんだよね。

 

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私の同期で、ランドの時間帯責任者をやってた宮本くんは「エントランスからショーベースへの走り込みが怖い」って、シェフ・ハットで愚痴ってたっけ。結局、イベント期間中は年間パスポート保有者の来園が急増して、予想の数字よりも入園者数の上積みができたそうな。そりゃあ、過去のショーやパレードの音源を持ってくれば、みんな喜ぶよね。

 

連日多くのファンで盛り上がっていたショーベースだけど、音響設備の古さや施設全体の老朽化で、将来的な解体が決まっている。トゥモローランドの拡張計画が発表されるまでは、貸しホールとして、企業向けのプログラムに使われるらしい。

 

そういえば「ジャンボリミッキー!」も、夏休み期間中はショーベでやるって、大佛くんが言ってたっけ。「三井不動産に『照明とか更新したいんですが…』ってお願いしたら『ウチはオリンピックがあるから当分無理』って言われて。マジ頭にきたよ!」って、新浦安のHUBで酔っ払いながら叫んでたな。あの後、偉い人に怒られてなきゃいいけど…。

 

3月25日~30日

ベリミニの混雑が収まったのもつかの間、パークは一年で一番忙しい「春休み」に突入した。例年だと春イベントは4月、新年度が始まってからスタートするのだけど、今回は3月25日に「ファンタズミック!」のラスト公演、3月27日からはイースターイベント、さらには「クッキー・アン」のデビューとグリーティングドライブの開催など、とにかく立て込んだ一週間だった。

 

3月29日、東京は季節外れの雪が降った。私はオフィスの窓から、雪が降り続く空を眺めていた。そういえば、私が前にいた世界は、休園で誰もいないパークに雪が降り積もってたっけ。そう考えると、ちょっとだけ背筋が寒くなった。

 

広報部は資料作りに始まり、各プレスのアテンド、素材提供、写真撮影、さらには芸能人からの無理難題…おっと、これは失礼。お客様からの貴重なご意見に耳を傾けながら、連日残業の日々だった。メンバーはみんな疲れ果てていたが、私は全然平気だった。

 

マスクもしなくていい、たくさんのお客さんが来てくれる。外国人のお客さんも、どんどん増えていく。むしろ、目が回るような忙しさで、うれしいほどだった。

 

3月31日

シーの「アリエルのグリーティンググロット」がクローズの日を迎えた。ここは裏側にある変電設備を、ファンタジースプリングスの隣接地に移転するため、その準備で閉鎖されることになった。もちろん、その理由はオフレコだけど…。まあ、外国人キャストの人件費や、回転率、面積当たりの売り上げを考えたら、クローズって選択肢になったんだろうな。跡地にエリックのお城でも建てればいいのに…。

 

あっ…そういえば、ディズニーホテルの婚礼部門は、大変そうだったな。なぜかロビーで泣いてる人もいたみたいだし。ミリアルの山本さんに、お疲れ様のLINEしておかないと。

 

4月

今まで工事を進めていた、東京ディズニーランドのメインエントランスがついに全面オープンした。顔認証ゲートもフル稼働、今までは入園に時間がかかっていたのだが、その混雑がウソのようだった。もちろん新しいゲートは、新エリアのプレビューでも、力を発揮してくれた。

 

ニューファンタジーランドのプレビューには、政治家、財界関係者、芸能人、さらにはユーチューバーやアメリカのブロガーまで参加して、とにかく華やかだった。私も某芸能事務所のお偉いさんをアテンドしながら、シンデレラ城の前で「ドリーミング・アップ!」の夜公演を眺めていた。仕事なのに、私はなんだか夢を見ているような、そんな気持ちになっていた。

 

新しいアトラクションは、ゲスト向けのテスト運営を指す「スニーク」、招待客やプレス向けに行う「プレビュー」をへて、正式オープンを迎える。

 

4月15日、これまで工事が進められてきた「ニューファンタジーランド」が、ついにオープンした。「美女と野獣”魔法のものがたり”」は、開園から15分でファストパスが発券終了。スタンバイも360分待ちを記録するなど、多くのゲストで賑わった。「ファンタジーランド・フォレストシアター」も一日9回公演にも関わらず、抽選ですべての回の座席が埋まるほど。2階席の待機列は、トゥモローランドまで伸びていた。

 

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新エリアのオープンを無事に終えて、広報部のメンバーもホッと胸をなでおろしていた。そんなときだった。それは、舞浜駅までの帰り道、ちょうど美月ちゃんと一緒に歩いていたときだ。

 

「愛里沙さん、最近変わりましたよね?」

急に立ち止まると、美月ちゃんは私の顔を覗き込んでつぶやいた。

 

「えっ…急にどうしたの?」

「なんか、『女の勘』ってやつです。あっ!分かった!彼氏できたんだ!」

「違う違う!そうじゃないよ。でも、そんなに私って変わった?」

「変わりましたよ!男たちは気付いてないかもですけど、なんか3月ぐらいから、私の今まで知ってた愛里沙さんと違うっていうか…。ごめんなさい、変な意味じゃないですからね!」

「大丈夫…分かってるから」

 

そっか…美月ちゃんにはバレてるのか。だけど、本当のことを言っても、信じてもらえないんだろうな。舞浜駅の改札前を見回すと、マスクを着けてる人なんて、ほとんどいなかった。

 

後編につづく

maihama.hateblo.jp

 

この物語はフィクションです。実在する人物・企業・団体・地名とは一切関係ありません。