1983年に開園した東京ディズニーランド、そして2001年に開園した東京ディズニーシー。今ではこの2つのパークに、年間3,000万人を超える人々が訪れています。
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東京以外にも、世界にはディズニーのテーマパークがいくつかあります。アメリカのカリフォルニア・アナハイムにある「ディズニーランド」が、世界で初めてのディズニーパークです。その後、米フロリダ、東京、パリ、香港の順にパークが造られ、来年(2016年)には中国・上海にも開園する予定です。
米アナハイムにあるディズニーランド ©Disney
実は世界のディズニーパークの中で、東京以外はすべてディズニー社による直営のパークです。では、どうして東京だけが、ディズニー直営ではないのでしょうか。
今回の記事では、ディズニー社と、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドとの関係について、見ていくことにしましょう。
そもそも、どうして直営じゃないの?
日本へのディズニーランド誘致を発案したのは、当時京成電鉄の社長を務めていた川崎千春氏でした。彼は三井不動産と共同で千葉県の浦安沖を埋め立て、その土地に新しい鉄道路線と、ディズニーランドを建設する構想を持っていました。
実はオリエンタルランドはもともと、浦安沖の埋め立て事業のために作られた会社だったのです。その後、漁民との補償交渉がまとまり、オリエンタルランドは千葉県と共同で埋め立て工事に取り掛かります。
親会社の京成や三井の意向を受けて、オリエンタルランドはディズニーに対して、日本でのディズニーランド建設を働きかけます。しかし、当時のディズニー社は、日本への進出に消極的でした。実業家だった松尾國三氏が、アナハイムのディズニーランドを稚拙に模倣した「奈良ドリームランド」を開園させ、ディズニー社は日本に対して強い不信感を持っていたのです。
ディズニーランドを模倣した「奈良ドリームランド」2006年に閉園している。
しかし、その後ディズニー社の方針が変わり、日本へのディズニーランド誘致が動き出します。当時三菱地所も東映と協力してディズニーランド誘致に動いていましたが、オリエンタルランドが誘致合戦に勝利して、浦安が建設場所に選ばれることとなります。
ディズニー社は当時、米カリフォルニアとフロリダにディズニーパークを持っており、海外への進出を考えていました。しかし、当時のディズニー社には資金的余裕がなく、また亡きウォルト・ディズニーの置き土産ともいえるエプコット・センター(現在のエプコット)の建設に取り掛かっていました。
エプコット・センターの計画を説明する、生前のウォルト・ディズニー ©Disney
そこでディズニー社は、建設費を抑え、リスクも減らせる「フランチャイズ契約」で、日本に進出しようと考えていたのです。日本企業と著作権やパーク運営に関するライセンス契約を結び、パークの売り上げに応じてライセンス料(ロイヤルティー)を受け取るのです。
こうすれば、ディズニー社は土地の買収や施設の建設費を負担することなく、ライセンス料だけを手に入れることができます。しかし、この契約案に対して、オリエンタルランドは難色を示しました。契約期間は50年、しかも売り上げの10%をライセンス料として徴収するという、あまりにも法外な契約だったからです。
最終的には、契約期間は45年間、チケット料金と物販(グッズやレストランなど)のライセンス料の割合を変えることで、オリエンタルランドが折れ、ディズニー社との契約が結ばれることになります。
業務提携に関する基本合意を結ぶ、ディズニー社のE・カードン・ウォーカー氏と、オリエンタルランドの高橋政知氏 ©Disney
こうして、1983年4月、アメリカ国外では初めてとなるディズニーパーク「東京ディズニーランド」が誕生したのでした。
開園当日はあいにくの雨。そのため開園セレモニーはワールドバザール内で行われた。©Disney
開園当時は「土地転がし」「どうせすぐに客が入らなくなって、閉めるだろう」と陰口を叩かれていた東京ディズニーランド。ディズニー社も初めての海外進出ということで、当初はその成功を疑っていました。
開業初年度は目標となる1,000万人には届かなかったものの、993万人を達成。その後順調に入園者数・売上高を伸ばしていきます。この東京の成功を見たディズニー社は、今度は自社開発による海外進出に舵を切ります。
ライセンス料は売り上げの数十%にしかすぎません。もし直営であれば、最初の建設費などにコストがかかるものの、売り上げがそのまま入ってくるからです。
ディズニー社はフランス・パリ、そして中国・香港にそれぞれ直営パークを建設します。しかし、拡張を前提として小規模なパークを造ったために、客足が伸び悩みました。また現地の人々のニーズに合わせた運営が不十分だったために、売り上げも苦戦することになります。もちろん、建設費などのコストも重くのしかかりました。
ゲストの悪質なマナーでもイメージが低下した香港ディズニーランド ©Disney
結果的に、フランチャイズの東京は成功し、直営であるパリや香港は苦戦することになりました。最近ではパリや香港も新しいアトラクションが造られるなど、少しずつテコ入れが行われています。
東京と海外のパークはどう違うの?
アメリカ国内にあるパークは、ディズニー社(ウォルト・ディズニー・カンパニー)の傘下にあるウォルト・ディズニー・パークス・アンド・リゾーツが運営しています。
また、パリと香港は、それぞれディズニー社と現地政府などによる出資で作られた会社が経営しており、建設中の上海も同様の形になる予定です。パークの運営については、ウォルト・ディズニー・パークス・アンド・リゾーツが所管しています。
その一方で、オリエンタルランドは、ディズニー社による出資を一切受けていません。また、資本協力や株式の持ち合いなどの資本提携、社外取締役などの人的交流も一切ありません。
オリエンタルランドはウォルト・ディズニー・プロダクション(現在のディズニー・エンタプライゼズ・インク)とのライセンス契約をもとに、パークを運営しています。
オリエンタルランドの有価証券報告書より引用。ディズニー・エンタプライゼズ・インクとの契約期間が明記されている。
ただ運営に関しては、ウォルト・ディズニー・パークス・アンド・リゾーツが、傘下の子会社「ウォルト・ディズニー・アトラクションズ・ジャパン」を通じて関与しています*1。
基本的には、オリエンタルランドが企画したものを、ウォルト・ディズニー・アトラクションズ・ジャパンが承認する形が取られています。ウォルト・ディズニー・アトラクションズ・ジャパンは、ディズニー本社やパークス・アンド・リゾーツとの交渉に加えて、オリエンタルランドに対するコンサルティング業務や、広告代理店・オフィシャルスポンサーとの交渉も担当しています。
ちなみに、アトラクションやレストランなどの施設建設、ショーやパレードなどのプログラム開発については、ディズニー社の心臓部とも言うべき技術者集団、ウォルト・ディズニー・イマジニアリングと共同で開発しています。
フランチャイズのメリット・デメリットは?
東京ディズニーリゾートは、ディズニー社とのライセンス契約にもとづくフランチャイズのパークです。しかし、すべてがオリエンタルランドの思い通りになるわけではなく、ディズニー社と共同で施設開発やパーク運営を行っているのです。
©Disney
ただ、世界で唯一の海をテーマにしたディズニーパーク「東京ディズニーシー」のように、オリエンタルランドとディズニー社による交渉によって、東京だけにしかない施設もいくつか造られています。
施設開発について、ディズニー社は一切資金を出しません。その代わり、オリエンタルランドがパークの売り上げやオフィシャルスポンサーからのスポンサー料などを使って、開発を行っています。ディズニー社はあくまでも技術やノウハウ、キャラクター・ライセンスを提供するだけなのです。
東京の場合、海外のパークで導入された施設やサービスが、後から導入されることが多いです。しかし、オリエンタルランドの潤沢な資金力の影響もあり、海外にある同様の施設と比べると、レベルが上がっていたり、細かなところまでこだわりを感じたりするところが多くなっています。
東京ディズニーシーにある「タワー・オブ・テラー」同様のアトラクションは海外パークにもあるが、東京オリジナルのストーリーに変更されている。©Disney
東京ディズニーリゾートはフランチャイズのパークであるため、パークや周辺のホテル事業などで収益を稼がなければいけません。さらには、将来のパークへの設備投資のために、最近では徹底した経費削減や商業主義が取られるようになっています。これについては「将来のために、今のゲストの満足度をないがしろにするのか?」という指摘があります。
東京ディズニーシーに建設が計画されている『アナと雪の女王』エリア。これは世界初の導入となる。(オリエンタルランドのプレスリリースより引用)©Disney
また、フランチャイズにはこんな問題もあります。例えば、今年誕生から10周年を迎える「ダッフィー」今ではすっかり人気キャラクターになりましたね。
東京ディズニーシーを象徴するキャラクターにまで成長した「ダッフィー」©Disney
ダッフィーはオリエンタルランドとディズニーとの共同開発商品であるため、基本的にはパーク内でしか販売されていません*2。その一方で、ディズニーストアで売り上げを伸ばしている、ディズニー・ツムツムのグッズはパーク内では販売されていません。
もともとはスマホ用メッセージアプリ「LINE」のゲームとして開発された「ディズニー・ツムツム」©Disney
これは日本の場合、東京ディズニーリゾートはオリエンタルランド、日本国内のディズニーストアはディズニー社の日本法人であるウォルト・ディズニー・ジャパンが運営しているためなのです。
海外の場合、ダッフィーはパーク内だけではなく、ディズニーストアでも販売されています。アメリカのディズニーストアの場合、インターネットでダッフィーのぬいぐるみを購入することもできます。また、ツムツムのグッズもパーク内で販売されています。香港の場合、ダッフィーやシェリーメイのツムツムも売られているのです。
HKDL Disney Tsum Tsum Duffy and ShellieMay on sale now! pic.twitter.com/lpVMEky3Y3
— HK Main St. Gazette (@wonderland912) October 31, 2014
香港ディズニーランドで売られているダッフィーとシェリーメイのツムツム。もちろん偽物ではない。©Disney
しかしもちろん、フランチャイズのいい面もあります。リピーター獲得のために行われている、季節ごとのスペシャルイベントは東京ならではです。「夏祭り」や「七夕」は日本だけですからね。また、ホットポット(おでん)やミッキーマウスまん、お汁粉などのように、日本独自のフードメニューも充実してきています。さらには、熱中症対策として、これまではタブーとされてきた自動販売機の導入にも踏み切っています*3。
また、海外のパークと比べて、東京のパークチケットは安く設定されています。これはチケットの価格を下げて入園しやすくして、その分グッズやレストランでの消費を増やしてもらいたい狙いがあるのでしょう。ディズニー社に支払うライセンス料は、チケットの売り上げよりも物販の売り上げのほうが低く設定されている、と言われています。
世界で唯一、ディズニーによる資本が入っていないオリエンタルランド。フランチャイズのメリット・デメリットはありますが、今後も多くのディズニーファンにとって愛されるパークを目指していってほしいと思います。
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*1:もともと世界のディズニーパークはウォルト・ディズニー・アトラクションズが所管していたのですが、その後、組織の名前がウォルト・ディズニー・パークス・アンド・リゾーツに変わりました。ただ日本法人だけは「ウォルト・ディズニー・アトラクションズ・ジャパン」として、その名前が残っています。
*2:期間限定商品などはホテル内のショップで販売されたこともあります。
*3:ウォルト・ディズニーは人と人とのコミュニケーションを大切にするために、飲み物はワゴンによる対面販売に限っていました。東京でもウォルトの精神を守っていたのですが、飲み物を買うために並んで熱中症になる、という事例が相次いだために、やむなく導入に踏み切ったのです。