10月29日、オリエンタルランドは2015年度の第2四半期決算(中間決算)を発表しました。
オリエンタルランド 2016年3月期 第2四半期決算説明会 プレゼンテーション資料(PDF)
今回はオリエンタルランドから発表された資料をもとに、東京ディズニーリゾートが現在置かれている状況や、今後の動きについても考えていきたいと思います。
©Disney
まさかの「一人負け」
オリエンタルランドが発表した資料によると、第2四半期決算は以下の通りになりました。
- 売上高 2,220億円(前年同期比0.3%減)
- 営業利益 521億円(同3.4%減)
- 経常利益 532億円(同3.1%減)
- 純利益 359億円(同1.1%減)
売上高は前年同期とほぼ同じ水準だったものの、それ以外はいずれも下回る数字となりました。ただ、10月7日に日経新聞が「営業利益は前年同期比8%減の500億円程度」と報じていたため、株式市場では「予想よりもいい数字」という受け止め方で、買いが進みました。また下回ったとはいえ、売上高・営業利益は過去3番目の数字となりました。
しかし、一方でこんな数字も出ています。東京ディズニーランド・東京ディズニーシーの2015年度上半期(4月~9月)の入園者数は1,437万人となり、前年同期比で4.8%も減少したのです。
同じくテーマパークを運営する大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)や、長崎のハウステンボスなどでは、中国人観光客を中心とした「インバウンド」に支えられて、入園者数を大きく伸ばしています。
特にUSJはハリーポッターエリアや、日本独自のコンテンツをたくさん取り入れたことから、2015年度上半期の入園者数は前年同期比18%増の654万人を記録しています。
「コンテンツのごった煮」で見事に復活を果たしたUSJ。コムキャストによる買収で、経営方針に変化はあるか。©Universal
またサンリオピューロランドでも、「ちゃんりおメーカー」などが好評で、入園者数を大きく伸ばしており、長い低迷からようやく抜け出そうとしています。
そんな好調なテーマパークと比べると、どうしても東京ディズニーリゾートが一人負けしているような印象を受けます。第2四半期決算の記者会見でも、記者から「一人負けでは?」という質問が出たくらいでした。
どうして「一人負け」になってしまったの?
オリエンタルランドでは、苦戦している理由として「天候不良」「2014年5月に始まったショー『ワンス・アポン・ア・タイム』が2年目に入ったから」の2つを挙げています。
それでは、まず「天候不良」について見ていくことにしましょう。
以下のデータは、気象庁が発表している関東甲信地方の日照時間(平年比)の一覧です。
2014年
- 4月 120%
- 5月 137%
- 6月 114%
- 7月 122%
- 8月 84%
- 9月 129%
2015年
- 4月 83%
- 5月 133%
- 6月 107%
- 7月 120%
- 8月 85%
- 9月 96%
2014年と比べると、今年は4月と9月の日照時間の短さが分かると思います。おそらく本来はハロウィーンイベントで客足が伸びるはずだった9月で、想定以上に苦戦した可能性はあります。
ただ7月・8月は2014年と比べても、それほど日照時間に大きな差はありません。また、近畿地方の太平洋側では、8月は日照時間が伸びたものの、それ以外の月は昨年と比べて、日照時間は少なくなりました。
単に天候不良が原因だとすれば、USJも入園者数を大きく伸ばすことはなかったはずです。しかし、結果的に東京ディズニーリゾートだけが入園者数を落としているということは、ほかにも原因があるはずです。
次にキャッスル・プロジェクション『ワンス・アポン・ア・タイム』の影響について考えてみましょう。
城ワンスは2014年5月に始まりました。メディアなどでも大きく取り上げられたことから、連日多くのゲストで賑わいました。ただ、これについては「期間限定」というイメージが先行してしまい「早く見ておかなきゃ」というゲストの心理につながったためではないか、と考えられます。
オリエンタルランドが指摘しているように、城ワンスにそれだけの大きな集客効果があったのか、スペシャルイベントとの相乗効果もあったのではないか、少し疑問が残ります。
ただ、オリエンタルランドとしては、城ワンスの公演開始当初、想定以上にゲストの入りが良かったこと、夜間時間帯の入園者数が増え、結果的に午後6時から有効の「アフター6パスポート」の値上げにつながったことも、頭の中に成功体験としてあるのかもしれません。
本当は「強気の値上げ」が原因なのでは?
舞浜新聞では、今回オリエンタルランドが苦戦している原因として、以下の3つを考えました。
- 4月に行ったパークチケットと駐車料金の値上げ
- アナ雪イベントの混雑感
- USJやほかのテーマパークの影響
それでは順番に見ていくことにしましょう。
1つ目は「4月のパークチケットと駐車料金の値上げ」です。
2014年4月に消費税が8%に引き上げられ、東京ディズニーリゾートでもパークチケットの料金を改定しました。
しかし、2015年4月、再びパークチケットに加えて、駐車料金の値上げにも踏み切りました。この値上げについては、以前の記事で詳しく解説しています。
USJの場合、東京ディズニーリゾートと比べると、年間チケットの価格は低く抑えられています。そのため、高校生や大学生などの若いゲストでも、年間チケットを購入して、何度も来園することができます。
一方で、東京ディズニーリゾートの年間パスポートは、海外のディズニーパークと比べても、高めの値段設定になっています。そのため、年間パスポートを持ったハードリピーターよりも、1日券や複数日券などのゲストのほうが多くなります。
4月のチケット値上げによって、グループや家族で訪れるゲストにとっては、かなりの負担増になりました。そのため、年間チケットを持ったゲストが多いUSJが入園者数を伸ばした一方で、東京ディズニーリゾートは苦戦してしまったのではないか、そう考えられるのです。
第2四半期決算の記者会見で片山雄一専務は、入園者数が減ったことについて「値上げが理由とは考えていない」と説明していますが、影響は少なからずあったはずです。
2つ目は「アナ雪イベントの混雑感」です。
1月~3月に東京ディズニーランドで行われた「アナとエルサのフローズンファンタジー」東京のパークに初めてアナとエルサが登場するということで、連日多くのゲストで賑わいました。
「閑散期を吹き飛ばした」とも言われたアナ雪イベント。2月としては珍しく、入園制限も行われた。©Disney
しかし、現場のキャストは例年と同じく「閑散期シフト」だったため、アトラクションやレストランでの混雑が目立ちました。また入園制限も連発される事態に発展しました。
このアナ雪イベントの混雑がメディアだけではなく、ネットなどの口コミで広がってしまったことにより、「ディズニーはいつも混んでいる」というイメージが強くなってしまったと考えられます。混んでいる場所にわざわざ出かけるよりかは、より空いている場所に出かけたい、と思うのが自然でしょう。
3つ目は「USJやほかのテーマパークの影響」です。
これについては、影響は限定的だと思います。しかし、USJは2014年7月にハリーポッターエリアがオープンし、今年は「だいぶ落ち着いたから、行ってみようか」という需要が起きた可能性は高いでしょう。
またハウステンボスの場合は、旅行代理店のHISが自社の店舗網を使って、積極的に集客したという背景もあります。ほかのテーマパークに需要を食われてしまったために、結果的に東京ディズニーリゾートが一人負けしてしまった、という可能性はあるでしょう。
また3つの理由に加えて、限定的だとは思うのですが、外国人観光客(インバウンド)の取り込みでも、ほかのテーマパークに比べて苦戦したのではないかと考えられます。
東京ディズニーリゾートの場合、外国人ゲストは全体の約5%(2014年度)に限られます*1。ディズニーパークの場合、アメリカやフランスに加えて、中国・香港にもあります。外国人観光客、特に最近急増している中国人観光客にとっては「ウチにもディズニーランドはあるからいいや」といった考えにつながった可能性はあるでしょう。
USJのように「ハリーポッターエリアがあるのはフロリダと大阪だけ!」「日本のコンテンツがたくさん!」というパークなら外国人観光客も喜びます。ここにも、東京ディズニーリゾートが苦戦してしまった原因があるのではないでしょうか。
オリエンタルランドでは今後、東南アジアからのゲストを増やす考えです。苦戦しているインバウンドの取り込みにどれだけ成功するのか。2016年にも開園が予定されている上海ディズニーランドや、今後予想される香港ディズニーランドの拡張とどう戦うのか、注目する必要があるでしょう。
でも、今までの数字が良すぎたからでは?
2013年度は東京ディズニーランドの30周年イベントで、入園者数・決算ともに過去最高を更新しました。2014年度は本来アニバーサリーイベントの翌年のため、数字は落ちるとみられていました。しかし、結果的には城ワンスの導入や、アナ雪イベントの影響で、入園者数・決算ともに、かなりいい数字をたたき出したのです。
30周年イベントに合わせて導入されたパレード「ハピネス・イズ・ヒア」徹底したコストカットと地方からの集客で、2013年度は過去最高の決算となった。©Disney
それを考えると、2015年度は多少の落ち込みがあっても当然のはずです。メディアは東京ディズニーリゾートの「一人負け」と煽った見出しを書きますが、逆に本来の実力に見合った数字が出てきただけとも考えられます。
オリエンタルランドでは、下半期(10月~3月)は当初の予定通りの数字を達成できるとしています。これは毎年多くのゲストで賑わうクリスマスイベントに加えて、1月~3月にアナ雪イベントを再び開催するためです。
特にアナ雪イベントについては、前年度と比べても、エンターテイメント・プログラムもかなり強化するとみられています。天候に恵まれれば、十分目標は達成できるでしょう。
問題は2016年度?
さて、2015年度の決算については、大きく天候が崩れたり、景気が悪化したりしなければ、十分目標は達成できると思われます。しかし、その一方で、舞浜新聞が気になっているのは来年度、2016年度の決算についてです。
2016年度には東京ディズニーシーの15周年イベントの開催が予定されています。また、公式には発表されていませんが、おそらく東京ディズニーランドでは、ファンタジーランドの再開発工事が始まるとみられています。
オリエンタルランドが発表しているパークの開発計画(プレスリリースより引用)
2016年10月からは、土曜日・日曜日・祝日は、基本的に日付指定のあるチケットでしか入園することはできなくなります。年間パスポートは対象外ですが、10月からこれを設定したということは、おそらく工事によってパークの収容能力が減ってしまうために、少しでも平日にゲストを流したいと考えているからではないでしょうか。
特に10月~12月はハロウィーンとクリスマスで、パークはかなり混雑します。オリエンタルランドとしても、なるべく事前にゲストの数を把握しておきたい、できればランドよりもシーのほうにゲストを流したい、と考えているかもしれません。
東京の場合、シーよりもランドの方が入園者数が多いとされています。オリエンタルランドからはパーク別の入園者数は発表されていませんが、家族連れが多いこと、アトラクションの数が多いことなどから、おそらくランドの方が入園者数が多いでしょう。
ランドの再開発工事によって、どれだけ入園者数に変化が出るのか、売り上げがどれだけ変わるのか。オリエンタルランドの内部でも、さまざまな想定が行われていると思われます。しかし、こればかりは実際にやってみないと分からないでしょう。
オリエンタルランドとしては、工事による影響を最小限にするために、先にシーのアナ雪エリアをオープンさせて、その後にランドのファンタジーランド再開発に着手する、という考えもあるかもしれません。
なお、ランドのファンタジーランド再開発、シーのアナ雪エリアの建設には、これまで積み重ねてきた利益(キャッシュフロー)を使う計画です。増資や銀行からの借入金ではなく、ゲストの財布のお金を使うのです。
もし2016年度がファンタジーランドの再開発工事によって、当初の計画よりも苦戦する事態になれば、開発計画全体にも黄色信号が灯ります。今回、10月29日に発表した資料の中で、オリエンタルランドは「開発計画を一部見直し中」であることを明らかにしました。
オリエンタルランド「2016年3月期 第2四半期決算説明会 プレゼンテーション資料」より引用
すでに発表している計画を見直すのか、それとも未発表の内容を精査しているのか…。こればかりは、オリエンタルランドからの続報を待つしかありません。ただ、今後の決算の数字次第では、投資家から「本当に資金面で大丈夫なのか?」という不安の声が上がると思います。
さて、2015年度の決算は、当初の予想を上回るのか。パークの大規模開発のスケジュールはどうなるのか。10月3日に日経新聞が報じた「舞浜にある本社移転によって空いた土地は、テーマパーク拡張用地に使う」というのも気になります。ひとまず、オリエンタルランドからの発表を注視していきたいと思います。
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参考資料
*1:オリエンタルランド「ゲストプロフィール」より引用。