舞浜新聞

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ストームライダーのクローズは、パーク崩壊の始まりなのか?

5月19日、オリエンタルランドは東京ディズニーシーに新しいアトラクションを導入することを発表しました。

 

 

ポートディスカバリーにある「ストームライダー」をクローズし、映画『ファインディング・ニモ』と『ファインディング・ドリー(原題・2016年7月に公開予定)』をテーマにした、新しいアトラクションに置き換える計画です。

 

今回の記事では賛否両論があるストームライダーのクローズと、新アトラクションの導入について、舞浜新聞独自の視点で考えていきたいと思います。

 

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©Disney

 

どんなアトラクションができるの?

オリエンタルランドのプレスリリースによると、新アトラクションは来年(2016年)7月公開予定の『ファインディング・ドリー(原題)』の制作スタッフが参加し、魚サイズに縮むことができる潜水艦に乗り込んで、海の中の世界を体験できるというものになります。

 

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(オリエンタルランドのプレスリリースより引用)

 

新アトラクションは2017年春オープン予定で、現在のストームライダーがある場所に造られます。そのため、ストームライダーは2016年5月中旬にクローズされる予定です。

 

投資金額は50億円になる見込みです。現在ストームライダーのスポンサーを務めているJCBが、今後新しいアトラクションのスポンサーになるかどうかは、まだ分かっていません。

 

どうして反対意見が多いの?

今回の新アトラクションについては、TwitterなどのSNSを中心に大きな反響がありました。特に目立ったのがストームライダーのクローズに対する反対の声です。

 

では、どうして反対意見が出たのでしょうか。

 

ストームライダーがある「ポートディスカバリー」は、未来の港をテーマにしたエリアです。そんなエリアの中心的なアトラクションが「ストームライダー」なのです。

 

ポートディスカバリーにある「気象コントロールセンター(CWC:Center for Weather Control)」ここは様々な気象現象について、研究が行われています。私たち人間に大きな被害をもたらすストームを制御するために、CWCでは「ストームライダー」を開発しました。

 

私たちゲストは、そんなストームライダーに乗り込み、ストームを消滅させる作戦に同行する、というのが「ストームライダー」のコンセプトになっています。

 

未来を象徴する「ストームライダー」は、ポートディスカバリーのシンボルでもあります。ホテルミラコスタのロビーの天井にある壁画は、東京ディズニーシーにある各テーマポートが描かれているのですが、ポートディスカバリーを表す壁画には、ストームライダーもきちんと描かれているのです。

 

また、ポートディスカバリーでは、ストームライダーの完成を祝う祭が開催されている、という設定もあります*1。それだけ、ポートディスカバリーのコンセプトやストーリーと、ストームライダーは強く結びついているのです。

 

今回ストームライダーのクローズが発表されたとき、多くのゲストから反対意見が上がったのはこのためです。

 

ストームライダーをクローズすれば、ポートディスカバリーのストーリーは大きく変わってしまいます。ディズニーパークがほかの遊園地と違うのは、ストーリーやテーマを大切にしてきたという点です。そんなストーリーを無視するようなクローズに、多くの人が反応したのです。

 

ストームライダーのクローズはパーク崩壊の始まり?

ストームライダーのクローズについては、正直に言って驚かされました。舞浜新聞ではストームライダーはポートディスカバリーのストーリーと強く結びついているアトラクションであり、クローズするとは想像もしていなかったからです。

 

東京ディズニーランドの「スター・ツアーズ」のように、映像を3Dや高画質の4KHDに置き換えるようなリニューアルをするのかな?と思っていました。

 

しかし、今回オリエンタルランドから発表されたプレスリリースを見る限り、新アトラクションとして置き換えられる予定です。東京ディズニーシーの開園以来、クローズされるアトラクションはストームライダーが初めてとなります。

 

人気が落ちていたのであれば、クローズされるのも分かります。しかし、ストームライダーはファストパスも運用されていましたし、休日ともなると多くのゲストで長い列ができていました。ストーリーを捻じ曲げてまで、クローズしなければいけないのか。かなり疑問に残ります。

 

TwitterやFacebookといったSNSでの反応を見る限り、新アトラクションへの期待の声よりも、ストームライダーのクローズを惜しむ声が大きいのは事実です。ストーリーを軽視するやり方に、強い嫌悪感を示している方もいます。

 

中には「東京ディズニーシーの崩壊が始まった」と言う方もいます。しかし、舞浜新聞では、現段階でオリエンタルランドやディズニーの決断が間違っているとは断言できないと考えています。

 

それでは、どうしてストーリーを変えてまで、ストームライダーをクローズするのか。ディズニーとオリエンタルランドの狙いについて、少し考えていきましょう。

 

小粒な投資で大きな効果?

オリエンタルランドのプレスリリースを見る限り、新アトラクションは現在のストームライダーの設備を少しリニューアルする形になると思われます。

 

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オリエンタルランドのプレスリリースより引用。既存のストームライダーの内部構造とよく似ている。

 

以下はこれまで、東京ディズニーランド・東京ディズニーシーに導入された、主な追加施設の投資金額を一覧にしたものです。

 

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これを見ると、今回の新アトラクションに投資される50億円が、比較的小粒であることが分かると思います。特に、施設の外枠をそのまま使って導入された「ミッキーのフィルハーマジック」や「スター・ツアーズ」よりも、今回の新アトラクションのほうが金額は低いのです。

 

ストームライダーのクローズは2016年5月、新アトラクションのオープンは2017年春に予定されています。工事期間は1年弱ですから、現在の建物を取り壊して、そっくり新しく造り変えるということはしないでしょう。

 

東京ディズニーシーでは、2016年に開園15周年イベントの開催が予定されています。新アトラクションのオープンはその翌年、2017年春ですから、周年イベント終了後の客の落ち込みを防ごうと考えているのでしょう。

 

100億円規模になるエリア開発よりも、既存施設のリニューアルのほうが、小さい金額で大きな集客効果を発揮できます。

 

これまでシーの新アトラクションは、エントランスから近いアメリカンウォーターフロントに集中していました。エントランスから遠いポートディスカバリーに新アトラクションを導入すれば、奥までゲストの流れができ、全体的にゲストが散らばるため、混雑緩和につながるだろう、という見込みもあるかもしれません。

 

また、今後開発が予定されている、北欧をテーマにした新テーマポートのオープンを見据えて、「できてから行こう」という行き控えの防止と、客のつなぎ止め策とも考えられます。

 

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東京ディズニーシーに導入される「北欧」をテーマにした新テーマポートのコンセプトアート(オリエンタルランドのプレスリリースより引用)

 

ポートディスカバリーは新テーマポートの手前の位置にあるため、新アトラクションを訪れたゲストが、工事中のエリアを見て「ここに何ができるの?」「アナ雪のエリアだって!」といった反応が起きるのも十分考えられます。

 

また、ディズニーとしては、2016年7月公開予定の『ファインディング・ドリー(原題)』との相乗効果を狙っているのでしょう。

 

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『ファインディング・ドリー(原題)』の映画ポスター(Finding Dory (2016) - IMDb より引用)

 

もし北米と日本の公開時期が同じであれば、映画のソフトが発売される頃に新アトラクションのオープンとなり、それだけ大きな広告宣伝効果につながります。また、これまで東京のパークでは取り扱いが少なかった『ファインディング・ニモ』関連のグッズも大きく展開することができます。

 

北米と日本で公開時期をずらすのであれば、映画の公開に合わせて新アトラクションをオープンする、ということも考えられます。こちらの場合も、映画の広告宣伝効果につながります。

 

ポートディスカバリーはがらりと変わってしまう?

今回の新アトラクションは、魚サイズに縮むことができる潜水艦に乗り込んで、海の中の世界を体験できるというものです。この紹介だけを見ると「未来」というテーマには合っている気がします。

 

ただストームライダーとは異なり『ファインディング・ニモ』のキャラクターが前面に押し出されたアトラクションになるでしょう。

 

東京ディズニーランドのトゥモローランド。ここはポートディスカバリーと同様に、未来をテーマにしたエリアです。しかし、ポートディスカバリーが昔の人が考えた未来である「レトロフューチャー」がテーマなのに対して、トゥモローランドは近未来や科学技術が主なテーマになっています。

 

トゥモローランドを見ると、以前は「ビジョナリアム」や「ミート・ザ・ワールド」のように、キャラクター要素がほとんどないアトラクションが多かったです。

 

しかし、現在では「バズ・ライトイヤーのアストロブラスター」や「モンスターズ・インク“ライド&ゴーシーク”!」のように、キャラクターが前面に押し出されているアトラクションにリニューアルされ、多くの人気を集めています。

 

また今年(2015年)7月17日には、キャプテンEOの跡地にスティッチと会話ができるアトラクション「スティッチ・エンカウンター」がオープン予定です。こちらもトゥモローランドにあり、キャラクター要素が強いアトラクションになっています。

 

あくまでも舞浜新聞独自の見解ですが、今後ポートディスカバリーはストーリーが大きく変更され、ランドのトゥモローランドのように、キャラクター要素が前面に押し出されていくのではないでしょうか。

 

キャラクター要素の強化は、家族連れや若い女性の集客に力を発揮するだけではなく、グッズも展開しやすくなり、売り上げの向上につながるからです。

 

シーのポートディスカバリーは、「ストームライダー」と「アクアトピア」そして、アメリカンウォーターフロントを結んでいる「ディズニーシー・エレクトリックレールウェイ」の駅の3つしかアトラクションがありません。

 

ストームライダーのクローズと、新アトラクションの導入後に、アクアトピアをクローズして埋め立てたり、エレクトリックレールウェイの駅やホライズンベイ・レストランをリニューアルしたりして、エリアを大規模に開発することは十分考えられます。

 

特にシーの場合は、映画『アラジン』がテーマになっている「アラビアンコースト」や、『リトル・マーメイド』がテーマになっている「マーメイドラグーン」のように、もとの映画以外のアトラクションの導入が難しいエリアがあります。

 

ポートディスカバリーのように、汎用性のあるエリアが今後テコ入れされていく可能性は高いでしょう。

 

もはやシーは「大人向け」ではない?

賛否両論あるストームライダーのクローズと、新アトラクションの導入。ストームライダーについては、ストーリーのもとになった映画はなく、完全オリジナルのアトラクションでした。

 

しかし、小さな子にとっては刺激が強く、あまり家族向けのアトラクションではありませんでした。東京ディズニーシーの場合は、どうしても「大人向け」というコンセプトが独り歩きしてしまい、家族連れで訪れることを敬遠する方が多いと聞きます。

 

今回の新アトラクションは、そんな家族連れをターゲットにして、小さな子でも楽しめる『ファインディング・ニモ』をテーマにした施設にしたのでしょう。

 

東京ディズニーシーではこれまで、以下のアトラクションが追加導入されてきました。

 

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「レイジングスピリッツ」や「タワー・オブ・テラー」は大人向けでスリルのあるアトラクションですが、「タートル・トーク」や「ジャスミンのフライングカーペット」「トイ・ストーリー・マニア!」は小さな子でも楽しめる、家族向けのアトラクションになっています。

 

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2006年にシー5周年イベントの目玉として導入された「タワー・オブ・テラー」©Disney

 

タートル・トークとトイ・ストーリー・マニア!については、20世紀初頭のアメリカをテーマにしたエリア「アメリカンウォーターフロント」で違和感のないように造られています。ただ「エリアのテーマと合っていない」といった否定的な意見があることは事実です。

 

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2012年7月にオープンした「トイ・ストーリー・マニア!」©Disney

 

以下は東京ディズニーリゾートで予定されている投資計画の一覧です。

 

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ランドの新ファンタジーランドとシーの新テーマポートについて、オリエンタルランドは具体的な施設内容とオープン時期を今年度(2015年度)中にも発表するとしています。

 

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(オリエンタルランドのプレスリリースより引用)

 

今回の新アトラクション導入の発表は、おそらく大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンにある「ハリー・ポッター・アンド・ザ・フォービドゥン・ジャーニー」の3Dリニューアルを意識したと思われます。

 

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フロリダのユニバーサルにも同じアトラクションはあるが、3D化は大阪が世界初(ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター™とは?|USJ より引用)

 

大阪に話題をもっていかれないように、このタイミングで情報を出したのでしょう。結果的に、悪い意味で話題になってしまいましたが…。

 

さて、ストームライダーのクローズはストーリー無視の愚策なのか、それともパークの新陳代謝を促す英断なのか…。こればかりは、タイムマシンに乗って、10年後の東京ディズニーリゾートを訪れて確かめるしかなさそうです。

 

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©Disney

 

参考資料

東京ディズニーシー完全ガイド 2014-2015 (Disney in Pocket)

東京ディズニーシー完全ガイド 2014-2015 (Disney in Pocket)

 

 

東京ディズニーリゾート便利帖<第3版>

東京ディズニーリゾート便利帖<第3版>

 

 

Disney in Pocket 旅する東京ディズニーシー (Disney in Pocketシリーズ)

Disney in Pocket 旅する東京ディズニーシー (Disney in Pocketシリーズ)

 

 

東京ディズニーシー物語 (ディズニーストーリーブック)

東京ディズニーシー物語 (ディズニーストーリーブック)

 

 

*1:畑山信也『旅する東京ディズニーシー』講談社・2013年を参照。92ページに「ストームライダーという科学の新時代を告げる新型機の完成を祝って、フェスティバルも開催されています。」という記述がある。