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舞浜新聞

東京ディズニーリゾートなどのディズニーパークをはじめとして、ディズニーに関する様々な情報をお伝えします。



オリエンタルランドは「ブラック企業」なのか?

東京ディズニーリゾートでは史上初となるキャッスル・プロジェクションのショー「ワンス・アポン・ア・タイム」がいよいよ始まり、多くのメディアで取り上げられています。オリエンタルランドとしては、7月15日にオープン予定のUSJハリーポッターエリアに向けた対策を色々と考えていると思います。

 

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鳴り物入りで導入された「ワンス・アポン・ア・タイム」開始当初は混乱もあったが、多くのゲストに支持されている。©Disney

 

さて、そんな話題に事欠かない東京ディズニーリゾートですが、最近気になる出来事がありました。今回の記事ではパークで働くキャストの皆さん、特にショーに出演するパフォーマー、エンターテイナーの皆さんについて、舞浜新聞なりにいろいろと考えてみました。

 

オリエンタルランド・ユニオンの結成

労働組合のない職場で働く方や、組合に加入できない非正規雇用の方でも加入できる「なのはなユニオン」という労働組合があります。今年2月3日、この組合の支部として「オリエンタルランド・ユニオン」が結成されました。

 

今回、オリエンタルランド・ユニオンを結成した方のほとんどが、これまで東京ディズニーリゾート内のショーに出演してきたパフォーマーでした。彼らはオリエンタルランドと直接、雇用契約を結んでいたわけではなく、誠和企画という会社と契約していました。

 

誠和企画とは、オリエンタルランドから東京ディズニーリゾートのエンターテイメントプログラムの運営業務を請け負っている会社です。また出演者の派遣も行っています。ランド開園から間もない1983年6月に作られた会社で、設立当時からショーやパレードの運営を行っています。

 

では、なぜ今回そんな誠和企画と契約していたパフォーマーが、独自の労働組合を結成することになったのか。

 

それは今年になって突然、誠和企画から「雇い止め(解雇)」を通告されたからです。彼らはこれまでレギュラーショー*1やスペシャルイベントに長年出演してきました。中には17年間も出演してきた方もいます。

 

これまでパフォーマーたちは誠和企画と1年ごとに契約を結んで働いていました。しかし、ショーのリニューアルを行うことになり、これまで誠和企画が請け負ってきたシーン*2がカットされることになったのです。そのため、そのシーンに出演していたパフォーマーたちが、今年3月31日と4月6日をもって雇い止めされるという結果になりました。

 

長年、東京ディズニーリゾートの舞台に出演してきた彼らにとって、突然の雇い止めに納得できないのは当然でしょう。そこで誠和企画とオリエンタルランドに対して、雇い止めの撤回と雇用の継続などを求めて組合を結成したのでした。

 

偽装請負ではないのか?

「偽装請負」という言葉を聞いたことがありますか?大手企業がこの偽装請負を行っていたということで、過去には社会問題になったこともありました。最近では大手メディアによる報道はありませんが、現在でも行われている企業や現場もあります。

 

一言で「働く」といっても、法律上は様々な契約があります。通常、企業で働く場合は、その会社と雇用契約または労働契約を結びます。この場合、働く人は会社員となり、賃金や労働時間、休日・休暇などについて、様々な労働関係の法規が適用されます。また労災や失業保険、健康保険、厚生年金の対象となります。

 

その一方で「請負契約」というものが存在します。この場合、契約した人は会社員ではなく「個人事業主」つまり自営業の人と同じ扱いとなります。誰かから命令されたり依頼されたりするのではなく、契約者に大きな権限が与えられています。

 

しかし、この請負の場合は労働基準法上の「労働者」として扱われないため、労働関係の法規は適用されません。つまり労災や失業保険、健康保険、厚生年金の対象とはならないのです。

 

「偽装請負」とは、表向きは請負契約にもかかわらず、実際は雇用契約の場合と同じような労働条件で働かせることを言います。企業は賃金や労働時間、休日・休暇などの最低基準に縛られず、なおかつ各種保険の支払いも減るために、人件費を削りたいと考える企業が行うケースがほとんどです。これは職業安定法第44条(労働者供給事業の禁止)などに違反する行為となります。

 

今回の場合、パフォーマーたちが契約していたのは誠和企画であって、オリエンタルランドではありません。請負契約の場合は、命令や指示ができるのは彼らが契約していた誠和企画であって、オリエンタルランドは通常口出しすることはできません。

 

しかし、実際にはパフォーマーたちの自由な演技は許されず*3、用意された台本を使って、オリエンタルランドのステージマネージャーによる指示のもと技術指導が行われていたそうです。また、リハーサルの後にはショーに出演できる人間をオリエンタルランドの社員が決めていました。これは明らかな「偽装請負」でしょう。

 

オリエンタルランドの対応は?

3月、オリエンタルランド・ユニオンはオリエンタルランドに対して「団体交渉」を求めました。しかしオリエンタルランドは「私たちはあくまでも請負業者と請負契約を結んでいる『注文主』にすぎず、雇用契約も指揮命令関係もなければ労務管理にも関与していないので『使用者』ではない」として団体交渉を拒否したのです。つまり「偽装請負」という指摘を否定しました。

 

4月28日、オリエンタルランド・ユニオンの組合員は、東京労働局に対して、オリエンタルランドが偽装請負を行い、職業安定法第44条に違反しているのではないかと申告しました。しかしJ-CASTニュースの記事*4によると、オリエンタルランドの広報部から、東京都と千葉県の労働局からそれぞれ「法令に違反する事項はない」との見解を示されたとのことです。

 

オリエンタルランド・ユニオンは東京ディズニーリゾートの玄関口である舞浜駅などで街頭活動を行い、オリエンタルランドによる雇用の実態や非正規労働者の待遇改善を訴えています。

 

ここが変だよ!ディズニーパークの裏側

オリエンタルランド・ユニオンの組合員の方は、パークの労働環境について、以下のように語っています。ただし、これらの内容がほかのキャストに当てはまるとは限りません。

 

契約書には「労働時間5時間45分」と明記されている。しかし実態は「ショーやパレードに出演している時間のみ時給が発生する」というもの。当然、出演と出演の間の待ち時間は無給。その間メイクを落とすこともできない。実際の労働時間はかなり削られてしまうため、低賃金になってしまう。結局はアルバイトで生活費を稼ぐしかない。

 

ショーやパレードは天候や当日の入園者数などによって演出が変更される。もし当日に出番がなければ時給は発生しない。例えば、熱中症や体調不良で出演できないパフォーマーのために、待機する人が必要となる。メイクをして出番を待つ出演者たち。しかし、出演できなかったパフォーマーはメイクを落として、そのまま帰ることになる。待機していた間の時間は「休憩時間」として処理され、時給は発生しない。当日になって「今日はゲストが少ないから帰って」「今日は2時間でいいよ」なんて言われる始末。

 

直接雇用ではないため、仮にけがをしても労災が下りない。最悪、雇い止めで契約が切られてしまうかもしれない。万が一のことがあっても、治療費は全額自己負担。社会保険にも加入できない。

 

出演者たちの給料すら「コスト」として考える。できるだけ安いほうがいいということで、派遣会社を買い叩き、できるだけ安い金額を提示した企業と契約を結ぶ。

 

地震が起きても「震度3までは安全」と言われる。現場の出演者たちは揺れにおびえながら、宙づり状態で待機させられることもあった。

 

不満の声を上げることができない。だって、ひとたび声を上げれば、次の契約更新はないから。

 

ショーやパレードの休止期間中、休業補償などは一切ない。

 

オリエンタルランドは史上最高益を達成しているのに、現場のキャストの賃金アップは一向にやろうとしない。近年では経費削減として、ボーナス、年末・年始手当、交通費などが軒並み減らされている。

 

夢と魔法の裏側は語ってはいけない?

東京ディズニーリゾートは多くのキャスト、労働者によって支えられています。そのほとんどがアルバイトや契約社員、そして今回問題になっている派遣労働者のような「非正規雇用者」です。

 

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©Disney

 

ディズニーパークの非正規雇用問題を取り上げると、必ずと言っていいほど批判の声が上がります。例えば「ディズニーの夢と魔法を壊す気か?」「お前はディズニーが嫌いなだけだろ?」「現場で頑張っているキャストに失礼では?」といったものです。しかし、果たしてそんな批判でこの問題を片付けてしまっていいのでしょうか。

 

また、今回問題になっているのは誠和企画と契約していたパフォーマーたちです。「偽装請負が問題であって、それ以外のキャストさんは満足して働いているでしょ?」という考えもあると思います。でも、本当にそれでいいのでしょうか。

 

これまでにもオリエンタルランドが関係する労働問題は、2度ほど報じられています。一つは2000年に発覚したアルバイト1600人の厚生年金加入漏れ、もう一つは2007年に発覚したダンサーの労災認定です。

 

ダンサーの労災認定では、パレードに出演していたダンサーがケガをしたものの、今回の問題と同じく業務請負契約だったことから、オリエンタルランドは「ダンサーとは雇用契約を締結しているわけではない」と主張して、労災認定を拒否したのです。しかしその後、勤務実態から「労働者性」が認められ、労災と認定されました。

 

ダンサーの労災認定問題の発覚後、一部のダンサーはオリエンタルランドによる直接雇用に切り替えられました。また、グループの子会社であった芸能事務所「Eプロダクション」は2009年4月にオリエンタルランド本体に吸収合併されています。しかし、多くのキャストやパフォーマーたちは業務請負契約で働いているというのが現状なのです。

 

最近のパークは「経費削減」という言葉が意識されるようになりました。人件費もほかの経費と同じように削られています。最近のパークはベテランキャストが少なくなり、多くの新人・若手キャストで現場を回しています。

 

もともとディズニーパークは離職率が高く、抜けた分の人員を合同説明会で大量に採用しているという実態があります。また以前に比べて、キャスト一人当たりの持ち場や仕事量は確実に増えています。より少ない人数で、効率的に現場を回すことが求められているのです。

 

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©Disney

 

ディズニーパークの魅力はアトラクション、ショー、パレード、レストラン、グッズなど、様々な要素で構成されています。しかし、そんな一つ一つをゲストに提供しているのが現場のキャストたち、すなわち「人」なのです。キャストを「コスト」と考え、人の力を軽視する考え方は、すなわちディズニーパークの根底を否定することになると思うのです。

 

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©Disney

 

東京ディズニーリゾートは夢と魔法であふれています。しかし、そんな華やかなオンステージは、低賃金で低待遇の労働者によって支えられているという事実を、より多くの人に知っていただきたいと思います。

 

オリエンタルランドには「ブラック企業」になって欲しくはありません。そしてキャストは「コスト」ではありません。企業の収益に見合った賃金や待遇を、現場で働く人たちに提供してもらいたいです。

*1:主なショーとして「ワンマンズ・ドリームⅡ(ランド)」「アンダー・ザ・シー(シー)」の2つが挙げられています。

*2:一部報道によると、スティルトと呼ばれる竹馬のようなものに乗って行うパフォーマンスなどだったようです。

*3:通常の請負契約の場合は、契約者の自由裁量が認められています。

*4:長年働いたパフォーマー7人が「偽装請負」主張 ディズニーランド側「そうした事実はない」:J-CASTニュース