パークから空を眺めていると、低い高度で飛行機が通るときがあります。しかしよく見ていると、東京ディズニーリゾートの真上を通ることはありません。都市伝説のように「東京ディズニーリゾートの上空は飛行禁止になっている」という噂も耳にします。
果たして都市伝説は本当なのでしょうか。今回は東京ディズニーリゾートと空のルールの関係について、少し見ていきたいと思います。
目次
- 舞浜上空は「混雑空域」
- 千葉県や浦安市からの陳情がきっかけに
- 本当はディズニー社からの圧力があった?
- 東京ディズニーリゾートの上空は飛行禁止なの?
- 海外のパークは「飛行禁止」のところも
- 空のルールを知ると、もっと楽しい!
- 参考リンク
舞浜上空は「混雑空域」
東京ディズニーリゾートの近くには、羽田空港や成田空港などの大きな空港があります。舞浜の上空は「東京進入管制区」と呼ばれる空域になっており、主に羽田空港を利用する飛行機が飛んでいます。
首都圏上空の空域設定(「首都圏の空域について」より引用)
羽田空港の場合、離陸・着陸する飛行機の多くが、東京湾や房総半島などの住宅が少ない場所の上空を飛んでいきます。これは騒音防止や、万が一事故が発生してもすぐに対応できるようにしているためです。2020年3月からは、東京五輪の開催に向けて、発着数を増やすために、東京都心の上空を通るルートの運用も始まりました。
羽田空港の飛行ルートは、風向や天候によって使われるルートが変わっていきます。しかし、よく見ていくと、浦安市の上空、ちょうど東京ディズニーリゾートを避けるように飛んでいくのです。どうして、このようなルート設定になっているのでしょうか。
千葉県や浦安市からの陳情がきっかけに
2010年10月、羽田空港で新しい4本目の滑走路「D滑走路」の運用が始まりました。D滑走路は、敷地から大きくはみ出す形で計画されたため、それに合わせて新しい飛行ルートが検討されました。このとき国土交通省から出されたのは、東京ディズニーリゾートや浦安市の上空を通るというルートだったのです。
当時、国土交通省から出された飛行ルート案(広報うらやす 平成16年1月15日号|浦安市公式サイトより引用)
この飛行ルート案に、浦安市と千葉県は猛反発しました。千葉県は「観光立県」を掲げており、東京ディズニーリゾートは県が抱える大事な観光資源。そんな観光資源の上空を多くの飛行機が通過すれば、騒音が激しくなり、入園客が楽しめなくなるという意見でした。千葉県はオリエンタルランドの大株主であったため、直接的な利害関係者だった、というのも大きかったと思います。
もちろん浦安市にとっても、住宅密集地の上空を飛行機が通過するとなれば、騒音や万が一の事故が心配になります。浦安市や千葉県などからの陳情を受けた国土交通省は、滑走路の設計見直しと、飛行ルートの再検討を行うことになりました。
修正後の飛行ルートを表した図(国土交通省「羽田再拡張後の飛行ルート(修正案)について」より引用)修正前が黒線、修正後が橙線で描かれている。
変更前は東京ディズニーリゾートと直線距離で、わずか300mの距離を飛行する計画でしたが、最終的には滑走路の向きと進入角度をずらすことで、東京ディズニーリゾートから約2kmの距離を飛行するルートへと変更されました。
先ほども触れたとおり、飛行機は風向きや天候によって、飛行ルートが変わります。このときに変更されたのは、「南風悪天時」に使われるルートでした。実は羽田空港で、このルートが使われることはほとんどありません。夏の時期がほとんどで、年間の着陸回数のうち約3%しか使われないのです*1。
そんなわずかしか使われないルートに対して、千葉県や浦安市が反発したということは、それだけ東京ディズニーリゾートの上空を飛行機が通過することに、危機感をもっていたということでしょう。
南風悪天時以外のルートでも、東京ディズニーリゾートの上空を避けるようにして飛んでいます。これは滑走路の角度もありますが、東京都心や浦安市の上空といった住宅密集地、米軍の横田基地の上空に設定されている「横田空域(横田ラプコン)」を避けて*2、東京湾上空を飛行すると、結局はこれらのルートが一番効率的になるのです。
本当はディズニー社からの圧力があった?
浦安へのディズニーランド誘致から、東京ディズニーリゾート誕生までの裏側を取り上げた本として『東京ディズニーリゾート 暗黒の軌跡』があります。
この本でも、羽田空港のD滑走路・飛行ルート問題について取り上げられています。本によると、浦安市や千葉県から陳情を受けても、国土交通省は強硬な立場を示して、当初はルートを見直そうとしなかったというのです。
しかし、一転して国土交通省が見直しに舵を切ったのは、アメリカのウォルト・ディズニー・カンパニーから「ディズニーランド上空をジェット機が行き来するのは非常識」という抗議が届いたため、だというのです。
本ではディズニー社からの抗議について、ある全国紙の国交省担当記者の話として伝えています。真偽については分かりませんが、ディズニー社からの外圧で国交省が動いたのであれば、ちょっと考えさせられますね。
東京ディズニーリゾートの上空は飛行禁止なの?
浦安市や千葉県が、騒音や安全性の問題から、東京ディズニーリゾートの上空の飛行機通過に抵抗したことは分かりました。都市伝説のように「上空が飛行禁止区域に指定されている」という事実はなく、法令上もそのような指定は受けていません。
飛行禁止区域は、航空法第80条と航空法施行規則第173条にもとづき、国土交通省の航空局が指定しています。在日米軍の施設や福島第一原発の上空*3など、安全上必要な地域に限って指定されています。また、G20大阪サミットや即位礼正殿の儀などの国家的行事の際は、飛行制限区域が指定されることもあります。
これ以外にも、皇居上空のように警視庁が独自に「飛行自粛要請区域」を設定している場所もあります。
東京ディズニーリゾートの上空の場合、通過自体は法的にまったく問題がありません。世界中の飛行機の情報を調べることができる「Flightradar24(フライトレーダー24)」を見ていくと、パーク上空を通過する飛行機は珍しくありません。
しかし、先ほどもご紹介した通り、羽田空港の離発着ルートのうち、パーク上空を通るルートは基本的に存在しません。高い高度での通過や、滑走路閉鎖などによる緊急的な通過はありますが、かなり回数は限られるでしょう。
また、ヘリコプターなどが飛行することも法的に問題ありません。ただし、東京ディズニーリゾートは建物自体の著作権をディズニー社が持っており、許可なく上空を飛行したり、撮影したりすることを認めていません。
2010年12月9日にテレビ東京で「空から日本を見てみよう」という番組が放送されました。ヘリコプターからの眺めで、気になる地上の場所を探検するというものです。このとき、テレビ番組では史上初めてディズニー社の許可が下り、ヘリコプターからの撮影が行われました*4。
テレビのニュース番組では、東京ディズニーリゾートの上空から撮影した映像が使われることがあります。よく見ると東京ディズニーリゾートの真上は通過していませんし、著作権法第41条では、報道目的による著作物の利用が認められています。報道目的であれば、東京ディズニーランドや東京ディズニーシーの映像や写真を撮影したとしても、法律違反にはならないのです。
東京ディズニーリゾートの近くには、民間のヘリポート「浦安ヘリポート」があります*5。ここでは遊覧飛行を行っていますが、こちらも東京ディズニーリゾートの上空を避けるようにして飛行しています。
最近ではドローン(無人飛行機)を使って、写真や映像を撮影する方が増えてきました。重さが200g以上のドローンは、航空法で「空港周辺区域」「人口密集地区」で飛行させる場合は、管轄の航空局や空港事務所の許可が必要になります。東京ディズニーリゾートがある舞浜地区は、人口密集地区に指定されていますので、無許可でドローンを飛行させた場合は、逮捕される可能性があります。
海外のパークは「飛行禁止」のところも
東京ディズニーリゾートの上空は法的には飛行禁止ではないものの、オリエンタルランドやディズニー社が飛行を認めていません。
実はアメリカ・カリフォルニアのディズニーランドや、フロリダのウォルト・ディズニー・ワールドは、その上空が米国政府によって「飛行禁止区域」に設定されているのです。
これは2003年に、イラク戦争の戦費負担について連邦議会で議論されていたとき、ディズニー社によるロビー活動によって指定されたものです。表向きは「テロ対策」とされていますが、ディズニー社としては無許可で上空を飛行する「広告飛行船」などの排除が大きな目的でした。アメリカ国内にあるテーマパークの中で、上空が飛行禁止になっているのはディズニーパークだけです。
ディズニーランド周辺の航空図*6。パーク中心から3海里(約5.6km)・高度3,000フィート(約914m)が飛行禁止に指定されている。
ディズニーワールド周辺の航空図*7。ディズニーランドと同様に、パーク中心から3海里(約5.6km)・高度3,000フィート(約914m)が飛行禁止に指定されている。
アメリカのパークだけではなく、香港ディズニーランドの上空も「飛行禁止区域」に指定されています。香港民間航空局(民航處)の公式ウェブサイトによると、騒音や景観上の問題から、パーク上空の高度4,000フィート(約1.2km)は飛行禁止区域として指定されています。
香港ディズニーランド上空に設定された飛行禁止区域(香港民間航空局「Civil Aviation Department - Flight Prohibition Area」より引用)
(補足解説)
日本語では「飛行禁止区域」でひとくくりにされますが、No-fly zone(紛争等であらゆる航空機の飛行が禁止)、Prohibited airspace(基本的に飛行が禁止)、Restricted airspace(飛行には航空当局の許可が必要)の3種類が存在します。
空のルールを知ると、もっと楽しい!
飛行機は基本的に、風に向かって離着陸をします。これは向かい風が強いほど、翼が浮かぶ力「揚力」が大きくなるからです。風向きや強さが飛行機にとって、とても大切なことがよく分かりますよね。
羽田空港を離発着する飛行機ですと、時間帯が合うと窓から東京ディズニーリゾートの花火やパレード、ハーバーショーを見ることができます。空のルールを知ると「この滑走路から飛ぶのか」「このルートを通って飛ぶのか」といったように、ちょっとした楽しみが広がると思います。
東京ディズニーリゾートと空のルール。なんだか難しい話ですが、私たちゲストが安心して夢と魔法の世界を楽しむためには、とても大切なものなんですね。
参考リンク
www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp
*1:ルートの見直し前は、約8%の運用が見込まれるとされていました。
*2:日本政府とアメリカ軍との交渉の結果、東京都心上空を飛行するルートでは、横田空域の通過が認められています。
*3:原発から半径3km圏内、 5,000フィート(高度1,500m)までの空域が飛行禁止となっています。国土交通省「報道発表資料:東京電力福島第一原子力発電所周辺の飛行禁止区域の制限緩和について」より引用。
*4:2011年7月24日に同じくテレビ東京で放送された日曜ビッグバラエティ「東京ディズニーランド・東京ディズニーシーまるごと生中継 真夏の夜のマジカルSP」でも上空からの中継がありました。
*5:実はこのヘリポート建設時、当時の浦安市長が反対したものの、建設が実現したという経緯があります。
*6:アメリカ連邦航空局(FAA)「4/3635 NOTAM Details」より引用
*7:アメリカ連邦航空局(FAA)「4/3634 NOTAM Details」より引用