2021年3月7日、東京ディズニーシーの「ブロードウェイ・ミュージックシアター」で、浦安市成人式が行われました。
東京ディズニーリゾートでの成人式は、毎年メディアでも大きく取り上げられ、浦安市を象徴するイベントになっています。これまでは東京ディズニーランドの「ショーベース」で行われていましたが、今年は初めて会場が東京ディズニーシーに変更されました。
当初は1月11日(成人の日)に開催予定でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大で延期に。なんとか開催できたことで、新成人を迎えた皆さんもホッとしていることでしょう。今回は、そんな浦安市の成人式の歴史について、少しひも解いていきたいと思います。
目次
もともとは「文化会館」だった
浦安市が東京ディズニーランドで成人式を行うようになったのは、2002年1月の成人の日からです。それ以前は、市役所そばにある文化会館が会場でした。市長や来賓からの祝辞に加えて、中国雑技団によるパフォーマンスがあるなど、ほかの市町村と似たような内容でした。
2001年、浦安市は市制施行から20年を迎えました。翌年に行われる成人式は、浦安市が誕生した年に生まれた人たちが参加するということから、市では「新成人からも意見を聞こう」と実行委員を募集することに。公募によって、4名の委員が選ばれました。
当時の予算は100万円。会場の使用料に加えて、記念品代や中国雑技団の出演料を含めて、ギリギリ収まる金額でした。しかし、実行委員から市長に出されたのは、なんと「東京ディズニーランドで成人式をやりたい」という、とんでもない提案だったのです。
これには当時、市長を務めていた松崎秀樹氏も困惑。しかし、実行委員から懇願された松崎市長は、その翌日にオリエンタルランドの加賀見俊夫CEOと面会することになります。
「浦安市の成人式をディズニーランドで行いたい」
松崎市長からの提案に、加賀見CEOは絶句します。当時の成人式といえば、派手な格好を見せびらかしたり、酒を飲んで暴れまわったりするなど「荒れた式典」というイメージが強い時代でした。浦安市の成人式は当時から落ち着いていたものの、「もし暴れるような新成人がいたら…」という想像が、加賀見CEOの脳裏によぎったかもしれません。
松崎市長の提案を受けて、オリエンタルランドはなんとかパーク内で成人式を開催できないか、検討を始めます。しかし、次に立ちはだかったのが、アメリカの「ウォルト・ディズニー・カンパニー」でした。
東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは、ディズニー社とライセンス契約を結んで、パークやホテルなどを展開しています。計画当初、米国本社は成人式の意味を理解できず、首を縦に振ろうとしませんでした。
「日本は国を挙げて、20歳になったお祝いをする」「そのお祝いをパーク内でさせてもらえないだろうか」米国本社と粘り強い交渉を続けた結果、なんとか開催の許可が下りたのです。
2002年1月14日、東京ディズニーランドで史上初めて、浦安市の成人式が行われました。このときの様子は日本国内だけではなく、海外のメディアでも大きく取り上げられ話題になりました。東京ディズニーリゾートの広告宣伝に加えて、浦安市のブランドイメージ向上にもつながったのです。新成人の出席率も、前年の55%から72%へと大きく向上しました。
2002年1月以降、浦安市は実行委員会から提案を受ける形で、東京ディズニーランドでの成人式開催を続けています。その様子は毎年メディアでも取り上げられ、今では浦安市の風物詩ともなっています。
1981年~2020年までの成人式出席率の推移。2002年以降、大きく向上していることが分かる。
「日の丸」掲揚もできなかった?
さて、新成人の熱意によって実現した、東京ディズニーランドでの成人式。実は開催直前に、ある問題で浦安市とディズニー社の協議が難航していました。それは「日の丸」です。
東京ディズニーランド内では、エンブレム旗やアメリカ国旗を除いて、日本などの国旗は掲揚されていません。ディズニー社は当初、成人式での国旗掲揚を認めようとしませんでした。
その後、ショーベースのモニターに日の丸を表示する妥協案が提示されたものの、浦安市は協議を継続。最終的には、市長や市議会議長からの祝辞のときだけ、国旗・浦安市旗を掲揚することで、ディズニー社からの許可が下りたのです。
国旗の扱いを決めるだけでも、1か月以上の時間がかかりました。ディズニー社が日の丸をパークに持ち込むことに対して、非常に神経を使っていることが分かるエピソードですね。
松崎秀樹 前浦安市長による動画。成人式決定までの舞台裏を語っている。
私もディズニーの成人式に参加したい!
浦安市で生まれ育った人にとっては、東京ディズニーランドでの成人式は特別な思いがあるでしょう。もちろん、ディズニーを愛する方にとっては、人生に一度しかない成人式を、東京ディズニーランドで楽しみたいと思うかもしれません。
浦安市では、成人式の対象を「前年12月1日に住民登録があり、成人式開催日までに市に在住している方」としています。また、進学や就職で転居した場合でも、保護者が市内在住で住民登録がある場合は、事前に申し込みをして、入園料を自己負担すれば参加できます。
例年12月上旬には、案内状が送付されています。「浦安市の成人式に参加したい」という方は、早めの準備が必要ですね。
テーマパークでの成人式に批判的な声も…
東京ディズニーランドでの成人式に対して、「私も浦安に住みたい」「成人式はディズニーランドで参加したい」という肯定的な反応が多く聞かれます。その一方で、開催当時からメディアでは「成人のお祝いを遊園地でやるとは何事か」といった、批判的な声も取り上げられていました。
2006年1月10日の朝日新聞夕刊の1面コラム「素粒子」に、浦安市の成人式について、以下のコメントが掲載されました。
浦安の新成人。遊園地のネズミ踊りに甘ったれた顔して喜んでるようじゃ、この先思いやられる
これに対して、読者からは批判が殺到。浦安市もこのコラムを「中傷」だと判断して、朝日新聞社に抗議書を送りました。しかし、広報部からは「決して浦安市の新成人を中傷することを意図したものではありません」という返答のみ。謝罪の言葉や訂正記事などは出しませんでした。
実はテーマパークでの成人式は、浦安市が初めでではありません。東京都練馬区では1978年から、区内にある「としまえん」で成人式を開催。福岡県北九州市の「スペースワールド」では1998年から、愛知県安城市の「デンパーク」では2000年からそれぞれ行っており、決して珍しくはなかったのです。
また、東京ディズニーランドでの成人式では、浦安市長、浦安市議会議長、東京ディズニーリゾート・アンバサダーによる祝辞が主なもので、キャラクターやダンサーが出演するショーはそれほど長くありません。甘やかしといった批判は、的外れと言えるでしょう。
ただ、開催費用を疑問視する声があることは事実です。浦安市議会の広瀬明子議員は自身のブログで、2003年の成人式開催費用について、以下のように書いています。
開催費用
- 698万6,400円
- そのうち614万5,720円は会場使用料(4,670円×1,316人)
- 4,670円は、1,000人以上対象の団体パスポート料金
- 参加者1,316人には、成人該当者、来賓、職員が含まれる
一人当たりに換算すると、5,589円という計算です。成人式当日は夜の閉園まで、パークを楽しむことができますので、決して高い金額とは言えません*1。しかし、これらの費用を税金で賄うことに対して、疑問を感じる市民は少なくないかもしれません。
2008年9月の毎日新聞の報道では、参加者の入園料4,930円(1,000人以上の団体料金)は、浦安市の全額負担、1人当たりだと6,270円、総額で約770万円となっています。また、2020年度の浦安市歳入歳出決算書では、成人式開催事業として約1,300万円の支出が計上されています*2。
浦安市からオリエンタルランドに支払われた「使用料・賃借料」の推移。近年は1,000万円を超えている。
2020年の成人式の出席率は「76.7%」。ほかの市町村に比べて、高い数字となっています。また、メディアで取り上げられることで、浦安市のイメージアップにつながっている面はあるかもしれません。ただ、年々高額化する式典の費用対効果について、考えていく必要はあると思います。
参考資料
- 浦安市広報「広報うらやす」2002年2月1日号
- 千葉日報「浦安市でしかできない式 成人式をTDLで 新成人のアイデア採用」(2001年11月1日)
- 読売新聞「ディズニーランドで成人式 浦安市、新成人が立案」(2001年11月1日)
- 千葉日報「市とOLC『良い関係』に TDL成人式、実現に苦労」(2013年4月24日)