舞浜新聞

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上海ディズニーランドの開園から考えること

6月16日、いよいよ中国本土では初めてとなるディズニーパーク「上海ディズニーランド」が開園しました。中国の現地メディアだけではなく、アメリカや日本を始め、多くの海外メディアにも取り上げられています。

 

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©Disney

 

さて、今回は開園を迎えた上海ディズニーランドについて、これまでのパークとの違いや、中国政府とディズニー社との関係、さらには東京ディズニーリゾートへ与える影響まで、少し考えてみたいと思います。

 

アジアでは3番目

上海ディズニーランドがつくられたのは、浦東国際空港から約20kmの場所になります。ちょうど上海市中心部と空港との中間です。

 

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©Disney

 

アジアでは1983年の東京、2005年の香港に次いで、3番目の開業となりました。実は、かつてディズニー社が香港進出を決めたとき、最後まで候補地として残っていたのが「上海」でした。ディズニーとしては、長年の悲願だった中国本土への進出を果たしたのです。

 

すでにウェブやSNSでは、キャストとその関係者向けに行われていた「プレ・オープン(試験営業)」の様子がたくさん紹介されており、開園前から話題になっていました。それだけ多くのファンが、上海ディズニーランドのオープンを心待ちにしていたということでしょう。

 

ただ、かつて香港ディズニーランドが開園したときも話題になりましたが、本土ゲストのマナーの悪さも、プレ・オープンから目立ってしまいました。これについては、日本に加えて、香港や台湾のメディアも大きく取り上げていたようです。文化の違いとして、受け入れるしかなさそうですね。

 

 

ミッキーの顔が違う!?

上海ディズニーランドについて、開園前から大きな話題になったのが「ミッキーとミニーの顔が違う」というものでした。

 

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上海ディズニーランドのミッキーマウスとミニーマウス ©Disney

 

新しい顔のミッキーとミニーは、上海市内の商業施設で行われた宣伝イベントで、初めてお披露目されました。当初は「本物なのか?」「偽物では?」という声があったのですが、同じ顔のミッキーがパークでも登場すると、一気に拡散していきました。

 

インスタグラムから拡散された一枚。数日前のグリーティングは見慣れた顔のミッキーとミニーだったため、騒然となった。©Disney

 

新しい顔について「かわいい」「違和感はない」という声がある一方で「慣れない」「もとの顔のほうがいい」という批判的な声が大きいのも事実でしょう。

 

おそらくディズニー社としては、上海がオープンするこのタイミングで、世界のパークのミッキーとミニーの顔を変えたいと考えているのでは?と舞浜新聞では見ています。

 

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©Disney

 

新しい顔を見ると、前の顔と比べてよりアニメーションのミッキーに近い印象があります。また全体的にソフトになった感じもあります。

 

ディズニー社としては、よりアニメーションのミッキーに近い顔にしたい、だからこそ新しい顔を、世界的な注目を集める上海で初公開したい、そう考えたのではないでしょうか。

 

実際、米フロリダのマジックキングダムで始まった新しいショーでは、新しい顔のミッキーとミニーが登場しています。今後、直営のパーク、果てはフランチャイズの東京でも導入されるのは、時間の問題かもしれません。

 

6月17日から始まった「Mickey's Royal Friendship Faire」に登場したミッキーとミニー ©Disney

 

上海は次世代型のパーク

上海ディズニーランドを見ていくと、これまでのパークとは構造が大きく違うことがよく分かります。

 

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©Disney

 

大きな特徴は「メインストリートがない」ということです。ディズニーパークの場合は、エントランスからランドマークに向けて、一本の道が通っています。これは映画で言えば「プロローグ」に当たります。しかし、上海の場合は「ミッキー・アベニュー」という、キャラクターたちがメインになったエリアとなり、特定の街並みは再現されていません。

 

従来のパークであればシンボルがあり、そこから様々なテーマエリアへとつながる道がありました。しかし、上海の場合、メインストリートもなければ、中心となるハブもありません。城前にはガーデンズ・オブ・イマジネーションが一つのエリアとして設けられています。

 

また、十二支をモチーフにしたキャラクターの壁画があったり、ドナルドやチップ&デールが太極拳のパフォーマンスをしたりなど、中国人ゲストのニーズに合わせて、変えられています。これはまさに、近年のディズニー社が推し進めている「現地化(ローカル化)」の一つでしょう。

 

さらには、上海オリジナルのエリアに加えて、世界で上海だけのアトラクションやショップ、レストランがたくさんつくられています。これを見ていくと、おそらくディズニー社は、上海を試金石にしようとしているのではないか、と考えることができるのです。

 

かつての東京ディズニーランドのように、アメリカのパークをそのままコピーしても良かったはずです。香港もそうでした。しかし、それをディズニー社がやらなかったということは、上海の集客力にかなり期待をしている証拠だと思うのです。

 

どうして「中国本土」なの?

さて、読者の方の中には「どうして香港にもあるのに、上海に新しいパークをつくったの?」と思っている方がいるかもしれません。

 

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香港ディズニーランド「ミッキー・アンド・ザ・ワンダラス・ブック」©Disney

 

香港の場合は拡張用地もありますので、今後新しいエリアや第2パークの建設も十分可能です。しかし、当初の見込みよりも入園者数が少なく、決算の数字も苦戦しているのです。

 

 

加えて、香港の場合は中国本土の住民が訪れる場合、手続きが面倒なことも挙げられます。本土の住民の場合、パスポート代わりとなる「往来港澳通行証」に加えて、ビザ(査証)と同様の滞在許可の申請が必要となるのです。居住地によって申請できないこともあります。

 

香港ディズニーランドは、香港市民や外国人観光客に加えて、中国本土からの観光客もたくさん訪れています。しかし、制度の問題から、本土からの客を十分引き寄せ切れていないのが現状なのです。

 

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©Disney

 

中国は近年、著しい経済成長を果たしました。また可処分所得(自由に使えるお金)が多い、中間層の人口もかなり増えてきています。これはかつて、高度経済成長を果たした日本とよく似ています。ディズニー社としては、この中間層は魅力的な市場に映ったはずです。

 

だからこそ、香港に次いで、中国本土である上海に、新しくディズニーパークを作り上げたのです。

 

パーク周辺の地図を見ると、まだまだ拡張の余地があることがよく分かります。上海ディズニーランドは年間で約1,000万人~1,500万人の入園者数が見込まれています。今後のエリア拡張や第2パークの建設が実現すれば、年間3,000万人を誇る東京ディズニーリゾートを超える可能性も十分あるのです。

 

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上海ディズニーリゾートの計画図。パークのエリア(黄色)周辺に拡張用地が広がっていることがよく分かる。

 

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東京と香港、上海の敷地を比較したもの。上海の広大さがよく分かる。

 

中国政府がディズニーランドを欲しがる理由

ディズニー社は上海ディズニーランドの建設にあたって、中国政府や上海市政府と長い間、交渉を続けてきました。これは中国が外国企業の進出に厳しい規制をかけているためです。

 

もちろん、アメリカ文化の象徴でもある「ディズニーランド」は、共産党の一党独裁である中国にとって、あまりよい存在ではありません。しかし、上海ディズニーランドについては、中国政府と上海市政府が全面協力して、計画が進められました。

 

ディズニー社のCEOであるロバート・アイガー氏が中国を訪問したときも、習近平国家主席が面会するという、破格の好待遇でした。民間企業の代表が国家主席と面会するのは、中国では極めて異例です。それだけ、中国政府がディズニー社に期待を寄せていることがよく分かります。

 

 

ではなぜ、そこまでしてディズニーランドを中国本土につくらせたかったのでしょうか。

 

実は近年、中国の経済成長の伸びが弱くなっているのです。2008年の北京オリンピックや、2010年の上海万博のように、大型の国際イベントを開催していた頃と比べると、どうしても下がってしまっています。

 

 

また、所得の高い富裕層に加えて、中間層までも貯金をして、海外で高額な買い物をする「爆買い」も目立っています。中国人の感覚としては、国内で本物かどうかわからないものを買うくらいなら、日本で本物を買いたい、と思うのは当然でしょう。実際、中国では本物そっくりのパッケージで、日本製品の偽物が堂々と売られています。

 

かつての日本でも「内需拡大」という言葉が盛んに叫ばれました。これは、自分の国の中で、より多くのお金を使ってもらうことで、経済を活性化しようというものです。ちょうど中国でも同じように、今後は内需拡大によって、経済成長を目指していこうとしているのです。

 

そのための手段の一つなのが「ディズニーランド」なのです。アメリカから本物のディズニーランドを持ってくる。パークまでの交通費やチケット代、飲食代、宿泊代、グッズ代、それらはすべて中国国内の消費となります。多くの雇用が生まれますし、製品も中国国内でつくられますので、それだけ工場も潤うのです。

 

とあるテレビ局の番組で「一党独裁の国に『夢の国』があるのは、なんとも皮肉ですね」というコメントが出ていました。ディズニー社としては、今後さらなる成長を見込める中国市場を取りたい、中国政府としては、内需拡大の手段として、ディズニーランドを使いたい。まさに両社の思惑が一致したのです。

 

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©Disney

 

上海が東京ディズニーリゾートに与える影響

さて、気になるのは、上海ディズニーランドが東京ディズニーリゾートにどれだけ影響を与えるのか、ということです。

 

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©Disney

 

近年、東京ディズニーリゾートでも外国人観光客が増え、多くの人で賑わっています。ただ大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンや、ほかの商業施設と比べても、中国人観光客はあまり多くありません。これは中国人観光客にとって、東京ディズニーリゾートは魅力的に映らないからかもしれません。

 

ディズニーパークなら香港にもありますし、ディズニーの熱烈なファンであれば、アメリカのパークに行くからです。実際、香港ディズニーランドが開園したとき、東京への影響はほとんどありませんでした。

 

上海を訪れて「東京のディズニーランドにも行ってみようかな」と思う方はいるかもしれませんが、おそらく少数派だろうと思います。また、上海が開園したからといって、東京の入園者数が大きく減ってしまう、ということはないでしょう。

 

現在、上海ディズニーランドのチケットは、中国国内の一部の旅行業者が取り扱っています。そのため、日本の旅行代理店は、パッケージツアーを組みたくても組めない状況です。香港のときは、ツアーを組んでもあまり売れなかった、という歴史がありますので、おそらく上海についても、熱心なディズニーファンに限られると思います。

 

 

上海については観光地や名所もたくさんありますので、オプショナルツアーとして、上海ディズニーランドの観光が加わるくらいになるでしょう。

 

さいごに

ディズニー社にとっては、社運を賭けた一大プロジェクトとなる「上海ディズニーランド」ここでの結果は、今後のパーク開発に大きな影響を与えると思います。

 

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©Disney

 

東京ディズニーリゾートでも、今後大規模な投資計画が控えています。果たして、上海ディズニーランドは軌道に乗るのでしょうか。そして東京は上海に負けないようなパークへ、生まれ変わることができるのでしょうか。注目して見ていきたいと思います。

 

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©Disney

 

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