舞浜新聞

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元日特集 ミッキーマウスが「フリー素材」になる?日米の著作権法を徹底解説!

新年明けましておめでとうございます。2013年にスタートした当ブログも、今年3月で7周年を迎えます。これだけ長く続いているのも、日頃から愛読してくださる皆さんのおかげです。本当にありがとうございます。

 

さて、今年の元日特集の主役は「ミッキーマウス」です。長年、世界で愛されているディズニーキャラクターですよね。

 

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ディズニー社の創業者であるウォルト・ディズニーは、かつて「すべて一匹のねずみから始まった」と語っていたように、彼がいなければ今の巨大メディア企業は生まれていませんでした。

 

実はそんなミッキーマウスの著作権が、なんと3年後の2023年に切れてしまうというのです。もし著作権が切れてしまうと、誰でも無料で使える「フリー素材(パブリックドメイン)」になってしまうのでしょうか。今回は日本とアメリカの著作権法の違いから、真相を探っていくことにしましょう。

 

「著作権」って何?

まずは「著作権」について見ていきましょう。

 

私たちが文章を書いたり、絵を描いたりすると、その作品は「著作物」となります。この著作物を勝手にまねされたり、変えられたりしない権利のことを「著作権」といいます。日本の場合、著作権は作品ができあがった瞬間に発生します。特許や商標のように、どこかへ申請する必要はありません*1

 

そんな著作権ですが、国際的には「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」通称「ベルヌ条約」で保護されています。しかし、著作権が保障される期間は、国によって違います。

 

日本の場合は、著作権法の規定で、著作者の死後から「70年間」と決められています*2。つまり、どんな作品でも、本人が亡くなってから70年が経つと、誰でも無料でその人の作品を使えるようになるのです。これは過去の著作物を使いやすくして、文化の多様性を広げるためです。

 

例えば、有名な文学作品が読める「青空文庫」というウェブサイトがあります。

 

www.aozora.gr.jp

 

青空文庫では、大手出版社から文庫本が発売されているような、有名な作品がすべて無料で読むことができます。「海賊版?」「勝手にアップロードしてるの?」と思う方もいるかもしれません。実はこれも、著者が亡くなってから権利が消滅したものを公開しているのです。

 

著作権は個人だけではなく、団体や法人にも与えられます。ミッキーマウスのスクリーンデビュー作は、1928年公開の『蒸気船ウィリー』で、すでに90年以上が経っています。しかし、ミッキーマウスの著作権はディズニー社によって固く守られています。では、どうしてミッキーの著作権は切れていないのでしょうか。

 

www.youtube.com

 

アメリカでは「2023年」に保護期間が終了

アメリカの法律では、映画作品の著作権は、公開から95年間で消滅すると規定されています。ミッキーのデビュー作の公開が1928年ですから、2023年12月末に切れる計算です。つまり、2024年にはミッキーがパブリックドメインになるのです。

 

実はこの「95年間」が決まるまでにも、様々な歴史がありました*3

 

  • 1928年 『蒸気船ウィリー』公開(保護期間:56年間)
    ・ミッキーマウスは1984年に著作権が消滅するはずだった。
  • 1976年 法改正(75年間に延長)
  • 1998年 著作権延長法制定
    1977年までに発表されたもの 95年間
    1978年以降に発表されたもの 発行後95年/創作後120年(いずれか短い期間)

 

アメリカで最初に著作権法が制定された当時、保護期間はなんと「14年間」でした*4。その後、国際条約やヨーロッパなど諸外国の動きを受けて、1831年には最大42年間、1909年には最大56年間まで延長されました。

 

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アメリカの現在の著作権は「著作権延長法(ソニー・ボノ著作権延長法)」で保護期間が決められています。この法律、別名「ミッキーマウス保護法」とも呼ばれているのです。

 

著作権延長法が制定されたのは、1998年10月のことでした。当時、ミッキーマウスの著作権切れが間近に迫っており、ディズニー社がその権利を守るために、政界に働きかけた…と言われています。著作権延長法によって、ミッキーの著作権は延長され、パブリックドメインになることはありませんでした。

 

ディズニー社は、昔から権利保護に力を入れている企業として有名です。創業者であるウォルト・ディズニーは、かつて自分自身が作り出したキャラクター「オズワルド」の権利を、配給側のユニバーサルに奪われてしまうという苦い経験をしています*5。そのため、ミッキーマウスの権利保護には、特に敏感になっているのです。

 

著作権延長法については、アメリカ合衆国憲法が定める「議会は、限られた期間中、作家と発明家に対して著作や発明に対する独占権を与えることができる」という規定に違反しているとして、差し止め訴訟も起こされました。最高裁まで争われた結果、「合憲」の判断が出ています。

 

著作権延長法がこのまま改正されなければ、2023年12月末にミッキーマウスの著作権が切れることになります。しかし、ディズニー社がみすみす自社の大切なブランドを逃すとは思えません。権利切れが間近に迫れば、また政界に働きかけて期間を延ばそうとする可能性はあるでしょう。

 

アメリカの通商代表部(USTR)は、諸外国に対して、著作権の保護期間を延長するように圧力をかけています。日本では2003年に、映画の著作物に限って保護期間を公表後50年間から、70年間に延長しています。また、メキシコは公表後75年間から100年間に、オーストラリアも2004年に70年間に延長しています。

 

もしパブリックドメインになったら、使い放題?

さて、仮に2023年でミッキーマウスの著作権が切れたとしましょう。私たちは勝手に、ミッキーの商品を作って売っても許されるのでしょうか。

 

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実は2023年に切れる著作権は、映画『蒸気船ウィリー』に関するものだけです。アメリカ国内に限った話ですが、蒸気船ウィリーに登場するミッキーを描いたグッズや、映像ソフトを自由に制作できるようになります。それ以外の作品の著作権は、引き続き保護されますので、私たちがパブリックドメインとして使うことはできません。

 

例えば、ミッキーマウスの代名詞である「白い手袋」。彼が手袋を着けて初めて出演したのは『ミッキーのオペラ見学』という作品です。これがパブリックドメインになるのは、2025年以降となっています。また、ミッキーは作品ごとにデザインを変えており、それらがすべて著作権切れにならなければ自由に使えません。

 

加えて、「ミッキーマウス」という名称自体は、ディズニー社の商標として登録されています。著作権は切れていても、商用目的で自由に使うことはできないのです*6

 

ちなみに、コミックマーケットに代表される同人活動では、ディズニーキャラクターの二次創作が多くみられます。実はこれらはディズニー社が「黙認」しているだけであって、厳密には著作権法に触れてしまいます。ただしこれまでディズニー社が、著作権法違反で訴訟を起こしたケースはなく、不当に利益を上げなければ許されているのが現状です。

 

togetter.com

nhironworks.blog.fc2.com

 

日本ではいつ切れるの?

ここからは少し難しい話です。アメリカでは公開から95年で、著作権が切れる規定になっています。では日本では、ミッキーマウスの著作権はいつ切れてしまうのでしょうか。

 

実はアメリカの著作権制度とは違い、日本の著作権法はかなり複雑なのです。以下は2020年1月現在の法制度をもとに、ミッキーマウスの著作権切れがいつになるのかを示したものです。

 

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一番分かりやすいのが、『蒸気船ウィリー』をディズニー社の著作物としてみなす考え方です。1953年以前の映画の著作権は公開から50年間、さらに日本は太平洋戦争の敗戦に伴って、連合国側の「戦時加算」3,794日がプラスされるため、1989年5月に著作権が切れている、というものです。

 

すでに100円ショップやディスカウントストアなどでは、ディズニー映画の格安ソフトが販売されています。これらはディズニー社にライセンス料を支払っているわけではありません。すでに作品が著作権切れになったとして、販売しているのです。ディズニー社や日本法人であるウォルト・ディズニー・ジャパンなどが、著作権法違反で訴訟を起こす動きはありません。

 

 

日本ではもうパブリックドメインなの?

しかし、話が複雑なのはこれからです。『蒸気船ウィリー』をディズニー社ではなく、個人の著作物と考えると、保護期間が変わってくるのです。

 

実名がクレジットされた映画の場合、旧著作権法の規定が適用されます。この規定では著作者の「死後38年間」となり、現在の「映画作品は公開から70年間」という規定よりも長ければ、こちらのほうが優先されるのです。

 

ミッキーマウスの著作者として真っ先に思い浮かぶのが、ウォルト・ディズニーですね。ウォルトが亡くなったのは1966年12月、死後38年間とすると戦時加算を含めて2015年5月までとなります。映画公開から70年間という現行法の規定よりも長くなりますので、こちらが優先される計算です。

 

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しかし、ウォルトではなく、ディズニースタジオの創成期を支えたアニメーター、アブ・アイワークスが著作者とすると、計算が変わってきます。彼が「ミッキーマウスの生みの親」とすると、亡くなったのは1971年7月、死後38年間に戦時加算を含めると、2020年5月に著作権が切れる計算になります。

 

また、映画ではなく、アブ・アイワークスが描いたミッキーマウスの原画を著作物とすると、死後70年間に戦時加算を含めるため、2052年まで延びる計算です。

 

f:id:Genppy:20191228212136j:plain日本の著作物保護期間を表にまとめたもの。複雑なことがよく分かる。(文化庁ウェブページから引用)

 

これらの計算式については、実際に訴訟が起きてから裁判所で判断されるしかないと思います。日本もアメリカのように保護期間の計算を明確にしなければ、著作物の利用で混乱が起きかねません。このあたりは政治判断にも期待したいですね。

 

なお、アメリカのウォルト・ディズニー・カンパニー、および日本法人のウォルト・ディズニー・ジャパンは、日本におけるミッキーマウスの著作権保護期間について、公式な見解を示していません。

 

本当に複雑な著作権。ルールを守った利用を!

ここまでミッキーの著作権保護期間について考えてきました。もし著作権について興味をもった方は、イギリスの文学作品『ピーター・パン』と著作権についても、調べてみると面白いですよ。

 

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今のところ、アメリカでは著作権のさらなる延長は議論されていません。しかし、ディズニー社が権利保護を目的として、再び政界に働きかける可能性はゼロではないと思います。

 

通信技術が発達して、現代は情報を瞬時にやり取りすることができます。著作物を簡単に、すぐにコピーできるようになった一方で、偽物や海賊版も横行しています。著作権法を守りながら、正しく創作活動をしていきたいですね。

 

参考リンク

www.bunka.go.jp

www.kottolaw.com

www.bengo4.com

ja.wikipedia.org

xtrend.nikkei.com

kids.cric.or.jp

www.cric.or.jp

arstechnica.com

alj.artrepreneur.com

*1:アメリカでは著作権の登録制(方式主義)をとっています。連邦議会図書館の著作権局に登録することで、もし権利侵害などを受けても訴訟で有利になるような仕組みとなっています。

*2:環太平洋パートナーシップ協定の締結に向けて、いくつかの国内法が改正されました。2018年12月に施行された著作権法の改正では、それまでの死後50年間から70年間に延長されています。

*3:個人の著作物は、死後70年間と規定されています。

*4:しかも当時のアメリカでは、著作権の適用範囲は地図・図表・本に限定されており、登録をしなければ権利すら発生しませんでした。

*5:2006年2月、ディズニー社は傘下の放送局ABCの実況アナウンサー、アル・マイケルズのNBCへの移籍と引き替えに、ユニバーサルからオズワルドの権利を取り戻しています。

*6:法律上は、すべての商用利用が制限されるわけではありません。ただし消費者が「ディズニー公式のものである」と誤認すれば、処罰の対象になりえます。