舞浜新聞

東京ディズニーリゾートなどのディズニーパークをはじめとして、ディズニーに関する様々な情報をお伝えします。



ディズニーがオリエンタルランドを買収すると、いくらかかるの?

12月14日、アメリカのウォルト・ディズニー・カンパニーは、映画事業やテレビネットワークを所有する「21世紀フォックス」を買収することを発表しました。買収金額は524億ドル、日本円で約5兆9,000億円もの巨額買収となります*1

 

 

ディズニー社はここ数年、ピクサー・アニメーション・スタジオ(2006年)、マーベル・エンタテインメント(2009年)、ルーカス・フィルム(2012年)と大型の企業買収を次々に行っています。これは、より多くのコンテンツを手に入れて、映画制作やテレビ放送、ウェブでの動画配信、テーマパークで有利な立場を築きたいからだと考えられています。

 

では、話を日本に戻しましょう。

 

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©Disney

 

東京ディズニーリゾートを運営しているオリエンタルランドは、ディズニー社の子会社ではありません。コンビニのフランチャイズと同様に、ディズニー社とライセンス契約を結んで、パークを運営しています。

 

もし、ディズニー社が「オリエンタルランドを買収したい」と考えたら、いくら必要なのでしょうか。今回は、具体的な企業買収の方法をもとに、考えてみたいと思います。

 

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©Disney

一番分かりやすい「株式公開買い付け」

まずは「株式公開買い付け」から見ていきましょう。これは、買収する企業が、買い付ける期間・買い取る株数・買い取る価格を市場に公告して、株主からその企業の株を買い取る、というものです。

 

2017年12月15日現在、オリエンタルランドの株価は10,610円となっています。もし仮にディズニー社が、1株10,000円で公開買い付けを行うと、どうなるでしょうか。

 

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過去1年間の株価の推移。4月に着工したパーク開発計画が好材料となり、上昇局面にある。 

 

株式の過半数を握れば、取締役を選任することができるようになります。そうなると、経営陣を自分たちの言うことを聞く人間に差し替えることができます。

 

オリエンタルランドの発行済み株式は、約3億6,369万株*2ですから、過半数の株式を握るためには、約1兆8,185億円が必要となります*3。過半数を握るだけでも、かなりの金額になりますね。

 

ただ、ディズニー社は、ピクサーを74億ドル、マーベルを40億ドル、ルーカス・フィルムを40億5,000万ドルでそれぞれ買収しています。また、フォックスは524億ドル、大手放送ネットワークのABCは190億ドルで買収しています。約1兆8,185億円を米ドルに換算すると「161億ドル」ですから、非現実的な数字ではありません。

 

東京ディズニーリゾートの土地や建物は、すべてオリエンタルランドが所有しています。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのように、借地ではありません。パークの土地や建物、現場の人員をすべて買えると考えたら、「161億ドル」はかなり現実的な数字かもしれません。

 

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東京湾に突き出している舞浜地区。都心に100ヘクタール以上の土地を、自社で所有しているのは、オリエンタルランドの大きな強みだ。

 

ただ、過半数だけでは、経営に不安が残るでしょう。残っている半分の株主からディズニー社に対して、経営について意見を言われたり、より多くの配当金を求められたりする可能性があります。その場合は、4兆円近くをかけて、ディズニー社の完全子会社化するという選択肢もあります。

 

現金は必要なし!株式交換

オリエンタルランドの株式の過半数を握るだけでも、2兆円近くの資金が必要となります。ディズニー社にとっては、これだけの現金を用意するのは困難でしょう。

 

現実的に考えられるのは、現金による買い取りではなく、オリエンタルランドとディズニー社の株式を交換する「株式交換」でしょう。これは、これまでのピクサー、マーベル、ルーカス、そしてフォックスの買収でも行われている手法です。

 

ディズニー社の株価は、12月15日現在、111.27ドルとなっています。日本円に換算すると、12,530円ですから、オリエンタルランドの1株に対して、ディズニー社の0.8株を割り当てれば、等価交換することができるのです。

 

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ニューヨーク証券取引所に上場しているディズニー社の株価の推移。ダウ平均の上昇の波に乗り切れず、伸び悩んでいる。21世紀フォックスの買収が吉と出るか。

 

オリエンタルランドの発行済み株式は、約3億6,369万株ですから、すべてをディズニー社の株と交換するとしたら、2億9,095万株が必要となります。ディズニー社の発行済み株式は、約15億株ですから、新たに2割近く新規株式を発行する必要が出てきますね。

 

ただ、やみくもに新株を発行すると、1株の価値が目減りしてしまうので、株価が下がってしまいます。これを株主や投資家たちがどう判断するのかは、難しいですね。

 

ディズニー社はオリエンタルランドを買収できるの?

株式交換の場合は、ディズニー社が新会社を日本で作り、その会社とオリエンタルランドを合併させる方法を取るか、オリエンタルランド・ホールディングス(仮称)のような持ち株会社を作って、ディズニー社が持ち株会社の全株式を握る方法などが考えられます。

 

しかし、いずれもオリエンタルランドの株主総会を開き、株主からの同意を取り付ける必要があります。公開買い付けでも、経営陣が「買収してほしくない」と考えれば、いくつかの対抗策で戦うこともできます。ディズニー社がオリエンタルランドを買収することは、現実的にはかなり難しいと思われます。

 

ただ、オリエンタルランドは、あくまでパークの土地と建物を所有しているだけで、中身はディズニー社とのライセンス契約で成り立っています。もしアパレル大手の三陽商会のように、ブランドとのライセンス契約を打ち切られてしまうと、ただの浦安の大地主になってしまいます。ディズニー社に無許可で営業したとなれば、著作権侵害で訴えられてしまうでしょう。

 

安価なバーバリー製品が「ブランドを傷つけている」とみなされ、契約を打ち切られた三陽商会。百貨店事業の苦境もあって、業績不振に苦しんでいる。

 

そうなると、株価も暴落して、資産価値が目減りしてしまいます。これまでオリエンタルランドから多額の配当金を受け取っていた大株主たちも、困ってしまうでしょう。

 

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オリエンタルランドの大株主(2017年9月30日現在)親会社である京成電鉄や三井不動産、埋め立て事業に参画した千葉県の名前が連なっている(オリエンタルランド公式ウェブサイトより引用)。

 

ディズニー社がライセンス契約の打ち切りをちらつかせながら、オリエンタルランドに買収を迫れば、拒否するのは難しいでしょう。ディズニーの軍門に下るか、座して死を待つか。どちらかの選択肢しかありません。大株主にとっては、紙くず同然になってしまうよりは、ディズニー社に現金か自社株と交換してもらう方が、よほど助かるはずです。

 

ディズニー社がオリエンタルランドを買収するかどうかは、まさにディズニー社の経営陣次第でしょう。

 

ディズニー社は買収して得するの?

ディズニー社がオリエンタルランドを完全子会社にしようとすると、4兆円近くの資金が必要となります。では、仮にそれだけの費用をかけても、オリエンタルランドを手に入れる価値はあるのでしょうか。

 

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©Disney

 

オリエンタルランドの2016年度の営業利益(本業の儲け)は、1,131億円となっています。一方、ディズニー社に対して支払ったライセンス料(ロイヤルティー)は272億円です。もしディズニー社がオリエンタルランドを子会社化すれば、今よりも4倍以上の収入が入ってくる計算です。

 

ディズニー社のパーク&リゾート部門の営業利益(2017年9月期*4)は、37億7,400万ドル、日本円で4,250億円でした。米国と日本では、企業会計や財務諸表が少し違うため、単純に比較することは難しいのですが、ディズニー社がオリエンタルランドを手に入れると、パーク&リゾート部門は、利益をかなり上積みできる計算になります。

 

ただ、引っかかるのは、買収にかかった費用が、いつ回収できるのかという問題です。仮に、オリエンタルランドが1,000億円規模の利益を安定的に生み出せるとしても、4兆円の買収金額を回収できるのに、40年もの歳月がかかってしまいます。

 

40年も経てば、施設は老朽化し、さらなる設備投資が必要になるでしょう。もちろん、少子化による人口減少、高齢化、気候変動による海面上昇、台風や地震、津波といった日本特有のリスクも考えなくてはいけません。

 

わざわざオリエンタルランドを買収するよりも、日本人に合わせたサービスに特化してもらう、新規エリアやアトラクションの開発費などは、オリエンタルランドに全額負担してもらう…。そのほうが、ディズニー社にとっても、リスクを抱えずに済みます。

 

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©Disney

 

日本はこれから他の国が経験したことがない速さで、少子高齢化社会を迎えます。子どもが減り、家族連れが減り、高齢者が増える日本。今は殿様商売の東京ディズニーリゾートでも、最悪の場合、集客に苦戦する事態に直面するかもしれません。

 

ディズニー社とオリエンタルランドのライセンス契約は、シー開園の2001年から45年契約となっています。契約の満期を迎える2046年、ディズニー社は一体どのような判断を下すのでしょうか。

 

世界で唯一、ディズニー社による資本が一切入っていない東京ディズニーリゾート。パーク開発計画で株式市場の注目を集めていますが、そのあたりも少し考えておく必要がありそうです。

 

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©Disney

 

参考資料

MBAバリュエーション (日経BP実戦MBA2)

MBAバリュエーション (日経BP実戦MBA2)

 
図解 株式市場とM&A (翔泳社・図解シリーズ)

図解 株式市場とM&A (翔泳社・図解シリーズ)

 

*1:買収はアメリカ政府の承認が必要ですが、正式に決まれば、フォックスの株主に対して、ディズニー社の株式を割り当てる計画です。

*2:2017年9月30日現在

*3:オリエンタルランドの業績から考えると、理論的な株価は約7,400円。8,500円で買収すると考えても、1兆5,456億円になる計算です。

*4:ウォルト・ディズニー・カンパニーは、10月から翌年9月までを会計年度としています。