舞浜新聞

東京ディズニーリゾートなどのディズニーパークをはじめとして、ディズニーに関する様々な情報をお伝えします。



「ぬいぐるみバッチ騒動」から舞浜の未来を考える

「東京ディズニーセレブレーションホテル」の商標登録の第一報が入り、騒然となっていた9月1日。東京ディズニーリゾートでは、あるグッズをめぐって大混乱が起きていました。

 

そのグッズとは、東京ディズニーランドのショー「ワンマンズ・ドリームⅡ」と東京ディズニーシーのショー「ビックバンドビート」のコスチュームを着た、ミッキーマウスとミニーマウスのぬいぐるみバッチでした。

 

 

今回はそんな「ぬいバ騒動」から、最近過熱している東京ディズニーリゾートのグッズ争奪戦について、少し考えてみたいと思います。

 

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©Disney

 

事の発端は「9月1日発売」という情報

8月の終わりごろ、TwitterなどのSNSではこんな話題で盛り上がっていました。

 

「ワンマンとBBBのぬいバが9月1日に発売されるらしい」

 

この情報については、東京ディズニーリゾートの公式サイト、および講談社が販売している月刊誌「ディズニーファン」など、公式なソースからは一切発表はありませんでした*1

 

この段階ではまだ真偽が不明でしたが、徐々に「9月1日発売」という情報は独り歩きしていきます。後から分かったことなのですが、事前に内部から情報が漏れてしまったようです。

 

ワンマンズ・ドリームⅡやビックバンドビートはレギュラーショーですが、グッズが常に並んでいるというわけではありません。ぬいぐるみバッチなどの商品は、不定期に販売されます。売り切れてしまうのも早いために、どうしても争奪戦になりがちです。今回のぬいぐるみバッチも、情報が本当であれば、久しぶりのグッズ展開でした。

 

「9月1日発売」という情報は、SNSを中心に一気に広がっていきます。中にはインフォメーションセンターに電話で問い合わせて「ボン・ヴォヤージュでも取り扱うらしい」という情報も出てきました。この時点で東京ディズニーリゾートが公式に認めたということで、さらに情報が拡散していきました。

 

「ボンボ取り扱い中止」と「段ボール直置き」

9月1日当日。ボン・ヴォヤージュのキャストさんは、店内でゲストに案内をしていました。

 

「ワンマンズ・ドリームとビックバンドビートのぬいぐるみバッチは、当店では取り扱っていません!パーク内のショップのみとなります!」

 

 

このゲストスピールの情報も、一気にTwitterで拡散されました。「ボンボ取り扱いなし」「パーク内ショップでのみ取り扱い」ということで、やむなく購入を断念した方も多かったと聞いています。

 

ボン・ヴォヤージュで取り扱いを中止したのは、事前にSNSで情報が拡散していたことから、購入希望のゲストが殺到して、混乱すると考えたからでしょう。

 

レギュラーショーのぬいぐるみバッチは人気が高く、希少価値もあります。単純に「買いたい」「欲しい」と考えている方に加えて、転売目的の購入者もかなりの数いると見られました。

 

結局、ぬいぐるみバッチは、パーク内のショップでの取り扱いとなったわけです。しかし、混乱はこれだけではありませんでした。

 

パーク内のショップでは、なんと、納入の段ボールに入れたまま、ぬいぐるみバッチが販売されたのです。

 

 

 

私はこの写真をTwitterで見た瞬間、思わず言葉を失ってしまいました。私が知る限り、グッズを納入の段ボールに入れたまま、ショップに並べるというのは、初めてのことだったと思います。

 

どうして「段ボールの直置き」はダメなの?

「どうして段ボールに入れたまま、ショップに並べちゃダメなの?」と思われる方もいるかもしれません。

 

テーマパークのショップは、ただのお店ではありません。ゲストは思い出を残すため、おみやげとして誰かに渡すために、グッズを買い求めています。

 

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©Disney

 

以前は段ボールをオンステージに出すことすらタブーであり、ディズニー社はオリエンタルランドに対して禁止していました。それはディズニーが大切にしているストーリーが、段ボールという「日常のもの」を見ることで、さめてしまうからでした。

 

しかし、東京の場合はグッズの売れ行きがすさまじく、とてもじゃありませんが、品出しのスピードが間に合いませんでした。ディズニー社とオリエンタルランドの長年の交渉の末に、カゴや袋へ移し替えて運ぶことが認められるようになりました。ダッフィーのように、キャストからの声で、専用の袋に入れて運ぶようになった事例もあります。

 

 

ただ、最近ではワゴンに段ボールを載せて、そのまま品出しをするケースも見受けられるようになっていました。思えば、このあたりからちょっと変だったのかもしれません。

 

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パーク内のショップで見かける品出しの風景。通常であればカゴなどに移し替えて運ぶが、量が多い場合や荷受けの時間帯などは、写真のようにワゴンに段ボールごと乗せられる。

 

そして、ついに起きた「段ボール直置き販売」これではテーマパークのショップではなく、市場の叩き売りと同じになってしまいます。夢や魔法、思い出なんてあったものじゃありません。

 

おそらく、現場では「品出しが間に合わない」「いっそのこと、納入の段ボールから選んでもらおう」「キャストのカゴから取るゲストがいて危険だ」という判断があったのだと思います。しかし、それでも「段ボール直置き」は、超えてはいけない一線ではないのでしょうか。

 

在庫を分散化させる、パーク内の複数のショップに置き、売り切れたところから順次案内していくなど、混乱を防ぐための対策はいくらでもあったはずです。

 

私も長年パークに通っていますが、かなり衝撃的な光景でした。

 

過熱するグッズ争奪戦

今回の「ぬいバ騒動」現場ではかなりの争奪戦になり、ビックバンドビートのミッキーマウスは、あっという間に売り切れてしまったようです。Twitterでも「品切れ」「11月中旬に再販」という情報が回っていました。

 

今回の騒動は、グッズに対する高い人気だけではなく、一般の人たちが物を転売しやすい仕組みにも原因があるのではないかと思います。

 

地方に住んでいる方の場合、なかなかパークへ来ることはできません。グッズは欲しい、けど行けない。パークの近くに住む友人もいない。そうなると、ヤフオク!やメルカリなどのフリマアプリを通じて、買うしかなくなってしまいます。

 

高く売れるとなれば、やりたいと思う人が出てくるのは当然でしょう。結果的に、人気の高いグッズは「転売屋」のターゲットになります。もちろん、セミプロのような人間だけではなく、普通の人でも簡単に転売できてしまいますから、なおさら広がっていきます。

 

転売が悪いことだとは言えません。しかし、転売目的による買い占めで、本当に欲しいと思う人にまで、商品が行きわたらないことが問題だと思うのです。

 

解決するためには、どうすればいいの?

今回のぬいバ騒動のきっかけになったのは、本来外に出てはいけない販売情報が出てしまったことです。しかもインフォメーションセンターのオペレーターさんが、発売情報を認めたことで、騒ぎはより大きくなってしまいました。

 

オリエンタルランドは、グッズの発売情報について、きちんとウェブやディズニーファンなどを通じて、公式に発表するべきだと思います。うやむやにしたからこそ、今回の騒動が起きてしまったと思うからです。

 

また、簡単には売り切れないほどの、潤沢な在庫も用意するべきだと思います。売り切れる→それでも欲しい→転売屋という流れは、在庫を十分に準備するしか対策はありません。本来品切れは「機会損失」であり、小売りとしては絶対に避けなければいけないはずだからです。

 

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©Disney

 

しかし、長年グッズ販売に携わっているオリエンタルランドが、こんな簡単な考えを思いつかないわけはないでしょう。今回のぬいバ騒動についても、おそらく「どれだけ売れるのか?」といったマーケティング調査に加えて、SNSを使った炎上商法も兼ねている可能性すらあります。

 

もしかすると、売れ残りを恐れて、最初のロット数を絞ったかもしれません。また、発売情報の流失も、意図的に流した可能性すらあります。

 

ぬいバの場合、一つずつ工場で手作りしているため、すぐの大量生産が難しい商品です。おそらく、再販となる11月には、十分な在庫が用意され、テレビ番組や雑誌で取り上げられるでしょう。そのとき、売り切れたことを知っているゲストは、我先にと買いに走るでしょう。そして、売り上げを伸ばしていくのだと思います。

 

「品薄商法」については、サントリーの飲み物が記憶に新しいと思います。これも事前の販売予測を上回り、工場での出荷を一時ストップするという事態になりました。SNSを中心に話題になったからでしたが、実際には小売店には在庫が十分残っていました。

 

 

結果的に「品薄商法」「炎上商法」などとバッシングを受ける羽目になってしまいました。サントリーもそうですが、モノの売れ方を予測することは非常に困難です。どんなに優秀なマーケティングのプロでも、予測を外すことはあります。それだけ消費者の動きは予測不可能なのです。

 

オリエンタルランドには、せめて転売屋が不当な利益を得ないような仕組み作りを求めたいです。

 

IKEAの商品と構図は一緒

北欧の家具として有名な「IKEA」私も船橋のお店をよく利用します。今では家具店として全国的に有名になりましたが、IKEAは「通信販売」を一切行っていません。

 

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家具大手のIKEA港北店(イケア - Wikipediaより引用)

 

IKEAでは店で商品を買い、車や電車で持ち帰ることを原則にしています。そのため、近くにIKEAの店がない人は、商品を買うことができません。

 

そこで登場したのが「購入代行」ネットで注文を受け付け、注文主に代わってIKEAで商品を購入、それを宅配便で送るのです。実はこのIKEAの購入代行、普通の人がかなり手がけているのです。

 

注文は写真で受けつけて、注文が入ってから店に買いに行くことで、在庫を抱えるリスクを減らすことができます。商品の代金に上乗せすれば、かなりの儲けになります。

 

東京ディズニーリゾートのグッズも、IKEAの商品と構図は同じではないでしょうか。IKEAの場合は、一般の人が「購入代行」ということで、利益を得ています。東京ディズニーリゾートの場合は、同じく一般の人が「転売」という形で利益を得ているからです。

 

東京ディズニーリゾートでは、グッズの通信販売を基本的に行っていません。人気が高く、売り切れそうな限定グッズなどは、事前にネットで購入受付をしてもいいのではないでしょうか。また、アメリカのディズニーストアのように、一部パークグッズのネット通販を行ってもいいのではないでしょうか。

 

 

これにはオリエンタルランドとディズニーとのライセンス契約や、システム構築にかかる経費など、解決すべき問題が山積みだと思います。オリエンタルランドにとって、グッズはパークチケットや飲食と並んで、重要な収入源でもあります。グッズ購入目的で来園するゲストを減らさないように、あえて通販に手を出していない可能性もあります。

 

しかし、需要があり、これだけ現場が混乱している以上、通販を導入する余地はあるはずです。

 

グッズは「夢と魔法の結晶」であってほしい

100円均一ショップへ行くと、さまざまなディズニーグッズが並んでいます。大型スーパーに行っても同様です。安いディズニーグッズを探そうと思えば、いくらでも見つかります。

 

しかし、わざわざ東京ディズニーリゾートに来て、そこで売られている商品にお金を出すということは、ゲストがそれだけの価値があると、認めているからではないでしょうか。

 

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©Disney

 

グッズは「金のなる木」ではありません。「新たなる投資の源泉」でもありません。パークのグッズは楽しい思い出を記憶するためのものであり、夢と魔法の結晶であってほしいと願っています。どんなにきれいごとだと思っても、私はそんな考えを大切にしてもらいたいです。

 

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©Disney

 

よもやま話

今から30年前、1985年8月に、群馬県の御巣鷹山に日本航空のジャンボ機が墜落するという事故がありました。事故はお盆の真っ只中。羽田から大阪・伊丹に向かう機内はほぼ満席で、東京ディズニーランドから帰る人も数多く乗っていたと聞きます。

 

日本航空には、持ち主の分からない遺留品が、今でも大切に保管されています。その中に、東京ディズニーランドで売られていた、ミニーマウスのぬいぐるみがあります。

 

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8月1日放送・NHKスペシャル「日航ジャンボ機事故 空白の16時間~"墜落の夜"30年目の真実~」より引用

 

もし事故がなければ、どこかの家で大切にされていたであろう、ミニーマウスのぬいぐるみ。オリエンタルランドにとっては、ただの「商品」かもしれませんが、誰かの手に渡った瞬間に、それはかけがえのないものに変わるのです。そのことを、上に立つ方には分かっていただきたいですね。

*1:シー14周年記念の、アラビアンコーストをテーマにしたぬいぐるみバッチの発売情報は、ディズニーファン2015年10月号に記載されていました。