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舞浜新聞

東京ディズニーリゾートなどのディズニーパークをはじめとして、ディズニーに関する様々な情報をお伝えします。



どうして花王は東京ディズニーリゾートのスポンサーになったの?

東京ディズニーリゾートの分析・考察

2015年3月31日、生活用品メーカーの花王は、オリエンタルランドと東京ディズニーリゾートのオフィシャルスポンサー契約を結びました。そして7月1日から、東京ディズニーランドの「スプラッシュ・マウンテン」、東京ディズニーシーの「トイ・ストーリー・マニア!」などを提供しています。

 

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©Disney

 

今回は「どうして花王は東京ディズニーリゾートのスポンサーになったの?」というテーマで、舞浜新聞独自の視点で考えてみたいと思います。

 

傷ついたブランドイメージの回復?

大手メディアでは報道されていませんが、2011年にネットを中心に花王製品の「不買運動」が盛り上がりました。これは、当時フジテレビの放送姿勢に、不満や疑問を感じていた人たちがきっかけとなって、始まったものです。

 

花王はフジテレビに対して、番組のスポンサーとして多額の広告費を支出していました。そんなフジテレビを支えている花王をターゲットにすれば、フジテレビの放送姿勢が変わるのではないか。そういった狙いからでした。

 

花王はフジテレビ以外にも、数多くのテレビ局などに広告を出しています。そのため、大手メディアは花王の反発を恐れて、不買運動をほとんど報道しませんでした。その後、不買運動の影響かどうかは不明ですが、花王製品の売り上げが下がったり、ドラッグストアでは他社製品への置き換えが行われたりする動きがありました。

 

2011年当時と比べて、花王製品の不買運動は落ち着いているように見えます。しかし、ただ単に目立った動きがないだけで「花王の商品は買わない」「花王は嫌だ」という、ネガティブなイメージを持っている消費者がいることは事実だと思います。

 

このように、フジテレビの放送姿勢から始まった花王製品の不買運動は、花王のブランドイメージを大きく傷つけました。また、花王のグループ会社であるカネボウ化粧品が販売した美白化粧品で、肌に白いまだら模様が出てしまう、という消費者被害もありました。

 

花王としては、傷ついたブランドイメージをなんとか回復させたい、同業他社と差別化して売り上げを伸ばしたい、そんな思いから東京ディズニーリゾートのスポンサー契約につながったのではないでしょうか。

 

テレビCMよりもパークのスポンサーのほうが安い?

東京ディズニーリゾートのスポンサー契約は5年か10年となっています。花王、オリエンタルランド双方は契約年数を明らかにしていませんが、おそらく10年の長期契約ではないかと思われます。

 

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スポンサー契約書に調印する花王の澤田道隆社長(左)と、オリエンタルランドの上西京一郎社長(右)©Disney

 

東京ディズニーリゾートの場合、提供する施設によって金額は異なりますが、1施設で15億円から30億円と言われています*1。今回花王が契約した施設はどちらも人気アトラクションですので、契約金額もかなり高額になっていると思われます。およそ1年間で3億円程度の金額になっているのではないでしょうか。

 

しかし、実はこんなデータがあります。

 

花王の2014年度*2の決算を見てみると、広告宣伝費は約924億円、売上高の約6.6%もの金額を広告宣伝費に使っているのです*3

 

この広告宣伝費には、スーパーやドラッグストアなどで使われる店頭ポップに加えて、テレビCM・ラジオCM、新聞や雑誌への広告出稿などが含まれていると思われます。花王は毎年かなりの金額をかけて、広告宣伝を行っているのです。

 

テレビを見ていても、番組のスポンサー*4だけではなく、スポットCM*5でも、花王のCMを多く見かけると思います。

 

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テレビに映る花王のロゴマーク。「この番組は花王の提供でお送りします」というアナウンスもおなじみ。

 

テレビCMのメタデータを提供するゼータ・ブリッジは、関東民放5局*6のテレビCMの出稿企業やオンエアランキングを発表しています。

 

 

それを見ると、花王がほかの企業を抑えて、断トツにテレビCMを放送していることが分かります。あくまでも推測ですが、花王の広告宣伝費のうち、かなりの金額が広告代理店を通じて、テレビ局に支払われていると思われます。

 

しかし、最近のテレビをめぐる状況は厳しくなっています。インターネットや有料放送、オンデマンド配信などが普及し、民放などの視聴率は下がる一方です。以前は「視聴率40%!」なんてお化け番組もありましたが、今では「2ケタ(10%以上)が取れれば高視聴率」なんて言われてしまうほどです。

 

また大容量の録画機器が普及し、テレビCMを飛ばして見る人も増えました。ニュースや生放送などのリアルタイムで見る番組は、CMも一緒に見ると思いますが、ドラマなどはCMが見られていない場合も多いのです。

 

花王としては、多額の広告宣伝費をテレビCMに振り向けるよりも、東京ディズニーリゾートのスポンサーになれば、より消費者に近い形で花王の宣伝ができる、そう考えたのではないでしょうか。

 

先ほども触れたとおり、東京ディズニーリゾートのスポンサーの契約金額は最大30億円程度。花王の昨年1年間の広告宣伝費は約924億円ですから、金額としては安いくらいです。

 

他社との差別化のため?

最近は商品のパッケージが、ディズニーデザインになっているものが増えてきました。日本の場合はキャラクターの人気が高く、その中でもディズニーに対する印象は高くなっています。パッケージにディズニーのキャラクターが描かれていたら、それだけで手に取ってしまう方も多いと思います。

 

花王は大手生活用品メーカーとして有名です。しかし、P&Gやライオンなどと激しい競争を繰り広げています。最近では「香りつき柔軟剤」などの新商品が投入されていますが、洗剤やヘアケア製品などは成熟化が進み、機能ではなく値段の競争になってしまっています。

 

ドラッグストアの売り場に行って、皆さんは何を基準に商品を選ぶでしょうか。メーカー?それとも機能?私なら、どれも同じような商品なら、安いものを買ってしまうと思います。では、もしパッケージがかわいいミッキーやミニーだったら?皆さんはどうですか?

 

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花王「アタック」のディズニーパッケージ。店頭でも目を引くパッケージになっている。©Disney

 

生活用品は、幅広い人が購入します。男性の一人暮らしの方も買うと思うのですが、家族で使う洗剤やシャンプー、歯磨き粉を選んで買うのは、女性のほうが多いのではないでしょうか。花王が東京ディズニーリゾートのスポンサーになったのも、パッケージにディズニーデザインを使って、他社と差別化を図るためではないかと思うのです。

 

しかし、ここで一つの疑問が生まれます。

 

「東京ディズニーリゾートのスポンサーじゃないけど、ディズニーパッケージの商品を売っている企業もありますよ」

 

確かにそうです。商品にディズニーのキャラクターを使う場合、ディズニーとライセンス契約を結ぶ必要があります。東京ディズニーリゾートのスポンサーでなくても、パッケージをディズニーデザインにすることは可能なのです。

 

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パッケージにディズニーデザインを使っている山崎製パン。こちらは東京ディズニーリゾートのオフィシャルスポンサーになっている。©Disney

 

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剛力彩芽のCMも目を引く、ヤクルト「ジョア」のディズニーパッケージ。ヤクルトは東京ディズニーリゾートのオフィシャルスポンサーではない*7。©Disney

 

しかし、東京ディズニーリゾートのスポンサーになると、パークの風景を広告に使うことができます。また東京ディズニーリゾートのパークチケットを、懸賞キャンペーンの商品に使うこともできます。東京ディズニーリゾートのスポンサーは1業種につき1社が原則となっていますので、これはかなり他社と差別化できるのではないでしょうか。

 

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花王の「マジカルスマイルキャンペーン」今回のスポンサー契約に合わせたキャンペーンになっている。©Disney

 

ちなみに、花王は2014年度(2014年1月~12月)の連結決算で、消費税率引き上げ後に投入した高付加価値の衣料用洗剤などが好調で、売上高と各種利益が過去最高を更新しています*8。しかし、2015年1月~3月の決算では、その反動で営業利益が対前年比で40.9%減と、大きく下げています*9

 

こういった業績に対する危機感も、花王にはあるのではないでしょうか。

 

勝手にSNSで宣伝してくれる?

花王は今回のスポンサー契約で、2つのアトラクションに加えて「ハンドウォッシングエリア」も提供しています。これは、ミッキーの形をした泡が出てきて、手を洗うことができるというものです。

 

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ランド・シーにある「ハンドウォッシングエリア」©Disney

 

私も体験してみたのですが、単なる手洗いが楽しくなってしまう、そんなスポットでした。私が行ったときも、ミッキーの形をした泡を一目見ようと、多くの人が列を作っていました。

 

ミッキーの形をした泡が出てくるのなら、小さい子でも楽しく手を洗うことができますよね。それを見た親御さんが写真を撮ったり、SNSでその写真をアップロードしたりすれば、より多くの人に広がっていきます。そうすれば、花王製品の宣伝につながるのではないでしょうか。

 

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ミッキーのボタンを押すと、ミッキーの形をした泡が出てくる仕組みになっている。©Disney

 

花王の澤田道隆社長は、スポンサー契約の記者会見の中で、ハンドウォッシングエリアで使われている洗剤は自社の「ビオレu」であると明言しています。花王は泡で出てくる業務用ハンドソープも取り扱っているにもかかわらず、あえて一般向けの「ビオレu」を提供しているのです。

 

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ハンドウォッシングエリアのオープンセレモニーで記念撮影をする花王の澤田道隆社長(右)と、オリエンタルランドの上西京一郎社長(左)©Disney

 

業務用製品と比べて、一般向けのビオレuはおそらく単価が高いはず。しかし、それを提供するということは、それだけ花王がハンドウォッシングエリアを消費者向けの宣伝材料として考えている証拠だと思います。

 

未来の消費者を考えたマーケティング?

東京ディズニーリゾートは東京ディズニーランド・東京ディズニーシー合わせて、年間3,000万人の人々が訪れます。もちろん、その中には小さな子を連れた家族も含まれています。

 

最近ではキッザニアやカンドゥーのように、仕事体験ができるテーマパークが増えてきました。このような職業体験型の施設は、実際の企業がスポンサーとなって、子どもたちに仕事のやり方を教えています。

 

パッと見ると「子どもたちが仕事の体験ができるのは楽しそう」と思いがちですが、企業からすると、小さいうちから自社の名前を知ってもらうことで、大きくなったときに、自社の製品やサービスを選んでもらおう、という意図があるのです。

 

今回の花王のスポンサー契約も、おそらくキッザニアやカンドゥーと同じように、未来の消費者を考えたマーケティングを狙っているのではないでしょうか。「ミッキーの形をした泡で手を洗ったよ!」という思い出は心に残りますし、花王の良いイメージも子どもたちに伝わりますからね。

 

実際、花王は今回のスポンサー契約とは別に、夏休みの子ども向け体験プログラム「カストーディアル・キッズ!」も提供しています。こういったところからも、未来の消費者を意識していることが読み取れるのです。

 

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「カストーディアル・キッズ!」参加者へのプレゼント。もちろん花王のクイックルワイパーハンディーだ。©Disney

 

オリエンタルランドには、どんな狙いがあるの?

さて、ここまで東京ディズニーリゾートのスポンサー契約について、花王の狙いを舞浜新聞なりに考えてみました。では、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドには、どんな狙いがあるのでしょうか。

 

一つ目は今後の大型投資に向けたスポンサーの獲得が考えられます。

 

花王は日本を代表する生活用品メーカーです。今回のスポンサー契約は、ハンドウォッシングエリアを含めて、多くのメディアに取り上げられました。これを見たほかの企業が、東京ディズニーリゾートのスポンサー契約に反応する可能性は十分あります。

 

オリエンタルランドは、今後10年間でパークに5,000億円もの大規模な投資をする計画です。しかし、この5,000億円はこれまでの利益を積み上げて調達しようとしています。なるべく、大口のスポンサーを見つけて、スポンサー料を出してもらったり、パークの風景を使った広告で宣伝費を出してもらいたい。そう考えているのではないでしょうか。

 

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オリエンタルランドが発表しているパークへの大型投資計画(オリエンタルランドのプレスリリースより引用)

 

東京ディズニーリゾートでは、2006年にスポンサーが相次いで契約を打ち切るといったことがありました。

 

 

このときに「継続」を選んだスポンサーは、2016年に契約更改を迎えます。今回の花王のスポンサー契約によって「契約を打ち切るのは損だ」と、スポンサーにメッセージを送る意味合いもあるのかもしれません。

 

二つ目は、先ほども触れたパーク内の風景を使った広告です。

 

オリエンタルランドは、季節ごとのスペシャルイベントで、広告やテレビCMなど多額の広告宣伝費を使っています。もしスポンサー企業が、パーク内の風景を使ってテレビCMを放送したら、スポンサー企業の宣伝だけではなく、東京ディズニーリゾートの宣伝にもつながります。

 

 

それだけ集客効果はありますし、オリエンタルランドとしては広告宣伝費もそのぶんだけ抑えることができます。まさに一挙両得と言えるのではないでしょうか。

 

三つ目は、パーク内で使う物品の調達です。

 

花王は生活用品メーカーですから、洗剤や掃除用品など、数多くの製品を取り扱っています、もちろん、飲食店や商業施設で使われる業務用製品も取り扱っています。

 

そんな花王がスポンサーであれば、大量に安い金額でパーク内で使う物品を調達できるのではないでしょうか。特にオリエンタルランドは自社でホテル経営も行っています。ホテルで使うシャンプーやボディーソープなども花王から買うことができれば、花王にとっても売り上げの向上につながりますし、オリエンタルランドにとっても安い金額で買うことができると思うのです。

 

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パーク内のトイレに設置されているハンドソープ。こちらはセンサーに反応して、ミッキーの形をした泡が出てくる。©Disney

 

来年は大口スポンサーがつく?

東京ディズニーリゾートの入園者数は年々増加しています。企業にとっては、それだけ人が多く集まる場所で、独占的に広告宣伝が行えるというのは大きな魅力だと思います。

 

パークへの大型投資を控えるオリエンタルランドにとって、大口スポンサーの獲得は急務ではないでしょうか。先ほども書いたように、来年2016年にスポンサー契約の更改が控えています。花王に続く、大口のスポンサーがつくのか、それとも契約を打ち切る企業が出てくるのか…。

 

実際、花王のスポンサー契約に合わせて、三井ホームがひっそりとスポンサー契約を打ち切っています。今後のオリエンタルランドの動向にも注目していく必要がありそうです。

 

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参考資料

*1:粟田房穂『東京ディズニーリゾートの経済学』43ページより引用。

*2:花王は2012年度から12月決算に変わっています。

*3:減価償却費・資本的支出・研究開発費・広告宣伝費|花王株式会社より引用。

*4:提供クレジットに企業名が出て「この番組は花王の提供でお送りします」というアナウンスが流れるときは、その番組の制作費を出しているという意味があります。

*5:番組と番組の合間に流れるCMを「スポットCM」と呼びます。特定の番組ではなく、CMを放送する時間帯で契約しています。

*6:日本テレビ、テレビ朝日、TBS、テレビ東京、フジテレビの5局です。

*7:ヤクルト「ジョア」前年比2倍の出稿計画、ディズニーとライセンス契約で #広報会議 | AdverTimes(アドタイ)より引用。

*8:時事ドットコム:〔決算〕花王、14年12月期は収益とも過去最高=白斑補償で特損89億円計上より引用。

*9:花王、15年1〜3月期は減収減益 化粧品などが売り上げ減 - ITmedia ビジネスオンラインより引用。