舞浜新聞

東京ディズニーリゾートなどのディズニーパークをはじめとして、ディズニーに関する様々な情報をお伝えします。



どうしてパリのディズニーランドは経営が苦しいの?

10月6日、米ディズニー社がディズニーランド・パリを運営するユーロ・ディズニーに対して、10億ユーロ(約1,360億円)にも上る財政支援を行うことが発表されました。

 

 

4億2,000万ユーロ(約570億円)の増資に加えて、株式化でユーロディズニーが抱える6億ユーロ(約815億円)の債務を削減する計画です。今回の財政支援はヨーロッパの不況のあおりを受け、パークの入園者数が減っているためで、パリが経営的に苦戦していることが改めて明らかになりました。

 

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©Disney

 

しかし、そもそもどうしてディズニーランド・パリは苦戦しているのでしょうか。東京のパークは連日多くのゲストで賑わっていますし、米国のパークも開園以来、多くのゲストを迎えています。今回はパリ苦戦の理由について、様々な視点から分析していきます。

 

パリは2匹目のどじょう?

1971年に米フロリダに開業したウォルト・ディズニー・ワールドは、当時アメリカの西海岸で成功していたディズニーパークが、東海岸でも受け入れられることを証明しました。ディズニーワールドの成功を受け、ディズニー社には海外からディズニーパーク誘致の話が舞い込みます。ここでディズニー社が進出先として考えたのが「日本とヨーロッパ」でした。

 

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1971年マジックキングダムの開業セレモニーでスピーチするロイ・ディズニー。ウォルトの兄である彼がいなければ、ウォルト・ディズニー・ワールドは誕生していなかっただろう。©Disney

 

ディズニーブランドの受け入れやすさ、文化的な特徴、今後の経済成長、旅行の傾向などをディズニー社が分析した結果、初めての海外進出は日本に決まりました。

 

しかし、1970年代のディズニー社は内部資金を使って新規プロジェクトに投資しており、銀行などからの借り入れは最小限に抑えていました。また当時のディズニー社はウォルト・ディズニーの置き土産ともいえるエプコット・センターへの投資に集中しており、東京のプロジェクトには一切出資しない方針でした。

 

そこで考え出されたのが、ライセンス契約によるディズニーパークの運営。つまりオリエンタルランドとライセンス契約を結んで、ディズニーのブランドやキャラクターの使用を認める代わりに、売り上げに応じたロイヤリティーを受け取るという形を取ったのです。

 

こうすればディズニーは一切お金を出すことなく、日本へ進出することができます。仮に集客に失敗しても、ディズニー社は損失を受けることはありません。こうして1983年4月15日、小雨の降る中、米国外では初となるディズニーパーク「東京ディズニーランド」が開園しました。

 

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業務提携に関する基本合意を結ぶディズニー社のE・カードン・ウォーカーとオリエンタルランドの高橋政知 ©Disney

 

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開業当日はあいにくの雨。セレモニーは大屋根のあるワールドバザールで行われた。©Disney

 

その後、東京ディズニーランドがどうなったかは、皆さんご存じの通りです。世界のテーマパークの中でも高い入園者数を誇るとともに、レストランやグッズの売り上げは群を抜いています。

 

東京ディズニーランド開園10周年の記念式典で、当時ディズニー社のCEOを務めていたマイケル・アイズナーは、大成功している東京について、ライセンス契約にしたことを「史上最大の失敗」と冗談めかして語っています。オリエンタルランドにディズニーが出資していたら、もしくはディズニー社が直接、東京のパークを運営していたら…。ディズニー社はロイヤリティー収入よりも多くの収益をあげられたでしょう。

 

そんな東京での大成功を受けて、プロジェクトが始まったのが「ディズニーランド・パリ」開業当初は「ユーロディズニーランド」と呼ばれていたことからも、ディズニー社が「ヨーロッパ」へ進出しようとしていた意気込みが伝わってきます。

 

東京の開業から2年後、1985年12月、ディズニー社はフランス政府と建設用地に関する最初の契約に調印、その後建設工事が始まり、1992年4月「ユーロディズニーランド」が開園しました。2002年3月には2つ目のパークとある「ウォルト・ディズニー・スタジオ・パーク」が開園しています。こうしてパリのディズニーパークは、東京での成功を受け、まさに「2匹目のどじょう」として作られたのです。

 

入園者数が少ないの?

「パリのディズニーランドが苦戦」と聞くと、多くの方が「入園者数が少ないの?」と考えるでしょう。実はそんなことはないのです。

 

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ディズニーランド・パリのシンボルである「眠れる森の美女の城」同じテーマの城はカリフォルニアと香港にあるが、2つのパークとはデザインが大きく異なる。©Disney

 

下のグラフは運営会社であるユーロ・ディズニーが発表しているアニュアル・レビューをもとに作った年間入園者数(合算)の推移です。

 

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ディズニーランドとスタジオパークの年間入園者数の推移。近年は2パーク合わせて1,500万人前後と大きく伸びていることが分かる。

 

テーマ・エンターテイメント協会(TEA)と調査会社AECOMがまとめている世界のテーマパーク別入園者数によると、2013年度のディズニーランド・パリの入園者数は1,043万人、スタジオ・パークの入園者数は447万人になっています。

 

ディズニーランド・パリはヨーロッパの遊園地やテーマパークの中で、最も多い入園者数を誇っています。開業当初に想定した「年間1,000万人」という目標を達成しているのです。しかしスタジオパークは思ったよりも入園者数が伸び悩んでおり、苦戦していると言えるでしょう。

 

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苦戦が続くスタジオパーク。今年7月には映画『レミーのおいしいレストラン』のアトラクションが誕生した。©Disney

 

では、毎年多くの観光客が訪れるパリの観光名所の来訪者数と比べてみましょう。2012年度のデータで比較すると、ディズニーランドは20周年イベント効果で1,120万人でした。それに対して、ルーヴル美術館は約970万人、エッフェル塔は約618万人となっています。こうして見てみると、ディズニーランド・パリの入園者数は決して少ないというわけではありません。

 

そもそもの原因は過剰な投資?

では、どうしてパリは東京と正反対に経営が苦しいのでしょうか。まず最初にあげられるのは、開業前の過剰な投資でしょう。

 

東京の場合、ディズニーブランドの直営ホテルができたのは2000年、ランド開園から17年後に開業したディズニーアンバサダーホテルです。その後、東京ディズニーシーと隣接したホテルミラコスタ、東京ディズニーランドホテルがそれぞれ開業しています。それまでは周辺のオフィシャルホテルが主な宿泊先でした。

 

しかし、パリの場合、カリフォルニアやフロリダの反省から、パーク開園と同時になんと7つの直営ホテルが開業したのです。その客室数は約5,800室。東京のディズニーホテルは約1,700室、東京のオフィシャルホテルは約3,500室ですから、東京ディズニーリゾートのディズニーホテル・オフィシャルホテルの客室数を合計しても、パリの直営ホテルのほうが上回るくらいです。

 

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パリのディズニーランドホテル。パーク直結型のこのホテルは、のちに東京ディズニーシー・ホテルミラコスタへ影響を与えた。©Disney

 

カリフォルニアやフロリダもディズニーパークの開園に合わせて、直営ホテルが作られました。しかし、周辺に来園客を見越したホテルやモーテルが進出し、かなりの宿泊客を奪われてしまったのです。

 

これは当時のディズニー社の財政状況や投資方針から、あまり多くの直営ホテルを作らなかったためでした。もしすべてのゲストが直営ホテルに宿泊すれば、ディズニー社はかなりの収益を上げられます。そこでディズニー社はパリのパーク周辺に7つもの直営ホテルを建てたのです。

 

しかし、このホテルが運営会社であるユーロディズニーの経営の足を引っ張ることになります。高額なデザイン料、想定よりも低い稼働率などから、のちにこのホテル建設は過剰投資であったと指摘されています。

 

またパークそのものの建設費も膨大になりました。当初想定された建設費はパークやホテルなどを含めて、当時の為替レートで10億米ドル。しかし、実際にはその約5倍に当たる50億米ドルにまで膨れ上がってしまいました。

 

例えば、パリにもエントランスからお城に向かってメインストリートがあるのですが、実はメインストリートに立ち並ぶショップの裏には、それぞれアーケードがあります。パレード開催時や雨天時の通行路として設計されたのですが、デザインにお金をかけたため建設費が膨らんでしまったのです。

 

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メインストリートの店裏にあるアーケード ©Disney

 

パークの建設当時、ディズニー社の幹部たちは現場の人間に対して、予算を惜しまず、最高のものを作るように発破をかけていました。パリのパークは開業から20年以上が経っていますが、大規模な拡張などは行われていません。

 

これは開業前にパークを作りこんでいたからこそ、大規模拡張の必要がなかったとする分析もあります。ただこの膨大な建設費も経営の足かせになっていることは事実でしょう。

 

パリの反省から、その後に作られたカリフォルニア・アドベンチャー(2001年)、パリのスタジオ・パーク(2002年)、香港ディズニーランド(2005年)は少ない予算で作り始め、段階的に拡張していくというやり方が取られました。

 

ただカリフォルニア・アドベンチャーはテーマ迷走の末に大規模改修、スタジオパークは長く続く低迷で大規模拡張に踏み切れず、香港は段階的な拡張でやっと黒字転換と、かなり課題が残るものになっています。

 

ヨーロッパ人はお金を使わない?

日本の場合は「お土産文化」があり、東京ディズニーリゾートでもお菓子や日用品などのグッズが飛ぶように売れています。しかし、パリのディズニーランドの場合は、多くのショップがパーク内にあるものの、グッズの売れ行きはあまりよくありません。

 

また食事の質についても、値段の割にはあまり美味しいとは言えません。フランスと聞くと食事が美味しいというイメージがあるのですが、パーク内は評判が良くないのです。レストランの数もあまり多くありません。

 

テーマパークの場合は、入場料収入だけでは施設の運営や設備の点検、新しい施設の導入などを行うのは無理です。スポンサー収入に加えて、グッズやレストランといった物販収入がかなり重要になってきます。その点、パリは物販で失敗していると言えるかもしれません。

 

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パリの客単価のグラフ。近年はゆるやかであるが上昇傾向にある。

 

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東京ディズニーリゾートとパリの客単価を比較したグラフ。為替の問題もあるが、東京とはかなり差があることが分かる。なお、この客単価にはチケット代金や食事・グッズの代金などが含まれている。

 

またチケット料金も「高すぎるのでは?」といった指摘があります。除外日がないチケットの場合、1パークのみ有効の1日券ですと、12歳以上は54ユーロ(約7,300円)・3歳~11歳は49ユーロ(約6,700円)となっています。1日に2パークを行き来できる1日券の場合は、それぞれ59ユーロ(約8,000円)・54ユーロ(約7,300円)となっています。

 

ただこれは米国のディズニーパークと比べると安い金額ですし、複数日有効のマルチデーパスになると、1日当たりの金額は安くなります。また除外日があるチケットの場合は、この金額よりも安くなります。さらには割引キャンペーンを頻繁に行って「お得感」を出しています。

 

サービスの質が低い?

東京ディズニーリゾートのキャストのサービスレベルは世界一だと言われています。これは日本独特の「おもてなし」ホスピタリティーから来るものでしょう。

 

海外のディズニーパークを訪れると、サービスレベルの低さが気になってしまうと思います。アメリカの場合、ほかの施設と比べてディズニーパークのキャストのサービスは質が高いですが、それでもすべてのキャストの愛想がいいとは言えません。

 

パリの場合、フランス全体のサービスレベルが低いというのもありますが、パークのキャストもそれと同じくレベルは低いと言えます。愛想はよくない、やる気がない、仕事が遅いなどゲストにとっては不満が募ってしまうかもしれません。

 

本来テーマパークは一度きりではなく、何度も訪れてもらうことで継続的な収入を稼ぐことができます。「もう二度と行くもんか!」と客に思われては、収益が悪化してしまうのも無理ありませんよね。ただ経営状態の悪さがサービスの質低下につながっている可能性は十分あります。

 

キャストに関しては、こんな話もあります。パリの場合は法律などの関係上、パークなどで働く約15,000人のキャストのうち、9割近くが無期限の契約で雇われています。つまり東京のようにアルバイトではないのです。そのため人件費がかさむ、閑散期に人員を調整できない、といった弊害が起きています。

 

これからどうなるの?

不振が続くパリ。ディズニー社としてみれば、ヨーロッパにおけるディズニーブランドのシンボルですから、そう簡単に閉園するという決断はしないでしょう。

 

もともとパリのディズニーランドはフランス政府が積極的に誘致したという背景もあります。運営会社であるユーロディズニーにはディズニー社に加えて、フランス政府も出資しています。ディズニーにとって、パリは引くに引けない状態なのです。

 

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©Disney

 

入園者数が低迷しているスタジオパークをテコ入れして、ディズニーランドと同じくらいの入園者数を確保できれば、息を吹き返す可能性は十分あります。また物販の強化は今後の課題でしょう。魅力的な食事とグッズ、そして何よりもキャストのサービス。テーマパークの原点に立ち返れば、おのずとパリ再生の道筋は見えてくるかもしれません。

 

2010年9月、ユーロディズニーは1987年から続くフランス政府との協定を2030年まで延長したことを発表しました。それと同時に、ディズニーランド近くに「Villages Nature(ヴィレッジ・ナチュール)」を建設することも発表したのです。これは自然をテーマにした施設で、ディズニーパークではありません。開業は2016年、最終的には2020年代まで投資を行うとのことです。

 

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ヴィレッジ・ナチュールのコンセプトアート

 

ディズニーランド、スタジオパークに続く第3のディズニーパークとはなりませんでしたが、今後新たな需要の掘り起こしが期待できそうです。フランスの場合は近年、バカンスを国内で過ごす人が増えてきました。不況と高い失業率に悩むフランス政府と、国内需要を取り込みたいユーロ・ディズニーの思惑が一致したのだと思われます。

 

大規模な投資計画が発表された東京、2015年の開業を目指して工事が進む上海、3つ目の直営ホテル建設が進み、今後の投資計画にも期待が集まる香港。アジアのディズニーパークと比べると、今一つ盛り上がりに欠けるパリ。パリにはもちろんパリだけの魅力があります。今後の復活に期待したいところです。

 

参考資料